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<概要>
 高速増殖炉の燃料は軽水炉燃料に比べてプルトニウムの富化度が高く、燃料ペレットの比出力及び平均温度も高い。現在は酸化物燃料が主流であり、高燃焼度を目標にした開発が進められている。燃料設計に当たって重要なことは、燃料が溶融しないこと、被覆管が破損しないこと、燃料集合体が機械構造上健全であることなどである。このため、酸化物燃料ではペレット中心温度約2500℃、被覆管温度約700℃に対して健全であるよう設計される。今後、燃料燃焼度を高めることによって経済性向上を目指している。このためには、燃料設計の高度化(合理化)を図るとともに炉心材料の耐スエリング性の向上等を目指した開発が進められている。
<更新年月>
1998年03月   

<本文>
1. 燃料設計の基本的考え方と考慮点
 世界各国の高速増殖炉について、現状、炉構造、使用されている燃料等について整理したものを 表1 に示した。燃料としては、ウラン・プルトニウム混合酸化物燃料(MOX)が、ほとんどの炉で使用されている。また、原型炉・実証炉クラスの高速炉燃料の諸元を 表2 に示した。これら諸元は、燃料設計、炉心設計の結果として決められたものである。
 燃料設計は、与えられた・熱特性条件(たとえば、線出力、燃焼度、温度等の履歴)の下で、使用期間を通じて燃料の健全性が確保できるような仕様および構造を決定するための設計と定義される。この核・熱特性条件を求めるための設計評価は、核・熱設計と呼ばれる。核・熱特性を、炉心特性と呼ぶことが定着しているが、本来炉心は、燃料が集まったものである。したがって、炉心特性は燃料の仕様および構造、すなわち、燃料設計の結果に依存する。このように炉心と燃料は強い相関を有しているため、核・熱設計と燃料設計とは、整合させつつ行わなければならない。この両者の設計をまとめて炉心設計と呼ぶことが多い。
 燃料設計は、まず燃料要素である燃料ペレットと被覆管について考慮し、ついで燃料集合体について行なわれる。設計上の重要な点は、燃料が溶けない、被覆管が破損しない、そして集合体が機械構造上こわれないことである。
2. 使用条件及び構造上の特徴
 高速炉用燃料の原子炉内での使用条件は、軽水炉でのものに比べいくつかの異なった特徴を有している。それらは主として、以下に示す点である。すなわち、高速炉用燃料は、低圧でかつ高温のナトリウム環境下であり、中性子スペクトルが硬い、高速中性子照射量が高い、燃焼度が高い、出力密度が高い、燃料ペレット温度が高い、燃料ペレット内径方向温度勾配が大きい、被覆管の内圧が高い、構造材温度が高い、そして構造材温度の空間的変化が大きい等の条件下で使用される。
  図1 に「もんじゅ」の炉心構成を示す。構造上の特徴として、炉心構成においては、内側と外側炉心でプルトニウム富化度を変えることによる出力分布の平坦化、集合体発熱量に見合った冷却材流量配分、軸および径方向ブランケットの設置によるプルトニウムの増殖、遮蔽体(反射体)設置による原子炉容器等の保護、および独立2系統の少数体制御棒による反応度制御といった点があげられる。
  図2 に「もんじゅ」の燃料構造を示す。燃料集合体としては、燃料要素の正三角形格子状稠密配列、正六角形状ラッパ管による冷却材流路の形成、下部横流入方式による集合体の浮き上がり防止、セルフオリエンテーション構造による集合体装荷の円滑化、炉心支持板側との嵌合部寸法を変えることによる誤装荷防止及び集合体間スペーサとしてのパッド(外筒部突起)といった点があげられる。燃料要素としては、炉心高さと同等のガスプレナム長さ、破損燃料検出のためのタグガスキャプセル、燃料要素間スペーサとしてのワイヤ又はグリッド及び下部端栓部での燃料要素簡略支持構造といった点があげられる。
3. 燃料要素の設計
  図3 は、燃料要素の設計の考え方を示したものである。図3では、燃料中心温度、被覆管の応力および歪、燃料クリープ寿命(Cumulative Damage Fraction:CDF)、疲労の5つの観点から燃料要素の健全性が確かめられることを示している。また、これらの項目を評価するための設計条件、使用データ等について説明している。一般に、評価結果が厳しくなるように、設計条件および使用データを選定しており、燃料中心温度評価を例とするならば、種々の不確定要因を工学的に取扱った係数(工学的安全係数:HSF)を用いることで、燃料中心温度を高めに評価している。 
 ここで、図3中に示した5つの評価項目に対するそれぞれの判断基準について考える。燃料中心温度については、プルトニウム・ウラン混合酸化物の融点未満と設定している。これは、燃料ペレットの過大な膨脹を防ぐ、燃料スタックの不安定化を防ぐ、燃料ペレットからの核分裂生成物の過度の放出あるいは移動を防ぐ、燃料ペレットと被覆管との有害な化学反応を防ぐという点を考慮して設定している。
 被覆管の歪(変形)については、外径増加に着目した判断基準を設けている。これは、燃料集合体内での冷却材の流路が確保される等の機能を健全に保持するという点を考慮して設定している。燃料要素内圧については、円周方向引張応力によるクリープ寿命分数和が1以下としている。これは、被覆管にかかる引張応力を抑え円周方向へのクリープ破損を防ぐという点を考慮して設定している。被覆管応力については、ASMEに準拠して定めた設計許容応力以下と設定している。これは、通常運転時および運転時の異常な過渡変化時を通じて被覆管の健全性を確保する点を考慮して設定している。累積疲労サイクルについては、ASMEに準拠して定めた設計疲労寿命以下と設定している。これは、負荷変動を含む過渡変化時に対して被覆管の健全性を確保する点を考慮して設定している。
4. 燃料集合体の設計
  図4 は、燃料集合体の設計の考え方を示したものである。図4では、燃料集合体設計における評価項目として、集合体変形、湾曲拘束力等があることを示し、これらの項目を評価するための設計条件、使用データ等について説明している。集合体設計では、集合体外筒部の構造強度が評価されるだけではなく、集合体の引抜きおよび装荷性についても評価される。
5. 高速増殖炉の燃料の高度化
 燃料設計高度化における今後の重要な課題は、現行の保守性を見込んだ設計から出来るだけ最確値ベースの設計へと移行することである。その目的は、同一の燃料であってもより高性能(高線出力、高燃焼度)を達成するためである。すなわち、同一の燃料から安全性を犠牲にすることなく、多くのエネルギーを取り出すことができれば、その分だけ経済性が向上するからである。第1の方策としては、設計上の不確かさを切り詰めることである。具体的方法としては、各種仕様の公差幅を切り詰めることが考えられる。また、健全性評価に用いる物性値や設計式の精度を上げることも必要となってくる。さらには、炉心設計(核設計及び熱設計)の精度を高めることにより、線出力や燃焼度といった使用条件の範囲をできる限り狭い範囲に限定することも必要である。
 第2の方策としては、燃料健全性の判断基準を合理化することである。具体的には、例えば未照射および照射済み燃料ペレットの融点測定データを数多く取得することにより、より精度の高い燃料融点データベースに基づき設計上の燃料融点基準を設定することが考えられる。
 第3の方策としては、不確かさの取扱い方法を合理化することである。すなわち、燃料仕様、使用条件、物性値、モデル等の不確かさを設計評価結果が厳しくなるように決定論的に設定するといった現行での方法(決定論的評価手法)を合理化し、それぞれを確率論的に取扱うことである(確率論的評価手法)。
 MOX燃料は、軽水炉での使用実績やFBRでの運転実績から、耐熱性が高く、化学的性質も安定しており、照射に対してもスエリング効果が小さいなどの理由で採用されている。将来20万MWd/tの高燃焼度を達成するためには、燃料ペレットよりもむしろ被覆管の照射による劣化が重要な課題であり、耐スエリング性などを考慮した改良材料の開発が進められている。
 オーステナイト鋼を対象とした被覆材の開発は、高速炉の開発を実施しているほとんどの国で行われている。日本では、もんじゅ用に20%冷間加工のPNC316が、実証炉用に15Cr20Niに約20%の冷間加工をほどこしたPNC1520が開発されてきている。PNC1520についてはまだ開発段階であるが、PNC316では27,000本以上の燃料ピンが常陽で照射量50dpaを超える照射実績を有している。また、米国の実験炉FFTFにおいては、PNC316およびPNC1520を用いたそれぞれ1体づつの試験用燃料集合体が約120dpaの照射量を達成しており、材料照射では約185dpaを達成している。 図5 には、動燃事業団(現日本原子力研究開発機構)の開発したオーステナイト鋼の材料照射データに基づくスエリング特性改善の過程を示した。高ニッケル鋼を対象とした開発は英国において積極的に実施されている。フェライト/マルテンサイト鋼は、フランス、ロシア、米国において開発されてきている。
 MOX燃料以外にも、熱伝導度が良く、より高い増殖性能の期待できる金属燃料、窒化物燃料、炭化物燃料が高速増殖炉の燃料として開発が進められている。高速炉増殖炉用の各種燃料の特性を 表3 に示す。
 金属燃料は米国の実験炉EBR−2において数多くの照射実績を有していたが、1984年に米国で一体型炉IFR(Integral Fast Reactor)の概念が打ち出されてから、金属燃料への関心が再び高まってきた。その理由として、金属燃料が燃料サイクルにおいて経済的であること、核不拡散性において有利であること、そして高い増殖性能を有していることがあげられる。それ以来、U−Pu−10%Zrの合金燃料、フェライト鋼であるHT9の燃料被覆管を標準燃料とした数多くの試験が実施されてきており、高燃焼度下や過渡時での挙動が明らかにされてきている。
 炭化物燃料の開発はインド以外の国においては、ほとんど実施されていない。一部、ロシア及び米国で照射試験が実施されている。インドでは、実験炉FBTR用の燃料として(U,Pu)Cを用いておりこの燃料について非常に僅かではあるが照射実績を有している。
 窒化物燃料は、重金属密度が高い、熱伝導度が良い、ナトリウムとの共存性が良いといった金属燃料と匹敵する程の多くの優れた特性を有している。さらに、酸化物燃料を対象として開発された既存の燃料製造法や再処理法がそのまま適用できるという利点を持っている。このため、広範囲にわたる研究開発が世界各国で行われている。窒化物燃料については、今までの照射試験の結果ではかなりよい照射特性と示すものと考えられるが、より高燃焼度までの照射試験による照射特性の確認が必要である。さらに、放射性C14の生成を抑制するためN15を濃縮した窒化物燃料の製造法の確立、高温分解との関連において過渡時の照射特性の確認、および再処理技術開発が必要である。
<図/表>
表1 世界各国の高速増殖炉一覧
表1  世界各国の高速増殖炉一覧
表2 原型炉・実証炉クラスの高速炉燃料の諸元
表2  原型炉・実証炉クラスの高速炉燃料の諸元
表3 高速炉用各種燃料の特性
表3  高速炉用各種燃料の特性
図1 「もんじゅ」の炉心構成
図1  「もんじゅ」の炉心構成
図2 「もんじゅ」の燃料構造
図2  「もんじゅ」の燃料構造
図3 燃料要素設計の考え方
図3  燃料要素設計の考え方
図4 燃料集合体設計の考え方
図4  燃料集合体設計の考え方
図5 国産オーステナイト鋼のスエリング特性の改良経緯
図5  国産オーステナイト鋼のスエリング特性の改良経緯

<関連タイトル>
高速増殖炉の核燃料サイクル (03-01-02-01)
高速増殖炉と軽水炉の相違 (03-01-02-03)
高速増殖炉の炉心設計 (03-01-02-04)
高速増殖炉の構造設計 (03-01-02-05)

<参考文献>
(1)堀 雅夫(監修)基礎高速炉工学編集委員会(編):基礎高速炉工学、日刊工業新聞社(1993年10月)
(2)動力炉・核燃料開発事業団:高速増殖炉原型炉「もんじゅ」設計・建設・試運転の軌跡、PNC TN241094−023 (1994)
(3)日本原子力産業会議(編):原子力ポケットブック1997年版、原産(1997)
(4)「極限燃料技術」研究専門委員会:核燃料工学−現状と展望−、日本原子力学会(1993年11月)
(5)立石嘉徳ほか:高速炉炉心材料用改良SUS316ステンレス鋼の開発、日本原子力学会誌、30(11)、1005(1988)
(6)M. Katsuragawa, H. Kashihara and M. Akebi:J. Nucl. Mater.No.204,14(1993)
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