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<概要>
 第6次エネルギー基本計画においては、高温ガス炉は、国内においても、水素製造を含めた多様な産業利用が見込まれ、固有の安全性を有する高温ガス炉を始め、安全性等に優れた炉の追求など、将来に向けた原子力利用の安全性・信頼性・効率性を抜本的に高める新技術等の開発や人材育成を進めるとされている。次世代発電炉としては、エネルギー源としての多用途への柔軟性、高い固有安全性、核燃料資源の有効利用、運転管理の容易性、高い経済性等が要求される。高温ガス炉はこのような要求に応えられる有力な候補と考えられている。
 
<更新年月>
2022年07月   

<本文>
 第6次エネルギー基本計画(2021年10月 閣議決定)において、高温ガス炉は、国内においても、水素製造を含めた多様な産業利用が見込まれ、固有の安全性を有する高温ガス炉を始め、安全性等に優れた炉の追求など、将来に向けた原子力利用の安全性・信頼性・効率性を抜本的に高める新技術等の開発や人材育成を進めるとされている。
 次世代発電炉としては、
(1)エネルギー源として用いる場合の柔軟性
(2)高い固有安全性と立地選択の柔軟性
(3)核燃料資源の有効利用
(4)運転管理の容易性
(5)経済性
等が要求される。
 それぞれについて高温ガス炉システムの適合性を以下に記す。

1.エネルギー源としての柔軟性
 エネルギー源としての原子力の利用は、現在、電力の分野に限られており、エネルギー需要全体の約60%を占める非電力分野には利用されていない。これは主として現在の発電用原子炉が軽水冷却型炉であって、原子炉冷却材温度が約350℃と低いため、核熱の直接利用が極めて限定されることによる。また、ナトリウム冷却型高速炉でも原子炉冷却材最高温度は約550℃である。
 これに対し、高温ガス炉では原子炉出口冷却材温度が700℃〜950℃と高いため、広範囲の熱エネルギーの利用が可能となる。したがって、在来炉では困難であるガスタービン発電が可能となる。図1に各種産業分野における工業プロセスの利用温度範囲を示す。わが国においては、900℃以下の温度で使用される熱エネルギーは、非電力分野の約70%を占めており、この中には、水素製造をはじめエチレン製造等の化学工業や還元ガスによる直接製鉄が含まれている。したがって、高温ガス炉は電力のみならず、これらの分野に対しても適用性を有しおり、将来的には発電と水素製造などのコジェネレーションが有望である。高温ガスと水素製造施設を結合したシステム概念例を図2に示す。

2.高い固有安全性
 将来、原子力が各種の用途へ利用されるようになる場合には、原子力施設のエネルギー需要地に対する近接立地および都市近郊立地のような立地選択の自由度が必要とされよう。この場合、固有の安全性が高く、安全性を確保するための多くの補助設備を要しない原子炉であることが、重要な条件の一つと考えられる。
 高温ガス炉は他の炉型と比較して、次のような点で高い固有安全性を有している。
(1)被覆燃料粒子を使用しているため、核分裂生成物(FP)を閉じ込めるユニットが小さく、金属材料の被覆管破損に見られる急激な大量のFPの放出が起こらない。
(2)炉心を構成する材料が耐熱性の高い黒鉛である。
(3)原子炉冷却材に不活性なヘリウムを用いるため、燃料、構造物との化学反応がなく、原子炉冷却材中の放射能も少ない。
(4)炉心の核特性として、反応度の温度係数および出力係数はすべての運転温度範囲および燃焼期間を通して負であり、核的暴走が起こらない。
(5)炉心の熱容量が大きく、出力密度も低いため、異常時や事故時の温度変化が極めて緩慢である。このため、異常時対策に時間的余裕が十分にある。
 この固有安全性を最大限に有効に適用した小型高温ガス炉はモジュール型と呼ばれる。熱出力約300MW−600MWの原子炉システムが幾つか設計されているが、これらの設計では、万一の事故時においても自然放熱のみで崩壊熱を除去でき、軽水型発電炉のような非常用炉心冷却設備は必要としない。このような高い固有の安全性を有すること、利用可能な温度領域が広くエネルギー源としての柔軟性を有することから、高温ガス炉は、多様なエネルギーを利用する化学コンビナート等に対して、熱や電力を需要地に近接して供給可能な原子炉システムとしての期待も大きい。

3.核燃料資源の有効利用
 被覆燃料粒子は、小さな燃料核をセラミックス被覆層で包んだものである。被覆層がセラミックスであるため燃料核との化学的相互作用、並びに小さな粒子であるため機械的相互作用が比較的小さい。したがって、燃料の種類(ウラン、トリウム、プルトニウム酸化物、炭化物ならびにこれらの混合物)、燃焼度等を幅広く自由に選択することができる。このため、核設計の自由度が大きくなる。また、燃料の燃焼度が軽水炉に比べて高くとれることから、燃料の炉心滞在中に生成する239Puは、炉内で燃焼するので使用済み燃料中に残留する核分裂性核種が比較的少ないことが特徴である。このため核不拡散抵抗性に優れている。なお、わが国では、使用済み燃料は再処理により有効利用することが基本方針となっているため、高温ガス炉の使用済み燃料についても、再処理技術の開発が行われてきた。被覆燃料粒子からの使用済み燃料の取り出しに関する基盤技術は確立しており、実用化に障害となるような問題はない。

4.運転管理の容易性
 原子炉施設の保守、点検を行う場合最も大きな問題の一つは、従業員の放射線被ばくの管理である。現在の軽水型原子力発電所での放射線被ばくは、構造材の腐食生成物が炉心で放射化し、原子炉冷却系機器の内面に付着していることが主な原因となっている。高温ガス炉では、原子炉冷却材に不活性ガスであるヘリウムを用いるため、腐食生成物が極めて少なく、他の炉と比較して、従業員の被ばく量が少ない。例えば、フォート・セント・ブレイン炉(米国)の運転実績によると従業員の総被ばく量は年間平均0.02〜0.03人・Svであった。一方、わが国の原子力発電所の実績は約1.3人・Sv/基(1995年実績)となっている。
 また、原子炉運転時の異常時の運転員の運転操作を考えるとき、高温ガス炉では炉心の温度変化などが緩やかであるため(図3)、運転員が異常時の対策をとる際に十分な時間的余裕がある。特に、モジュール炉の場合には、受動的安全性を採用しているため、安全機能を有する冷却系および制御系等が皆無或いは簡素であり、運転保守の負担が大幅に軽減される。

5.経済性
 モジュール型高温ガス炉は小容量のため、スケールメリットの点でコスト上不利であるが、固有の安全性を生かしてシステムの大幅な簡素化が可能なこと、シリーズ生産効果、さらにガスタービンサイクル若しくはガスタービンと蒸気タービンとの複合サイクルの採用等によるプラント効率の向上等を考慮すれば、現在のいかなる発電システムにも十分競合できるとの評価がなされている。経済性の検討(1996年時)では、600MWtのGT-MHR(ガスタービンモジュール型ヘリウム冷却炉、米国)4基運転したときのコストは34ミル(4.4円、1ドル=130円、1ミルは1/1000ドル)/kWhであり、将来稼働され得る石炭ガス複合サイクル発電、受動安全性軽水炉等と比較しても競合できる、という報告もある[4](4)N.N.Ponomarev−Stepnoy et al.:Development Prospects of High Temperature Gas−Cooled Reactors and Their Role in Nuclear Power Reactor,Energy,16(1/2),119-127(1991)表1)。さらに、最近行われたGTHTR300(高温ガス炉ガスタービンシステム)の経済性評価では、その発電コストは4円/kWh前後と評価されており、130万kW級の軽水炉と比較して1円/kWh以上コストが低いとの試算結果が報告されている[6](6)武井正信 他:高温ガス炉ガスタービン発電システム(GTHTR300)の経済性評価、原子力学会和文誌、Vol5、No.2、109-117(2006) 図4)。このように、高温ガス炉プラントは、経済性の観点から、次世代炉の最有力候補の1つと考えられており、日本を含む世界10か国と1機関が参加する第4世代原子力システム国際フォーラム(GIF)においても高温ガス炉、とりわけ原子炉出口温度がより高温化した超高温ガス炉(VHTR)は優先度の高い原子炉システムとして位置づけられている。

<図/表>
表1 GT-MHRと他の発電所との発電コストの予備的検討における比較
表1  GT-MHRと他の発電所との発電コストの予備的検討における比較
図1 工業プロセスの利用温度範囲
図1  工業プロセスの利用温度範囲
図2 高温ガス炉による熱のカスケード利用概念
図2  高温ガス炉による熱のカスケード利用概念
図3 高温ガス炉の事故時燃料温度および原子炉圧力容器温度変化(評価例)
図3  高温ガス炉の事故時燃料温度および原子炉圧力容器温度変化(評価例)
図4 高温ガス炉(GTHTR300)と軽水炉との経済性比較検討例
図4  高温ガス炉(GTHTR300)と軽水炉との経済性比較検討例

<関連タイトル>
高温ガス炉概念の特徴 (03-03-01-02)
高温ガス炉燃料の安全性 (03-03-03-01)
発電用高温ガス炉の開発動向 (03-03-04-01)
発電用高温ガス炉の開発 (03-03-04-03)
高温ガス炉による核熱エネルギー利用 (03-03-05-01)

<参考文献>
(1)IAEA:‘Current status and future development of modular high temperature gas cooled reactor technology’,IAEA-TECDOC-1198(2002)
(2)M.P.LaBar,et al.:‘Status of GT-MHR for Electricity Production’,World Nuclear Association Annual Symposium 3-5 Sep.,London(2003)
(3)F.Albisu et al.:Market Prospects of Modular HTR in EEC Countries,Energy,16(1/2),547-553(1991)

(4)N.N.Ponogarev−Stepnoy et al.:Development Prospects of High Temperature Gas−Cooled Reactors and Their Role in Nuclear Power Reactor,Energy,16(1/2),119-127(1991)

(5)K.Kunitomi,et al.:‘Japan`s future HTR−the GTHTR300’,Nuclear Engineering and Desigin 233,309-327(2004)

(6)武井正信 他:高温ガス炉ガスタービン発電システム(GTHTR300)の経済性評価、原子力学会和文誌、Vol5、No.2、109-117(2006)

(7)片西昌司、國富一彦:高温ガス炉タービン発電システム(GTHTR300)の安全設計方針、日本原子力学会和文論文誌、Vol2、No.1(2003)
(8)A.J.Neylan,W.A.Simon:Status of the GT-MHR,Exective Committee of 3rd JAERI Symp.on HTGR Technologies(eds.),JAERI-Conf 96-010(1996)
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