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<概要>
 2006年末現在の世界で運転中の原子力発電所は441基、合計出力は3億7,371万1,000kWであった。また、2005年中の世界の総原子力発電電力量は2兆5,335億kWhである。近年、地球温暖化問題やエネルギー安定供給等の観点から原子力発電の位置付けを見直す動きが出ている。
 アジア地域では、韓国、中国、インドで原子力発電所の建設が積極的に進められおり、欧州や北米地域でも新規の原子力発電所建設に向けた取り組みが進められている。特に、世界最大の原子力発電国である米国では原子力発電が見直され、既存の原子力発電所の設備利用率向上や、運転認可の延長を進め、さらに新規原子力発電所の建設を行う計画が発表されているほか、ロシアでもソ連崩壊後停滞していた原子力発電開発が進展をみせている。一方、ドイツでは脱原発政策が継続され、原子力発電に一定の制約が課せられている。
<更新年月>
2007年07月   

<本文>
 世界原子力協会(WNA)が調査した2006年末現在の世界の原子力発電設備容量および2007年の必要ウラン量並びに国際原子力機関(IAEA)が集計した2005年の原子力発電所発電電力量を表1に、また主要国の原子力開発の動向を図1に示す。地球温暖化問題やエネルギー安定供給等の観点から原子力発電の位置付けを見直す動きが出ており、ウラン価格の動向にも反映されている(図2参照)。以下の説明では、運転中の原子力発電所の基数、合計出力についてはWNAのデータを、発電電力量、原子力のシェアについてはIAEAの2005年のデータを引用する。2006年末現在の世界で運転中の原子力発電所は台湾を含めて441基、合計出力は3億7,371万1,000kWで、これ以外に建設中が30基、2,533万5,000kW、計画中が64基、6,886万1,000kW(提案中:15基、1億2,422万5,000kW)ある。これら新規原子力発電所の建設に当たり、原子力プラントメーカー間の提携が図られている(図3参照)。また、2005年中の世界の総原子力発電電力量は2兆6,644億kWhである。
1.米国
 2006年末現在の運転中の原子力発電所は103基・合計出力は9,825万4,000kWで、原子力発電電力量は7,805億kWh(原子力発電のシェア19%)の世界最大の原子力発電国である。国内での新規原子力発電所建設が長期間行われない中、クリントン政権時は原子力政策として原子力オプション、技術開発力、研究施設、環境保護等の維持が当面の課題とされてきた。国内の原子力発電所から発生した使用済み燃料は再処理せず、エネルギー省(DOE)が引き取った上で直接地層処分され、また、核兵器の解体による余剰プルトニウムの処分に関しては、MOX燃料に加工して民間の原子炉で利用、あるいはガラス固化という2つのオプションが公式に決定されたが、何れの場合も最終的には高レベル廃棄物として地層処分されるとしてきた。これら使用済み燃料と軍事施設からの高レベル放射性廃棄物の処分場については、ネバダ州ユッカマウンテン(Yucca Mountain)で地下貯蔵所建設に向けての調査が進められ、2010年までに操業開始を予定していたが同州知事の提訴等により遅れが生じている。
 2001年1月に就任したブッシュ大統領は、国家エネルギー政策を2001年5月に発表した。新政策は原子力発電の拡大を1つの柱としており、既存の原子力発電所の設備利用率向上と定格出力上昇等による設備容量の増加、運転認可の60年までの延長などを打ち出している。2005年エネルギー政策法(表3参照)等により、NRGエナジー社がテキサス州で原子力発電所(ABWR)2基の建設を行う計画を発表、原子力発電所新設に向けた取組を官民一体で推進している。また、使用済み燃料と高レベル放射性廃棄物の処分については、再処理についても検討すべきとの考えを示した。2006年2月には「国際原子力エネルギー・パートナーシップ」を発表し、核燃料サイクルや高速炉開発に積極的に取り組む姿勢に転じた。
2.カナダ
 2006年末時点での運転中の原子力発電所は18基・合計出力は1,259万5,000kWで、原子力発電電力量は868億kWh(原子力発電のシェア15%)であった。カナダは世界第1位のウラン生産国(世界の約1/3)であることに加え、化石燃料資源や水資源に恵まれている。運転中の原子力発電所は、全てがCANDU炉と呼ばれるカナダ独自の原子炉である。CANDU炉は国策会社のカナダ原子力公社(AECL:Atomic Energy of Canada Limited)が開発した天然ウラン燃料の重水炉で、燃料は濃縮の必要がなく、また使用済み燃料は再処理されずに直接処分される。公社は、既存のCANDU炉より一層の低コスト化と信頼性向上を実現した次世代CANDU炉(ACR:低濃縮ウラン約1.5%U−235を採用し建設工期3年)を2002年6月に発表した。カナダでは2000年5月に新しい原子力安全管理法が発効し、成立から50年以上が経過した原子力規制体制が、核不拡散や環境保全に、より重点を置いたものに見直された。この改正により、それまで原子力規制を行ってきた原子力規制委員会(AECB)に代わりカナダ原子力安全委員会(CNSC)が発足した。
 原子力発電所16基が運転されているオンタリオ州では電力市場の自由化が進められ、1999年4月、州営電力会社のオンタリオ・ハイドロ(OH)社が分割・民営化され、2002年5月1日に電力市場の自由化がスタートした。今後の電力需要の急増への対応として、運転休止中の原子力発電所の運転再開を実施している。今後は、既存の原子力発電所の改修や新規建設に向けた取組が進められている。
3.フランス
 2006年末時点で運転中の原子力発電所は59基・合計出力は6,347万3,000kWで、米国に次ぐ世界第2位の原子力発電国である。2005年の原子力発電電力量は4,309億kWhで原子力発電のシェアは79%に達し、世界第1位となった。エネルギー資源に乏しいフランスでは、第1次石油危機を機に輸入石油への依存度を引き下げるため、国内資源の開発、省エネルギー、エネルギー源の多様化を3本柱とするエネルギー政策を進めてきた。原子力発電については、1974年3月に「今後、新規電源開発はすべて原子力発電所で対応する」との方針を打ち出し、急ピッチで開発が進められた。この結果、原子力発電による電力を周辺諸国へ輸出するまでになっている。また、国内にはフロントエンドから再処理を含むバックエンドに至る燃料サイクル施設も有している
 政府は、今後のエネルギー政策を決定するため、「国家エネルギー討議」を2003年3月から5月にかけて国内各地で開催した。今後30年間の欧州や世界レベルの持続可能な発展におけるエネルギーミックスでは、原子力発電の役割は中心的であること、また再生可能エネルギーの発電割合が決定された(表2参照)。フランス電力会社(EDF)は、2004年10月、EPR(欧州加圧水型原子炉)の初号機実証炉)をフラマンヴィルサイトに建設を決定し、また2006年、シラク大統領は2020年までに第4世代炉(高速炉)の原型炉運転開始を宣言した。
4.英国
 2006年末時点で運転中の原子力発電所は19基・合計出力は1,098万2,000kWで、原子力発電電力量は752億kWh(原子力発電のシェア19%)であった。英国では1996年に原子力発電の民営化がほぼ完了し、旧式のマグノックス炉(GCR)20基を英国原子燃料会社(BNFL)に移管した上、残りの原子力発電所を所有・運転する民間会社のブリティッシュ・エナジー(BE)社が設立された。BE社は経済性を理由に新規の建設計画を中止したため、現在新しい原子力発電開発計画はない。BNFLは国営企業であり、発電から燃料サイクル全般に至る広範な業務を行っており、2000年5月、経済的な理由から所有するマグノックス炉20基全てを2010年までに閉鎖する計画を発表した。2003年6月原子力廃止措置機関(NDA)の設立により、BNFLの資産・債務・資金はすべてNDAに移管され、BNFLの部分民営化は断念された。NDAとの契約に基づく燃料製造と原子力サービス事業(WH)と使用済み燃料とエンジニア事業およびマグノックス炉の発電を含む原子力廃止とクリーンアップ事業(BNG)の二部門になった。約20年にわたり、新規建設が行われていなかったが、2006年7月に英政府は新規建設促進に方針転換することを表明した。
5.ドイツ
 2006年末時点で運転中の原子力発電所は17基・合計出力は2,030万3,000kWで、原子力発電電力量は1,546億kWh(原子力発電のシェア31%)であった。脱原発政策を掲げる社会民主党(SPD)・緑の党連立政権が1998年秋に誕生して以来、政府と原子力産業界との間では原子力政策をめぐる対立が続いていたが、連立政権と国内の4大電力会社(RWE、VEBA、VIAG、EnBW)首脳は2000年6月に、原子力発電所の発電電力量を制限する一方、運転継続を連邦政府が保証すること等で合意し、法制化された。この法律により、原子力発電所の運転期間は送電開始から32年とした上で、これまでの運転実績をベースに2000年以降の発電電力量が19基合わせて約2兆6,233億kWhに制限された。規定の発電量に達した原子力発電所から段階的閉鎖となるが、発電所間での電力量譲渡も認められることになったため、全ての原子力発電所が閉鎖される時期は明確ではない。2005年9月の選挙の結果、原子力推進派CDU/CSUと脱原子力派SPDによる大連立政権が誕生したが、前政権の脱原子力政策が継続されている。
6.ロシア
 1991年12月のソ連崩壊後、経済の停滞による資金難や安全性への不安による周辺住民の反対運動などにより、ロシアでは原子力発電開発が停滞した。2006年末時点で運転中の原子力発電所は31基・合計出力は2,174万3,000kWで、原子力発電電力量は1,373億万kWh(原子力発電のシェア16%)であった。ロシア原子力省(MINATOM)は2000年5月25日、「21世紀前半におけるロシアの原子力発電開発戦略」と題する報告書を公表した。報告書では、枯渇や環境影響の懸念がある化石燃料依存からの脱却、原子力利用の推進、政府規制によるエネルギー市場の再編、国益の重視等を原則とした、新しいエネルギー政策が必要であると述べている。これを受け、2001年7月、外国の使用済み燃料の中間貯蔵、再処理受託を目的とした法案が成立した。法案では、使用済み燃料と廃棄物とを法的に区別し、国際的な安全基準が満たされていることを条件に、ロシア政府の同意のもとで、再処理ならびに中間貯蔵を目的として使用済み燃料をロシア国内へ持ち込むことを認め、再処理工場RT−1が稼動し始めた。ロシア政府はまた、同時期に承認されたエネルギー部門再編に関する基本方針の中で、国内の原子力発電所運営、核燃料製造・販売の2つの分野をそれぞれ単一企業体のロスエネルゴアトム社(Rosenergoatom)に再編した。2003年の国家エネルギー政策法に従い、2030年には原子力発電のシェアを、25%にまで引き上げるとして、2013年から毎年200万kWの運転開始を目指している。
7.スウェーデン
 2006年末時点での運転中の原子力発電所は10基・合計出力は897万5,000kWで、原子力発電電力量は695億kWh(原子力発電のシェア45.8%)であった。政府は1980年の国民投票結果を受け、2010年までに当時12基あった原子力発電所をすべて閉鎖すると決定した。その後、実質的に脱原発政策は凍結されていたが、社会民主党を中心とした連立政権は1997年2月、バーセベック1号機を1998年7月1日までに、同2号機を「省エネ、非化石燃料発電等で年間40億kWhの供給が確保できる見通しがついた場合に限る」との条件付きで2001年7月1日までに閉鎖することで合意し、その後1号機は1999年11月30日に閉鎖された。しかし、2000年9月、G.ペーション首相は条件が整わないことを理由に、議会の所信表明でバーセベック2号機の早期閉鎖計画の延期を発表した。スウェーデンは脱原発政策と並行して、電力消費量の削減、再生可能エネルギーの促進、エネルギー効率改善等を進めている。ただ、天然ガスと石炭は二酸化炭素排出量を増大させ、水力発電所の建設は議会によって制限がかけられているため、原子力の代替電源として、再生可能エネルギーの拡大を最優先に位置付けているが、開発は進んでいない。
 2006年9月の総選挙の結果、12年ぶりで政権交代し、脱原子力政策から原子力発電所の新規建設も廃止も行わない現状維持政策に転換した。
8.イタリア
 イタリアは戦後の比較的早い時期から原子力開発に着手し、1964〜65年に3基の商用原子炉を運開させるなど、初期の原子力開発は比較的順調に進んだ。しかしその後は、地方自治体や環境保護団体の反対によって、1981年の4基目のカオルソ発電所(BWR、86万kW)を最後に原子力開発は停滞した。さらに1986年のチェルノブイリ事故により反原子力世論が一気に高まり、翌年に行われた国民投票の結果を受け、原子力発電所立地を促進する法律が廃止され、建設・計画中の原子力発電所の中止を含めた5年間の新規原子力発電所建設の凍結が決定された。運転中の原子力発電所も、1982〜90年に閉鎖され、現在は同国で運転中の原子力発電所はなく、不足する電力(約10%)はフランスなどからの輸入により賄われている。しかし、2001年6月に発足した中道右派連合「自由の家」新政権は、代替エネルギーが十分でない場合は原子力政策を再検討するとし、原子力発電の見直しも視野に入れた政策の検討も示唆している。2004年外国の原子力発電所建設に外国企業と合弁で参加し電力輸入を確保できる新エネルギー法が策定され、2005年、イタリア電力公社(ENEL)はフランスのフラマンヴィルのEPR建設に参加している。
9.韓国
 2006年末時点で運転中の原子力発電所は20基・合計出力は1,753万3,000kWで、原子力発電電力量は1,393億kWh(原子力発電のシェア45%)であった。また、1基・95万kWが建設中で、原子力開発長期計画によると、2015年までにさらに7基が増設される。韓国政府は2001年2月19日、産業資源省が1999年1月に発表した電気事業再編計画に従い、韓国電力公社(KEPCO)の発電部門を5社の火力発電会社と1社の水力・原子力発電会社に分割し、2003年までに実施される競争入札によって民営化する計画を発表した。そして同年4月2日にはKEPCOの水力および原子力の発電資産を全て引き継ぐ形で、韓国水力・原子力発電会社(KHNP)が発足した。また、KEPCOの配電部門は2003年までに分割・民営化され、最終的にKEPCOは国営の送電会社となった。
10.中国
 2006年末時点での運転中の原子力発電所は10基・合計出力は758万7000kWで、原子力発電電力量は503億kWh(原子力発電のシェア2.0%)であった。今後のエネルギー需要の高まりから、現在PWR7基、PHWR2基、PWR(VVER)1基が運転中で、PWR4基、PWR(VVER)1基が建設中であり、2020年までにはさらに増設し、約4,000万kWにまで引き上げる計画である。
11.その他
 フィンランド(原子力発電のシェア33%)では、チェルノブイリ事故以後の新規原子力発電所は建設されなかったが、ロシアからの電力の輸入依存度の低減を図るため、5基目の原子炉(2010年の運転開始予定、炉型はEPR)の建設を開始した。
 スイス(原子力発電のシェア32%)では、1990年の国民投票では、2000年までの10年間、新規原子力発電所建設しない(モラトリアム)としてきたが、2003年の国民投票では、同モラトリアムの延長は否決された。
 インド(原子力発電のシェア2.8%)では、今後のエネルギー需要の高まりから数多くの新規原子力発電所の建設が予定されている。現在、重水炉(PHWR)12基、重水炉(CANDU)2基、軽水炉(BWR)2基を有しており、7基(317.8万kW)を建設中である。
(前回更新:2003年9月)
<図/表>
表1 世界の原子力発電所の発電電力量と必要ウラン量
表1  世界の原子力発電所の発電電力量と必要ウラン量
表2 フランスの新エネルギー法案の骨子
表2  フランスの新エネルギー法案の骨子
表3 米国の2005年エネルギー政策法案の骨子
表3  米国の2005年エネルギー政策法案の骨子
図1 海外における原子力発電の動向
図1  海外における原子力発電の動向
図2 ウラン価格の動向
図2  ウラン価格の動向
図3 原子力プラントメーカーと市場の変遷
図3  原子力プラントメーカーと市場の変遷

<関連タイトル>
韓国の電力事情 (14-02-01-02)
中国の原子力開発体制 (14-02-03-07)
インドの原子力開発と原子力施設 (14-02-11-02)
2005年エネルギー政策法と原子力再生の動き (14-04-01-43)
カナダの原子力発電開発 (14-04-02-02)
イギリスの原子力発電開発 (14-05-01-02)
フランスの原子力政策および計画 (14-05-02-01)
ドイツの原子力発電開発 (14-05-03-03)
スウェーデンの原子力発電開発 (14-05-04-03)
フィンランドの原子力発電開発と原子力政策 (14-05-05-02)
スイスのエネルギー政策と原子力政策・計画 (14-05-09-01)
イタリアの原子力事情と原子力開発 (14-05-14-01)
ロシアの原子力発電開発 (14-06-01-02)

<参考文献>
(1)World Nuclear Association :World Nuclear Power Reactors 2005−07 and Uranium Requirements、http://www.world-nuclear.org/info/reactors.html
(2)資源エネルギー庁ホームページ:原子力政策の課題と対応?原子力立国計画?(平成19年3月)
(3)e−原子力:海外の話題 2004年度9月号
(4)e−原子力:海外の話題 2005年度9月号
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