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<概要>
 原子力発電が始まってからこれまでに様々な事故・故障が発生している。これらの発生原因と対策の知見を活かしていくことが重要である。原子力施設において発生した事象の安全上の重要性を、迅速かつ理解しやすい形式で公衆に知らせるシステムであるINESを活用し、1990年以降海外のBWR原子力発電所において発生したINESレベル2以上の8事象の概要を発生原因と再発防止の視点から整理した。
<更新年月>
2007年06月   (本データは原則として更新対象外とします。)

<本文>
 原子力発電が始まってからこれまでに様々な事故・故障が発生している。これらの発生原因と対策の知見を活かし、想定外であった事故・故障の芽を見つけだし、意識に上っていない事故を如何に防ぐかという視点が重要である。本稿はINESを活用し、1990年以降の海外のBWR原子力発電所で発生しINESレベル2以上の8事象の概要を発生原因と再発防止の視点から整理したものである
1.事故・故障の国際的な取り組み
 国際原子力事象評価尺度(INES:International Nuclear Event Scale)は、OECD/NEAとIAEAが共同で運営している事象報告システムであり(加盟国:60か国以上)、原子力関係者と一般公衆およびメディアとの間での共通理解を促進することを目的とし、原子力施設(放射線利用施設を含む)において発生した事象の安全上の重要性を、迅速かつ理解しやすい形式で公衆に知らせるための手段として設立されたものである。事例に関する情報量は少ないものの、事象の概要が速報として公表されるため、海外情報の一つとして活用できる。安全上の重要度(評価尺度)(表1参照)がレベル2以上の場合、又は当事国外で公衆の関心を集め新聞報道等が必要となった場合に、事象の概要と評価結果が公式情報としてIAEAを介して加盟各国に配付される。
 原子力施設における事故・故障は、評価尺度により、レベル0からレベル7までの8段階に分類することにしている。さらに、これらの8段階のレベルは、(1)レベル4〜レベル7:「事故」(Accident)、(2)レベル1〜レベル3:「異常な事象」(Incident)、(3)レベル0:「尺度以下」(Deviation)に区分される。事故・故障は、8段階のレベルについて、基準1:「施設外への影響(公衆の被ばくを伴うような放射性物質の施設外放出)」、基準2:「施設内への影響(従業員の被ばくを伴うような放射性物質の施設内放出)」、基準3:「深層防護の劣化(安全上重要な設備の損傷」」により評価される。2つ以上の基準が適用される場合、最も高いレベルを選定することとしており、原子力産業と関係のない放射線取扱施設の事故・故障等または、一般的な放射性物質の輸送については、「評価対象外」としている。
 一方、規制機関のための事故・故障情報交換システムとして、事象報告システム(IRS:Incident Reporting System)がある。IRSは、加盟国間で運転経験情報を共有することにより得られた安全上重要な知見や教訓を原子力発電プラントの安全性向上にフィードバックすることを目的としている。IRSに報告される事故・故障に関する情報には事象に関する詳細な情報や設備・手順等の情報も含めることが必要との観点から、非公開情報(規制機関および関連機関並びに事業者だけの限定公開情報)となっている。報告対象は、安全性の観点から重要性を有する(深層防護の劣化)事象、再発防止に有用な教訓を含む事象、類似事象が以前に発生しており新たな教訓を含む事象であり、さらに、情報を活用しやすいよう、放射性物質の放出や放射線被ばくを伴う事象、安全関連機能低下を伴う事象等7つのカテゴリーに分けられている。報告内容は、対象設備、事象の特徴等のコード化情報と、事象の内容を記載した情報(英文)に分かれている。事例の分析から得られる教訓や知見が効果的に加盟国にフィードバックされるよう、定期的に会合を開き、加盟国における最近の事例に関する報告や安全上重要な事例に関する分析評価といった活動を行っている。
 原子力安全委員会原子力事故・故障分析評価専門部会で討議された事故・故障に関する国内関係機関の果たすべき主な役割を表2に示す。(注:原子力安全委員会は原子力安全・保安院とともに2012年9月18日に廃止され、原子力安全規制に係る行政を一元的に担う新たな組織として原子力規制委員会が2012年9月19日に発足した。)

2.海外のBWR原子力発電所のINESレベル2以上の主な事象(1992〜2006年)
 原子力安全委員会が原子力白書等で示している「INESのレベルに応じた事故・事象件数(1990年4月〜2000年12月)」を表3、「諸外国における原子力発電所のレベル2以上の事象例」(2001〜2006)を表4に示す。原子力発電所に関するものは、1990年以降の事故・事象件数は約100件となり、そのうちBWRに関するものは、表5-1表5-2および表5-3に示す8件である。いずれもレベル2であり、原因は、4件が誤操作、3件が故障、1件が許容範囲逸脱で、そのまま放置すると安全上重大な事故に拡大する懸念のあるもので、いずれも是正措置がとられている。
<図/表>
表1 国際原子力事象評価尺度(INES)
表1  国際原子力事象評価尺度(INES)
表2 国内関係機関の果たすべき主な役割
表2  国内関係機関の果たすべき主な役割
表3 INESのレベルに応じた事故・事象件数(1990年4月〜2000年12月)
表3  INESのレベルに応じた事故・事象件数(1990年4月〜2000年12月)
表4 諸外国における原子力発電所のレベル2以上の事象例(2001〜2006)
表4  諸外国における原子力発電所のレベル2以上の事象例(2001〜2006)
表5-1 海外BWRにおけるINESレベル2以上の主な事故(1992〜1999)
表5-1  海外BWRにおけるINESレベル2以上の主な事故(1992〜1999)
表5-2 海外BWRにおけるINESレベル2以上の主な事故(2001〜2005)
表5-2  海外BWRにおけるINESレベル2以上の主な事故(2001〜2005)
表5-3 海外BWRにおけるINESレベル2以上の主な事故(2006)
表5-3  海外BWRにおけるINESレベル2以上の主な事故(2006)

<関連タイトル>
海外の原子力発電所における主な事故(タービン火災・爆発事故を除く) (02-07-04-17)
海外原子力発電所におけるタービン火災事故 (02-07-04-18)
原子力施設の故障・トラブル・事故の国際評価尺度 (11-01-04-01)

<参考文献>
(1)INES和訳情報データベース(日本原子力研究開発機構):
(2)INESホームページ:
(3)JNESデータベース:国外トラブル、各国の主なトラブルの解説
(4)原子力安全委員会ホームページ:原子力安全白書 平成12年版、<コラム:国際原子力事象評価尺度のレベルに応じた事故・事象件数>
(5)原子力安全委員会、原子力事故・故障分析評価専門部会、事故・故障情報活用ワーキンググループ:原子力施設の事故・故障情報の活用のあり方について(平成18年12月15日)
(6)原子力安全委員会事務局:平成13年以降の実用発電用原子炉の法令報告事象について(平成18年12月15日)
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