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<概要>
 日本でこれまで建設された商用原子力発電所原子炉建屋は原子力安全委員会が定めた「旧耐震設計審査指針」に従い、第三紀以前の岩盤上に設置されている。一方、国外では、岩盤上のみならずいわゆる第四紀地盤上にも原子力発電所が建設されている。日本の地質・地形条件を考慮すると、いろいろなサイトに対応した多様な立地方式を準備しておくことが重要である。ここでは、代表的な立地方式として、「第四紀地盤立地」、「地下立地」そして「海上立地」を取り上げ、その概要を紹介する。なお、旧耐震指針では、重要な建物・構築物のみ「岩盤上」に設置することとしていたが、2006年9月に改訂された新耐震指針では、全ての建物・構築物について「設計荷重に応じた十分な支持性能を持つ地盤」に設置することを要請しており、また、建物・構築物の構造として、剛構造のみならず免振構造も採用可能になっている。(注:原子力安全委員会は原子力安全・保安院とともに2012年9月18日に廃止され、原子力安全規制に係る行政を一元的に担う新たな組織として原子力規制委員会が2012年9月19日に発足した。)
<更新年月>
2009年01月   

<本文>
1.立地方式の分類
 原子力安全委員会が定めた「旧耐震設計審査指針(1981年決定)」は、日本における商用原子力発電所の原子力施設においては「重要な建物、構築物は岩盤に支持させなければならない」ことを規定している。このような岩盤は第三紀以前の堅牢な岩盤と解釈されており、現在までの実績はせん断波速度Vsで約500m/s以上となっている。これまで建設された日本の商用原子力発電所の原子炉建屋はこの規定に従い、第三紀以前の岩盤上に設置されている。このような岩盤上への立地方式は「在来立地方式」と呼ばれている。これに対し、表1に示す3種類の立地方式は立地点の拡大を目指して立地技術の研究がなされてきたもので、総称して「新立地方式」と呼ばれている。。(注:原子力安全委員会は原子力安全・保安院とともに2012年9月18日に廃止され、原子力安全規制に係る行政を一元的に担う新たな組織として原子力規制委員会が2012年9月19日に発足した。)
2.新立地方式
2.1 第四紀地盤立地
 第四紀地盤とは、地質年代で第三紀以降、170〜180万年前から現在までに生成した地盤を言い、溶岩などの火山岩類も含まれるが、主として土質地盤である。このうち、約2万年〜1万年前より新しく堆積した沖積層に比べ、それより古い年代の比較的硬質な地層を洪積層と呼び、一般に低固結または未固結の砂・砂礫や硬質粘性土層からなる。
 原子力発電所の第四紀地盤立地と定義する立地方式では、原子炉建屋など重要構造物の基礎地盤として、表2の地質分類に示す第四紀地盤の内、密な砂・砂礫層を主とし所々に硬質粘性土層を挟在するような洪積層を対象としている。このような洪積層は氷河期の海面変動などに起因して堆積したもので、日本の平野部の広域に分布しており、ある程度大きな締まった地盤が多く、せん断波速度VsもVs=300m/s程度かそれ以上の硬質砂・砂礫層が対象となる。
 第四紀地盤は岩盤に比べ強度・剛性が相対的に低いため、原子炉建屋など主要設備は洪積層からなる支持地盤に深く根入れする場合が多くなると予想される。
 日本では第四紀地盤に立地した商用原子力発電所はまったくないが、実験炉では日本原子力研究開発機構が1960年代に建設した高速増殖炉実験炉(常陽)、及び1990年代に建設した高温工学試験研究炉(HTTR)の基礎が第四紀地盤に設置されている。
 海外では第四紀地盤立地は実証炉から商用炉までの大規模原子力発電所で採用されている。具体的に調査した事例では、洪積層地盤だけでなく沖積層地盤でも建設されている。地盤改良を施した上で浮き基礎や杭基礎を採用している場合もあることがわかっている。このように、海外では第四紀地盤立地はかなり一般化しているが、この理由の一つは海外では日本ほど大きな地震力を想定しない地域が多いことが考えられる。しかし、米国サン・オノフレ発電所のように近傍に活断層が存在し、2/3G(1Gは980ガル)もの大きな地震力を想定している第四紀地盤上の発電所もある。
2.2 地下立地
 地下立地とは、原子力発電所の主要施設を硬い岩盤中に地下空洞を掘削し、収納する方式をいう。原子炉を収納する地下空洞の形状により立型方式(円筒空洞あるいは開削立坑)と横型方式(トンネル型空洞)に分類される。さらに、地下空洞内に原子炉建屋を含む主要な原子炉施設の一部を収納する部分地下式、全部を収納する全地下式に分類される。これらの区分を概念的に図1に示す。なお、立型方式の内、開削立坑式は岩盤の天井ドームがなく、地上より立坑を掘削し原子炉建屋を立坑中に完全に格納するタイプのものを言い、原子炉建屋の一部が地上に現れるタイプの在来立地方式とは区別する。
 地下立地は原子炉建屋等の重要施設の基礎を岩盤とすることは在来立地と共通であるが、重要な施設が岩盤内に建設されることから、それらの耐震安定性、安全評価、建設・保守など種々の点で大きく異なる。
 地下立地方式の実績は日本ではまだないが、欧米では研究炉、商用原子力発電所など現在までに閉鎖されたものも含めると6つの例がある。中でもフランスのSENAショーズA発電所(PWR原型炉)は電気出力30万kWの部分地下式(原子炉建屋は地下、タービン建屋は地上)の商業炉として有名であったが、現在は停止され遮蔽隔離中である(1967年4月3日〜1991年10月、2007年廃炉許可)。
2.3 海上立地
 海上立地には種々の方式が含まれるが、図2に示すように、大きくは発電所の基礎が海底地盤に固定された着底式と、浮体の上もしくは中で発電する浮体式に大別される。着底式はさらに、埋立材料で建設した人工島に立地する埋立人工島式と、発電機器収納建屋とコンクリートケーソンを一体化したケーソン人工島式に分類される。埋立人工島式では主要施設を海底の岩盤上に建設するので人工島建設後は在来方式と変わるところはなくなる。
 一方、海底に第四紀地盤が厚く堆積している場合には、第四紀地盤立地技術の適用対象となり、将来的には「第四紀地盤人工島立地技術」の可能性も考えられる。
 埋立人工島式については火力発電所(関西電力(株)御坊火力発電所)の実績はあるものの、原子力発電所については着底式立地の実績は世界的にもまだない。一方、浮揚式や潜水式などを含め海上や海中に浮いている方式である浮体式には種々のアイデアがあるが、この中で浮揚式は比較的実現性が高いものであり、平底船に発電プラント全体を搭載し、沖合の浅海域や海岸に建設した係留水域に係留して発電する方式である。浮揚式については米国で実現寸前まで至ったプロジェクトが存在したが、いまだ世界的にも実現されていない。
3.新耐震指針の立地の考え方
 旧耐震指針では、「基本方針」の一部として、「建物・構築物は原則として剛構造にするとともに、重要な建物・構築物は岩盤に支持させなければならない」との規定がなされていた。これに対し、2006年9月に改訂された新耐震指針では、前段の「建物・構築物は原則として剛構造にする」ことについては、これを削除することにした。これは、次の理由によるものである。旧耐震指針策定時以降今日までにおける免震構造等に関する設計技術の進歩は著しく、その具体的な適用が一般化しており、その有効性が広く認められている。また、一部の原子力施設においても免震構造の適用実績がある。これらを踏まえれば、建物・構築物について、剛構造以外の設計であっても剛構造と同様又はそれを上回る耐震安全性の確保が可能である場合も想定しうるので、旧指針の「建物・構築物は原則として剛構造にする」との規定は、特に必要ないものと判断される。
 さらに、旧耐震指針の「重要な建物・構築物は岩盤に支持させなければならない」という規定については、今次改訂においては「建物・構築物は十分な支持性能をもつ地盤に設置されなければならない」に改めた。これは、設計荷重に応じた十分な支持性能をもつ地盤に設置するのであれば、旧耐震指針で規定されていたいわゆる「岩盤」に支持させなくとも十分な耐震安全性を確保することが可能であるとの判断によるものである。この改定に伴い、建物・構築物は必ずしもいわゆる「岩盤」に支持される必要性はないことになる。ただし、施設を構成する全ての建物・構築物はそれぞれの設計荷重に応じて十分な支持性能をもつ地盤に設置されるべきであるとの観点から、新指針では対象を「重要な建物・構築物」のみならず、全ての建物・構築物に拡大している。
(前回更新:2001年2月)
<図/表>
表1 原子力発電所の立地方式
表1  原子力発電所の立地方式
表2 在来立地方式における基礎地盤の地質分類と第四紀地盤で対象とする基礎地盤の概念
表2  在来立地方式における基礎地盤の地質分類と第四紀地盤で対象とする基礎地盤の概念
図1 地下立地方式の分類
図1  地下立地方式の分類
図2 海上立地方式の概念図
図2  海上立地方式の概念図

<関連タイトル>
原子力発電所の地質、地盤に関する安全審査の手引き (11-03-01-22)
単位換算表B(電磁波の波長と振動数、地質年代表、震度階級、大気の構造ほか) (18-04-03-02)

<参考文献>
(1)科学技術庁原子力安全局原子炉安全調査室(監修):発電用原子炉施設に関する耐震設計審査指針、改訂9版 原子力安全委員会安全審査指針集、大成出版社(1998)、p62
(2)原子力土木委員会(1996):原子力発電所の立地多様化技術、第1編 総論、土木学会(1996)
(3)原子力安全委員会ホームページ:耐震設計審査指針の改訂?最新の知見を反映し、原子力施設の耐震安全性の一層の向上へ
(4)原子力安全委員会ホームページ:「発電用原子炉施設に関する耐震設計審査指針」等の耐震安全性に係る安全審査指針類の改訂等について、別添2 原子力安全基準・指針専門部会の見解
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