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<概要>
 SBWRはTMI事故の教訓などを踏まえて開始された米国のEPRI/DOEの改良型軽水炉開発計画に従って、GE社とその支援グループが開発を進めている出力670MWの単純化安全設計、自然循環炉心のBWR プラントである。
 システムの多くはAVBWのシステムと同じく、30年におよぶ既存確証技術の改良をベースとした最新技術を採用しているが、静的安全設計の全面採用や自然循環炉心の採用など、設備、機器及び構造物の単純化、簡素化に焦点を当てている。また、モジュラー化を大幅に取り入れ建設工程を大きく短縮している。
 開発は1985年に開始され、設計、確証試験はほとんど終了している。当初計画していたNRCの設計証明取得活動は断念する方向であるが、試験・解析は完了させ、この安全設計概念を1000MW以上の大型炉への適用に移行する動きが見られている。
<更新年月>
1996年03月   (本データは原則として更新対象外とします。)

<本文>
 SBWR(Simplified BWR)は米国GE社が開発している電気出力670MWの静的安全設計、自然循環炉心の採用などプラント設備の単純化を設計思想としたBWR(沸騰水型発電用原子炉)である。 表1 にSBWRと従来型BWRの主要仕様比較を示す。
 SBWRの主な特徴は次の通りである。
・静的安全設計とシステム・機器の単純化による大幅な物量低減と運転・保守性の向上
・多くの確証試験に裏付けられた静的安全設計による高い公衆安全性と許認可の確実性
・モジュール工法の採用による短い建設工期
 1983年に米国DOE(エネルギー省)は今後の原子力発電所の建設を促進するために抜本的改良案が必要であるとし、EPRI(電力研究所)と共同で1985年から改良型軽水炉計画を発足させ、その中に大型炉と並んで中小型炉の計画を含めた。このねらいは小型化によって静的安全系を採用し、かつ単純化と標準化を行うことにより、安全性の向上、許認可取得の容易化、資本費の低減、建設工期の短縮を図りながら大型炉に劣らない経済性を得ることである。GE社はこの計画にそって1985年にSBWRの開発に着手した。
 DOE/EPRIの開発計画はフェーズ1(1985〜1986)、フェーズ2(1987〜1989)、フェーズ3(1990〜1995)に分かれており、設計開発、確証試験およびNRC(原子力規制委員会)からの設計証明取得までが含まれていた。フェーズ1、フェーズ2では各メーカーがいろいろな形式のプラントの開発を進めたが、1989年にその中からGE社のSBWRがW社のAP600と共に選ばれ、DOEの両者合わせた開発費1億$がついてDOEのバックアップのもとに進められることとなった。なお、フェーズ3ではイギリス、フランス、ドイツ、オランダ、イタリア、スペイン、ベルギー、日本の電力会社の国際協力体制が作られた。電力の設計要求書も作成され、それへの適合性チェックが行われた。また、SBWRの設計の確証のために参加各機関により国際的に試験が実施され、この中には静的安全系の各種スケール規模での熱−水力試験、静的機器のフルサイズ試験が含まれている。当初はNRCの設計証明を取得する活動を実施していたが、1994年よりこれを中止しており、1996年には設計証明の取得を断念する方向であるが、試験・解析は完了させ、この安全設計概念を1000MW以上の大型炉への適用に移行する動きが見られている。
1.安全系
 安全系は従来型BWRの動的機器に代わって重力等の自然力を用いた静的システムを採用しており、大LOCA(原子炉冷却材喪失事故)から運転中の極小リークまで一定期間(3日間)運転員の操作を期待しない設計としている。 図1 に原子炉格納容器断面図を、 図2 に自動減圧系系統図を、 図3 に重力落下式炉心冷却系系統図を、 図4 に静的格納容器冷却系系統図を示す。
(1)原子炉隔離事象
 SBWRは後述する自然循環炉心の採用により原子炉容器内の保有水量が多く、原子炉隔離後の圧力上昇が緩やか(従来型BWRの1.03Mpa/秒に対して0.34Mpa/秒)である。隔離状態下での炉心崩壊熱の除去は高圧ループ3系列から成るアイソレーションコンデンサ(IC:隔離時復水器)を採用している。IC系の熱交換器は原子炉容器より高い位置に設置され、原子炉容器内の蒸気を導いて凝縮した後、凝縮水を自重で原子炉容器内に戻す。各ICは30MWtの熱交換容量を持ち、原子炉隔離時に逃がし安全弁(SRV)からサプレッションプールへ蒸気を放出する必要のない設計としている。このためSBWRでは原子炉隔離時の保有水量の喪失がなく、高圧の補給水系を不要としている。
(2)LOCA時対応
 LOCA時は重力落下式炉心冷却系(GDCS)と自動減圧系(ADS)から構成されたECCS(非常用炉心冷却系)を採用している。ADSはSRV(逃し安全弁)8弁と減圧弁(DPV)6弁から成り、所定の水位(有効炉心頂部の3.6m上)まで原子炉水位が10秒以上継続して低下した時に起動され、原子炉を減圧する。GDCSは3区分から成り、ADSにより原子炉圧力が低下した後、GDCSプールと原子炉容器に接続されたノズルの高低差(約13m)で炉心へ重力落下注水を行う。これらの系には爆破弁タイプの弁が採用されている。
 LOCA後の崩壊熱の除去は低圧ループ3系列から成る静的格納容器冷却系(PCCS)を採用している。事故後格納容器に放出される蒸気は自動的にPCCSに導かれ、熱交換器で冷却・凝縮されて自重でGDCSプールへ戻る。PCCSの熱交換器2次側の冷却水温度は徐々に上昇し、蒸発気化熱で炉心の崩壊熱を除去する。PCCSプールの容量は炉心崩壊熱量の3日分相当以上に設計されている。
 これら安全系の他に常用系である制御棒駆動系(CRD)の高圧炉心注水機能(HPFL)、燃料及び補助プール冷却系(FAPCS)の低圧炉心注水機能(LPFL)を用いて、交流電源が使える期間は運転員の操作で事故の影響を低減することもできるようになっており、多くの過渡事象で静的ECCSの起動をしなくて済む設計となっている。
2.自然循環炉心
 SBWRは初期のBWRであるDodewaard(オランダ)、Dresden(米国)などで使われている自然循環炉心を採用しており、従来型BWRの強制循環系内外部ループ(再循環ポンプ/モータ、配管、弁、ジェットポンプ等)は不要となる。 図5 に原子炉容器断面図を示す。
 自然循環流量はダウンカマー部の水の比重と炉心上部領域のチムニー内の水/蒸気の密度差に依存している。チムニーは自然循環流量を増加するため3mから9mに長くなっている。これに伴って炉内の保有水量が増加し、LOCA時の炉心冠水維持上有利となり、静的安全系の設計を緩和している。炉心が蒸気を発生させた後、自然循環流量は炉出力が約60%に至るまで増加し続け、その後、炉心流量はほぼ同じレベルに留まる。燃料集合体当りの発生流量は同じレベルのAVBWの約3倍であり、これは全ての運転条件下で炉心が安定なままであることを確証している。
 炉心圧損を175.5kPaから34.5kPa低減してさらに自然循環流量を増加するため、燃料長は3.7mから2.7mに短くされている。このため所定の出力を得るのに必要な燃料体数及び制御棒数は増加する。炉心の出力密度は41.5kW/リットルであり、AVBWの出力密度約51kW/リットルに比べて小さい。低出力密度は燃料サイクルコストに有利であり、熱水力的安定性に大きなマージンを与えている。
 なお、自然循環炉心では、負荷追従運転にコントロールセルと指定された制御棒群にある36%のFMCRD(改良型制御棒駆動機構)を使用して行い、原子炉出力50〜100%の間で通常負荷追従を5%/分で行う能力がある。
3.プラント設計
  図6 にSBWR原子炉建屋鳥瞰図を示す。SBWRは、静的安全系の採用に伴い、従来型BWRの動的安全系の他に、非常用電源系、動的安全系機器の冷却系/換気系等の補助系が不要となり、これら系統は完全に非安全系化が図れ、系統設計を大幅に簡素化している。また、常用系設備も単純化がなされている。ポンプは60%に、熱交換器は30%に、タンクは50%に、弁は30%に、他の設備は40%に減少されている。SBWRの設計の他のユニークな設計は次の通りである。
・高圧炉心注水機能をもつ制御棒駆動(CRD)系
・プール冷却浄化機能の他、残留熱除去、低圧炉心注水機能をもつ燃料及び補助プール冷却(FAPC)系
・通常時炉水浄化と停止時冷却機能をもつ原子炉冷却材浄化(RWCU)系/原子炉停止時冷却(SDC)系
・動力として圧縮窒素ガスを使用したホウ酸水注入(SLC)系
・静的自動触媒式再結合器など
4.運転、保守性
 何らかの外乱によって通常運転から逸脱した場合、常用系を活用して最終的にECCS(非常用炉心冷却系)の作動に至らないように運転操作を行う点は従来型BWRと同様である。万一、ECCSが必要になった場合、従来型BWRではECCSの切り換えや停止等の運転操作を必要とするが、SBWRでは前述の通り事故後3日間は運転操作を必要としない。また、通常運転時に実施する安全系のサーベイランス試験は大幅に減少する。
 保守に関しては、従来型BWRの動的安全系は、ポンプ、モータ、制御系、補機系のように回転器の分解点検やインターロックの確認など高度な技術者を必要としていたが、SBWRでは安全系設備の縮小に加え、設備構成をタンク、熱交換器、弁等に置き換えたことにより、目視検査を中心とした比較的技能を必要としない作業となるため、高度技術者への依存を軽減できる。また、保守時のヒューマンファクター要素の影響を受けにくいこともSBWRの特徴のひとつである。
5.その他のBWR型静的安全炉
 その他のBWR型静的安全炉としてはSBWRの他に単純化BWRおよびSWR1000がある。単純化BWR(Ref.5)はSBWRの設計概念の1000MW級からさらには1200MW級の大型炉への適用検討のためのもので、日本原子力発電(株)、東北電力(株)、東京電力(株)、中部電力(株)、北陸電力(株)、中国電力(株)、GE社、(株)東芝および(株)日立製作所の共同研究として進められている。SWR1000(Ref.6)は強制循環ポンプをもつ静的安全設計の1000MW級プラントであり、ドイツのSIEMENS社(現AREVA NP社)が開発している。
<図/表>
表1 SBWRと従来型BWRの主要仕様比較
表1  SBWRと従来型BWRの主要仕様比較
図1 原子炉格納容器断面図
図1  原子炉格納容器断面図
図2 自動減圧系(ADS)系統図
図2  自動減圧系(ADS)系統図
図3 重力落下式炉心冷却系(GDCS)系統図
図3  重力落下式炉心冷却系(GDCS)系統図
図4 静的格納容器冷却系(PCCS)系統図
図4  静的格納容器冷却系(PCCS)系統図
図5 原子炉容器断面図
図5  原子炉容器断面図
図6 SBWR原子炉建屋鳥瞰図
図6  SBWR原子炉建屋鳥瞰図

<関連タイトル>
受動的安全炉の安全概念 (02-08-03-01)

<参考文献>
(1)Hugh A.Upton,John E.Torbeck,Paul F.Billig,John D.Duncan,and Maryann Herzog : SBWR Design Update : Passively Safe, Nuclear Power Generation for the Twenty First Century,Proceedings of the 4th JSME/ASME Joint International Conference on Nuclear Engineering (ICON-4),p.379,10-14 March 1996,New Orleans.
(2)(株)東芝エネルギー事業本部原子力事業部:SBWR(パンフレット)
(3)Douglas M.Gluntz,et al.: SBWR Safety System Features and Performance,Proceedings of the International Topical Meeting on Advanced Reactors Safety,p618,April 17-21,1994,Pittsburgh,Pennsylvania.
(4)D.R.Wilkins : GE Advanced Boiling Water Reactors,Proceeding of the American Power Conference,p874,1990.
(5)田畑広明他:次世代軽水炉の開発および研究状況と新要素技術、日本原子力学会誌 1995年9月
(6)SIEMENS :パンフレット SWR1000 The Boiling Water Reactor with a New Safety Concept
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