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<概要>
 TMI事故により、放出された放射性物質の放出経路と放出量、周辺公衆と作業従事者の被曝、健康への影響について述べたものである。
<更新年月>
1998年05月   (本データは原則として更新対象外とします。)

<本文>
1. TMI 事故による放射性物質の放出
(1) 放射性物質:環境に放出された放射性物質の大部分は気体状の放射性物質で、主として放射性希ガス放射性ヨウ素である。
(2) 放出経路:これらの放射性物質が環境に放出された経路はいくつか考えられているが、最も大きいものは、
i) 1次冷却材が抽出されて補助建屋内の抽出・充填系で脱気される際に出てきた放射性ガスが配管や機器の漏洩個所から外に出たもので、補助建屋の換気系によって、排気筒から環境に放出されたものである。
ii)また、後には、抽出・充填系のタンクの逃し弁などから放出されたこともあった。
(3) 放出量:放出量については、いくつかの推定があるが、現在最も確からしい値は、放射性希ガス約 250万キュリー、ヨウ素のうち、ヨウ素131が約15キュリーである。
(4) 液体の形での放出:微量ではあるが、サスケハナ川に放出された放射性物質もある。放出個所は産業廃棄物処理系である。この系は、元来放射性物質を処理するようには設計されていなかったのであるが、事故時に 1次冷却材のサンプリングを行った際の廃液が汚水ドレンタンクからオーバーフローして、この系に流入したものがそのまま放出された。
(5) その後の放出:その後も、微量の放射性物質が産業廃棄物処理系を通して放出されたと推定されるが、問題となるほどの量ではなかったと推定される。

2. TMI 事故による被曝
(1) 外部全身被曝線量:最大100 ミリレム以下。事故発生から 4月15日までの期間について、主として周辺に配置されていた多数の熱ルミネッセンス型線量計(TLD) の観測値に基づいて評価された。その結果、被曝線量が最大となると考えられるサスケハナ川東岸にあるTMI 原子力発電所北門付近において事故発生から数日間連続して屋外に居たと仮定した場合でも、その値は100 ミリレム以下である。
(2) 集団線量:2000人・レム(半径80km以内/216 万人):TMI 原子力発電所から半径80km以内の住民約216 万人についての集団線量については、いくつかの異なった推定値があるが、現在最も確からしい値は、家屋の遮蔽効果を考慮した場合2000人・レム(個人平均約 1ミリレム)である。
(3) 内部被曝(作業従事者)(ヨウ素131)−約54ミリレム(算定)。:環境試料測定値からヨウ素131の吸入又は摂取による甲状腺被曝線量の最大値は、作業従事者の約54ミリレムと算定されている。
(4) 内部被曝(周辺公衆 760人)−有意な体内汚染は検出されず。:周辺公衆 760人について全身計測を行った結果、有意な体内汚染は検出されなかった。
(5) 皮膚線量−皮膚線量なども推定されているが、これらの被曝による健康への影響は外部被曝より少ないと考えられている。
(6) 集団線量(作業従事者)(3〜6月末)−約1000人・レム。
(7) 3レムを越えた被曝者−3名(事故直後)、7名(〜 9月末)。:事故直後に全身被曝線量が 3レムを超えたものは 3名で、最大は約4.3 レムであった。その後 9月末までに 3レムを超えた者は合わせて 7名となっているが、年間の線量限度(5レム)を超えて被曝した者はない。

3. TMI 事故による被曝によって生じうる健康への影響
 発ガンなどの身体的影響遺伝的影響については、被曝がなかった場合に比べて、無視し得る程度であった。たとえば、半径80km以内の約216万人の住民のうち、自然にあるいは何らかの特定できない原因によって今後ガンによる死者は、約325,000人と推定されるのに対し、今回のTMI 事故によって増加するガンによる死者は 1名未満と推定される。周辺公衆の受けた健康上の影響の最大のものは、放射線被曝による影響よりはむしろ精神的影響であったと考えられる。
<参考文献>
(1)原子力安全委員会(編): 昭和56年度 原子力安全白書 大蔵省印刷局(1981).
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