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<概要>
 高速増殖炉は、高速中性子を利用した核反応によりエネルギー発生と同時に核燃料増殖をさせるため、炉心に減速材が無く、炉心の周囲をブランケット燃料で取り囲んでおり、冷却材にナトリウムを使用している。
 炉心設計では出力規模に応じた炉心の組成、燃料濃縮度、おおよその形状寸法が決まり、これに基づいて燃料体設計が行われ、ついで発熱量に見合う熱設計や伝熱・流動特性などが検討されて冷却熱輸送の設計が行われる。これらの繰り返しで炉心設計が完了する。
<更新年月>
1998年05月   (本データは原則として更新対象外とします。)

<本文>
 高速増殖炉(FBR)の炉心設計を行う場合の手法は、軽水炉(LWR)など他の炉型の原子炉の炉心を設計する場合と本質的には同じである。しかし、炉概念や目的に応じて、たとえば、電気出力の規模によって相対的に炉心寸法は変わってくるし、増殖比を大きくとりたければ炉心組成に占める燃料の割合を大きくし、かつプルトニウムの富化度を下げるなどの工夫が必要で、燃料体設計が変わってくる。高速増殖炉の例としてのスーパーフェニックス(Super Phenix)の主要特性を 表1−1 および 表1−2 に示す。
 最初に原子炉物理の核データに基づき、核計算を行って臨界量を求め、おおよその炉心寸法を決めた後、熱・流動特性とともに燃料体設計を行い、この3者の繰り返しによって炉心の最適設計を行う。

1.炉心の基本的構成
 原型炉「もんじゅ」(電気出力28万kW)の例によって、高速炉炉心の炉心配置を 図1 に示す。炉心の中央部に炉心燃料集合体(ウランとプルトニウムの混合酸化物)があり、出力を平坦化するために2領域にわけられ内側炉心がプルトニウム富化度約16%、外側炉心は約21%となっている。炉心部には原子炉の出力を調節する制御棒(ボロンカーバイド)が19本配置されている。炉心中央部の周りには増殖の役割を果たす半径方向ブランケット燃料集合体(劣化ウラン)が取り囲んでいる。中性子経済を良くし、また遮蔽効果を上げるために最外周には中性子反射体がある。

2.核設計と中性子バランス
 核設計では、炉心の燃料濃縮度、燃料、冷却材、構造材の材料等を考慮して次の関係式から、炉心の核分裂による連鎖反応が維持できるよう中性子の数バランスを決める。
  発生−吸収−漏洩=0
 発生の項は核分裂による反応数なので、これを大きくするためには、炉心に占める燃料の割合を増やし、燃料の濃縮度を上げればよい。また中性子のスピードを反応の起こり易い領域に設定するよう、冷却材や構造材の材料組成比を考える。
 吸収の項については、FBRの中性子は高速中性子であり、中性子が燃料以外の物質に吸収される割合は小さい(LWRでは被覆管材料や、構造物の吸収も大きいので不純物まで考慮の対象になる)。しかし、核分裂を起こすためにウランに吸収される中性子もこの項に含まれる。したがって、今、両炉型の漏洩を一定と考えると、FBRではもともと発生中性子数がLWRより大きく、余った中性子は炉心の238Uやブランケットの減損ウラン(238U)に吸収されてプルトニウムを生産する割合が大きい。
 このことが、FBRでプルトニウムを増殖させる大きな理由である。漏洩の項は核分裂にも、吸収にも寄与せず、炉心より外に洩れて無駄になる中性子数である。このため、いったん炉心から洩れた中性子を反射して炉心にもどすため、炉心の外周には、漏洩による無駄を少なくするため反射体(遮へい体)を設けて高速中性子を吸収させて遮蔽効果を上げるよう工夫されている。
 上述した中性子の数のバランスが炉心全体として零のときが臨界である。この値が零より大きい場合、原子炉は正の反応度を持つと言い、放って置けば出力が自然と上がる。実際の運転では、中性子吸収効果の大きい炭化ボロンなどを用いた制御棒を挿入して、反応度を0に調節する。
 運転中は核燃料が燃焼とともに減っていくので、最初余分の燃料を入れておき、あらかじめ制御棒をその分挿入して反応度を殺しておき、燃焼が進むにつれて引き抜いてやり反応度を補償する必要がある。この余分を余剰反応度と言っている。

3.燃料増殖率と燃焼度
 燃料増殖率は酸化物燃料の場合で普通 1.2前後を目標として設計される。
 燃焼度は、FBRでは約100,000MWd/tを設計の対象としており、将来は200,000MWd/tを目標としている(LWRでは約50,000MWd/t)。

4.炉心型式と出力規模
 炉心型式としては、均質炉心、径方向非均質炉心および軸方向非均質炉心がある。「もんじゅ」は均質炉心である。径方向非均質炉は炉心の燃料部中心にもブランケット燃料を配置し、径方向に対して燃料とブランケットを環状に交互に配したもので、増殖率の向上を意図して考えられた型式である。軸方向非均質炉心は軸方向に燃料とブランケットを層状に交互に配した型式で地震時の制御棒効果の影響から有利であるとされている。
 炉心燃料部の寸法は原子炉の出力規模によって左右されるが、電気出力28万kWの「もんじゅ」では炉心部の高さは約93cm、等価直径で約180cmとなっていてやや偏平な直円筒となってくる。炉心部分の燃料、ナトリウム、構造物の組成比は大凡35〜40%、35〜40%、20〜30%である。

5.熱特性
 FBRでは冷却材の原子炉出口温度は、約500℃〜約550℃であり、出口温度と入口温度の差は、約 130℃〜約 160℃である。炉心の出力密度は平均で約350kW/リットル 〜1000kW/リットル でLWRに較べ炉心容積当たりの熱発生量が大きい。LWRではBWRで約50kW/リットル、PWRで約100kW/リットルである。
 このため燃料も細径ピン状にして稠密化し、熱除去面積を増やすと共に冷却材として熱伝導性の良いナトリウムを使用している。
 ナトリウムは沸点が常圧で約 883℃と高いため運転温度においても常圧で使用できる利点がある。定格運転時の燃料ピンの線出力の最大値はLWRと同程度で約350〜450W/cmである。これらの熱特性を考慮して余裕をもった炉心設計が行われる。
<図/表>
表1−1 スーパーフェニックス(Super Phenix)の主要特性
表1−1  スーパーフェニックス(Super Phenix)の主要特性
表1−2 スーパーフェニックス(Super Phenix)の主要特性
表1−2  スーパーフェニックス(Super Phenix)の主要特性
図1 原型炉「もんじゅ」の炉心配置図
図1  原型炉「もんじゅ」の炉心配置図

<関連タイトル>
核燃料増殖のしくみ (03-01-01-04)
高速増殖炉の核燃料サイクル (03-01-02-01)
高速増殖炉のプラント構成 (03-01-02-02)
高速増殖炉と軽水炉の相違 (03-01-02-03)
高速増殖炉の構造設計 (03-01-02-05)
高速増殖炉の燃料設計 (03-01-02-06)

<参考文献>
(1) 青木克忠、野本昭二:LWRとFBR−−その類似と相違−−3.炉心特性、原子力工業、Vol.35、No.3(1989)
(2) 安 成弘:高速増殖炉、同文書院(昭和57年)
(3) 堀雅夫(監修)基礎高速炉工学編集委員会(編):基礎高速炉工学、日刊工業新聞社(1993年10月)
(4) 動力炉・核燃料開発事業団:高速増殖炉「もんじゅ」設計・建設・試運転の軌跡、PNCTN241094-023(1994)
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