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<概要>
 原子力発電所では、年1回の定期検査に加え、10年を超えない期間ごとに、保安活動の実施状況、最新の技術的知見の反映状況を評価する定期安全レビューが事業者により実施されている。さらに、営業運転を開始して30年が経過する前に、事業者は安全上重要な機器・構造物について、今後長期間運転することを想定した高経年化技術評価を実施し、それに基づいた長期保全計画を策定することが義務づけられている。策定された高経年化技術評価等報告書に対する技術審査として、その内容が原子力安全・保安院(NISA)によりチェックされ、その後定期安全レビューに併せて、この再評価と長期保全計画の見直しやチェックが行われている。これまでに14プラント(うち高経年化技術評価等報告書による審査は5プラント)について審査が実施され、審査結果が公表されている。

(注)東北地方太平洋沖地震(2011年3月11日)に伴う福島第一原発事故を契機に原子力安全規制の体制が抜本的に改革され、新たな規制行政組織として原子力規制委員会が2012年9月19日に発足したため、本データに記載されている原子力発電所の高経年化技術評価等報告に対する技術審査に関する考え方や具体的な審査基準・指針等についても見直しや追加が行われる可能性がある。なお、原子力安全・保安院および原子力安全委員会は上記の規制組織改革に伴って廃止された。
<更新年月>
2008年05月   

<本文>
1.原子力発電所の高経年化対策
 原子力発電所では機器や設備について、法律で定められた定期的な検査や点検を行い、それらの機能や性能の低下(これを「劣化」という)の状況を的確に確認し、必要に応じて新技術や新材料を使用し、適切な補修や取替えなどにより安全性を確保している。高経年化対策とは、長い間使用している原子力発電所に対し、上記のような安全確保活動をより慎重かつ適切に行うため、起こりうる劣化などの特徴を最新知見に基づき把握した上で、通常の保全活動に加えて新たな保全策を行うなど、機能や性能を維持・回復するために必要な保守管理を確実に実施することである。
 図1に高経年化対策を含む原子力発電所の保守管理の流れを示す。原子力発電所では、年1回の定期検査に加え、10年を超えない期間ごとに、保安活動の実施状況、最新の技術的知見の反映状況を評価する定期安全レビューが事業者により実施されている。表1に定期安全レビュー実施項目と内容を示す。さらに、営業運転を開始して30年が経過する前に、事業者は図2に示すような安全上重要な機器・構造物について、今後長期間運転することを想定した技術評価(高経年化に関する評価)を実施し、それに基づいた長期保全計画を策定することが義務づけられている。そして、その内容が原子力安全・保安院(NISA)によりチェックされ、その後定期安全レビューにあわせて、この再評価と長期保全計画の見直しやチェックが行われている。図3に高浜発電所1号機高経年化対策検討に基づく長期保全計画の概要を示す。(注:原子力安全・保安院は原子力安全委員会とともに2012年9月18日に廃止され、原子力安全規制に係る行政を一元的に担う新たな組織として原子力規制委員会が2012年9月19日に発足した。)
2.高経年化対策の充実
 2004年8月9日に発生した関西電力美浜発電所3号機二次系配管破損事故を契機に、今後の原子力発電所の高経年化対策の在り方について、これまで実施してきた9プラントの高経年化評価等を踏まえ、透明性・中立性の確保を図りつつ、科学的・合理的判断に基づく実効性の高い対策を実施するために、2004年12月に、原子力安全・保安部会に高経年化対策検討委員会が設置された。内外の最新の知見を採り入れ、高経年化対策の拠り所となる基準、指針等の明確化や国による合理的な検査の在り方等について検討を行い、2005年8月に報告書「実用発電用原子力施設における高経年化対策の充実について」を取りまとめ公表した。
 報告書は高経年化対策の充実のため以下のような新たな施策を求めている。
(1)透明性・実効性の確保
 国は、高経年化対策に係る基本的要求事項等を定めたガイドラインを策定すること、これまで行ってきた高経年化対策の実施結果に加えてその適切性を確認すること等。
(2)技術情報基盤の整備
 国は、経年劣化に係る技術情報を収集・整備し有効活用できる情報ネットワークを構築し、産学官の有機的な連携のための総合調整機能を持った委員会を原子力安全基盤機構(JNES)に設置すること。
(3)企業文化・組織風土の劣化防止及び技術力の維持・向上
 国は、10年ごとに実施される定期安全レビューにおいて事業者の取り組みを把握し、評価・促進させること等。
(4)高経年化対策に関する説明責任の着実な履行
 国と事業者は、国民の視点に立ち、高経年化対策の基本的な考え方や具体的な内容について今まで以上にきめ細かく広報活動を行い、説明責任を果たすこと。
 これらの施策をNISAが高経年化対策の充実のために行うこととして原子力安全委員会に報告された。
 報告書の方針に沿って、2005年12月に省令改正・高経年化対策実施ガイドライン及び標準審査要領の整備を行い、透明性・実効性の確保を図るとともに、各種施策の実現に向けた取り組みが行われた。図4に高経年化対策のガイドライン等を整備する体系について、図5に事業者の長期保全計画に関する国の関与のあり方を示す。
3.高経年化技術評価等報告書に対する技術審査の概要
 事業者の作成する高経年化技術評価等報告書は、プラントの供用期間を60年と仮定して、この間における経年劣化に関する技術的な評価(高経年化技術評価)を最新知見に基づき実施し、これに基づき運転開始後30年以降の原子炉施設保全のために現状の保守管理活動に追加して実施すべき措置に関する10年間の計画(長期保全計画)を策定し、取りまとめたものである。
 NISAは、事業者報告書の審査に当たり、JNESが実施した技術的妥当性の確認結果を踏まえつつ、本プラントへの立入検査を実施するとともに、総合資源エネルギー調査会原子力安全・保安部会高経年化対策検討委員会の下に設置された高経年化技術評価ワーキンググループに諮り専門的意見を聴取し、高経年化対策実施ガイドライン、高経年化対策標準審査要領等に基づき、事業者報告書の審査を実施する。審査の内容は、(1)高経年化技術評価の実施体制等、(2)経年劣化事象ごとの技術評価(中性子照射脆化応力腐食割れ、疲労(低サイクル疲労)、配管減肉、絶縁低下、コンクリートの強度低下、その他の経年劣化事象)、(3)耐震安全性の評価である。表2に高経年化対策に対する技術審査等の位置付けを示す。
4.高経年化技術評価等報告書に対する技術審査の現状
 平成18年度は、東京電力福島第一原子力発電所3号機、中部電力浜岡原子力発電所1号機、関西電力美浜発電所3号機の3プラントについて、事業者は高経年化技術評価(60年の供用を仮定)の実施及び長期保全計画(10年間の追加保全策)の策定を行い、国に報告し、国は高経年化対策実施ガイドライン及び標準審査要領に基づきその妥当性を審査した。さらに、平成20年1月現在、四国電力伊方発電所1号機、東京電力福島第一原子力発電所5号機の2プラントについて高経年化技術評価等報告書の提出を受け、同様の審査が行われた。
<図/表>
表1 定期安全レビュー実施項目と内容
表1  定期安全レビュー実施項目と内容
表2 高経年化対策に対する技術審査等の位置付け
表2  高経年化対策に対する技術審査等の位置付け
図1 高経年化対策を含む原子力発電所の保守管理の流れ
図1  高経年化対策を含む原子力発電所の保守管理の流れ
図2 原子力発電所の高経年化技術評価対象機器
図2  原子力発電所の高経年化技術評価対象機器
図3 高浜発電所1号機高経年化対策検討に基づく長期保全計画(概要)
図3  高浜発電所1号機高経年化対策検討に基づく長期保全計画(概要)
図4 高経年化対策のガイドライン等の整備体系
図4  高経年化対策のガイドライン等の整備体系
図5 事業者の長期保全計画に関する国の関与
図5  事業者の長期保全計画に関する国の関与

<関連タイトル>
原子力発電所の高経年化対策の現状 (02-02-03-18)
原子力発電施設の高経年化対策と関連研究 (06-01-01-12)
軽水炉圧力容器鋼の脆化機構と研究動向 (06-01-01-30)

<参考文献>
(1)原子力安全・保安院ホームページ:審議会、高経年化対策検討委員会、実用発電用原子炉施設における高経年化対策の充実について−報告書−(平成17年8月31日)、

(2)原子力安全・保安院ホームページ:高経年化対策、高経年化対策
(3)原子力安全・保安院、新検査制度における高経年化対策等の位置付けについて、総合資源エネルギー調査会原子力安全・保安部会原子炉安全小委員会保守管理検討会(第4回)、高経年化対策検討委員会(第10回)合同会合配付資料合2(平成19年2月13日)
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