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<概要>
 日本原子力発電株式会社敦賀発電所において、昭和56年3月7日頃に廃棄物処理旧建屋内のフィルタースラッジ貯蔵タンク室から放射性廃液が一般排水路へ漏洩した。福井県衛生研究所が昭和56年4月8日に浦底湾明神崎F地点で採取したホンダワラ(海藻)から平常値より高い放射能が検出された。一方、放射能が海産食品に取り込まれたという事実は測定結果からは示されていない。海産食品を介して人間が摂取すると仮定した場合、50年間の全身預託線量は、1000分の3ミリレムとなり、安全上問題となるものでない。
<更新年月>
1998年05月   (本データは原則として更新対象外とします。)

<本文>
1.経緯
  福井県衛生研究所が昭和56年4月8日に浦底湾明神崎F地点で採取したホンダワラ(海藻)から平常値より高い放射能が検出された。その原因追求の過程で、通常は施設から放射能放出が行われない日本原子力発電株式会社敦賀発電所(以下「敦賀発電所」という)の一般排水路の出口棚の土砂中に放射能が検出された。
  その後の調査により敦賀発電所廃棄物処理旧建屋内で3月8日に発生したフィルタスラッジ貯蔵タンク室の水のオーバフローが原因となって一般排水路から放射能が施設外に放出されたことが判明した。科学技術庁(現文部科学省)及び福井県は、本件が4月18日早朝に公表されて以来、互いに密接な連絡を保ち迅速環境調査を実施し、すみやかにその評価結果を公表することとした。さらに迅速に環境調査を補完するものとして、4月8日以降5月8日までに浦底湾及び敦賀湾で採取した海洋環境試料について、測定分析精度を高めた詳細環境調査が実施された。対象試料数は、94点(指標海産生物29点、海産食品30点、海底土20点、海水15点)である。
2.評価
(1) 放射能の分布状況等
  環境調査のうち海水及び魚介類からは、今回の漏洩放射能に起因する放射能は全く検出されていない。しかしながら、指標海産生物のホンダワラ及び海底土の測定分析結果から漏洩放射能での傾向をある程度推察することができる。ホンダワラについての測定分析結果には、浦底湾中央部から敦賀発電所寄りの東岸( 表1図1 参照)で漏洩放射能の影響が出ているが、浦底湾口( 表2表3図1参照)ではその影響は認められない。また、明神崎F地点の(表1図2 参照)ホンダワラの測定分析結果は、4月8日以降、採取された試料中の放射能の減少傾向を示している。海底土については、一般排水路出口近辺の限定された範囲にその影響がとどまっていることが示されている。
(2) 測定分析結果に基づく線量評価
  調査対象となった魚介類の海産食品には、漏洩放射能による汚染は生じていない。従って海産食品の摂取による漏洩放射能の影響はない。浦底湾奥部の通常食べることのない指標海産生物のホンダワラ及びムラサキガイには漏洩放射能の影響が加わった放射能が検出されている。ここでは仮定としてこれらの指標海産生物のうち4月8日に明神崎F地点で採取されたホンダワラ(コバルト60、0.49pCi/g 生、マンガン54、0.15pCi/g 生)及び4月18日に水産試験場前で採取されたムラサキガイ(コバルト60、0.08pCi/g 生)を毎日食べつづけるとして年間全身線量を計算することとした。その結果は約100分の4ミリレムであり年間許容線量の1万分の1以下となり安全上全く問題となるものでない。
(3) 推定漏洩放射能に基づく線量評価
  海洋環境に放出された放射能が海産食物に取り込まれたという事実は、測定分析結果からは示されていない。しかしながら、放出された放射能が海産食品に取り込まれ、それを人間が摂取するという仮定のもとに線量を算出することとした。漏洩放射能の推定には、十数ミリキュリーから数十ミリキュリーと幅があるので、単位量として10ミリキュリーの放射能が海洋に放出される場合について計算することとした。核種組成は敦賀発電所のフィルタースラッジ貯蔵タンクサンプピット水の分析結果(コバルト60 約81.0% 、マンガン54 約18.9% 、セシウム137 約0.2%)を用いた。計算に当たってのその他の条件は「発電用軽水型原子炉施設周辺の線量目標値に対する評価指針」の定めるところによった。計算によれば、10ミリキュリーの放出があった場合の50年間の全身預託線量は、1000分の3ミリレムとなり、放出量の仮定を数倍としても安全上問題となるものでない。
<図/表>
表1 指標海産生物、ホンダワラ1
表1  指標海産生物、ホンダワラ1
表2 指標海産生物、ホンダワラ2
表2  指標海産生物、ホンダワラ2
表3 指標海産生物、ムラサキガイ
表3  指標海産生物、ムラサキガイ
図1 浦底湾のホンダワラ(ムラサキガイ含む)採取地点1
図1  浦底湾のホンダワラ(ムラサキガイ含む)採取地点1
図2 ホンダワラ採取地点2
図2  ホンダワラ採取地点2

<関連タイトル>
敦賀発電所における放射性廃棄物処理施設からの放射性廃液漏洩事故の概要 (02-07-02-13)
敦賀発電所1号機放射性廃液漏洩事故関連資料(汚染範囲) (02-07-02-11)
敦賀発電所1号機放射性廃液漏洩事故関連資料(指標海産生物及び海水の放射能測定値) (02-07-02-10)
敦賀発電所1号機放射性廃液漏洩事故関連資料(海産食品及び海底土の放射能測定値) (02-07-02-09)

<参考文献>
(1) 原子力安全委員会(編):昭和56年版 原子力安全白書 (1982)
(2) 原子力安全委員会(編):原子力安全委員会月報 通巻第32号 (1981)
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