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<概要>
 RBMK(英語呼称はLWGR)は、原子炉冷却材には軽水を、中性子減速材には黒鉛を、燃料には低濃縮ウランの二酸化ウランを採用している発電用原子炉である。燃料集合体圧力管(燃料チャンネル)の中に置き、この圧力管中に軽水を流して燃料から熱を採るしくみである。圧力管中で沸騰した軽水は気水分離器蒸気ドラム)に送られ、蒸気として分離されタービン発電機に送られ発電を行う。RBMKは旧ソ連が独自に開発した原子炉で、世界で最初の原子力発電所オブニンスク発電所(正味5MWe)の炉型として知られている。また1986年4月にウクライナ(当時はソ連)のチェルノブイル原子力発電所で事故(チェルノブイル事故)を起した炉型としても知られている。
 圧力管単位に燃料集合体を増やすことができ、比較的容易に大型化ができる。商業発電炉としてはRBMK−1000(1000MWe級)とRBMK−1500(1500MWe級)が開発されている。2006年6月末現在世界で運転中のRBMKは16基(ロシア15基、リトアニア1基)で、建設中は1基(ロシア)である。また、リトアニア共和国のイグナリナ−2号は2009年に閉鎖が予定されているので、これを除くと、RBMKはロシア連邦国内のみで運転されることになる。
<更新年月>
2006年08月   

<本文>
1.基本構成と運転状況
 RBMKは旧ソ連が独自に開発した沸騰軽水冷却圧力管型黒鉛減速炉(ロシア語名:Reaktory Bolshoi Moshchnosti Kanalynye)である。初期にはプルトニウムの生産を目的として開発され、後に発電用として発展してきた。原子炉冷却材には軽水を、中性子減速材には黒鉛を、燃料には低濃縮の二酸化ウランを採用しており、燃料被覆材はZr/Nb合金である。図1はRBMKの基本構成を示す。この炉型は西欧型原子炉にはないが、英語名ではLWGR(Light Water cooled Graphite moderated Reactor)と呼ばれている。世界で最初の原子力発電所オブニンスク(Obninsk)APS−1(Atomic Power Station)、チェルノブイル(Chernobyl)事故として知られている炉型である。
 オブニンスクAPS−1(グロス6MWe、正味5MWe)は1954年6月に初発電、これを雛形として、原型炉ベロヤルスク(Beloyarsky)−1号、−2号が1964年、1967年に発電を開始し、発電用としてのRBMKが発展するに至った。電気出力100万KW級のRBMK−1000、同じく150万KW級のRBMK−1500が開発されているが、1986年4月にウクライナ(旧ソ連)のチェルノブイル(Chernobyl)−4号発電所が大事故を起こした。これを契機にRBMKの安全性がIAEAの国際原子力安全グループ(INSAG)を中心として検討が行われ、その改善策が進められているが、西欧国からの閉鎖も求められている。
 2006年6月現在のRBMK型原子力発電所の運転状況を表1に、それらの所在地を図2に示す。これら発電所を設計・運転の年代に応じて分類すると、第I世代の発電所は1970年代初期から中期に設計・運転を開始したものであり、旧ソ連の「原子力発電所の設計・建設に関する基準」(OPB−82、1982年発効)に準拠していない。第II世代は1970年代後期および1980年代初期以降に運転を開始したもの、第III世代はチェルノブイル事故後に改定された安全基準(OPB−88)に準拠するものである。
 チェルノブイル事故後に運転を開始した発電所には、リトアニア共和国(旧ソ連)のイグナリナ(Ignalina)−2号(RBMK−1500)とロシア連邦のスモレンスク(Smolensk)−3号(RBMK−1000)があるが、第III世代の発電所としてはスモレンスク−3号と建設中のクルスク−5号のみである。ロシア連邦は、更に安全システムを大幅に強化・改善したMKER−800の開発を行ったが、建設の予定はないとのことである。また、ウクライナでは、西欧側の圧力と支援によってチェルノブイル−3号が2000年12月15日に運転を永久停止し、運転しているRBMKは存在していない。リトアニア共和国においても、EU加盟の条件としてイグナリナ−1号が2004年12月末日に永久停止し、イグナリナ−2号が2009年までに永久停止することになっている。
 なお、表1および図2には示していないが、RBMK型炉という観点からすると、旧ソ連は1948年にマヤク(Mayak)にプルトニウム生産炉の運転を開始してから、ロシア連邦にはマヤクに5基(すべて停止)、トムスク(Tomsk)に5基(3基停止、2基運転中)、クラスノヤルスク(Krasnoyarsk)に3基(2基停止、1基運転中)ある。これら運転している3基の元プルトニウム生産炉は、現在、工場と都市に熱と電力を供給しているとしているが、米国からの閉鎖が迫られている。
2.施設の概要
(1)主要な諸元
 典型的な発電所はRBMK−1000である。燃料集合体を収納する圧力管を増やすことにより、原子炉出力を大きくすることが容易であること、運転中に燃料交換ができることの特徴がある。また、原子炉格納容器がないことも西欧型と大きな違いである。図3に主要建屋の断面を示す。長さ約150m、高さ約50mの大型の建屋に原子炉およびタービン発電機などを収納している。日本の新型転換炉「ふげん」における減速材の重水を黒鉛に置き換えた炉型に相当している。発電所あるいは原子炉の詳細な仕様となると、それぞれ発電所ごとに違いがあるが、表2にはスモレンスク−3号(第III世代)の例を示す。
(2)原子炉本体
 原子炉容器内に減速材である黒鉛ブロック(断面250×250mm,高さ600mm)を柱状に積み上げ、円筒状の炉心(直径11.8m,高さ7.0m)を構成している。黒鉛は軽水よりも中性子減速能が劣るので、黒鉛炉の炉心外径は軽水炉よりも4m〜6m程度大きい。黒鉛ブロックには垂直方向に円筒状の穴(直径114mm)があり、この中に燃料集合体を収納する1661本の圧力管が差し込まれている。燃料集合体を構成する燃料棒の隙間には高温高圧の冷却水が流れており、恰もそれぞれの圧力管が単独の原子炉を構成するように見立てることができる。この圧力管は燃料チャンネルとも呼ばれており、炉心にはこの他に211本の制御棒用チャンネルと若干の計装用チャンネルがある。また、原子炉容器内は黒鉛の酸化防止および伝熱特性を向上させるため、ヘリウムガスと窒素ガスとの混合ガスによって覆われている。
図4には圧力管(あるいは、燃料チャンネル)の構成を示す。燃料集合体の高さは約7m(軽水炉の場合は約4m)にもなり、上下2段に分けられている。それぞれは18本の燃料棒(高さ約3.4m,直径13.6mm)から構成されている。燃料は1.8〜2.4%の低濃縮ウランである。また、反応度制御材には出力制御(手動、自動)および安全停止用の制御棒、出力分布補正用の短尺型制御棒、その他の中性子吸収体がある。制御材の総数は原子炉ごとに違いはあるが、第II世代までの典型的な原子炉では、211本の制御棒のうち179本が炉心上部から挿入されている。制御材にはB4Cを使用している。
(3)主冷却系
 図5に原子炉冷却系統を示す。図には非常用冷却系統も示してある。また、図6には原子炉再循環系、主蒸気系、給水系などの概略を示す。
 原子炉冷却系統は2系統からなる。燃料棒で発生し熱は圧力管内から高温高圧(284℃,70kg/cm2)の気水混合流として取り出される。それぞれ圧力管からの気水混合流体は気水分離器に合流されて、蒸気と水(熱い水)に分離される。この蒸気を2基のタービンに送り、発電する仕組みである。炉心には多数の圧力管があるので原子炉周りの冷却配管・機器の配置は混雑している。
 タービンで仕事をした蒸気は復水器で水に戻される。その後、復水ポンプ、給水ポンプを通して気水分離器に戻される。ここで炉心からの熱い水と混合し、炉心冷却材として循環される。炉心で発生した蒸気を直接タービンへ導くこと、再循環による炉心冷却などは、開発初期の沸騰水型原子炉(BWR)に類似している。
(4)非常用炉心冷却系(ECCS)
 原子炉冷却材喪失事故(LOCA)に備えて、非常用炉心冷却系(ECCS)が設置されている。ECCSは3つのサブシステムからなる。これらは図5の「非常用蓄圧タンク」(番号30)、「非常用給水ポンプ」(番号24)、「非常用冷却水注入ポンプ」(番号31)などを主要機器とした系統であり、前2者が急速冷却系統、後者が長期冷却系統である。
 非常用蓄圧タンク系統は2系統からなる。高圧(約100kg/cm2)蓄圧タンクと急速作動弁で構成され、緊急時には急速作動弁を開くことで加圧された冷却水が炉心へ注入される。他の急速冷却系統は、非常用給水ポンプによって脱気器(図5の「番号23」)からの復水を気水分離器、再循環ポンプを通して炉心に注入する系統である。
 図5はチェルノブイル事故以前における系統図であるが、その後の検討により第I世代、第II世代の原子炉ともに改善策が進められている。つまり、非常用給水ポンプを従来の3台から5台に増設するとともに、長期冷却系統を従来の1系統から2系統にし、配管破断が生じた場合の破断ループと破断が生じていない健全ループとに別々に注水、冷却する設計である。そして、破断ループ注水系にはポンプ6台、健全ループにはポンプ3台とし、破断ループの冷却水としては局所格納施設の圧力抑制プール水を循環することにしている(表2参照)。
 なお、チェルノブイル事故は、これら緊急炉心冷却装置の電源としての非常用ディーゼル発電機が動き出すまでの間、タービンの慣性回転を利用した電源で動かそうとする試験の際に生じたが、そのような方式は西欧型原子炉の場合と異なっている。
(5)局所格納施設
 西欧型軽水炉では気密性の高い原子炉格納容器がある。RBMKにはこれに相当するものはなく、局所格納施設というものがある。これは再循環系の配管、ヘッダーなどを幾つかの区画に分割して気密状態に格納しているが、原子炉容器全体および気水分離器などはこれに含まれていない。また、主冷却系の破断に対する圧力を抑制するための圧力抑制プールが備えられている。図7に局所格納施設の概念を示す。これら施設は第I世代にはなく、第II世代から設置されるようになってきている。
 圧力管の破断に対しては、原子炉上部キャビテイの圧力上昇を防止するための原子炉圧力保護配管が圧力抑制プールに接続されている。しかし、排出容量が十分ではなく改善が図られている。スモレンクス−3号では9本の圧力管の破断に耐える設計になっている。
3.安全設計の改善
 チェルノブイル事故の直接的な原因として、原子炉出力の不安定性に関すること、原子炉緊急停止設備の欠陥に関することがある。
(1)不安定性に対する改善
 西欧型軽水炉では、出力が増加して冷却水や温度が上昇すると、冷却水の負のボイド効果や燃料自身の負のドップラ効果により核分裂連鎖反応は減少する。このことは原子炉の安全性にとって基本的に重要なことである。これに対し、RBMKでは中性子の減速は黒鉛で行われ、冷却水の減速効果は殆んどなく、冷却水ボイドが発生すると、冷却水による中性子の吸収が減り,核分裂の連鎖反応が増加するという正のボイド効果を示している。RBMKの定格運転時では、正のボイド効果と燃料のドップラ効果とが相殺し安定な運転になるが、低出力(原子炉出力20%以下)の運転では、正のボイド効果が負のドップラ効果に優先し不安定になる。このことが原子炉出力を不安定にし、核暴走の危険性を招くことになる。RBMKの正のボイド効果を減少させる対策として次の改善を行っている。
(i)「反応度操作余裕」として有効制御棒数を30本相当から45本相当に増加した。正のボイド効果は、炉心内に挿入されている制御棒の数にも依存し,制御棒数が減少すると,正のボイド効果を増大させる。「反応度操作余裕」とは制御棒の性能が最も効果的に発揮される位置にある制御棒に換算した制御棒の本数で、RBMK以外の原子炉にはない概念である。RBMKの従来の運転操作では「反応度操作余裕」として、炉心に最小30本相当の有効制御棒数を残すことを定めていたが、これを増加することである。
(ii)低出力での運転を禁止するために、炉心の中性子吸収体数を80体増やした。
(iii)燃料濃縮度を2.0%から2.4%にした。炉心の中性子吸収体数を増加することに伴う燃料の燃焼度を維持するためである。
 以上の対策により正のボイド係数として+4.5β(β:遅発中性子発生割合)から+0.7βに減少したとしている。
(2)原子炉緊急停止(スクラム)設備の改善
 原子炉のスクラムは安全性確保において最も重要な機能である。RBMKの緊急停止設備には、水の中性子吸収効果に基づく欠陥、緊急時に制御棒の挿入時間が遅すぎるという欠陥があった。次の対策がとられている。
(i)「ポジテブスクラム」が生じないように改善した。図8(a)に示すように、制御棒の下部には4.5mの黒鉛棒がぶら下がっている。制御棒を完全に引き抜くと、制御棒チャンネル下部では、黒鉛棒の下に1.25mほどの水柱ができる。緊急停止すると、炉心上部では制御棒本体が入り負の反応度が加わるが、炉心の下部では中性子を吸収していた水柱が排除されて、ほとんど中性子を吸収しない黒鉛棒と置き変わるために一時的に正の反応度が加わることになる。これを「ポジテブスクラム」と呼んでいる。図8(b)および図8(c)にチェルノブイル事故後の暫定的対処法および改善策を示す。
(ii)制御棒のスクラム全挿入時間を18秒から12秒に短縮した。(i)および(ii)の改良をしたことで、緊急保護システムは制御棒挿入の最初の数秒間で応答するように改善された。なお、我が国で用いている軽水炉のスクラム全挿入時間は2〜4秒である。
(iii)急速作動制御棒設備を開発し設置した。急速作動制御棒は24本あり、この制御棒挿入時間を2.5秒以下にした。
 なお、チェルノブイル事故の直接的な原因とはならなかったが、安全設計上の欠陥として、前記の非常用炉心冷却系(ECCS)、局所格納施設などの改善策が進められている。
<図/表>
表1 RBMKの運転状況(2006年6月現在)
表1  RBMKの運転状況(2006年6月現在)
表2 RBMKの主要諸元
表2  RBMKの主要諸元
図1 RBMKの基本構成
図1  RBMKの基本構成
図2 RBMKの所在地
図2  RBMKの所在地
図3 RBMK−1000主要建屋断面
図3  RBMK−1000主要建屋断面
図4 RBMK−1000の燃料集合体
図4  RBMK−1000の燃料集合体
図5 RBMK−1000の原子炉冷却系統
図5  RBMK−1000の原子炉冷却系統
図6 原子炉冷却系統の概略
図6  原子炉冷却系統の概略
図7 局所格納施設の概念
図7  局所格納施設の概念
図8 ポジテブスクラム改善のための制御棒構造の改良
図8  ポジテブスクラム改善のための制御棒構造の改良

<関連タイトル>
チェルノブイリ原子力発電所事故の原因 (02-07-04-13)
原子力発電および核燃料サイクルに関するIAEAの活動 (13-01-01-15)
ロシアの原子力発電開発 (14-06-01-02)
ウクライナの原子力発電開発 (14-06-02-03)
リトアニアの原子力発電開発と原子力政策 (14-06-05-02)
世界最初の原子力発電所オブニンスク(1954年5月に臨界)の建設 (16-03-02-02)
RBMK型原子炉の原型炉ベロヤルスク1、2号炉の建設 (16-03-02-03)
旧ソ連のRBMK型原子炉開発の歴史 (16-03-02-04)

<参考文献>
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(9)Chernobyl Accident(Mar.2006):World Nuclear Association Information and Issue Briefs,
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(17)Construction of Atomic Electric Power Station,Moscow Energiya 1979
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