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<概要>
 免震設計は、対象構造物の基礎と本体との間に免震装置を取り付け、地震時における基礎の揺れから構造物を絶縁し、構造物本体の耐震安全性の向上等を図ることを目的としたものである。免震構造は、対象構造物により、建屋免震、床免震及び機器免震に大別される。わが国において、原子力分野では、高速増殖炉(FBR)原子炉建屋に対する免震設計が行われ、設計法の検討が進められている。床免震として、原子力発電所電気計装盤の免震構造化の検討等も行われている。また、機器免震として、安全上重要な機器を免震構造化した場合の有効性・経済性評価手法の開発と3次元機器免震システムの動的挙動や上下免震効果の検討も進められた。2006年9月の改訂耐震設計指針において、発電用原子炉施設に免震構造等の導入が認められた。
<更新年月>
2008年12月   

<本文>
1.免震技術の進展と現状
 わが国での免震技術の研究は、1900年前後に始められ、1923年の関東大震災後に各種の特許が申請された。1950年以降は理論的研究が進められ、1980年代になって免震工法の開発が本格的に開始された。海外の動向もわが国とほぼ同様である。
 最近の免震構造の施工例と有効性の確認事例の主なものを挙げる。原子力分野では、南アフリカ連邦のKoeberg軽水炉(1984年)やフランスのCruas軽水炉(1984年)の原子炉建屋に免震工法が適用された。国内では、軽水炉原子炉建屋に対する試設計や原子力発電所の電気計装盤への検討が行われた。更に、FBR原子炉建屋に対する設計や安全上重要な原子力機器を免震構造化した場合の有効性評価法の開発が行われた。原子力分野以外では、海外において、建屋、光学機械、コンピュータ施設及び文化財等への実用化例が、国内では、建屋及びコンピュータ施設等への実用化例がある。変電施設を対象とした機器免震の研究例もある。
 免震構造物の有効性は、これまで、振動台試験や小さな実地震動によって確認されてきたが、1994年1月のロサンゼルスでの地震で実証され、また1995年1月の兵庫県南部地震においても確認された。また、わが国の原子力分野も含む産業分野において、免震関連設計基準等の整備が進められている。2006年9月に最新の知見が反映された改訂耐震設計指針において、発電用原子炉施設に免震構造等の導入が認められた。
2.免震の原理及び免震装置
(1)免震の原理
 地震動に対する構造物の揺れの特性は、構造物の減衰定数をパラメータとして、構造物の固有周期と揺れの最大値との関係を表す応答スペクトルで示される。揺れの最大値を加速度で表したものが図1、変位で表したもの図2である。
 図1から、最大加速度応答は、地震動の卓越周期帯の0.25秒前後と0.5秒前後で一番大きく、固有周期が、1秒、2秒というように長くなると小さくなる。また、減衰定数が大きくなる程、全周期帯で小さくなる。これに対し、図2から最大変位応答は、固有周期が長くなる程大きくなる。このような構造物の応答特性を利用し、地震動に対する構造物の揺れを小さくする設計が免震設計であり、揺れの低減を具体化する装置が免震装置である。
(2)免震装置
 免震装置は、固有周期を長くする機能、減衰を大きくする機能及び上載構造物を支持する機能を有していなければならない。免震装置は、表1に示すように、ダンパ(減衰装置)一体型とダンパ分離型に大別される。ダンパ一体型では、建屋免震に実用化されている積層ゴムタイプがある。ダンパ分離型では、積層ゴムタイプと粘性ダンパ及び鋼棒ダンパとを組み合わせた建屋・床免震に実用化されているタイプや、コイルバネ、粘性ダンパ及びボールベアリングを組み合わせた床免震に実用化されているタイプがある。
 図3は、積層ゴムタイプのうちの鉛入積層ゴム免震装置で、天然ゴム系シートと鋼板を積み重ね加硫接着した積層ゴムと、この中央部に挿入された円柱状の鉛プラグからなる。積層ゴムは、上部構造物の自重を支えると共に、固有周期を長周期側に設定し加速度応答を低減し、応答後の復元力を与える。鉛プラグは、地震動エネルギーを吸収・減衰させて変位応答を制限すると共に、鉛プラグの剛性により一定の力が加わるまで上部構造物を固定し、小さな地震動に対し応答しないようにするトリガー機能を有する。
 図4は、ボールベアリングタイプ免震装置で、支承部(ボールベアリング部)、バネ部及びダンパ部の3要素からなる。支承部は、多数のボールベアリングによって上部構造物の自重を支えると共に、ころがり運動により上部構造物を水平地震動から絶縁する。バネ部は、基礎から絶縁された上部構造物に復元力を与えると共に、上部構造物と免震装置からなる免震構造系の固有周期を長周期側に設定し、地震動による加速度応答を低減する。ダンパ部は、粘性体のせん断抵抗力を利用して地震動のエネルギーを吸収し、地震動による変位応答を制限する。
(3)非免震・免震構造の応答挙動の概念
 図5は、免震構造化した場合としない場合の地震動に対する応答挙動の概念を示す。図から、非免震構造の場合は、地震と共に激しく揺れ、揺れは建物の上部程大きい。一方、免震構造の場合は、建物の高さに依らず、ゆっくり平行に揺れ、揺れも非免震に比べ大幅に低減される。
3.わが国の免震関連設計基準
(1)原子力分野
 FBR免震システムの実用化のための技術を確証・整備すると共に、成果をまとめて「高速増殖炉免震設計技術指針(案)」(1996年度)が作成された。また、民間規格として「原子力発電所免震構造設計技術指針(JEAG4614−2000)」(2000年度)が制定されている。
(2)原子力分野以外
 原子力以外の免震関連設計基準等を次に示す。建築学会「免震構造設計指針」(2001年改訂)、建築センター「免震建築物の性能評価 申請図書作成要領」(2002年4月19日変更)、建設省告示「告示第2009号 免震建築物の構造に関する技術的基準」(2000年10月)、「告示第2010号 免震材料の品質に関する技術的基準」(2000年10月)、土木学会「減震・免震・制震構造設計法ガイドライン(案)」(2002年1月)
4.わが国の原子力免震の検討例
(1)建屋免震
 FBRの設計の合理化、安全性の向上、経済性の向上及び立地点の拡大のために、FBRの免震設計や免震装置の各種機能確認試験を行うと共に、FBR免震設計法の確立を図った。FBR建屋免震装置は、1基当たりの設計荷重が500トンの鉛入積層ゴムで、基礎と建屋下部床の間に276個配置する構造となっている。
(2)床免震
 電算機システムを床免震構造化した場合の安全性、信頼性及び設計手法の妥当性を確認するために、振動台による試験が行われた。
(3)機器免震
 安全上重要な原子力機器を免震構造化した場合の有効性を確率論的手法を用いて評価する手法と評価コードを開発すると共に、経済性評価法も開発された。同コードを用いて、安全上重要な機器の1つとして挙げられている碍管付き起動変圧器を免震化した場合の有効性が評価され、効果が非常に大きいことが示されている。また、自然地震動を利用した場合と振動台を用いた場合のタイプの異なる3次元機器免震試験システムを設計・製作し、ロッキング挙動や上下免震効果に着目した試験が実施された。
(前回更新:2002年11月)
<図/表>
表1 免震装置の種類と使用例
表1  免震装置の種類と使用例
図1 加速度応答スペクトル
図1  加速度応答スペクトル
図2 変位応答スペクトル
図2  変位応答スペクトル
図3 鉛入積層ゴム免震装置
図3  鉛入積層ゴム免震装置
図4 ボールベアリング・粘性ダンパ・コイルバネ免震装置
図4  ボールベアリング・粘性ダンパ・コイルバネ免震装置
図5 非免震・免震構造の応答挙動の概念
図5  非免震・免震構造の応答挙動の概念

<関連タイトル>
原子力発電所の耐震設計審査指針の改定 (11-03-01-30)

<参考文献>
(1)藤田隆史:海外における耐震設計の最新動向と免震構造の原子力施設への応用、アイ・エス・ユー(株)、ISU原子力シリーズ(No.97)(1983)
(2)大崎順彦、沢田照男ほか:原子力発電所の免震構造に関する研究(その1)1質点系モデルによる基本的動特性の検討、日本建築学会大会学術講演概要集(1984)
(3)藤田隆史ほか:直線運動機構を利用した免震装置の研究−第3報原子力発電所の電機計装盤への応用、生産研究、35(7),p.344−347(1983)
(4)藤田隆史:原子力施設における免震構造、原子力工業、34(12),p.29−45(1988)
(5)K.Ebisawa and T.Uga:Evaluation methodology for seismic base isolation of nuclear equipments,Nuclear Engineering and Design,Vol.142,p.319−326(1993)
(6)蛯沢勝三:機器免震の経済性評価法とその応用、JCOSSAR’95、p.27−34(1995)
(7)蛯沢勝三ほか:機器免震設計の考え方、第1回免震・制震コロキウム、No.57,p.447−454(1996)
(8)(財)電力中央研究所:免震構造に関する調査、電力中央研究所報告書、385010(1985)
(9)藤田隆史:免震技術の現状と将来、日本機械学会論文(C編)、51巻461号、1−7(1985)
(10)J.D. Golts:The Northridge,California Earthquake of January 17,1994,EQE International(1994)
(11)(財)電力中央研究所:1995年兵庫県南部地震被害調査速報,調査報告 U94042(1995)
(12)(社)日本建築学会:免震構造設計指針、丸善(株)(1993年12月)
(13)H.TSUTSUMI,at.al.:Dynamic Response of Base Isolation Test System for Nuclear Component under Seismic Motion,the 2000 ASME Pressure Vessels and Piping Conference,PVP−Vol.402−1,Seismic Engineering−2000−,Vol.1,p.141−146(2000)
(14)堤英明ほか:3次元機器免震試験システムの動的挙動及び免震効果、第2回免震・制震コロキウム、p.1−4(2000)
(15)原子力安全委員会:発電用原子炉施設に関する耐震設計審査指針(平成18年9月19日原子力委員会決定)
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