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<概要>
 世界で最初の実験的原子力発電は、現在主流となっている軽水炉でなく、1951年12月20日、米国の高速実験炉EBR-1(100kW)によって行われた。その後、実験炉としてFermi炉、EBR-2、SEFOR、FFTFが建設され試験された。原型炉CRBRの設計並びに製作が進められていたが、建設費高騰により計画中止が決定された。実証炉の設計研究は1978年10月に開始されたがその後の進捗はない。その間に、FBR開発用の炉物理、ナトリウム技術、燃料技術、安全性などを検証するための研究開発が国立研究所及び付属施設で実施されてきた。他方、米原子力規制委員会及び米国電力会社のニーズに適応したモジュラー型の設計研究がGE社やRI社により進められたが、現状では撤退の止むなきに至り、運転を継続していたEBR-2とFFTFも閉鎖することになった。2000年に次世代原子炉計画を世界に働きかけ、現在その計画に沿って新たなガス冷却高速炉と鉛冷却高速炉のR&Dが始まった。
<更新年月>
2004年11月   

<本文>
1.米国における過去の開発状況
 米国における高速炉の研究開発の始まりは、EBR-1、EBR-2、Fermi炉などの実験炉の建設に遡る。第2世代の高速炉の開発は、1960年代に米国原子力委員会と産業界による1000MWの高速増殖炉の設計研究に始まる。この研究には国立研究所、民間企業、電力会社が積極的に参加し、広範囲の技術工学に基づく高速炉プラントシステムの確立が図られた。大型高速増殖炉の概念設計はメーカーと米国電力研究所EPRI(Electric Power Research Institute)のチームによって取りまとめられた。さらに1981年、EPRIは、官民一体となって、商業用として電力会社が購入できるような高速炉の開発を目的とした計画を作成、特に、建設コストを低減させることに努力が払われた。また、特徴のある1000MWe高速炉の設計研究がGE社(ゼネラルエレクトリック)、WH社(ウェスティングハウス)、AI社(アトミックスインターナショナル)社、SW社(ストーン・アンド・ウェブスター)の各社によって進められ報告書となっている。1960年代後半に建設された施設に、アルゴンヌ研究所(ANL-West)のプルトニウム高速臨界実験装置(ZPPR)や液体金属工学センター(ETEC:Energy Technology Center)のナトリウム機器試験施設があるが、ここでは一連の設計研究に合わせて大型高速増殖炉の炉物理の研究やナトリウム循環ポンプや中間熱交換器、蒸気発生器などの主要な機器開発が積極的に行われた。
 当時EBR-2では、金属燃料炉心による燃料材料の耐久極限試験や、事故時安定性などの試験が始められており、1972年には米国最初の高速増殖炉CRBR(クリンチリバー増殖炉)計画がスタートした。
 CRBRのための試験用高速炉FFTF(Fast Flux Test Facility:400MWt)も1980年に初臨界となり、CRBRの建設も始まって米国のFBR開発は世界の中でもフランスと共に指導的役割を果たしていた。
 然しながら、1977年米国カーター大統領の核不拡散声明による政策変更があり、建設中のCRBR計画は中断され、米国における高速増殖炉プロジェクトによる建設計画は基礎的研究計画を残して事実上中止となった。
 その後、TMI事故、チェルノブイル事故など相次ぐ原子炉事故によって安全規制面からの見直しや反対運動もあって原子力発電所計画にブレーキがかかった。その最中、米・ソ冷戦の終結による核軍縮からのプルトニウムの余剰が問題となり、現状で建設費が軽水炉よりも高い高速炉で、更に核不拡散上不用なプルトニウムを増殖させることに疑義がもたれた。寧ろ軽水炉の使用済燃料再処理から生じるプルトニウムとNp、An、Cm等のマイナーアクチニド系物質を含むTRU燃料を消滅させることこそ緊急の課題であるとして、高速増殖炉よりもTRU消滅炉として目的を変更して方向転換することが打出されてきた。そして固有安全炉の概念と共に、アクチニドリサイクル炉に重点が置かれるようになった。このことは米国および全世界的に経済的不況、財政窮迫という事情もあり、現状では大容量高速増殖炉の建設は見合わせ、より小型で安全なTRU消滅炉から始めようという方策に切り換えられた。プロジェクト的な建設計画に対する政府予算がカットされている状況である。こうした状況下で1994年にEBR-2およびFFTFの閉鎖も決定された。
2.米国の各研究所と試験施設
 高速炉に関する研究開発を行っている国立研究所とそれぞれのおもな試験施設は以下の通りである。
(a)アルゴンヌ国立研究所(ANL-East):235U燃料使用のZPR-3と大型炉心研究用ZPR-6及びZPR-9が臨界実験用に用いられていた。
(b)アイダホ国立工学研究所(ANL-West):ZPPRはプルトニウム燃料使用の容積4m×4m×3mまでの実験集合体を試験するために建設されたゼロ出力プルトニウム炉である。工学試験炉ETR(Engineering Test Reactor)は1957年より運転中の熱出力175MWの炉であり、1973年までのETRの主目的は軽水炉用の燃料及び材料の照射であったが、高速炉開発のためにも用いられた。
 過渡事象試験炉TREAT(Transient Reactor Test Facility)は黒鉛減速空気冷却均質型熱中性子炉であり、核暴走模擬条件下の炉燃料及び構造材の照射に用いられている。
(c)ハンフォード工学開発研究所(HEDL):熱出力400MWの高速実験炉FFTFが建設され、原型炉CRBRのための試験を行っていたが、1994年計画中止が発表された。また燃料・材料試験施設FMEL(Fuels and Materials Examination Facility)は安全自動製造ラインSAF(Secure Automated Fabrication)を設置するために建設された。SAFは高速炉用酸化プルトニウム燃料ピン製造ラインであり、FFTF炉の燃料を製造する予定であった。FMEF以外には、燃料貯蔵施設FSF(Fuel Storage Facility)と管理貯蔵施設MASF(Maintenance and Storage Facility)がFFTFの運転をサポートするために設置されていたが、1994年計画は中止された。
(d)エネルギー技術工学センター(ETEC):ナトリウムポンプ試験施設SPTF(Sodium Pump Test Facility)は非放射性ナトリウムループであり、ポンプ、流量計、その他の機器の試験ができる。ナトリウム機器試験施設SCTI(Sodium Components Test Installation)は中間熱交換器・蒸気発生器の試験のために用いられており、小型機器試験ループSCTL(Small Component Test Loop)はナトリウム、バルブなどの試験のために使われている。最近はFBR蒸気発生器用2重管の耐久試験や大型電磁ポンプの性能試験を行っている。
(e)サンディア国立研究所(SNL):環状炉心パルス型研究炉TRIGA-ACRR(Annular Core Research Reactor)では燃料崩壊や事故時の圧力上昇に関する安全実験が行われている。このほか、ロスアラモス(LANL)、オークリッジ(ORNL)の国立研究所がある。
 以上のように、米国には種々の実験施設が整っているが、米国のエネルギー事情(化石燃料を多く所有する)や政府の財政事情から、現在のところFBR建設の計画はないので、研究開発としての活発な動きはみられない。
3.最近の米国の開発状況
 前述したように、高速増殖炉建設に対する諸事情から、米国アルゴンヌ国立研究所では生き残り策として、一体型高速炉(IFR)方式を提唱し、U-Pu-Zr合金燃料を用いた固有安全炉と乾式再処理、射出成型燃料製造法などを組合せ同一サイトに置く合理的かつ革新的な設計概念を打ち出した。1989年1月、米国エネルギー省DOEはこのIFR概念を取り上げ、革新型液体金属高速炉ALMR(Advanced Liquid Metal Reactor)計画として民間メーカに呼びかけ、革新型の高速炉設計を応募させた。この結果、GE社がPRISM炉を、AI社がSAFR炉を提出し、比較検討の結果DOEはPRISM炉を採用した。PRISM炉は150MWeの固有の安全性を持つ液体金属冷却高速炉で、設計研究が鋭意進められた。
 PRISM炉の当初の設計思想は、財政困難な折から、民間移行に堪えられる、小型で簡単な、かつ固有安全性を持つモジュール方式が採用され、習熟効果による建設費低減を打ち出した。大きな特徴として、IFRで開発され、EBR-2で検証された、U-Pu-Zr10%合金燃料を酸化物燃料から変更して採用することにあった。
 その後、既述のプルトニウム及びマイナーアクチニド消滅が核不拡散政策より重要と判断され、U-Pu-Zr合金をU-TRU-Zr合金として、TRU消滅炉の概念を強く打ち出している。
 表1にいわゆる増殖比が1となるPuの消費とPu生成を等しくした基準炉(Breakeven)に対して転換比を0.8にしたTRU消滅燃焼炉(Burner)の設計主要目が比較されている。これを見るとTRU消費量が56kg/年と大きいことが分かる。
 図1および図2はPRISM炉の概念図を示す。図3にこのTRU消滅燃焼型炉の炉心構成を示す。固有安全炉機能を強化するために、炉心外周に不活性ガスを注入し、事故時ガスボイドにより負の反応度を入れるためのGEM (Gas Expansion Module)が6本装荷されている。
 PRISM炉は受動的固有安全性に力点をおいているので、原子炉全体を事故に備えて地中に埋設する方式である。更に炉容器補助冷却設備RVACS(Reactor Vessel Auxiliary Cooling System)を備え大気の自然循環により事故後の炉心からの崩壊熱を除去し安全を確保できる仕組みになっている。また免震構造も採用されている。図4にPRISMの受動的炉容器冷却システム(RVACS)の構成を示す。
 PRISMは初期設計で1基471MWt3基を1ブロックとする3ブロックモジュールで1440MWeの発電所を考えていたが、1993年以来TRU燃焼炉の概念を入れ1基840MWtを1ブロック2基として3ブロック電気出力1860MWeに変更され(図5参照)、ALMR計画の有力な候補として設計の詳細化がGE社を中心に進められていたが、政策変更などの理由により中止された。
 2000年1月にDOEは今までの原子炉より進んだ第四世代原子炉(GEN-IV)計画を打ち出した。これは、将来のエネルギー需要、供給エネルギー資源、放射性廃棄物処理、高レベル廃棄物貯蔵、TRU処理等を考慮した新燃料サイクル計画(Advanced Fuel Cycle Initiative (AFCI))と歩調を合わせて、将来のエネルギーシステムを開発するものである。現在第四世代原子炉として6候補が選定され、そのうち米国は高速炉として、ガス冷却高速炉(GFR)と鉛冷却高速炉(LFR)を挙げている。図6図7にそのGFRとLFRの概念図を示す。GFRは、He冷却(850℃、7MPa)、直接ブレイトン熱サイクルによる発電、600−2000MWthの高速炉である。LFRは溶融鉛冷却の高速炉、固有の安全性に優れ、長寿命炉心による経済性に優れる。現在これらの原子炉開発に必要な、燃料、材料、システム、安全性の各要素技術のR&Dを鋭意進めている。
<図/表>
表1 PRISM-TRU消滅燃焼炉心の設計主要目
表1  PRISM-TRU消滅燃焼炉心の設計主要目
図1 PRISMモジュール炉の概念図
図1  PRISMモジュール炉の概念図
図2 PRISMの受動的崩壊熱除去システムおよび原子炉容器内構成
図2  PRISMの受動的崩壊熱除去システムおよび原子炉容器内構成
図3 PRISMの燃焼型炉心の炉心構成
図3  PRISMの燃焼型炉心の炉心構成
図4 PRISMの受動的炉容器補助冷却システムの構成
図4  PRISMの受動的炉容器補助冷却システムの構成
図5 PRISMプラントの発電所構成の例(1440MWe=3×480MWe,480MWe=3×471MWt)
図5  PRISMプラントの発電所構成の例(1440MWe=3×480MWe,480MWe=3×471MWt)
図6 ガス冷却高速炉(GFR)の概念図
図6  ガス冷却高速炉(GFR)の概念図
図7 溶融鉛冷却高速炉(LFR)の概念図
図7  溶融鉛冷却高速炉(LFR)の概念図

<関連タイトル>
フランスの高速増殖炉研究開発 (03-01-05-05)
イギリスの高速増殖炉研究開発 (03-01-05-06)
ドイツの高速増殖炉の研究開発 (03-01-05-07)
旧ソ連の高速増殖炉研究開発 (03-01-05-09)
日本における高速増殖炉開発の経緯 (03-01-06-01)

<参考文献>
(1)科学技術庁(監修):FBR広報素材資料集(第2版)、日本原子力文化振興財団(1990年3月)
(2)亀井 満:技術予測シリーズ、第6巻エネルギー技術、日本ビジネスレポート株式会社(平成2年)
(3)日本原子力産業会議(編):原子力年鑑1994年版、1994年11月
(4)日本原子力産業会議(編):原子力年鑑1996年版、(1996年10月22日)
(5)P.Magee et al.:Performance Analysis of the 840MWt PRISM Reference Burner Core,3rd JSME/ASME Joint International Conference on Nuclear Engineering,Apr. 23-27,1995,Kyoto,Japan
(6)M.R.Patel and W.Kwant:ALMR Reactor Design for Actinide Burnining,3rd JSME/ASME Joint International Conference on Nuclerear Engineering,Apr. 23-27,1995,Kyoto,Japan
(7)Uranium Information Centre ホームページ 
(8)Jordi Roglans: Status of the U.S. Activities in Fast Reactors and Accelerator Driven Systems, IAEA TWG−FR, 37th Annual Meeting, May (2004)
(9)日本原子力産業会議(編):原子力年鑑2003年版、2003年10月
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