<大項目> 開発中の原子炉および研究炉等
<中項目> 原子炉の基礎
<小項目> 原子力に関する基礎事項
<タイトル>
軽水炉燃料の炉内挙動(通常時) (03-06-01-06)

<概要>
 ウラン核分裂を起こすと、熱、放射線核分裂生成物(FP)を発生する。UO2ペレットでは割れ、変形、焼きしまり、スウェリング、ギャップへのFP放出、ジルカロイ被覆管では照射硬化、照射成長、冷却材との反応による外面腐食、FPの介在によるペレットと被覆管の癒着、ペレットの変形による外側への変形と応力腐食、冷却材の圧力による内側への変形がある。燃料集合体では、燃料棒同士や燃料棒とグリッド、または燃料棒と異物との擦れ合いで摩耗を起こすことがある。
<更新年月>
2005年06月   (本データは原則として更新対象外とします。)

<本文>
 原子炉を運転するとウラン(U)(又はプルトニウム、Pu)は核分裂を起こし、熱、放射線および核分裂生成物(FP)が発生する。これらの影響を燃料棒及び燃料集合体に起こる現象という立場で見ると、燃料ペレットの割れと鼓型変形、被覆管の変形、被覆管外面の腐食、照射成長、被覆管内面とFPとの反応、照射損傷によるペレット及び被覆管の物理的及び機械的変化が生じる。これらは燃料棒および燃料集合体にいろいろな影響を及ぼし、燃料の健全性にも関係する。
 核分裂で発生した熱は被覆管を通って冷却材の水に伝えられるので、燃料ペレットの径方向に図1に示すような温度勾配ができる。この図はPWRでは17x17、BWRでは8x8の計算例であるが、他の燃料棒の設計や運転出力でも、ペレット内の温度勾配は大きく、中心部の熱膨張は外周部より大きくなるため熱応力で割れが発生し、図2に模式的に示すように鼓型変形を起こす。また、温度勾配はミクロ組織にも影響を及ぼし、図3に模式的に示すように、ペレット外周部から中心に向かって、結晶粒の等軸成長、柱状晶の成長があり、また、初期に発生した割れの修復やFPガス気泡の移動等が起こる。なお、この図は出力が高い場合なので中心孔や溶融領域(一時的)ができているが、実用の発電所の運転では中心孔や溶融領域はできない。
 放射線は原子の弾き出し(格子間原子空孔の形成)と核変換を起こすが、前者はUO2ペレットに対しては焼きしまりとクリープ変形の加速を起こす。焼きしまりとはペレット中の空洞(ボイド)が減少してペレットが縮む現象であり、縮小率が小さくても、絶対値が大きい長手方向は無視出来ない程の収縮を起こす場合もあり、数十ミリにわたって収縮したため燃料ペレットが無い部分が生じ、この部分が冷却材圧力のために潰れ(被覆管の扁平化)、燃料棒破損の原因になったこともある。核変換で燃料挙動に及ぼす影響の内で、主なものははプルトニウム(Pu)生成であるが、Puはペレット外周部に多く生成し、平均燃焼度と周辺部の燃焼度の差が大きくなり、周辺部で生成するFPも多くなる。そのうえ、この領域では、温度が比較的低いため、FPのXeやKrも遠くへは移動しないので、外周部で大きな気泡が生成する(リム効果)。
 被覆管のジルカロイに対しては、強度の増加と延性の低下、クリープの促進、照射成長、水側腐食に影響を及ぼす。照射によって生成した格子間原子と空孔は格子欠陥を作り転位の運動を妨げるので、強度が増加し延性が低下する。図4は照射による機械的性質変化の例である。更に、FPの沃素がペレットと被覆管のギャップに放出されると被覆管内面が腐食雰囲気になり、ペレットの変形で被覆管に応力が働くと応力腐食のために、非常に少ない変形で燃料破損(PCI破損)を起こす。原子炉運転中の被覆管温度は約550Kから700Kであるが、この温度領域のジルカロイ炉外クリープは小さい。しかし、照射で生成した点欠陥の助けがあると転位が障害物を乗り越えやすくなり、炉外では起こり得ない応力でもクリープ変形を起こす。
 照射成長は照射で生成した空孔が六方晶であるジルカロイの底面に面状に集まりやすいために起こる現象である(図5)。被覆管は周方向の伸びが大きくなるように六方晶の軸が徑方向に多くなるように加工しているので、結果として肉厚が薄くなり、長手方向と周方向に伸びる。この照射成長は再結晶焼きなましより応力除去焼きなまし材のほうが大きいので、後者を採用しているPWR燃料のほうがBWR燃料より照射成長が大きい。初期の燃料集合体では、燃料棒と上下端のタイプレート間に充分な隙間を確保しなかったために照射成長で伸びた燃料棒がタイプレートに当たって集合体が破損したり、燃料棒が曲がって冷却材の通路が狭くなった例がある。なお、燃料棒の曲がりのおもな原因は被覆管製造時にできた局部残留応力が放射線で解放されることであるが、ペレットと被覆管との相互作用やグリッドの拘束力が強すぎる場合に発生することもある。
 冷却材によるジルカロイ外面の腐食挙動はPWRとBWRでは全く異なる。図6は両者の腐食挙動を模式的に示したものであるが、PWRでは、冷却材温度が高くなる出口側ほど被覆管温度も高くなって腐食が増大するのに対して、BWRでは放射線が高い中央部ほど腐食が多い。またグリッド近傍の腐食も異なり、PWRでは冷却効果が増すために腐食が少なくなるのに対して、BWRでは逆に腐食が増大している。腐食機構も両炉では異なり、PWRでは均一腐食が起こり、腐食速度も炉外(放射線の無い状態)とほぼ同じか大きい場合でも2〜3倍程度である。一方、BWRでは均一腐食の他にノジュラー腐食と呼ばれる不均一腐食が重畳して起こり、被覆管の製造工程中の熱処理によっては後者の方がはるかに大きくなることもある。BWRでノジュラー腐食が発生する原因は冷却材中の溶存酸素濃度に起因すると考えられ、表1に示すように、BWR中の溶存酸素濃度はPWRより2桁高い。また、炉外試験で被覆管の炉内腐食を推定する場合には、PWR用被覆管の場合は炉内と同じ温度と圧力の高温高圧水中で試験をすればよいが、BWR用被覆管の場合には、約770Kの水蒸気中腐食試験がノジュラー腐食挙動を推定するのに適している。腐食量の燃焼度依存性も両者で全く異なる。ジルカロイの均一腐食則は温度によって変化するが、約1250K以下では、最初は3乗則(酸化膜厚の3乗が時間に比例する)で進行し、その後時間に比例して酸化膜が厚くなる(1次則)。PWRではこの酸化則に従って腐食が進行するが、酸化膜が厚くなると酸化反応界面である金属と酸化膜の境界の温度が酸化膜外面より高くなるために(徑方向の熱流のため温度勾配ができる)酸化膜の増加とともに腐食速度が増加する。したがって、PWRでは、高燃焼度化で被覆管腐食が大きな問題になる。BWRでは、冷却材温度が低いため均一腐食の量が少ないのでノジュラー腐食の成長速度が腐食量を左右するがノジュラー腐食速度は時間とともに低下する。そのため、高燃焼化での被覆管腐食はPWRの場合ほどは大きな問題にならない。
 FPは表2のようにペレット中でいろいろな形態をとるが、これらによって燃料棒の健全性に影響を及ぼす現象は、スウェリング、希ガスや沃素、Cs等の移動しやすい元素のペレットと被覆管のギャップへの放出等である。スウェリングの原因には、XeやKr等の希ガスが気泡になるものと固体のFPが単体または化合物となるものがある。このうち後者については、1個のウランから2個の固体FP(またはその化合物)が生成する場合の体積変化の推定値は、生成化合物の化学型をどのように推定するかによって変化し、1原子%の核分裂で0.13〜0.54%の体積増加の計算が報告されているが、0.2〜0.3%との見解が多い。FP気泡のガス圧は気泡の半径に逆比例するので、生成した気泡が合体するほどスウェリングが大きくなる。軽水炉で定常照射されたペレットのスウェリングの実測値は図7に示すように50GWd/tまでは0.57%/10GWd/t程度であり、燃焼度がそれ以上になると増加する。増加原因は、高温部の気泡の成長と周辺部のリム効果と考えられている。燃焼度が低い処ではデータがばらついており、収縮も見られるが、燃焼初期に焼きしまりの影響があるためである。なお、原子の弾き出しによる結晶の格子定数の増加もスウェリングに寄与すると考えられるが、この寄与は上記の機構に対して無視できるほど小さい。
 Uが核分裂でFPになると残された酸素の大部分はFPと結合して酸化物を作るが、化学平衡を仮定すると10GWd/tの燃焼でO/U = 0.0014の酸素が余る。この酸素がペレット中に留まるならばO/U比が2より大きい側にずれ、熱伝導や融点を下げる方向に働く。しかし、使用済み燃料の検査ではO/U比の変化は見られず、余剰酸素は被覆管内面の酸化に使われると考えられている。
 FPの内で移動しやすい希ガスや沃素、Csの一部はギャップに放出されるが、これらは燃料棒の健全性に悪影響を及ぼす。希ガスのXeやKrの熱伝導は充填ガスのHeよりも悪いので、多量に放出されるとギャップの熱伝導を低下させ、ペレットの温度を上げる。希ガスの放出割合は、高出力運転、出力変動運転のときに多くなり、また燃焼度とともに増加する。UO2ペレットの結晶粒を大きくすると希ガスの放出が少なくなるので、高燃焼用燃料開発では、結晶粒の大きいペレットが使用されている。
 化学平衡を仮定すると、沃素は生成量が20倍あるCsと結合してセシウム化合物になるはずであり、この化合物ならば被覆管が応力腐食を起こす腐食雰囲気になるとは考えられないが、応力腐食としか考えられない被覆管破損(PCI破損)が起こっている。この原因は放射線分解で沃素の一部が元素状になっているとの考えが有力である。応力腐食を防ぐためにペレット形状、被覆管、運転方法に工夫が凝らされている。Csは沃素と化合する他にUやZrと複合化合物を作り、ペレットと被覆管との癒着を起こす。但し、現在の処、これが原因と思われる燃料破損の例はない。
 燃料集合体としての挙動では、冷却材の流れで振動を起こして燃料棒同士や燃料棒とグリッド(スペーサー)と擦れあったり、炉内に混入した異物と擦れあってフレッテング破損を起こした例がある。前者については冷却材の流れやグリッドの改良で対処し、後者については、異物混入を少なくするとともに、集合体下部タイプレート、燃料棒下部端栓、最下端グリッドの設計変更で対処している。
<図/表>
表1 PWRとBWRの1次系水質の比較
表2 UO2燃料ペレット中におけるFPとアクチノイドの化学状態
図1 燃料棒内温度分布(典型例)
図2 ペレット内温度分布による鼓型変形(被覆管による拘束下)
図3 使用後のUO2ペレットの組織変化(高出力運転の場合)
図4 高速中性子照射によるジルカロイ被覆管の機械的性質の変化
図5 ジルカロイの照射成長と集合組織の関係
図6 BWRとPWRでの燃料被覆管の腐食傾向の相違
図7 軽水炉燃料ペレットの定常スウェリング

・図表を一括してダウンロードする場合は ここをクリックして下さい。


<関連タイトル>
原子燃料の基礎 (03-06-01-01)
軽水炉燃料の破損原因 (03-06-01-07)

<参考文献>
(1)三島良績他:軽水炉燃料のふるまい(平成2年改訂版)、原子力安全研究協会(1990)p36-41,81-204
(2)大久保忠恒他:軽水炉燃料のふるまい(平成10年改訂版)、原子力安全研究協会(1998)p192-341
(3)宇根勝己他:核燃料工学の基礎−第5回−燃料のふるまい、日本原子力学会誌、46巻、10号、60-67(2004)
RIST RISTトップページへ ATOMICA ATOMICAトップページへ