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<概要>
 低減速軽水炉は、軽水炉技術に立脚して、燃料棒の稠密配置や扁平炉心の採用により、当面はプルトニウムの有効利用、さらには多重リサイクルと増殖を可能とするものである。設計研究の結果、軽水炉なみの安全性を確保しつつ1以上の転換比と60GWd/tの炉心燃焼度が達成できる見通しが得られている。研究開発課題として、大型熱特性試験による稠密炉心の除熱性能の確認、高富化度MOX燃料の照射時安全性の評価、高燃焼度達成に必要な被覆管材料の開発、燃料集合体の機械的健全性評価、臨界実験による核特性予測技術の検証、及び再臨界を含む事故時の安全性の検討が実施されており、これまで基本的な成立性は確認されている。今後は、炉心核・熱設計手法の精度向上とともに、燃料集合体の照射挙動の確認、及びシステムの総合的な技術実証を行い、2020年代には実用化技術が確立できる見込みである。
<更新年月>
2004年06月   

<本文>
1.低減速軽水炉の目的
 わが国では、今後長期にわたって軽水炉およびその改良型が原子力発電の中核となる見通しであり、核燃料サイクルの早期確立のためには、実績のある軽水炉技術に立脚したプルトニウム利用技術の開発が重要である。軽水炉燃料の再処理で得られるプルトニウムについては、当面は軽水炉で利用する(プルサーマル)ことになるが、使用済MOX燃料中の核分裂性プルトニウムの割合が低下するため、プルサーマルによるプルトニウムの多重リサイクルは困難で、使用済燃料の蓄積量低減や資源有効利用の面での限界がある。このため、日本原子力研究所(原研(現日本原子力研究開発機構))では、同一の炉心構成で燃料集合体の変更により、当面はプルトニウムの有効利用を図るとともに、長期的にはプルトニウム多重リサイクルさらには増殖への発展が可能な低減速軽水炉の研究開発が進められている(図1)。
2.低減速軽水炉の概要
 低減速軽水炉では、水による中性子の減速をできる限り低く抑えて中性子のエネルギーを高めるために燃料棒を従来よりも稠密に配置し、炉心の高さを低くし、かつ中間にブランケットを適切に配置した稠密扁平型炉心とすることで、現行軽水炉のもつ優れた安全性および運転・保守性を維持しつつ高い転換比を実現する。これまでの設計研究により、負のボイド反応度係数、1.0を超える転換比、及び平均燃焼度60GWd/tが達成できることが分かった。(図2及び表1)。
3.技術課題と研究開発の現状
(1)稠密格子炉心の除熱性能確認
 低減速軽水炉では、燃料棒間隔が狭い稠密炉心を採用するため、除熱性能の確認が不可欠である。原研(現日本原子力研究開発機構)では、これまでに低減速軽水炉の稠密炉心体系を模擬した7本ロッドバンドルの限界出力試験を行い、限界出力設計式の妥当性を評価した(図3)。さらに2003年より、流量依存性、流路壁近傍の流路面積や軸方向出力分布の影響、燃料棒間隔や燃料棒曲がり等の除熱性能への影響についてのデータ取得、ならびに稠密炉心での限界出力予測手法の確立を目的として、37本ロッドバンドルを用いた大型熱特性試験を実施している(図4)。本試験の結果、炉心の除熱限界である限界出力の実験値は定格出力を十分上回っており、熱的余裕があることを確認できた(図5)。また、運転時の異常な過渡変化の状況を包含する範囲で過渡限界出力試験を実施し、流量低下事象、並びに出力上昇事象等の過渡時においても除熱性能を確保できるとの見通しが得られている。さらに、200本程度の燃料棒を束ねた実炉の燃料集合体の詳細設計を行うには、集合体のスケール効果を定量的に評価することが必要であり、このための解析手法の開発を進めている。
(2)燃料要素・材料技術
 1)高富化度MOX燃料の照射挙動予測
 低減速軽水炉では核分裂性プルトニウム富化度15%以上の高富化度MOX燃料を、高いエネルギーの中性子照射条件下で使用する。このような条件での燃料の健全性を確認するため、燃料棒の温度変化、燃料棒の内圧の変化、被覆管の歪み量等について、原研(現日本原子力研究開発機構)で開発を進めている燃料ふるまい解析コードFEMAXI−FMを用いて検討を行った。一例として、ジルカロイ2被覆管を使用した場合の照射時挙動解析では、100GWd/tの高燃焼度条件においても、被覆管の膨れは1%歪み以下であると評価されている(図6)。
 2)燃料被覆管開発
 低減速軽水炉の燃料棒の被覆管は、現行軽水炉に比べて高いエネルギーの中性子照射条件で使用され、燃焼度も高くなるため、それらに十分耐える能力を持つことが要求される。現行軽水炉で使用されているジルカロイ被覆管の適用性検討と併行して、さらなる高燃焼度の達成を目指して、原研(現日本原子力研究開発機構)で開発を進めてきた25Cr−35Ni−0.2Ti系オーステナイトステンレス鋼(改良SUS材) について、基礎照射試験や特性評価試験により材料改良技術の有効性を確認するとともに、実際の高速中性子照射下での耐照射性評価試験計画の検討が行われている。
 3)燃料要素・燃料集合体の健全性の検討
 燃料棒やチャンネルボックス間の間隙およびスペーサーの拘束条件等は、低減速軽水炉の定常運転時や想定される過渡変化時において、燃料中心温度や塑性歪の制限条件に対して十分な安全余裕が確保できるよう設定する必要がある。また、照射に伴う燃料棒の膨れなどにより局所的な接触を生じないことが必要である。これらに係る設計検討ならびに健全性確認のための試験が計画されている。
(3)低減速炉心体系の臨界実験
 低減速炉心の炉物理特性を詳細に検討するため、原研(現日本原子力研究開発機構)の高速臨界実験装置(FCA)を用いて低減速軽水炉の炉心中性子スペクトルを模擬した体系での臨界実験を実施し、臨界性、増殖性反応度係数など主要核特性に関する実験データを取得している。ウラン燃料を用いた第1フェーズの実験では、FCAにおいて低減速軽水炉の炉心中性子スペクトルの模擬が可能であることを確認した(図7)。第2フェーズのMOX燃料体系模擬の実験では、ボイド率を系統的に変えた体系での実験を実施している。また、臨界実験の実機適用性評価を行うために感度解析コードを整備し、炉心模擬性指標の理論的検討がなされている。
(4)安全性の検討
 低減速軽水炉の異常な過渡変化時および事故時の安全性については、ABWR設計基準事象を参考に、低減速軽水炉の特徴および事象の包絡性を考慮して対象とする設計基準事象を選定・評価した結果、被覆管の温度上昇はわずかで、設計基準事象に対して十分な安全性を有するとの結果が得られている。
 低減速軽水炉では高富化度MOX燃料を使用するため、炉心損傷時に再臨界発生およびその後の厳しい事故影響に至る可能性についての評価・検討がなされた。その結果、炉心で再臨界が生じる場合には、水が存在しないことから構造物の健全性に影響するような機械的エネルギー発生は生じ難いこと、ジルコニウム被覆管酸化物とMOX燃料融点の差が小さいことから燃料と被覆材の分離が生じ難く再臨界は生じにくいとの見通しが得られている。下部プレナムでの再臨界性については、デブリベッドの再溶融が生じ溶融金属と燃料が分離した場合でも、現実的な形状の中性子吸収材を制御棒ハウジングに取り付けることにより、下部プレナムでの再臨界を防止できるとの結果が得られている。
4.今後の展開
 今後の技術的な課題としては、大規模限界出力実験データの取得とそれを用いた熱設計の精度の確認、MOX炉心を模擬したFCA臨界実験データの取得とそれを用いた核設計精度の確認、及び高富化度MOX燃料及び被覆管の照射挙動等のデータの取得と安全性の確認が必要である。
 また、稠密燃料集合体の照射条件下での健全性の実証など、低減速軽水炉の総合的な実証を行うための技術実証用原子炉概念の検討を進める必要がある(図8)。技術実証用原子炉においては、運転開始段階の炉心燃料の被覆管は実績のあるジルカロイ被覆管とするとともに、取出燃焼度や中性子照射量を現在までの軽水炉における実績ベースで許認可を取得できる範囲に設定し、稠密格子炉心における高ボイド率運転という低減速軽水炉の基本技術を確立する。また、実用炉での経済性向上の観点から、技術実証用原子炉を先行使用燃料体の照射炉として活用して照射実績データを取得し、実用炉で使用する燃料の高燃焼度化技術を確立する。
 低減速軽水炉については、2010年ごろまでに技術基盤を確立し、工学的成立性を実証してから、2020年代の実用化を目指して研究開発が進められている。
<図/表>
表1 大型低減速軽水炉の炉心性能
表1  大型低減速軽水炉の炉心性能
図1 低減速軽水炉による核燃料サイクルの構築
図1  低減速軽水炉による核燃料サイクルの構築
図2 炉心および燃料集合体の構造
図2  炉心および燃料集合体の構造
図3 小規模バンドル体系(7本)での除熱性能の確認
図3  小規模バンドル体系(7本)での除熱性能の確認
図4 大型熱特性試験の概要
図4  大型熱特性試験の概要
図5 大規模バンドル体系(37本)での除熱性能の確認
図5  大規模バンドル体系(37本)での除熱性能の確認
図6 高富化度MOX燃料の照射条件下での被覆管外径変化の予測
図6  高富化度MOX燃料の照射条件下での被覆管外径変化の予測
図7 臨界実験による炉物理的性能の確認
図7  臨界実験による炉物理的性能の確認
図8 技術実証炉の概念
図8  技術実証炉の概念

<関連タイトル>
トリウムを用いた原子炉 (03-04-11-01)
溶融塩炉 (03-04-11-02)
宇宙炉 (03-04-11-03)
プルトニウム生産炉 (03-04-11-04)
地域暖房炉(熱供給炉) (03-04-11-06)
海上立地浮体式原子力発電所 (03-04-11-07)
低減速スペクトル炉の炉概念 (03-04-11-09)

<参考文献>
(1)岩村公道、大久保努、佐藤治:革新的水冷却炉「低減速軽水炉」の研究開発、日本原子力学会誌 Vol.45, No.3, p.181−189(2003).
(2)T. Iwamura and T. Okubo, ”Research and Development of Reduced−Moderation Water Reactor (RMWR)”, Proceedings of the 2nd Asian Specialist Meeting on Future Small−Sized LWR Development”, Hanoi, Vietnam, November 25−27(2003).
(3)A. Ohnuki, et al., ”Development of Predictable Technology for Thermal/Hydraulic Performance of Reduced−Moderation Water Reactors (1)−Master Plan−”, Proceedings of ICAPP ’04, Pittsburgh, USA, June 13−17,(2004)Paper 4055
(4)M. Kureta, et al., ”Development of Predictable Technology for Thermal/Hydraulic Performance of Reduced−Moderation Water Reactors (2) −Large−scale Thermal/Hydraulic Test and Model Experiments−”, Proceedings of ICAPP ’04, Pittsburgh, USA, June 13−17,(2004) Paper 4056
(5)T. Iwamura and T. Okubo, ”Core Design of Reduced−Moderation Water Reactor (RMWR) for Plutonium Multiple Recycling”,原子核研究, Vol.48, No.2 (2003)
(6)鍋島邦彦ほか(編):第6回低減速軽水炉に関する研究会報告書、JAERI−Conf.2003−020,(2003).
(7)呉田昌俊ほか:稠密37本バンドル熱特性試験と熱流動モデル実験、第9回動力・エネルギー技術シンポジウム、東京、6月22,23日(2004).
(8)M. Suzuki, H. Saitou and T. Iwamura, ”Analysis of MOX fuel behavior in reduced−moderation water reactor by fuel performance code FEMAXI−RM”, Nuclear Engineering and Design 227, 19−27(2004).
(9)将来型炉研究グループほか:低減速スペクトル炉心の研究—平成10?11年度報告書、JAERI−Research2000−035,(2000)
(10)木内清ほか:高性能燃料被覆管材質の研究、JAERI−Research 2002−008,(2002)
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