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<概要>
 新型転換炉の研究開発は各分野にわたり進められている。炉特性、安全性と炉用部品・機器の耐久性などの重要性能は、早期に動燃事業団(現日本原子力研究開発機構)の大洗工学センターに設けられた実規模試験装置において実証・確認された。重要部品・機器は実物大の試作、試験を経て改良が行われ、またこの間、信頼性の高い解析コード、設計コードが開発された。これらの成果により「ふげん」は順調な運転を続けている。実証炉は電源開発(株)が中心となって2000年代初頭運転開始を目途に諸準備を進めてたが、平成7年(1995年)8月の原子力委員会決定において実証炉計画が中止となった。
<更新年月>
1998年05月   (本データは原則として更新対象外とします。)

<本文>
 新型転換炉原型炉「ふげん」は昭和42年から動燃事業団(現日本原子力研究開発機構)が自主技術に着手した新型動力炉である。「ふげん」の設計・建設のための研究開発は多部門にわたるが、特に原子炉の基本性能に関連する炉心特性、安全性等に関しては、早期に大洗工学センターに設置された実規模試験施設における試験研究開発により、現象解明、設計性能の確認・実証、設計手法の確証、機器の耐久性確認等を行い、これらの成果は設計・製作に反映した。この結果、「ふげん」のプラント特性、性能および信頼性は設計どおり良好に維持されており、新型転換炉開発の技術の実証と蓄積を図ることができた。
 さらに、「ふげん」の本格運転以降は「ふげん」の経験・実績とそれらの解析・評価、大洗工学センターにおける研究開発の進捗および東海事業所における燃料製造実績および燃料開発が相まって、「ふげん」の安全かつ安定運転と運転保守の技術開発は、新型転換炉の基盤技術の高度化と信頼性の向上に大きな役割を果たすとともに、実証炉の開発にも反映されている。「ふげん」と実証炉との主要諸元比較を 表1 に、開発スケジュールを 図1 に、「ふげん」のプラント概念図を 図2 に、実証炉のプラント概念図を 図3 に示す。
1.研究開発の方針
 新型転換炉の研究開発は、次の基本的考え方で進めることにした。
(1)炉心核特性、熱水力特性、安全性等については自らの手で現象の解明と解析・評価技術の確立により、信頼性の高いシステム設計が行えるようにする。
(2)圧力管集合体、燃料交換装置等の重要機器は機器性能、製作容易性を確認するとともに耐久性も確認する。
(3)新型転換炉の性能、機能、信頼性に関する開発試験は実規模で行う。
(4)開発に必要な情報とその必要時期を明確にして開発を進める。
(5)既存技術は極力利用するが、必ず自ら評価し、必要があれば検証を行う。
 上記の考え方に基づき、原子炉の核特性、熱水力特性、安全性および部品機器の耐久性を実証、確認するため、昭和44年始めに大洗工学センターに次の実規模試験施設を設置した。
(1)重水臨界実験装置(DCA) −−−−−−−−− 核特性
(2)大型熱ループ(HTL) −−−−−−−−−−− 伝熱流動特性
(3)安全性試験装置 −−−−−−−−−−−−− 安全性
(4)コンポーネントテストループ(CTL) −−−− 燃料集合体圧力管集合体、原子炉部品の耐久性
 「ふげん」の建設後の試験、運転段階における研究開発で得られた実績、経験を分析、評価し、燃料集合体、圧力管集合体の照射挙動を明らかにし、解析コード、設計コードの検証、改良ならびに設計手法の改良確立を図る。
 また「ふげん」の運転によって生じた課題事象の解明、安全性および信頼性の向上、運転管理技術および運転保守技術の高度化等の運転支援に係わる研究開発も行う。
2.研究開発の概要
 「ふげん」の設計、建設のための研究開発は前記の基本方針に基づいて進めた。「ふげん」の設計・製作・建設を軸として、これと並行してシステム設計、炉物理、伝熱流動、安全性、構造・機器、燃料・材料等の各分野の研究開発を進めた。これら各分野の研究開発の結果に基づき、「ふげん」の設計、製作に検討・改良を加え、また一方、設計変更を行った場合は直ちにその結果を確認するための研究開発に着手した。
 炉心特性、安全性等の研究開発は、大洗工学センターの実規模試験施設において進めた。DCAの炉物理実験により、MOX燃料を装荷した炉心の反応度係数、出力分布等の核特性を解明し、「ふげん」の炉心設計に反映し、HTLによる伝熱流動試験により、「ふげん」燃料の熱水力的最適化を図るとともに、バーンアウト限界に対する設計裕度を決定するための設計・評価手法を開発し、燃料設計および熱水力設計に反映した。また安全性試験施設においては、実規模の配管破断時の冷却材喪失試験および非常用炉心冷却水注入試験結果を解析・評価して、「ふげん」の非常用炉心冷却系の容量および作動信号に対する裕度を明らかにした。
 圧力管集合体、燃料集合体、燃料交換装置等「ふげん」特有の機器については実物大の試作開発を行い、性能・機能を確認するとともに、燃料交換装置以外はCTLを用いて耐久試験を行い、実機の設計・製作に反映した。また圧力管検査装置、入口管検査装置の開発・検査技術の改良・開発を行い、「ふげん」の保守と信頼性の向上に反映した。
 「ふげん」の燃料は3層クラスタ型のUO2 燃料またMOX燃料であることから、燃料集合体の試作開発、HTLにおける伝熱流動試験、CTLにおける燃料集合体の耐久試験を行い、クラスタ型燃料のスペーサ構造を確立し、設計・製作に反映した。クラスタ型MOX燃料の照射を行い、照射後試験によりUO2 燃料の照射挙動と同様であることを確認した。なお平成9年3月まで658本のMOX燃料を炉心に装荷し、この中にはMOX燃料高燃焼度を目指したガドリニア燃料も含んでいる。このガドリニア燃料の照射は平成9年1月で終了し、MOX燃料として、約40,000MWd/tの燃焼度を達成した。また新規採用の圧力管材料(Zr-2.5w/o Nb合金)の先行照射試験により、基礎的な材料特性を確認した。
 「ふげん」の起動試験および本格的運転開始以降は運転によって得られた実績を運転状態における解析値と比較評価し、必要に応じて大洗工学センターの各施設を用いて試験を行い、詳細検討により解析コードおよび設計コードの改良、設計手法の改良を行っている。燃料集合体および圧力管集合体については、計画的に照射後試験を行い、照射挙動を追跡調査し、解析値と比較評価し、健全性の確認および設計の改良に反映している。
 一方運転保守性の改良および高度化のため圧力管等の供用期間中検査装置の開発、検査技術の開発、被曝低減のための化学除染技術の開発を行い、運転・保守管理に反映している。
 また、高燃焼度燃料、高性能燃料等の開発の一環として、燃料照射試験を「ふげん」で行うにあたり、炉心特性、安全性等の確認試験を大洗工学センターの各施設で行っている。
 動燃事業団(現日本原子力研究開発機構)は、新型転換炉を「ふげん」から実用規模まで大容量化し、実用化段階での経済性の見通しを得ることを目標とする実証炉について、「ふげん」の設計・建設の成果を踏まえ、昭和49年設計研究を開始した。電気出力は60万kWとし、設計構想段階では、特に建設費の低減を目的に、圧力管の大径化、60本クラスタ燃料、炉心上方からの燃料交換方式等多角的に検討、評価したが、最終的には原則として「ふげん」方式を踏襲することにした。大洗工学センターの研究開発結果、「ふげん」の運転実績を反映した設計見直しとシステム設計を十分に練り、昭和58年プラントとして整合性のとれた実証炉合理化設計をまとめた。表1に「ふげん」との主要諸元比較を示す。その後実証炉開発主体は電源開発(株)となり、動燃事業団(現日本原子力研究開発機構)は技術協力を行っている。
3.「平成6年原子力開発利用長期計画」による新型転換炉開発の位置付け
 新型転換炉は、プルトニウム、回収ウラン等を柔軟かつ効率的に利用できるという特徴を持つ原子炉として自主開発を進めてきており、新型転換炉による核燃料リサイクルを継続することによりMOX燃料利用について国内外の理解と信頼を深めることは、将来の高速増殖炉による本格的なリサイクルを実現する上で重要である。
 原型炉「ふげん」については、核燃料リサイクル上の柔軟性を活かした技術の実証、新型転換炉基盤技術の高度化を目指し、実証炉開発にも有効に活用するための運転を継続する。実証炉(電気出力60.6万kW)については電源開発(株)が、青森県大間町に2000年代初頭の運転開始を目標に建設計画を進めていたが、平成7年(1995年)8月25日原子力委員会の決定において実証炉建設計画が中止となり、全MOX燃料のABWRに代替となった。
 その後の計画については、実証炉の建設の状況、実用化に向けての経済性の見通し、核燃料リサイクル体系全体の開発状況等を踏まえつつ対処するものとし、適切な時期に具体的に検討していく必要がある。
<図/表>
表1 新型転換炉の「ふげん」と実証炉との主要諸元比較
表1  新型転換炉の「ふげん」と実証炉との主要諸元比較
図1 新型転換炉の開発計画
図1  新型転換炉の開発計画
図2 原型炉「ふげん」のプラント概念図
図2  原型炉「ふげん」のプラント概念図
図3 中止になった実証炉大間原子力発電所のプラント概念図
図3  中止になった実証炉大間原子力発電所のプラント概念図

<関連タイトル>
新型転換炉の特徴 (03-02-02-02)
新型転換炉の原子炉本体 (03-02-02-05)
新型転換炉開発の経緯 (03-02-06-01)
新型転換炉実証炉計画 (03-02-06-02)
新型転換炉実証炉計画の見直し (03-02-06-03)

<参考文献>
(1)動燃二十年史 1988.10.2 動力炉・核燃料開発事業団
(2)動燃技報 No.69 1989.3 動力炉・核燃料開発事業団
(3)動燃技報 No.73 1990.3 動力炉・核燃料開発事業団
(4)動力炉・核燃料開発事業団:「ふげん」の開発実績と実証炉の設計、1979年
(5)日本原子力産業会議(編):原子力年鑑1996年版、(1997年10月)、p.126-128
(6)資源エネルギー庁公益事業部原子力発電課(編):原子力発電便覧1997年版、電力新報社(1997年8月)、p.512-514
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