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<概要>
 1986年 4月26日午前 1時23分にソ連のチェルノブイル原子力発電所 4号炉で大事故が生じ、大量の放射性物質が環境に放出された。我が国では放射能対策本部の下で、環境放射能調査等の対策が講じられた。事故に由来すると思われる放射性物質は全国的に検出されたが、健康上支障のあるものではなかった。その後放射能レベルが低くなるとともに、放射能監視体制は平常時に戻された。
 原子力安全委員会は、1986年 5月13日、ソ連原子力発電所事故調査特別委員会を設置した。この委員会は、1987年 5月28日に最終報告書をとりまとめ、結論として、今直ちに改善すべきものは見出せないが、改めて心に銘ずべき事項として、適切な安全評価とその基礎の研究など 7項目についての強化を指摘した。(注:原子力安全委員会は原子力安全・保安院とともに2012年9月18日に廃止され、原子力安全規制に係る行政を一元的に担う新たな組織として原子力規制委員会が2012年9月19日に発足した。)
<更新年月>
1998年05月   (本データは原則として更新対象外とします。)

<本文>
 1986年 4月26日午前 1時23分(日本時間同日午前 6時23分)、ソ連のチェルノブイル原子力発電所 4号炉で事故が発生し、大量の放射性物質が周辺環境に放出される事態となった。
 事故発生後、我が国においては、環境放射能調査等の万全な放射能対策が講じられた。具体的には、32都道府県及び気象庁における空間線量率、雨水、浮遊じんの測定、防衛庁による高空浮遊じんの測定など、放射能監視体制を強化した。その後、事故に由来すると思われる放射性物質は全国的に検出されたが、国民の健康上問題となるものではなかったこと、放射能レベルが十分低い状態になったこと等により、放射能監視体制は、平常時の体制に移行された。
 一方、原子力安全委員会は、ソ連原子力発電所事故を極めて重大なものとして受け止め、本件に関して幅広く調査、検討を行い、我が国の安全確保対策に反映させるべき事項の有無等につき審議することを目的として、1986年5月13日、ソ連原子力発電所事故調査特別委員会を設置した。。(注:原子力安全委員会は原子力安全・保安院とともに2012年9月18日に廃止され、原子力安全規制に係る行政を一元的に担う新たな組織として原子力規制委員会が2012年9月19日に発足した。)
 ソ連原子力発電所事故調査特別委員会は、同年9月9日、それまでに得られた情報、資料等をもとに事故の事実関係について整理するとともに、事故原因につき若干の評価を加えた第1次報告書をとりまとめた。
 その後、ソ連原子力発電所事故調査特別委員会は、引き続き事故に関する情報、資料等の収集に努めるとともに、事故の状況等についての定量的な解析、評価等を踏まえ、我が国の原子力発電所の安全確保対策の現状について、改めて検討、評価し、我が国の原子炉施設の安全確保対策上意義ある事項について考察し、1987年 5月28日最終報告書をとりまとめた。
 その最終報告書では、結論として、今回の事故の状況に照らして、我が国の原子力発電所の安全確保対策の現状を調査した結果、我が国の原子力発電所の安全性は、現状においても十分に確保されており、今回の事故に関連して、現行の安全規制や慣行を早急に改める必要のあるものは見出されずまた、防災対策についても、我が国の原子力発電所の特徴等を考慮して定めた原子力防災体制及び諸対策を基本的に変更すべき必要性は見出されないと指摘している。また、「従来から認識し実行しているものの、改めて心に銘ずべき事項」として以下の 7項目を指摘しており、これら 7つの事項については、その重要性を再認識することにより、今後の我が国における安全性の一層の向上に資していくことが重要であるとしていた。
1. 個々の設計の改良に応じた適切な安全評価及びそのための研究
2. 異常事態に関する知識の充実及び運転管理面への反映
3. 安全意識の醸成
4. 人的因子及びマン・マシン・インターフェイスに関する研究
5. シビアアクシデントに関する研究 (注1)
6. 原子力防災体制及び諸対策の充実
7. 安全性に関する情報交換、研究等に関する国際協力
(注1)工学的常識では考えられないような誤操作、故障が重なり、設計で考慮されている事故を超えるような事故。例えば炉心溶融事故などのこと。
<関連タイトル>
チェルノブイリ原子力発電所事故の概要 (02-07-04-11)
チェルノブイリ原子力発電所事故の経過 (02-07-04-12)
チェルノブイリ原子力発電所事故の原因 (02-07-04-13)
チェルノブイル原子力発電所事故による放射能の影響 (02-07-04-14)
チェルノブイリをめぐる放射線影響問題 (09-01-04-10)
フォールアウトからの人体内セシウム(40年の歴史) (09-01-04-11)
チェルノブイル事故による健康影響 (09-03-01-06)
旧ソ連チェルノブイルから10年−放射線影響と健康障害−(OECD/NEA報告書) (09-03-01-07)
チェルノブイリ事故による放射線影響と健康障害 (09-03-01-12)
チェルノブイリ事故による死亡者数の推定 (09-03-01-13)

<参考文献>
(1)原子力委員会編集(1987):原子力白書(昭和62年版).
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