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<概要>
 損傷原因の調査は、金属調査、模擬試験、解析評価及びその他の調査を行い、水中軸受リング溶接部の割れ発生・進展の痕跡の確認並びに試験による証明及び解析による理論的裏付けを行った。これにより、損傷の原因は、溶接部分が、強度上の余裕が少くないすみ肉溶接構造のうえ、溶け込み不足が認められた下側溶接部で疲労限度を上回わったことから、割れが発生・進展したためであると推定している。また、運転管理の調査を行い、問題点を摘出した。
<更新年月>
1998年05月   (本データは原則として更新対象外とします。)

<本文>
1.損傷原因の調査
 1.1 金属調査
   水中軸受、羽根車等の損傷各部の断面、破面に対して顕微鏡等を用いて金属調査を実施した。〔イ〕水中軸受リング溶接部:(a) 上側及び下側溶接部のほぼ全周にわたって疲労破面を特徴づける縞模様(ストライエーション)が認められ、疲労により破断したものと考えられる。(b) 溶接部の破面にはほぼ全周にわたって平均で13% 、最大34% の溶込み不足があった。( 図1 参照)〔ロ〕水中軸受リング:(a) 大破片及び小破片の径方向の破面の走査型電子顕微鏡による観察の結果、縞模様が認められた。疲労による破断と考えられる。( 図2 参照)(b) 大破片及び小破片の連続した衝突痕が認められる。以上から、水中軸受リングは、一体の状態で脱落し、その後、大破片と小破片に分離したと考えられる。〔ハ〕座金:一部に縞模様及び延性破面を特徴づけるくぼみ(ディンプル)が認められ、破断した座金は疲労により割れが進展し、その後延性破断したと考えられる。〔ニ〕羽根車主板:羽根車主板が一部欠損していた。欠損部の本体側破面観察の結果、回転方向後方側の破断部には、ほぼ全面にわたって縞模様が、回転方向前方側の破断部には、ほぼ全面にわたってくぼみが認められた。従って、まず回転方向後方側が疲労により破断し、その後回転方向前方側が延性破断したものと考えられる。
 1.2 模擬試験( 図3 参照)
   水中軸受リングに発生する応力、溶接部の割れの発生、水中軸受リングのポンプ内の挙動等に関し、各種の模擬試験を実施した。〔イ〕実規模模擬試験:同一仕様のポンプを用いて、実機と同様の高温、高圧の試験条件で、ポンプ速度を変化させる等の実際の運転を模擬した試験を行った。その結果、水中軸受リングの固有振動数とポンプ速度に依存する変動差圧の振動数が一致するポンプ速度93% で、水中軸受リング上下面間の変動差圧が最大となり、溶接部近くの水中軸受リング表面で約38μ(片側振幅)であった。〔ロ〕その他の模擬試験:(a) 水中軸受リング溶接部の疲労強度の確認と割れの発生状況の観察のため溶接模擬疲労試験を行った。その結果、溶込み不足のある場合はない場合よりも疲労強度が低下することが確認された。また、割れは実機と同様に下側溶接部のルート部から発生し、かつ溶接部に沿って進展した。(b) 水中軸受リングのポンプ内挙動確認試験により、実際の原子炉再循環ポンプの初期振動は、水中軸受リング一体脱落後の羽根車との共回り、大小破片への破断、大小破片の移動等によるものである可能性を確認した。(c) 摩耗試験により、羽根車と水中軸受リングとの接触による摩耗があること及び発生した金属粉の大半は粒径が0.1mm 以下の微細なものであることを確認した。(d) ボルト脱落試験において、水中軸受に繰返し荷重が加わってケーシングと水中軸受の相対変位が生じれば、ボルトを介して座金に繰返し荷重が加わり、座金は疲労損傷し、回り止め効果がなくなる。この場合、容易にボルトが緩み脱落することが確認された。
 1.3 解析評価
   水中軸受リング溶接部の割れ発生に関する解析、割れ発生後の進展に関する解析等を実施した。〔イ〕水中軸受リング割れ発生の解析評価:有限要素法による応力解析を実施し、最大変動ピーク応力を評価した結果、溶込み不足のある場合は、下側溶接部のルート部で疲労限度を上回る可能性があり、割れの発生することが考えられる。( 表2 参照)〔ロ〕水中軸受リング割れ進展の解析評価:有限要素法による応力解析を実施し、水中軸受リング溶接部の割れ発生後の割れ進展について評価した結果、下側溶接部にある程度の溶込み不足がある場合、ある程度進展した後に上側溶接部においても割れが発生する。上側溶接部の割れが全周で複数箇所に発生した場合は、全周にわたって溶接部で破断し、リングが一体脱落することが考えられる。〔ハ〕その他の解析評価:水中軸受リング脱落後の母材割れの進展、座金の破損、羽根車主板の破損及び原子炉再循環ポンプの振動の増加のそれぞれについて解析評価を行った。その結果から、いずれも事象発生に関する痕跡及び推定を裏付けるものであることが確認された。
 1.4 その他の調査
   〔イ〕設計記録調査:米国バイロンジャクソン社が設計、水中軸受リングに作用する変動差圧とそれによる疲労評価は行われていない。〔ロ〕製造記録調査:(株)荏原製作所が製作、水中軸受リング溶接部は浸透探傷検査が実施されていた。〔ハ〕運転履歴調査:ポンプ速度毎の運転時間でみると、定格80% 以上のポンプ速度での運転がほとんどである。
2.損傷原因及び損傷経過の推定
  水中軸受リングの固有振動数( 表1 参照)と水中軸受リング上下に生ずる変動差圧がポンプ速度93%で共振し、水中軸受リング及びその溶接部に大きな変動応力がかかる(表2参照)。このため、溶接部分が強度上の余裕が少くないすみ肉溶接構造のうえ、溶け込み不足が認められた下側溶接部で疲労限度を上回わったことから、割れが発生・進展して、全周にわたる破断に至り、水中軸受リング全体が回転中の羽根車主板上に落下した。これが、さらに大小破片へと破断した。このうちの小破片により、羽根車主板上面が全面摩耗し溝貫通に至ったものであり、また羽根車リングも同時に摩耗、損傷したものと考えられる。水中軸受リングの脱落後、羽根車の回転トルクが水中軸受に加わり、座金に繰り返し荷重を加えることとなり、座金の疲労破断を生じさせた。回り止めになっていた座金の脱落によりボルトが緩み、さらに脱落しものと推定される。( 表3 参照)
3.運転管理の調査
 3.1 対応状況について
   〔イ〕概要:昭和64年1月1日原子炉再循環流量変動現象が認められた。以降1月8日原子炉再循環ポンプを停止させるまで、関連の運転データを監視強化、調査、確認及び社内での調査委員会での検討等を実施した。
   〔ロ〕主要な問題点:(1) 振動大警報が発信したが、ポンプ速度降下により振動が小さくなったため、ポンプ停止しなかった。(2) 関連の運転データの変化について調査を速やかに開始しなかった。(3) 社内の事故時トラブル調査委員会は、詳細な調査によらずポンプ継続運転を認めた。(4) 再度振動大の警報が発信したとき、ポンプ停止を最優先した手順を採らなかった。
 3.2 運転マニュアルについて
   〔イ〕概要:運転マニュアルは、「原子炉再循環ポンプモータ振動大」の警報確認後、振動値を確認し振動の増加傾向の有無を判断する。その後、運転データを監視し、必要に応じてポンプ速度を下げて様子を見る。さらに、振動が継続の場合、両ポンプ速度を20% にして、当該ポンプを停止し、原因調査するとなっている。
   〔ロ〕主要な問題点:回転体のバランス、芯ずれを想定した振動大の警報に対応するマニュアルのため、振動大の警報時点でポンプを速やかに停止することになっていなかった。一方、振動継続の場合の停止操作も、必ずしも迅速な停止操作を行うことになっていなかった。
<図/表>
表1 水中軸受リングの固有振動数
表1  水中軸受リングの固有振動数
表2 水中軸受リング溶接部変動ピーク応力
表2  水中軸受リング溶接部変動ピーク応力
表3 原子炉再循環ポンプの損傷経過(推定)
表3  原子炉再循環ポンプの損傷経過(推定)
図1 水中軸受リング溶接部溶込み不足
図1  水中軸受リング溶接部溶込み不足
図2 水中軸受リング破面
図2  水中軸受リング破面
図3 実規模模擬試験装置の外観
図3  実規模模擬試験装置の外観

<関連タイトル>
福島第二原子力発電所3号炉の原子炉再循環ポンプ損傷事象について (02-07-02-08)
福島第二3号炉の原子炉再循環ポンプ損傷事象に対する原子力安全委員会等の対応 (02-07-02-07)
福島第二原子力発電所3号炉の原子炉再循環ポンプ損傷事象の健全性評価結果 (02-07-02-05)

<参考文献>
(1)原子力安全委員会(編):「平成2年 原子力安全白書」 (1990)
(2)科学技術庁原子力安全局(編):「原子力安全委員会月報 通巻第131 号」 (1990)
(3)科学技術庁原子力安全局(編):「原子力安全委員会月報 通巻第137 号」 (1990)
(4)科学技術庁原子力安全局(編):「原子力安全委員会月報 通巻第139 号」 (1990)
(5)科学技術庁原子力安全局(編):「原子力安全委員会月報 通巻第142 号」 (1991)
(6)科学技術庁原子力安全局(編):「原子力安全委員会月報 通巻第145 号」 (1991)
(7)科学技術庁:「FBR広報素材資料集(2版)下巻」 (1990)
(8)通商産業省資源エネルギー庁公益事業部原子力発電安全課(編):「原子力発電所運転管理年報平成2年版」火力原子力発電技術協会、平成2年8月
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