<大項目> 原子力発電
<中項目> 技術の改良・高度化
<小項目> 軽水炉高度化
<タイトル>
受動的安全炉の安全概念 (02-08-03-01)

<概要>
 TMI−2発電所事故を契機として、とくにチェルノブイル−4発電所事故以降は、冷却液体の重力移動や自然循環、大気の自然対流のような基本的な物理法則を安全機能に採用した、新しい形式の原子炉すなわち受動的安全炉への関心が高まってきた。その結果、世界的に幾つかの受動的安全の設計概念が提唱された。ここでは代表的な受動的安全炉として、軽水炉(PIUS、AP−600、SBWR)、高温ガス炉(MRS:HTR−M)、および高速炉PRISM)についてその安全特性を中心に述べる。
<更新年月>
1998年05月   

<本文>
1.概要
 今日まで、多重防護設計思想に基づき、非常用炉心冷却設備(ECCS)のように主として能動的安全機能を採用した大型軽水炉路線が定着してきていた。一方、事故発生(1979年に起きたTMI−2発電所事故等)に伴う安全規制の強化、PA運動の高まり(欧米、日本、旧ソ連等)、環境汚染(酸性雨、温室効果等)、先進諸国の経済成長の停滞に伴う電力需要の延び率低下のもとでの用途の多様化、需要の開拓等をねらって、安全性の高い、かつ運転・保守のしやすい原子炉への関心が高まってきた。とくに1986年のチェルノブイル−4発電所事故を契機として、いくつかの受動的安全性を強調した革新的な中小型炉概念が世界的に提案されるようになってきた( 表1−1 および 表1−2 参照)。
 受動的安全性(passive safety)とは、液体の自然循環あるいは大気の自然対流通風、水の蒸発、物質の熱膨張あるいは重力落下、物質中の熱輻射、蓄圧されたエネルギ−等、単純な物理原理に基づいた安全機能をもつ特性を意味し、事故時の原子炉停止(軽水炉、高温ガス炉で採用)、炉心あるいは原子炉格納容器の冷却(軽水炉、高温ガス炉、高速炉で採用)等にこれらの安全原理を採用することを指している。なおこれらの安全特性を、靜的安全性、固有安全性(inherent safety)と呼び、これらの安全原理を採用した原子炉を受動的安全炉と呼んでいる。
 代表的な受動的安全炉概念の特徴を表1−1および表1−2に示す。受動的安全炉では、長い操作不要時間(grace period:事故発生後原子炉運転員などの操作が必要になるまでの余裕時間)、低出力密度の炉心、および軽水炉の場合はLOCA(原子炉冷却材喪失事故)時炉心冠水維持等の安全設計方針を取り入れることが多く、これにより炉心損傷確率の大幅な改善を目標としている。また炉容器損傷に備えたコア・キャッチャー(炉心溶融による格納容器破損防止策)導入の検討も行なわれている。炉概念に中小型炉(〜600MWe)が多いことから中小型炉と呼ばれることもあり、革新型(innovative)炉あるいは次世代炉とも呼ばれることもある。最近では、これらの安全概念を大型軽水炉へ応用する検討も始まっている。
 また、これらの受動的安全機能を採用すれば、動的機器であるポンプ類、弁類等の数が減少し、原子炉システムも簡素化されるので、建設期間も短縮でき、建設コストも減少できるという報告もあり( 図1 参照)、簡素化原子炉とも呼ばれている。
 なお、米国の1995会計年度予算案によれば、今後も受動的安全軽水炉(ALWR)開発計画を継続する方針であり、モジュラ−型高温ガス炉(後述)および高速炉(ALMR;後述)は国家的プロジェクトからは外された。
1.軽水炉
1.1 加圧水型炉
 最初に提唱された炉概念が、ABB−ATOM社(スウェ−デン:現ABB−CE社)による超安全炉PIUS(Process Inherent Ultimate Safety;622MWe,63kW/リットル)である。一体型加圧水炉に属し大口径配管は無い。炉心は原子炉格納容器を兼ねた炉プ−ル容器(プレストレストコンクリ−ト製:PCRV)の底部に水没した構造になっている( 図2 参照)。
 通常運転時は高温の一次冷却材と冷たい炉プ−ル水(ボロン水)とが炉心の上部と下部にあるハニカム(蜂巣状管群)を境界に密度ロックされ釣り合っているが、事故時(図例では蒸気発生器の主給水喪失)にはこの密度ロックの釣り合いが破れ、その結果、炉プ−ルの冷ボロン水が炉心に流入し、炉停止と炉心冷却ができる。動的機器の作動を必要としない非常用炉心冷却システムなので、受動的ECCSと呼ばれている(PIUS原理と呼ぶこともある)。試験リグによる確証試験と安全解析により、このPIUS原理の成立性が実証されている。原子炉冷却材喪失事故(LOCA)時でも炉心冠水維持できるように炉プ−ル容器は大容量である。操作不要時間は約7日間である。日本ではこのPIUS炉を発展させた炉概念ISER(IHI、東大ほか:210MWe)とSPWR(原研(現日本原子力研究開発機構):350MWe)が発表されている。また米国のCE社(現ABB−CE社)からは直管型蒸気発生器を炉容器に内装した安全一体型炉SIR(Safe Integral Reactor:320MWex2/タ−ビン)が提案されており 、この炉では低出力密度炉心で大規模LOCA が発生しなく、LOCA時にも3時間の炉心冠水維持が可能 である。
 在来型のル−プ型PWRの受動安全性発展型としては、WH社(米)により、AP−600(Advanced PWR:600MWe)が提案されている( 図3 参照)。受動的ECCSとして炉 心冷却用水の蓄圧式(短期用)および重力落下式(長期用)を採用し、受動的格納容器冷却(PCCS)として冷却水の重力落下式(短期用)および大気の自然対流通風式(長期用)を採用している。在来のル−プ型PWRと異なり、蒸気発生器1基当たりキャンド型一次冷却材ポンプ2基の2ル−プで炉心を冷却し、クロスオ−バ−レグ(交差配管)を省略し蒸気発生器と一次冷却材ポンプとを一体化した構成(簡素化一次系ル−プ)となっている。操作不要時間は約3日間である。日本ではこの炉概念を発展させたMS−600(三菱:600MWe)が発表されている。また、大型炉(1000〜1300MWe)への 上記受動的安全概念の適用がWH社を中心に検討されているが、これはSPWR(Simplified PWR)計画と呼ばれてる(PIUS型のSPWRとは別物である)。
1.2 沸騰水型炉
 GE社(米)により、自然循環冷却炉心(すなわち、原子炉冷却材ポンプを省略)および事故時炉心冷却用水の重力落下ECCS(GDCS)方式を採用したSBWR(Simplified BWR:600MWe)が提案されている( 図4 参照)。LOCA時には、自動減圧弁が開き上位にあるサプレッション・プ−ルから重力によって炉心に注水される。最終熱除去は水壁への熱伝導と水壁水の蒸発による大気へ放熱である。操作不要時間は約3日間である。予備的検討によれば、炉心損傷確率は目標の10−6/年より2桁よくなっている。日本ではこの炉概念を発展させたHSBWR−600(日立:600MWe)とTOSBWR−900P(東芝:310MWe)が発表されている。
2.高温ガス炉
 ドイツ、米国、および日本を中心に開発が行なわれている。いずれの高温ガス炉も、黒鉛減速ヘリウム冷却の炉心であり、また核分裂生成物FP)の保持能力の高い被覆粒子(TRISO)燃料および熱容量の大きい黒鉛の減速材を採用していることから、固有安全性が高い。球状(ペブルベッド)燃料を用いたドイツのMRS(HTR−M:80MWe) 、ブロック型燃料を用いた米国のMHTGR(137MWe)および日本のHTTR(30MWt:発電はしない)がある。基本的安全特性はほぼ同じであるので、以下代表例としてMRSについて述べる。
 MRSはKWU/IA社が開発中のモデュラ−型高温ガス炉であり、原子炉冷却系は炉圧力容器、蒸気発生器圧力容器、これらを繋ぐ連結圧力容器からなり、大口径配管は無い(並列配置型; 図5 参照)。炉心は直径6cmのペブルベッド燃料からなる。安全性の特徴は、(1)重力落下式炉停止(制御棒およびボロン球を炉心外周反射体に落下)、(2)大きな負の燃料温度係数、(3)炉室側壁の表面冷却器(水冷パネル)、(4)被覆燃料粒子によるFP閉込め機能などがある。とくに、原子炉冷却材循環喪失事故時には(2)の働きのみで炉停止ができ、また主冷却系による熱除去が不能になった時には(3)の熱伝導および熱輻射による働きで残留熱除去ができる。事故時でも燃料温度が1600℃以下なので、(4)の働きで燃料からの有意なFP漏れは無い。これらの安全特性を有効に生かすため、炉心平均出力密度は低く設計されている(約3kW/リットル)。原子炉冷却材境界の破損事故時においても 、FP漏れは殆ど無いので、軽水炉で用いられている気密性原子炉格納容器(containment) は必要としない(コンファイメント格納施設と呼ばれている)。
3.高速炉
 固有安全性(あるいは受動安全性)を強調した高速炉ではとくに増殖比にこだわらないので、改良型液体金属冷却炉ALMRと呼ばれる。また中間熱交換器が炉容器に内装されているIFR(一体型高速炉:従来のタンク型)である。この炉型の受動的安全機能の 主なものは原子炉停止系および崩壊熱除去系である。炉停止系としては、(1)SASS(事故作動型炉停止系)および(2)熱膨張型炉停止系がある。(1)では異常時原子炉冷却材温度上昇により、電磁石の磁力開放で、制御棒が炉心に落下する。(2)では金属燃料(U−Pu−Zr)炉心を採用し、異常時炉心部温度上昇に伴い炉心構成材料の熱膨張による負の反応度効果をもつようにする。受動的崩壊熱除去系は熱輻射および大気自然通風の原理を応用する(冷却用水は利用できない)。
 原子炉プラント概念としては、米国でPRISM(GE社)およびSAFR(RI社)の2炉型があったが、評価の結果1988年にPRISMが選定された。ここではPRISMについて述べる( 図6 参照)。PRISMでは経済性向上を図るため、発電所は炉モジュ−ル(138MWe)3基/1ユニット、3ユニット/1パワ−ブロック(415MWe)で構成され、さらに需要要求に合わせ、発電所は複数のパワ−ブロックで構成される(例:3パワ−ブロック=3x415MWe=1245MWe;最近の発表では3パワーブロック=3x622MWe=3x(2x840MWe))。受動的崩壊熱除去系としては、安全系ではRVACS(炉容器外面冷却系)および非安全系ではACS(蒸気発生器外面冷却系)があり、いずれも大気自然対流通風方式である。RVACSのみでも十分崩壊熱除去ができる。
4.その他
 受動的安全炉はその安全機能の特徴から暖房用炉向きでもある。暖房用炉としては、スウェーデンのSECURE−H(暖房用PIUS:400MWt)、旧ソ連のAST−500(PWR:500MWt;Voronezh とGorki;建設済みであるが、運転については不明)。ド イツのNHP(BWR:200MWt)、スイスのSHR(BWR:10MWt)、カナダのSLO WPOKE(2MWtのものは1987年に臨界)、研究炉TRIGAを発展させた米国の小型熱併給炉(64MWt/12MWe)などがある。供給熱は低くてよいので(100〜160℃程度)炉設計上楽な面があるが、需要地近接の要求に対する設計上・運転上の配慮が必要である。
<図/表>
表1−1 代表的な受動的安全炉の主要設計諸元一覧(1/2)
表1−2 代表的な受動的安全炉の主要設計諸元一覧(2/2)
図1 受動的安全機能の採用によるPWR原子炉システム簡素化の説明
図2 PIUS炉(モジュラ−型)の原子炉容器構成と事故時炉心冷却原理の説明
図3 AP−600の受動的ECCSおよび受動的格納容器冷却システム
図4 SBWRの受動的安全システム
図5 MRSの原子炉構成と炉心主要諸元
図6 PRISMの受動的崩壊熱除去システムおよび原子炉容器内構成

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<関連タイトル>
第三次改良標準化 (02-08-02-02)
改良型加圧水型原子炉(APWR) (02-08-02-04)

<参考文献>
(1)伊勢武治、山田正夫、服部禎男:世界における新中小型炉の研究開発の動向−固有安全炉を中心として−、原子力誌、Vo.30.No.2(1988)
(2)J.Douglas : EPRI J.,July/Aug.4(1986)
(3)K.Hannerz,T.Pederson: PIUS LWR Design Progress, IAEA Tech.Mtg. on Advances in Light Water Reactor Technologies, Washington, Nov.24−25,1986
(4)S.N.Tower et al.: Passive and Simlified System Features for the Advanced Westinghouse 600 MWe PWR, 1st Int.Seminar on Small and Medium Sized Reactors, Lausanne, Switzerland, Aug.24−26,1987
(5)J.D.Duncan: A Simplified Boiling Water Reactor, idem
(6)L.N.Salerno et al.: PRISM Concept − Modular LMR, idem
(7)佐野川好母、斉藤伸三:原子力誌、Vo.29, No.7(1987)
(8)T.Van de Venne: Application of Passive Safety Systems to Large PWRs,idem
(9)H.Nabbielek et al.: Development and Qualification of Modern Triso Fuels for the HTR, idem
(10)W.Kwant et al.: U.S. ALMR Sodium Cooled Reactor Design and Performance,idem
(11) Nucleonics Week,Vol.35,No.1(1994)
(12) 3rd JSME/ASME Joint Int.Conf.on Nucl.Eng.(ICONE−3),Apr.23?27,1995,Kyoto,Japan Soc.Mech.Eng./Am.Soc.Mech.Eng.
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