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<概要>
 東京電力福島第一原子力発電所の事故により環境中に放出された放射性セシウムなどの放射性物質による汚染の特徴は、建物等の工作物、道路、土壌及び草木といった除染対象によって異なるため、それらの特徴に適した除染方法を用いる必要がある。
 放射性セシウムの場合、事故に伴い大気中に放出され、その後、雨水等とともに地表に降下し、建造物からの雨だれの跡、側溝、雨樋、水たまり、くぼみ、樹木の下、局所的に草の生えているところ、花壇等といった場所に集積していると考えられる。また、セシウムは、一般に粘土鉱物を含むような土に付着し易いと言われており、家屋の庭や学校等の校庭、公園、農地等の土壌の表層近くに付着していると考えられる。事故による住民の放射線被ばくを効果的に低減するためには、放射性物質による汚染の高い部分を取り除くなど、効果的に除染を行うことが重要となる。
<更新年月>
2016年11月   

<本文>
 東京電力福島第一原子力発電所の事故により環境中に放出された放射性セシウムなどの放射性物質による汚染の特徴は、建物等の工作物、道路、土壌及び草木といった除染対象によって異なるため、それらの特徴に適した除染方法を用いる必要がある。
(1)汚染の特徴
 放射性セシウムの場合、事故に伴い大気中に放出され、その後、雨水等とともに地表に降下し、建造物からの雨だれの跡、側溝、雨樋、水たまり、くぼみ、樹木の下、局所的に草の生えているところ、花壇等といった場所に集積していると考えられる。また、セシウムは、一般に粘土鉱物を含むような土に付着し易いと言われており、家屋の庭や学校等の校庭、公園、農地等の土壌の表層近くに付着していると考えられる(図1)。
(2)除染の方法
 除染は、除染を行う対象物にセシウムなどの放射性物質がどのように堆積・付着しているかによって、洗い流す、拭き取る、剥ぎ取る、削り取るなどの方法がある(図2)。また、汚染濃度が低い土壌の場合は、放射性物質の付着した表面の土壌を地中に埋める天地返しや、プラウと呼ばれる農機具を用いて深い部分の土壌と入れ替える反転耕、表面の土壌と深い部分の土壌を撹拌して放射性物質を希釈する撹拌・希釈などの方法もある(図3)。これらは、放射性物質を除去するという意味での除染ではないが、空間放射線量率を下げ、除去物の発生量を低減化する観点では有効な方法である。
 実際に除染を行う際には、何(対象物)をどんな方法で除染するかを選定することになるが、事前に放射性物質でどの程度汚染されているかなどの調査(事前調査)を行い、対象物を継続して使用するのか、どの程度の費用が必要か、空間放射線量率の低減化にどの程度効果があるか、廃棄する除去物がどの程度発生するかなどを考慮して、除染計画を策定し除染作業を実施することになる。
 除染を行う順序は、図4に示す通り、基本的には水が移動する方向に沿って上から下へ行うことになる。また、使用を継続する除染対象物については、機能を損なわないように拭き取りや水洗いなどのソフトな方法を選択して実施することとなるが、除染の効果が低い場合には研磨や研削(削り取り)などのハードな(激しい)方法を採用することになる。
 対象物全体の除染ができない場合や、放射性物質による汚染がそもそも比較的低く、全体の除染を行っても空間放射線量率の低減があまり期待できない場合は、放射性セシウムなどの放射性物質が付着した土埃などが堆積しやすい部分を重点的に除染することで、効率的に除染の効果を上げることができる。
(3)作業者の被ばく対策及び汚染拡大の防止
 除染作業を行う際には、作業者の放射線被ばくにも十分注意する必要があり、除染作業に従事する作業員の放射線障害を防止することを目的として厚生労働省の定めた規則(除染電離則)に基づき、除染作業に伴う被ばく線量の管理、内部被ばく及び外部被ばく低減化のための措置、汚染拡大防止のための措置などが必要となる。除染計画には、このような被ばく防止・低減化の観点も考慮する必要がある。また、既に除染を行っている場所から除染をしていない部分へセシウムなどの放射性物質を持ち込んだり(再汚染)、土埃や粉じんなどの飛散防止の対策など、放射性物質の飛散(汚染の拡大)が発生しないように注意する必要がある(図5)。
 なお、環境の除染に関して、環境省が発行した除染関係ガイドラインや日本原子力研究開発機構が行った大規模な除染試験の結果を参考にできる。
<図/表>
図1 セシウムの性質と汚染の形態
図1  セシウムの性質と汚染の形態
図2 除染の方法
図2  除染の方法
図3 地面の除染方法の例
図3  地面の除染方法の例
図4 除染の順序
図4  除染の順序
図5 除染作業による汚染拡大の防止
図5  除染作業による汚染拡大の防止

<関連タイトル>
モニタリングの種類 (09-04-05-02)
環境放射線モニタリング (09-04-08-02)
放射性物質の除染剤 (09-04-10-10)

<参考文献>
(1)内田滋夫、田上恵子、石井伸昌:環境における放射性核種の分布と動態、1.土壌における放射性核種の挙動特性、日本原子力学会誌、Vol.53、No.9、p.27−31(2011)、http://epcon.cocolog-nifty.com/blog/files/DOC110912213443-1.pdf
(2)川瀬啓一:放射性物質の除染技術について、粉体技術Vol.4、No.10(2012)、p.17−25
(3)東日本大震災により生じた放射性物質により汚染された土壌等を除染するための業務等に係る電離放射線障害防止規則(厚生労働省令第百五十二号)平成23年12月22日
(4)環境省:「除染関係ガイドライン」(平成25年5月第2版、(平成28年9月追補))
(5)日本原子力研究開発機構:「福島第一原子力発電所事故に係る避難区域等における除染実証業務(除染モデル実証事業編)報告書」平成24年6月
(6)日本原子力研究開発機構:「福島第一原子力発電所事故に係る避難区域等における除染実証業務報告書概要版」平成24年6月
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