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<概要>
 東京電力福島第一原子力発電所の事故(2011年3月11日)に伴い、施設から環境に放出される放射性物質による被ばくから住民を防護するため、政府は避難区域及び屋内退避区域を定めて福島県及び関係市町村に指示した。福島第一原子力発電所の事故状況に対応し、福島県による3月11日の半径2km圏内の避難区域設定に続き、政府は半径3km圏内の避難区域と半径3km〜10km圏内の屋内退避区域を設定し、その後、事態の進展に応じて、3月12日には10km、さらに20km圏内と避難区域を拡大した。また、福島第二原子力発電所においても3月12日に原子力緊急事態を宣言すると同時に、半径3km圏内及び10km圏内と避難区域を拡大した。これらの事故直後の避難や屋内退避は困難を伴ったが、周辺住民をはじめ、地方自治体、警察等の関係者の連携した協力により、比較的迅速に行われた。その後、放射性物質の環境への放出が続いたため、環境モニタリングのデータから20km圏外でも放射性物質が高いレベルで蓄積されつつある場所が存在することが明らかになった。これを受け、政府は4月22日に関係自治体の長に対して、20km圏外の事故発生から1年間で20mSvを超える区域を計画的避難区域として新たに設定するとともに、従来、屋内退避区域とされてきた20kmから30km圏内の地域のうち、「計画的避難区域」に該当する区域以外の区域については、緊急時避難準備区域として設定することを指示した。
<更新年月>
2017年03月   (本データは原則として更新対象外とします。)

<本文>
 東京電力福島第一原子力発電所事故では、大気中に放出された放射性物質による住民の被ばくを防護する措置として避難が実施された。避難実施の主な経緯を表1に、避難区域の設定を図1に示す。
1. 福島第一原子力発電所に関する指示
 3月11日20時50分、福島県知事は福島第一原子力発電所(以下、福島第一原発)から半径2km圏内の居住者等の避難を指示した。その後、原子力災害対策本部長(内閣総理大臣)は、同日21時23分に関係地方自治体の長に対し、原子力災害特別措置法(原災法)に基づき、福島第一原発から半径3km圏内の居住者等は避難のための立ち退きをすること及び同半径10km圏内の居住者等は屋内への退避を行うことを指示した。避難指示は、1号機の原子炉が冷却できない状況であり、その状態が続いた場合に備えて念のために行われたものであった。
 3月12日5時44分には、福島第一原発から半径10km圏内の、従来、屋内への退避を指示されていた居住者等に避難のための立ち退きが指示された。この避難指示は、原子炉格納容器内の圧力が上昇している可能性があることから行われたものであった。同日18時25分には、1号機において生じた爆発、これに対する応急措置等に鑑み、新たに半径20km圏内の居住者等の避難のための立ち退きが指示された。この避難指示は、1号機以外の原子炉を含め複数号機において同時に災害が発生しうるリスクに備えて行われた。さらに、14日の3号機における水素爆発、15日の4号機における爆発や火災等、複数号機において様々な事態が発生したため、3月15日11時00分、半径20km以上30km圏内の居住者等の屋内への退避が指示された。この屋内退避指示については、期間が長期に及び、物流等に停滞が生じ社会生活の維持が困難となったため、政府は3月25日に当該区域の市町村に対し自主的避難を促した。
2. 福島第二原子力発電所に関する指示
 一方、福島第二原子力発電所(以下、福島第二原発)においても3月12日5時22分以降、複数号機で原災法第15条第1項の特定事象の発生による報告がなされた。これを受け、7時45分に原子力緊急事態を宣言するとともに福島第二原発から半径3km圏内の居住者等は避難のための立ち退き、半径10km圏内の居住者等は屋内への退避が指示された。同日、福島第一原発1号機の爆発を受け、原災本部長は17時39分に福島第二原発から半径10km圏内の居住者等に避難を指示した。この避難指示については、4月21日に今後重大な事故が発生するリスクが相当程度低下しており、一定の安全対策が確保されていると判断されることから対象区域を半径8km圏内に変更する指示が発出された。
3. 住民の避難状況
 避難指示は、地域防災計画では現地対策本部が各市町村に伝達することになっていたが、電話がつながりにくく、現地対策本部の要員参集も十分でない状態から、ほとんどの自治体が実際に避難指示を認知したのはテレビ等の報道によってであった。市町村から住民への伝達は、防災行政無線による呼びかけ、市町村の広報車・パトカーなどの警察車両による広報、消防団による全戸訪問等の手段を通じて行われた。
 3月11日の半径3kmの避難指示については、すでに住民が津波への対応で避難を開始しており、翌12日0時30分に住民避難の完了が政府の緊急参集チームにおいて確認された。3月15日までに発出された指示によって指定された避難区域(福島第一原発から半径20km圏内及び福島第二原発から半径10km圏内)の人口約78,200人については、3月15日23時30分に福島第一原発20km圏外及び同19時に福島第二原発10km圏外への避難が措置済であることを、原子力安全・保安院が発表した。
 実際の住民避難の状況は、国会事故調査委員会によるアンケート調査にあるように、避難指示を受けた多くの住民は、数日間の避難と思い、半ば「着の身着のまま」の状態で避難先に向かい、避難指示の拡大に従って長時間にわたって避難先を何度も変えるという負担を強いられた。また、20km圏内の病院や介護老人保健施設などでは避難手段や避難先の確保に時間がかかり、劣悪な輸送状況の中で3月末までに少なくとも60人が亡くなるという事態も生じた。
4. 計画的避難区域及び緊急時避難準備区域の設定
 3月16日以降、30km圏外にスポット的に100μSv/hを超える高い空間放射線量率を計測する地域が確認された。そのため、原子力安全委員会(当時)は原子力安全・保安院に対して民家の有無等の確認を行うよう要請するとともに、文部科学省に対して積算線量計を設置し推移を注意深く見守るよう要請した。この間、3月30日にはIAEA(国際原子力機関)から福島第一原発から30kmを超える飯館村の土壌でIAEAの避難の基準値を超えるヨウ素I−131濃度が測定されているため政府に慎重な検討が助言された。
 このような状況に対して、4月10日原子力安全委員会は、防災指針で提案されている避難指示に対する50mSvの指標は比較的短期間に放射性物質が放出される場合の指標であり、今回のような、地面に累積した放射性物質による長期にわたる影響を防止するための避難指示の指標としては必ずしも適切ではないとの考え方により、事故発生から1年の期間内に積算線量が20mSvに達するおそれのある区域を「計画的避難区域」、また、これまでの屋内退避区域のうち「計画的避難区域」以外の地域については、発電所の事故の状況がまだ安定せず緊急に対応することが求められる可能性があることなどを踏まえ、「緊急時避難準備区域」とする助言を行った。この20mSvは、ICRPが2007年勧告で示した緊急時被ばく状況において公衆を防護するための参考レベル20〜100mSv(急性または年間)の範囲の中から、最下限の年間20mSvを基準として防護対策を決めることが被ばくを合理的に達成できるかぎり低く保つとの観点から適切と判断して決められたものであった。
 上記助言に従って、政府は計画的避難区域及び緊急時避難準備区域の対象となる市町村に対して考えを説明するなど、関係地方自治体と具体的な区域の相談を行った上で、4月22日、原災本部長より原災法に基づき、計画的避難区域及び緊急時避難準備区域が正式に決定された。計画的避難区域については、居住者等は原則としておおむね1ヶ月程度の間に当該区域外へ避難のための立ち退きを行うこととされた。緊急時避難準備区域については、常に緊急時に避難のための立ち退き又は屋内への退避が可能な準備を行うこととされた。また、この区域においては引き続き自主的避難をすることが求められた。同時に、3月12日に避難指示が出された福島第一原発から20km圏内は災害対策基本法に基づく警戒区域として立ち入り制限が課され、また、半径20km以上30km圏内の居住者等に対する屋内退避指示は解除された(図1参照)。なお、緊急時避難準備区域については、同年9月30日に解除された。
5. 特定避難勧奨地点の設定
 2011年6月以降、地域的広がりはないが、生活形態によっては事故発生から1年間の積算線量が20mSvに達する恐れのある地点がモニタリングで確認された。このため、政府はこれを特定避難勧奨地点として住居単位で特定し、そこに居住する住民に対して、注意を喚起し避難を支援促進することになった。2011年11月までに、伊達市・南相馬市・川内村のそれぞれ一部の地域が指定された。なお、特定避難勧奨地点の指定は、一律に避難を求めるほどの危険性はなく、情報を提供することにより注意を喚起し、避難をする場合には支援をするという制度であるため、原災法第20条第3項に基づく避難指示という形は取られていない。
<図/表>
表1 避難区域等の設定の経緯
表1  避難区域等の設定の経緯
図1 平成23(2011)年4月22日時点の避難指示区域
図1  平成23(2011)年4月22日時点の避難指示区域

<関連タイトル>
福島第一原発事故の概要 (02-07-03-01)
福島第一原発事故への国の初期対応 (02-07-03-03)
福島第一原発事故への福島県の初期対応 (02-07-03-04)
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汚染した土壌等の除染作業 (02-07-03-07)
廃止措置に向けた中長期ロードマップ (02-07-03-08)
原子力被災者への対応に関する取り組み (02-07-03-09)
福島第一原発事故を教訓とした、原子力発電所における安全対策 (02-07-03-10)
原子力損害賠償・廃炉等支援機構の設立と賠償スキーム (02-07-03-11)

<参考文献>
(1)原子力災害対策本部:原子力安全に関するIAEA閣僚会議に対する日本国政府の報告書−東京電力福島原子力発電所の事故について−、平成23年6月、http://www.kantei.go.jp/jp/topics/2011/iaea_houkokusho.html
(2)原子力災害対策本部:国際原子力機関に対する日本国政府の追加報告書−東京電力福島原子力発電所の事故について−(第2報)、平成23年9月、http://www.meti.go.jp/earthquake/nuclear/backdrop/20110911.html
(3)東京電力福島原子力発電所における事故調査・検証委員会:中間報告(本文編)、平成23年12月26日、http://www.cas.go.jp/jp/seisaku/icanps/post-1.html
(4)東京電力福島原子力発電所における事故調査・検証委員会:最終報告(本文編)、平成24年7月23日、http://www.cas.go.jp/jp/seisaku/icanps/post-2.html
(5)国会事故調、東京電力福島原子力発電所事故調査委員会 報告書、平成24年7月5日、http://warp.da.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/3856371/naiic.go.jp/report/
(6)国立国会図書館:調査と情報No.899、福島第一原発事故から5年(2016年3月11日)、http://dl.ndl.go.jp/view/download/digidepo_9906770_po_0899.pdf?contentNo=1
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