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<概要>
 発電コストは高いが、環境負荷が低い太陽光、風力などの自然エネルギーの普及促進を図るために、国はグリーン電力制度を設け、個人向けのグリーン電力基金が2000年10月、また、11月に企業向けのグリーン電力証書システムが開始された。
 個人を対象とした「グリーン電力基金」は、自然エネルギー普及に賛同する一般の消費者から、電気料金に上乗せする形で毎月一定額(一口500円/月)の寄付を募り、この基金をもとに自然エネルギー発電設備の建設・運営に対して助成を行うものである。
 企業や団体を対象とした「グリーン電力証書システム」は、自然エネルギー発電の価値を「電気自体の価値」と「環境付加価値」に分離し、発電事業者等が発電した電気そのものは電力会社が購入し、環境付加価値部分は環境貢献を希望する企業が購入する仕組みである。
 この制度導入の背景、基本的考え方を述べるとともに、海外における自然エネルギーへの取り組み制度も紹介する。
<更新年月>
2003年09月   (本データは原則として更新対象外とします。)

<本文>
1.グリーン電力制度とは
 発電コストは既存電源に比べると高いが、環境負荷が低い太陽光、風力などの自然エネルギーの普及促進と環境問題への取り組みに賛同する消費者から拠出金を募り、これをもとに風力発電や太陽光発電などに助成を行う制度のことである。日本では、2000年7月の経済産業省の総合エネルギー調査会(現・総合資源エネルギー調査会)において、電力業界がグリーン電力制度を提案し、支持された。個人向けのグリーン電力基金が、2000年10月から全国10の電力会社のサービスエリアで開始され、また、11月には「日本自然エネルギー(株)」が設立されて、企業向けのグリーン電力証書システムが開始された。
2.導入の背景
 電力会社は、太陽光発電、風力発電などの自然エネルギーについて、経済性、供給安定性などに課題は残るものの、枯渇することのない貴重な国産エネルギーであるとともに、原子力発電と同様に発電時に二酸化炭素を排出しないクリーンなエネルギーとして評価しており、火力、原子力、水力等の主力電源を補完するものとして、従来からその普及促進に向けた取り組みに努めてきた。
 具体的には、(1)発電技術、利用技術、系統連系技術等の研究開発、(2)研究用および自家用自然エネルギー発電設備への先導的な導入、(3)購入条件をあらかじめ公表した余剰電力の購入、(4)NGOや消費者団体と共同した自然エネルギー普及を支援するためのプロジェクトの実施、などである。こうした電力会社の取り組みと、新エネルギー総合開発機構(NEDO)や新エネルギー財団(NEF)を通じた国による助成とがあいまって、わが国における太陽光発電導入量は、20.5万kW(1999年度実績)である。また、風力発電の導入量は、8.3万kWで、北海道や東北など風況の良い地域を中心に急増している。
 一方で、昨今、つぎのような状況が生まれている。
・環境問題に対する消費者、企業の意識が変化しつつあり、自然エネルギーに対する関心の高まりや、自発的な環境貢献を希望する動きが見られるようになってきた。
・風力発電は、風の状況により発電コストが左右されることから、風の状況のよい地点に開発計画が集中する「風力立地地点の地域偏在性」が顕在化してきており、特定の電力会社に負担が集中しつつある。
・技術革新、大規模化等により風力発電コストが低下してきた。
 こうした状況を踏まえると、今後自然エネルギーの長期的な普及の進展を図るためには、つぎのような対策が必要となる。
(1) 消費者、企業による貢献(拠出金)と電力会社の支援を一体的に有効活用していく。
(2) 各電力会社の地域を超えた全国規模での弾力的な対応を行なう。
(3) 市場原理を導入して、発電コストの低減につながる支援の有効活用を図る。
 このため、電力会社は2000年7月14日に開催された経済産業省の総合資源エネルギー調査会・新エネルギー部会において、自然エネルギー普及促進のための新たな自発的取り組みとして「グリーン電力制度」の導入を提案し、概ね支持された。
3.基本的考え方
 導入した「グリーン電力制度」は、従来の国や電力会社からの一方的な助成システムではなく、消費者・企業、自然エネルギー発電事業者、電力会社という関係者全員が、相互に効率的普及に向けて自発的に努力していくことで一層の普及促進を図る「社会的システム」として機能していくことを目指すものであり、これを通じて自然エネルギーの発電コストがさらに低減し、長期的な普及に寄与するようになると考えられている。
 こうした観点から、消費者や企業などの相異なるニーズに対応し、幅広く参加してもらうため、次の制度が導入された。
(1) 一般消費者(主に個人)向けの制度として、少額でもより多くの方に気軽に参加できることや簡明性を重視した「グリーン電力基金」。
(2) 企業向けの制度として、発電証書の発行など環境対策ツールとして極め細かい評価を取り入れた「グリーン電力証書システム」。
 以上2つのグリーン電力制度を導入するほかに、相応のコスト低減が見込まれる大規模風力発電設備からの電力購入については、個々の発電事業者のコストを反映させた購入価格を設定することで長期的普及に向けたコスト低減の動機付けを促すことが適当と考え、入札制度を導入することとした。
 なお、こうした取り組みが、どの程度有効に機能するか現状では見極めにくい面もあることから、弾力的な制度として試行的に実施し、3年程度の実施状況を踏まえ、今後検証を行なうこととしている。
4.グリーン電力制度の仕組み
4.1 グリーン電力基金
 個人を対象とした「グリーン電力基金」は、自然エネルギー普及に賛同する一般の消費者から、電気料金に上乗せする形で毎月一定額(一口500円/月)の寄付を募り、この基金をもとに自然エネルギー発電設備の建設・運営に対して助成を行うものである。(図1
 グリーン電力基金は、全国10の電力会社の地域毎に設立され、各地域にある「財団法人・産業活性化センター」が主体となって運営を行っている。寄付を申し込んだ消費者にはグリーン電力基金への参加を示す「グリーンラベル」を発行するとともに、基金の募集状況や、基金から助成した発電設備の稼動状況に関する情報がフィードバックされる。
 基金の活用方法については、学識経験者・消費者代表の意見を踏まえて、各地域の運営主体(産業活性化センター)が決定する。助成対象は、原則としてそれぞれの地域における大規模な風力発電設備と公共的な太陽光発電設備とするが、風力発電については、風況の地域偏在性を考慮し、設備の少ない地域の基金の一部を設備の多い地域に充当するなど、全国規模での運用が行なわれる。
4.2 グリーン電力証書システム
 企業や団体向けの仕組みである「グリーン電力証書システム」は、自然エネルギー発電の価値を「電気自体の価値」と二酸化炭素排出削減や省エネルギー効果の「環境付加価値」に分離し、発電事業者等が発電した電気そのものは電力会社が購入し、環境付加価値部分は環境貢献を希望する企業が購入する仕組みである。(図2
 具体的には自然エネルギーの利用を希望する企業・団体は、委託事業者(電力会社が中心となって2000年11月に設立された「日本自然エネルギー株式会社」)に発電を委託し、委託事業者は自然エネルギー発電事業者を選定して、発電設備の建設・運営を再委託する。委託により発電された電力は地元の電力会社に販売され、自然エネルギー発電事業者はその収入と企業・団体からの受託料収入によって、自然エネルギーの発電コストを回収することができる。
 一方、購入した環境付加価値は、第三者機関の日本自然エネルギー(株)により、発電電力量を明記したグリーン電力証書として証明され、企業が自らの環境対策の実績として利用することができる。この点が、純粋な寄付行為であるグリーン電力基金と異なる。
5.RPS制度
 上述のグリーン電力制度に加えて、再生可能エネルギー(太陽熱・光、水力、風力、海洋、バイオマスなど)の普及をさらに推進するために、日本においてもRPS(Renewable Portfolio Standard再生可能エネルギー基準)制度の導入が本格化し、「電気事業者による新エネルギー等の利用に関する特別措置法」として2003年4月1日に施行された。
 国は、電気事業者に対して、毎年その販売電力量に応じた一定割合以上の新エネルギー等(太陽光、小規模水力、風力、地熱、バイオマスなど)から発電される電気の利用を義務付ける。電気事業者は、義務を履行するため、自ら「新エネルギー等電気」を発電する、もしくは、他から「新エネルギー等電気」を購入し利用する(詳しくは、ATOMICA構成番号<01-09-07-06>「RPS制度」に記述されている)。この法律は、電気事業者に対して一定量以上の電力を新エネルギー(再生可能エネルギー)により供給することを義務づけるものである。
6.各国における自然エネルギーへの取り組み
 こうしたグリーン電力制度は、基金への拠出方法など細かい仕組みに違いはあるものの、欧米にも導入例が見られる。
 経済産業省の総合資源エネルギー調査会・新エネルギー部会のもとに設置された「新市場拡大措置検討小委員会」で、2002年に発表された報告書から、この制度に関する代表的な事例を表1-1表1-2表2表3-1および表3-2に示す。
 欧州では、ドイツ、スペインに加えて、フランスも2001年に固定価格優遇制度の導入を決めた。デンマークでは、グリーン証書制度(RPS制度)が棚上げされ固定価格優遇制度が継続している。オランダでは、自主制度とはいえ世界で初めてグリーン証書制度を導入した。しかし、2001年、政府はクォータ制(政府が再生可能電力の義務量を決定する)による証書制度を導入する予定であったが見送られた。英国では、固定価格でなく、政府による一括入札と落札価格による買取義務制度を実施している。
 世界の風力発電市場の7割を占める欧州連合全体で見ると、風力発電の実質的な市場は固定価格優遇制度を実施している地域にあることになる。政治力学から考えても欧州連合が全体としてEPS制度に移行することはありえない。
 一方、米国では、テキサス州がRPS制度を採用し、2002年に40万kWの導入目標を掲げているが、2001年にすでにこれを上回る93万kWの風力発電が設置されている。ところが、テキサス州以外でRPS制度を導入している9つの州(メーン州、コネチカット州、マサチューセッツ州、ニューメキシコ州、ペンシルバニア州など)では、主としてグリーン証書の購入義務、運用システムなどに問題が生じ、必ずしも普及に成功していない。
 豪州では、RPS制度が2001年4月に発足したばかりである。制度上の問題点は今のところ発生していない。
<図/表>
表1-1 固定価格による買取義務づけ制度(ドイツの例)(1/2)
表1-1  固定価格による買取義務づけ制度(ドイツの例)(1/2)
表1-2 固定価格による買取義務づけ制度(デンマークの例)(2/2)
表1-2  固定価格による買取義務づけ制度(デンマークの例)(2/2)
表2 政府による一括入札と落札価格による買取義務づけ制度(英国の例)
表2  政府による一括入札と落札価格による買取義務づけ制度(英国の例)
表3-1 RPS制度(豪州の例)(1/2)
表3-1  RPS制度(豪州の例)(1/2)
表3-2 RPS制度(米国テキサス州の例)(2/2)
表3-2  RPS制度(米国テキサス州の例)(2/2)
図1 個人向けグリーン電力制度のイメージ
図1  個人向けグリーン電力制度のイメージ
図2 企業向けグリーン電力制度のイメージ
図2  企業向けグリーン電力制度のイメージ

<関連タイトル>
新エネルギーの導入と動向 (01-05-01-09)
長期エネルギー需給見通し(2001年7月・総合資源エネルギー調査会) (01-09-09-06)
日本の新エネルギー導入政策 (01-09-07-01)
新エネ等電気利用法(RPS法) (01-09-07-06)

<参考文献>
(1)社)日本電機工業会:「グリーン電力制度」について
(2)経済産業省:グリーン電力制度の概要について
(3)経済産業省 資源エネルギー庁総合資源エネルギー調査会・新エネルギー部会:新市場拡大措置検討小委員会・報告書(案)
(4)飯田 哲也:風力300万kW時代実現への方途、資源環境対策、Vol.38 No.3、(株)環境コミュニケイションズ(2002年3月)
(5)早稲田大学 理工学部 電気・情報生命工学科 岩本研究室:風力発電について、環境経済、クリーンエネルギーに関する制度等
(6)情報・知識 imidas 2003、(株)集英社(2003年1月1日)、p.592-593
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