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<概要>
 旧JRR-3(最大熱出力10MW)は、わが国初の国産研究炉として1962年に初臨界に達した後、全国の研究利用者に広く利用されてきた。しかし、原子力開発の進展に伴って、様々な実験利用に対応でき、しかもより高い性能を有する研究炉の整備が要望されるようになった。これらの要望に応えるために、1985年から高性能汎用炉(JRR-3M)への改造を目指した工事に着手し、1990年3月の初臨界を経て同年11月から最大熱出力2万kW(20MW)で利用運転を開始した。新JRR-3(JRR-3M)に設置された各種の利用設備は、高い中性子束と冷中性子の利用が大きな特微となっている。
 これらの熱中性子ビームおよび冷中性子ビームを用いて、中性子散乱実験、中性子ラジオグラフィ実験、即発γ線分析等の中性子ビーム実験が行われ、世界的に注目される多くの成果が得られている。
<更新年月>
2005年07月   

<本文>
1.建設の経緯
 旧JRR-3は、わが国の原子力技術の開発と向上に貢献することを目的として、国内技術の総力をあげて昭和37年(1962)に建設された初の国産研究炉で、原子炉出力1万kW(10MW)の天然ウラン金属燃料を用いた重水減速重水冷却のタンク型原子炉である。1962年9月に初臨界に達した後、1966年から共同利用運転を開始し、中性子ビーム実験、放射性同位元素の生産、放射化分析等に活躍してきた。なかでも、極低温照射装置(LHTL)、化学照射装置(LTFL)、核分裂ガス拡散ループ(FGRL)等の大型実験ループが設置され、原子力の研究開発に大きく貢献した。しかし、その後の原子力開発研究の進展とともに研究炉に対する性能上の要求は次第に高度なものになり、この要求に応えるため、1980年にJRR-3の改造を骨子とした「研究炉整備計画」が策定され、これに沿ってJRR-3の改造が進められた。1983年にこれまで約21年間の運転に終止符を打ち、1985年8月から改造工事に着手した。
 改造工事は冷却系機器類の撤去から開始し、1986年には世界でも例をみない「一括搬出工法」(図1参照)による原子炉本体の撤去を成功させた。この工法は、放射能を内蔵する約2,200トンの原子炉構造物を、細く切断せずにそのまま遮へいコンクリート毎一体で撤去する画期的な方法である。この方法は、将来の原子力施設のデコミッショニングに有力な工法として評価され、国の内外から注目されている。
 新炉の設置工事は、1987年から1989年にかけて行われ、1990年3月改造後初臨界に達した。その後特性測定を実施し、10月16日に使用前検査に合格して11月5日から利用運転を再開した。
2.JRR-3Mの概要
 新JRR-3(旧炉と区別するため、ここではJRR-3Mと記す)は、研究炉の利用の現状、将来の利用動向等を勘案して設計、建設された最大熱出力2万kW(20MWの20%低濃縮U−Al分散型状燃料(平成11年より20%低濃縮U3Si2−Al分散型板状燃料に変更)を用いた軽水減速軽水冷却重水反射体のプール型原子炉である(表1および図2参照)。この炉では、既存の原子炉建家、使用済燃料貯蔵施設等を再利用し、原子炉建家に隣接して新たに原子炉制御棟、実験利用棟等を配置した。実験利用棟にはビームホールを設け、原子炉で発生した中性子を中性子導管を通して同施設内の実験装置まで導くことにより中性子ビーム実験の飛躍的な利用拡大を図った。
 炉心は、26体の標準型燃料要素、6体の制御棒付きフォロワ型燃料要素、ベリリウム反射体および照射筒で構成され、その外側に水平実験孔および垂直照射孔を備えた重水タンク(重水反射体)を配置している。炉心の最大熱中性子束は、約2E14n/cm2−secである。水平実験孔は、炉心に対して接線方向に取り付けることによって、炉心からの高速中性子やガンマ線を極力低減させ、良質の熱中性子および冷中性子を取り出すよう工夫されている。冷却系は、一次冷却系、重水冷却系および二次冷却系から構成され、炉心、重水タンク等で発生する熱を最終的には冷却塔から大気中へ放散する。
 実験利用設備は、照射利用設備(図3参照)と中性子ビーム実験設備に大別される。照射利用設備は、垂直照射孔内で各種試料の中性子照射を行うためのもので、6種類の設備により大形状材料の照射、シリコン半導体の製造、計装キャプセルの照射、短寿命核種の放射化分析、放射性同位元素の生産等が可能で、利用者の照射ニーズの多様化に応えられるようにしている。一方、中性子ビーム実験設備においては、総延長230mの中性子導管の採用により、最大25基のビーム実験装置の設置が可能となった。加えて、約20Kの液体水素を冷減速材とする冷中性子源装置を設置したことにより、冷中性子を用いた中性子ビーム実験が行えるようになった。
 現在、5週間を1サイクルとする運転パターンを標準とし、4週間の連続運転の後、炉を1週間停止させこの間に燃料および照射キャプセルの交換を行っている。
3.利用状況
 スペクトルと強度が実験に適するように制御された質の良い熱および冷中性子ビームを用いた中性子ビーム実験が盛んに行われている。中性子散乱実験では中性子強度の増強、低温や高圧あるいは強磁場といった極限条件での物質研究、高分子や生物といったソフトマテリアルの研究、超伝導材料等の機能材料の構造評価などが行われ、研究内容が多様化し、装置も高度化してきている。中性子散乱実験の目的別利用状況を図4に示す。また、照射利用状況を図5に示す。
4.研究成果
 この炉を使用した研究成果は、つぎの中性子ビーム実験と照射利用によるRI生産、燃料材料照射試験などに大別される。
(1)中性子ビーム実験
a)中性子散乱実験による成果
 中性子散乱では、熱または冷中性子ビームに設置されている中性子イメージング・プレート付き生体物質中性子回折計、三軸型中性子分光器、偏極中性子散乱実験装置等を用いた実験において、主として表2のような成果が得られている。
 生物科学の分野では、軽い元素の位置が確認できるという中性子回折法により、タンパク質の中でも特に複雑な構造をもつリゾチームの構造を完全に決めることに成功している。この成果は、検出効率を100倍以上に上げることが可能な中性子イメージング・プレートを開発することによって導かれた。
 物質科学の分野での主な成果は以下のものが挙げられる。
 ウラニウム超伝導体を用いた超伝導の研究において、超伝導が磁気に起因することを世界で初めて発見した。
 また、高温超伝導物質(La2−xSrxCuO4)による超伝導機構の解明研究では、銅イオンの担うスピン(磁石)の配列状態が、超伝導を担う電子の対形成の条件を規定していることを初めて明らかにした。
 CePの研究では、Ce原子が持つ大きな磁気モーメントと小さな磁気モーメントが、圧力の変化と共にその配列方式を次々に変えていく様子をとらえて、自然界の規則性をはっきりと示した。
 低次元磁性体の研究では、無機物スピンパイエルス物質(CuGeO3およびNaV2O5)の反強磁性が新しい基底状態で非磁性に変わる機構を解明した。
 巨大磁気抵抗物質では、層状構造をもつマンガン酸化物((La1−xSrx)Mn03)等が磁場中で電気抵抗を急激に変える、極端な時には何桁も変える現象を調べて、磁気エレクトロニクスヘの応用を探索している。
 高分子の研究では、高分子ブレンドがその組成比や温度等によって形態をさまざまに変化させながら混ざり合う様子を冷中性子を使って解明し、化学工業分野から大きな期待を寄せられている。
 工業への利用では、材料内部に残っている力(残留応力)をそのままの形で測定する、すなわち材料のひずみを直視する中性子非破壊検査法を開発し、核融合炉に使う超伝導コイル被覆材の残留応力の評価に成功した。
b)中性子ラジオグラフィ
 原子力関連分野では日本原子力研究所(現日本原子力研究開発機構)が進めている低減速軽水炉の炉心を模擬した沸騰流の可視化・計測、軽水炉燃料の高燃焼度化に伴うジルカロイ被覆管水素脆化に関する研究が実施された。電気化学分野では電池用材料の開発における水素及びリチウムイオンの拡散挙動の解明並びに水素吸蔵合金中への水素拡散の3次元可視化に応用された。農学研究では木材中に導入された置換基や防腐薬剤の分布状況、樹木病変部の特性解明、種子、根の成長過程観察等に利用された。工学関係では、固気二相流、混相流、さらには熱流体機器の可視化・計測・診断に利用された。この他にもラジオグラフィ技術の開発として、多色蛍光コンバータの開発、パルス中性子ラジオグラフィのための技術開発、散乱中性子発生源二次元分布像取得などが実施された。
c)即発ガンマ線分析
 隕石、考古学試料、生物試料等の分析に用いられ、これまで不明であった各種試料中のホウ素濃度が明らかにされた。また、確度の高い本法は各種標準物質の分析に利用された。
(2)照射利用による成果
a)放射化分析
 各地の大気浮遊塵の分析、高純度シリコン、石英ガラス等の不純物分析等と、微量元素分析の観点から環境保全、産業界に貢献している。また、これらの分野からの利用が最近増大している。
 短半減期0.7秒までの放射性核種分析技術を確立し、自動車の新エンジン材料として注目されている窒化ケイ素中のフッ素濃度が明らかにされた。
b)RIの製造
医療用の密封小線源(Au-198グレイン、各種形状のIr-192)、遠隔装置用線源(Ir-192RALS)、工業用の非破壊検査用Ir−192線源などが、ラジオアイソトープ製造棟(東海研究所)を使用して(株)千代田テクノルにより製造され、頒布されている。密封小線源及び非破壊検査用Ir-192線源については、通常、国内需要のほぼ100%を原研(現日本原子力研究開発機構)の研究炉及びJMTRで生産している。
RI製造技術開発としては、がん治療医薬の開発をめざしてRe-186及びW-188/Re-188ジェネレータの開発と標識化合物の合成研究を進めている。
c)原子炉用燃料材料の照射試験
 今後予想される余剰プルトニウムの燃焼・消滅処理法の開発においては、温度制御計測付きキャプセルを用いた照射試験により、岩石型燃料の有効性が確認された。また、各種計測キャプセルを用いたその場測定照射試験により、核融合炉等に使用する絶縁性セラミックス材料の照射による電気絶縁抵抗の著しい低下現象(照射誘起電気伝導)の機構解明、中性子環境下における低放射化フェライト鋼の高温強度、クリープ特性、疲労特性等の解明に有効なデータが取得された。
(3)シリコン半導体の製造
 原子炉で照射し製造したシリコン半導体は、均一度が極めて高いため電子デバイス産業利用として高く評価されている。1994年に改造したJRR-3Mの均一照射装置(図6参照)は、シリコン直径の増大化に対応して直径15.2cmのシリコンを径方向3%、軸方向5%以内の均一度に照射が行える。
<図/表>
表1 JRR-3M諸元
表1  JRR-3M諸元
表2 中性子散乱実験における成果
表2  中性子散乱実験における成果
図1 JRR-3原子炉一括搬出工法
図1  JRR-3原子炉一括搬出工法
図2 JRR-3原子炉プール鳥かん図
図2  JRR-3原子炉プール鳥かん図
図3 JRR-3実験利用設備の配置
図3  JRR-3実験利用設備の配置
図4 JRR-3における中性子散乱実験の利用状況(2003年度)
図4  JRR-3における中性子散乱実験の利用状況(2003年度)
図5 JRR-3における照射利用状況(2003年度)
図5  JRR-3における照射利用状況(2003年度)
図6 大口径シリコン照射装置開発
図6  大口径シリコン照射装置開発

<関連タイトル>
JRR-2 (03-04-02-01)
JRR-4 (03-04-02-03)
JMTR (03-04-02-04)
日本原子力研究開発機構 (13-02-01-35)

<参考文献>
(1)甦る研究用原子炉・国産1号炉JRR-3の改造、原子力工業、Vol.31(1985)
(2)JRR-3原子炉本体の撤去工事の概要、日本原子力学会誌、Vol.29(1987)
(3)JRR-3改造炉の建設と臨界試験、日本原子力学会誌、Vol.32(1990)
(4)日本原子力研究所:日本原子力研究所成果報告 平成10年度−JRR-4の臨界達成及びHTTRの現状−、−研究炉・試験炉及び加速器を利用した物質・材料研究−、(1998年11月)
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