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<概要>
 わが国では、TMI-2号炉の事故を、原子力発電所の安全性を考える上で重要なものと判断し事故後直ちに、(1)正確な情報の入手に努め、詳細な検討をすすめる。(2)安全体制の総点検を実施させる。(3)原子炉安全専門審査会において調査審議を開始する。
 の三項目を行うことを決めて、原子力施設の総点検を行い改善措置を指示する等の対策を講じた。
 又、原子力安全委員会に特別委員会を設置して調査・検討を行い、「我が国の安全確保対策に反映させるべき事項」として52項目を昭和55年6月23日に公表した。この52項目の一部改訂した結果を平成2年8月3日に発表した。
 さらに、原子力防災体制の見直しを行い、防災体策を一層充実させた。

(注)東北地方太平洋沖地震(2011年3月11日)に伴う福島第一原発事故を契機に原子力安全規制の体制が抜本的に改革され、原子力安全規制に係る行政を一元的に担う新たな組織として原子力規制委員会が2012年9月19日に発足した。「我が国の安全確保対策に反映させるべき事項」は新たな組織により見直しや追加の行われる可能性がある。
<更新年月>
1998年05月   (本データは原則として更新対象外とします。)

<本文>
 我が国においては原子力安全委員会が、TMI事故加圧水型軽水炉PWR)の安全性を考える上で、重要な意味をもつものと受けとめ、昭和54年3月30日
 (1) 正確な情報の入手に努め、詳細な検討を進めること。
 (2) 安全体制の総点検を実施させること。
 (3) 原子炉安全専門審査会において調査審議を開始させること。
 を内容とする原子力安全委員会委員長談話を発表した。(注:原子力安全委員会は原子力安全・保安院とともに2012年9月18日に廃止され、原子力安全規制に係る行政を一元的に担う新たな組織として原子力規制委員会が2012年9月19日に発足した。)
1. 情報の入手
 安全委員会は、情報発生の当初から、外交ルートを利用するほか、専門家を派遣するなどして、NRC 等からの正確な事故情報を入手するよう努めた。この結果、米国原子力規制委員会調査報告書、ケメニー報告書、大統領声明、ロゴビン報告書、米国議会議事録等の資料を入手し、これらの資料は、我が国の原子力安全確保に反映させるための調査審議等に活用された。
2. 安全体制の総点検
 安全委員会は、3月31日、ただちに原子力発電所等の管理体制を再検討し、速やかに報告するよう関係行政庁に対して指示した。
 関係行政庁は、4月下旬に原子力発電所等の総点検結果を確認するための特別保安監査を実施した。
 この総点検結果に関する通商産業省(現経済産業省)からの報告を受けた安全委員会は、大飯発電所については5月19日、大飯発電所以外の発電所については6月4日、それぞれ「保安規定の遵守状況は良好であり、特に支障となる点は認められなかったが、より一層の安全確保を図る見地から改善を図ることが望ましい点も見受けられたので電気事業者に対し、改善措置を講ずるよう指示することとする。」との報告について、妥当なものと認めた。
 この間、大飯発電所1号炉は4月16日から6月13日まで通商産業省(現経済産業省)の指導により停止され、運転再開と同時に常駐の運転管理専門官が派遣されることとなった。運転管理専門官については、各発電所にも同様の措置が講じられた。
3. TMI事故に関する調査審議( 図1 参照)
 安全委員会は、昭和54年4月3日、原子炉安全専門審査会(以下「炉審査会」という。)内に「TMI事故調査特別部会」を設置し、情報の収集・分析等の活動を開始した。さらに4月19日、上記部会を発展的に解消し、新たに「米国原子力発電所事故調査特別委員会」を安全委員会に設置し、この事故をより幅広く調査、検討するとともに、事故の経験から得られた貴重な教訓を我が国の原子力安全確保対策に適切に反映させることとした。
 特別委員会は、上記の設立の趣旨に従って調査を行い、まず昭和54年5月中旬までに得られた情報に基づき、事故の事実関係を中心として第1次報告書を取りまとめ、同年5月28日にこれを発表した。この間、米国に専門家を派遣して、より詳細な調査活動を行う一方、主として同年7月中旬までに得られた情報に基づき、事実関係の記述を詳細化するとともに一応の技術的評価を加え、さらにこれをもとに、我が国の原子力発電所の安全性向上に資すべき教訓を「我が国の安全確保対策に反映させるべき事項」として、いわゆる52項目を摘出し、これらを取りまとめた第2次報告書を同年9月13日公表した。
(注)昭和56年6月には、第3次報告書が公表され、米国原子力発電所事故調査特別委員会は、廃止された。
4. 原子力防災体制の見直し
 原子力発電所等の原子力施設については、原子炉等規制法等によって事故の発生防止、事故の拡大防止及び災害の防止について十分な安全対策が講じられており、周辺住民の健康と安全の確保が図られている。TMIの事故を契機に、我が国の原子力発電所等に係わる災害対策基本法に基づく防災対策を充実整備するとの観点から、昭和54年7月12日、中央防災会議において「原子力発電所等に係わる防災対策上当面とるべき措置」が決定された。これは現地において実質的に災害応急対策を実施する地方公共団体に対して国の体制的及び技術的な支援が明らかになったという意味から既存の原子力防災計画を一層充実したものである。
 また、安全委員会は、同年6月28日に「緊急技術助言組織」を設置することを決定し、前述の中央防災会議決定にこの「緊急技術助言組織」が組み込まれ、万一の場合に国に対して技術的助言を行う体制の整備が図られた。
5. 原子力安全委員会における52項目の決定とその反映
 安全委員会は、先に述べたように、「米国原子力発電所事故調査特別委員会」が我が国の原子力安全確保に反映させるためのTMI事故の原因や影響等について、巾広く調査検討を加えた結果、昭和54年9月13日とりまとめられた同特別委員会の第2次報告書において、TMI事故の調査結果を踏まえた、「我が国における原子力安全確保対策反映させるべき事項」52項目を発表した( 図2 参照)。
 この52項目について、安全委員会は、関係専門部会、炉審査会等において更に検討させることを決定した。すなわち、安全基準に関連する14項目は、原子炉安全基準専門部会において検討が進められ、安全委員会は昭和55年6月、それまでの検討に基づく同部会の結論を、今後の安全審査等に採り入れることを決定した。また、審査、設計及び運転管理に関する16項目は原子炉安全専門審査会が検討し、安全委員会は同年6月10日審査会における検討、審議に基づく結論を、今後の安全規制に反映させることを決定した。
 防災対策に関する10項目については、原子力発電所等周辺防災対策専門部会の検討に基づき、安全委員会は同年6月30日には「原子力発電所等周辺の防災対策について」を決定し、内閣総理大臣に報告した。安全研究に関する10項目については、原子力施設等安全研究専門部会及び環境放射能安全研究専門部会が策定した「原子力施設等安全研究年次計画」及び「環境放射能安全研究年次計画」(ともに昭和56〜60年度)に反映され、同年6月16日、安全委員会はこれらの計画を決定した。その後、所要の予算措置が講じられつつ、逐次研究が推進されている。
 TMI事故に関する学術的な議論を行うため、安全委員会及び日本学術会議の共催により学術シンポジウムが開催(昭和54年11月26日)され、その概要は昭和55年6月報告書として、とりまとめられ公刊されている。
<図/表>
図1 TMI事故を教訓とした指摘事項への対応
図1  TMI事故を教訓とした指摘事項への対応
図2 我が国の安全確保対策に反映させるべき事項(52項目)
図2  我が国の安全確保対策に反映させるべき事項(52項目)

<関連タイトル>
TMI事故の経過 (02-07-04-02)
TMI事故時の避難措置 (02-07-04-03)
TMI事故直後の評価 (02-07-04-05)
TMI事故直後の米国における対応 (02-07-04-07)
TMI事故直後の諸外国等における対応 (02-07-04-08)

<参考文献>
(1) 原子力安全委員会:昭和56年版「原子力安全白書」
(2)(財)日本原子力文振興財団:原子力図面集 1992年改訂、1992年9月
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