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<概要>
 金属ナトリウムを高速増殖炉FBR)用の冷却材に使用するには、ナトリウムの特性を熟知し、原子炉プラントにおけるナトリウムの取扱い技術を修得する必要がある。まず、予熱、保温のような基本技術からプラントに設置される各種の機器、装置における取扱い、ナトリウムの不純物分析、炉内のオンライン分析、不純物純度管理技術、とくに最も重要な放射化ナトリウムの取扱い技術はFBRを安全に、効率よく運転するためのキーポイントである。
<更新年月>
2010年12月   

<本文>
 高速増殖炉(FBR)冷却材にナトリウムを使用するために、予めナトリウムの特性を熟知した上、まず、小規模ナトリウム装置を用いてナトリウム取扱い技術を修得する。それらのナトリウム技術に基づいて、放射化された大量の高温ナトリウムを保有する原子炉プラントの運転を安全に効率よく推進するようにする。
1.基本技術
1.1 予熱・保温
 金属ナトリウムは常温で固体であり、約98℃で溶融する。したがって、原子炉冷却材として用いる場合には、通常200℃以上で予熱保持する必要がある。また、原子炉を出た高温のナトリウムは、放熱させずに熱輸送する必要があるため保温をする。なお、ナトリウム漏えい時の保温材との接触反応を避けるため、金属箱保温も考えられている。
1.2 ナトリウム防災技術
 (1)防護具
 理想的な人身防護具は、ナトリウムやNaKと反応し難いこと、またアルカリ金属の燃焼による高温に対し十分に耐えられることの二つの機能を備えるべきである。
 ナトリウム処理または消火作業を実施するために、上記の事項をふまえて、服装、頭部防護具、顔面防護具、手袋、脚部防護具、呼吸系防護具などを、常時使用できるように準備しておく。
 (2)燃焼ナトリウムの消火
 金属ナトリウムの燃焼は、油やアルコール火災と異なり、白煙を多量に放出する。炎が非常に小さく(1cm以下)、他に転火する可能性は少ないが、金属ナトリウムの燃焼拡大を防ぐことが肝要である。したがって原子炉プラントにおいては、万一、金属ナトリウムが漏えいした場合のことを考慮して、金属ナトリウムの流出範囲が拡大しないように設計上の配慮がなされている。また金属ナトリウムは、水と激しく反応するため、漏えいの恐れのある箇所はコンクリート等水を含んだ物質との接触を防ぐため、鉄板などのライナーを設ける設計になっている。
1.3 ナトリウム洗浄技術
 ナトリウムの付着した機器部品の保守、修理、試験、検査、廃棄にあたって、まずナトリウムを洗浄処理しなければならない。
 ナトリウムの洗浄処理を安全に、かつ熱や腐食等で機器を損なわないように行うのは容易な作業ではなく、ナトリウム取扱い技術の中で最も注意を要する作業の一つであり、水やアルコールを用いた場合は水素や煙の発生を伴う。したがって防護衣、遮蔽壁及び処理施設等を有効に利用して実施すべきである。これまで国内外で種々の洗浄処理方法が試みられ実施されてきた。その方法を大別すると物理的方法と化学的方法に分けられる(表1参照)。
1.4 ナトリウム処分
 液体金属ナトリウムの処分は、
 (1)カ性ソーダにし、塩酸等で中和する
 (2)燃焼させ酸化ナトリウムにする
 (3)カ性ソーダにして再利用する
 (4)金属ナトリウムのまま原子炉に戻す
等が考えられる。このうち、(1)と(2)は、少量の場合によく用いられる。多量の金属ナトリウムの処分には、(3)を経て石けん等の原材料として再利用(フェルミ炉の2次冷却系ナトリウムの場合)されるか、または、(4)金属ナトリウムのまま戻して原子炉等に用いられる場合がある。これらいずれの場合にも、ナトリウムは放射化されていないことが条件である。
2.原子炉冷却材としての特性
2.1 温度変動挙動特性
 FBRの冷却材の炉容器出口温度は、500℃〜600℃と非常に高温であるため、低温では問題が生じない問題、例えば、サーマルサイクルサーマルストライピングサーマルストラティフィケーションなどの問題があり、これらを詳細に調べ、対策を講じる必要がある。
 (1)熱衝撃挙動・サーマルサイクル
 液体金属ナトリウムの比熱は0.3で、「熱しやすく冷めやすい」性質をもっている。したがって、原子炉の停止時等には急激な温度落差が生じ、構造物に熱衝撃を与える。原子炉構造物の設計の際には、原子炉の設計寿命期間中に生じる温度変化を考慮している。また、原子炉等の液面近傍付近は、液面変動によりタンク壁の温度変動が絶えず生じ、熱疲労を受けやすい。そのため断熱手法や構造設計を十分に実施している。
 (2)サーマルストライピング
 液体金属ナトリウムは熱伝導率が高いので、温度差の大きいナトリウムが流入した場合でも、構造物に悪影響を与えないと考えがちであるが、T字管や原子炉炉心上部のような、温度差が大きいナトリウムが流入する場所では、構造物を破損させる場合が生じる。
 高温液体と低温液体が、交互に流入する現象をサーマルストライピングと呼ぶが、蒸気のT字管や炉心上部構造に、直接、高温ナトリウムと低温ナトリウムの混合効果が期待できない構造の場合には、サーマルライナー等を設けている。
 (3)サーマルストラティフィケーション
 液体や気体において温度差が生じるとそれが密度差となり、容器内の上部と下部で完全に温度が異なる場合がある。例えば、会議室等で、上部にタバコの煙が層状にたなびいていることがある。この現象をサーマルストラティフィケーションと呼んでいる。液体金属ナトリウムは熱伝導率が高いので、サーマルストラティフィケーションは生じにくいと考えられるが、原子炉容器等、長尺の容器等でしばしば生じる。原子炉容器の場合温度差が大きいので、熱変形等の発生原因となるため、設計に際しては十分な配慮を行っている。
2.2 カバーガスの挙動
 液体金属ナトリウムは、空気と接触すると酸素と反応して激しく燃えるため、空気との接触を防ぐ必要がある。したがって、自由液面をもつタンク類では、不活性ガス等(アルゴンガスや窒素ガス)で覆われるよう設計される。原子炉容器や主循環ポンプの自由液面は、放射線遮蔽のためカバーガス空間が大きく、ガスの対流により熱変形が生じることがあり、その対策を講じる必要がある。
3. ナトリウム純度管理技術
 原子炉の冷却材であるナトリウムの不純物を精製及び計測する技術で、構造材の腐食防止、質量移行現象の抑止、破損燃料の検出等の観点から重要である。純度管理技術は確立されているが、経済性の追求が重要課題である。
3.1 精製技術
 ナトリウム不純物を除去する方法として、最もよく使用される機器はコールドトラップである。コールドトラップは、300℃〜500℃で循環されているナトリウムを120℃〜150℃に冷却することにより、ナトリウム中の酸素や水素が過飽和になることを利用し、結晶析出させ容器内に不純物を捕獲する機器である。
 コールドトラップには、強制循環型と拡散型があり、FBRプラントには、通常強制循環型が用いられる。建設費低減の観点からタンク内にコールドトラップを設置し、コールドトラップのための配管引き廻しや予熱設備を合理化する研究開発が進められている。
 図1にナトリウム貯蔵タンク内に設置されているタンク挿入型コールドトラップの概念図を示す。コールドトラップは、酸素濃度にして数ppmの純度に精製する。
3.2 計測技術
 ナトリウム中の不純物を測定することは、精製装置の制御にフィードバックさせたり、プラントの異常を知る上で重要である。ナトリウム中不純物計測器として、最もよく利用されているものはプラギング計である。プラギング計の原理は、ナトリウムを徐々に冷却し、オリフィス部に過飽和になった酸素や水素をプラグさせ、圧損増大により生じる流量低下時点の温度を測定し、ナトリウム中不純物濃度を推定する。図2にプラギング計の概念図を示す。
3.3 FPトラップ、CPトラップ
 コールドトラップで捕獲されない核分裂生成物(FP)などの放射性元素を補集・除去する装置をFPトラップという。また、コールドトラップで捕獲されにくい放射性腐食生成物(CP;54Mnなど)を捕獲する装置をCPトラップという。
4. 放射化ナトリウム取扱い技術
 FBRの1次冷却材に用いられるナトリウムは、ナトリウム自身が炉心を通過する際、中性子照射を受けて放射化される。さらに、燃料破損等が生じた場合には、FPがナトリウムに溶け込んだり、溶け込んでいる多量のCPにより、ナトリウムは各種の放射性元素を含んでいる。図3に、FBRプラントにおけるCPの挙動を示した。
 また、沈着した放射性物質の除去技術は、保修時の被ばく低減の観点から重要である。
<図/表>
表1 主な洗浄・処理方法とその利点・欠点
表1  主な洗浄・処理方法とその利点・欠点
図1 コールドトラップ(2次系)の概念図
図1  コールドトラップ(2次系)の概念図
図2 プラギング計の概略図
図2  プラギング計の概略図
図3 高速炉プラントにおけるCPの挙動
図3  高速炉プラントにおけるCPの挙動

<関連タイトル>
ナトリウムの特性 (03-01-02-08)
ナトリウム冷却システム (03-01-02-09)
高速増殖炉の蒸気発生器 (03-01-02-11)
ナトリウムの安全性(1次系ナトリウム) (03-01-03-04)
ナトリウムの安全性(蒸気発生器および2次系ナトリウム) (03-01-03-05)

<参考文献>
(1)亀井 満:高速増殖炉工学基礎講座 ナトリウム取扱技術(その2)、原子力工業、Vol.35、No.9(1989)
(2)日本原子力情報センター(編):高速増殖炉をめぐる研究開発と今後の技術的課題(昭和58年)
(3)基礎高速炉工学編集委員会(編):基礎高速炉工学、日刊工業新聞社(1993年10月)
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