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<概要>
 日本では、1970年代半ば以降、冷房機器の普及等に伴い。電力需要の負荷曲線は年々先鋭化してきている。昼夜間、平日と休日、季節間で電力需要は大きく変動し、一般に冷房需要がピークに達する夏季の平日の昼間に最大になる。このような電力需要に変動に対応して安定的な供給が図れる供給能力を有する必要があるが、夏季のピーク需要の発生時は1年間のうち僅かな時間であり、この僅かな時間のために電気事業者は必要な供給能力を確保しなければならず、これが電力供給コストの増加を招いている。他方、日本経済の高コスト構造の改善が強く求められている中で、あらゆる経済活動の基盤となる電力については、国際的に遜色のないコスト水準にすることが緊急の課題になっている。
 したがって、電源設備利用の効率化による供給コスト低減のため、電力需要が最大になる夏季昼間の需要を他の時間帯にシフトさせる(ピークシフト)等の負荷平準化対策を推進する必要がある。この、負荷平準化対策は、省エネルギー、CO2排出削減等にも資するものであり、地球温暖化対策等の環境対策としても極めて重要である。
<更新年月>
2005年10月   (本データは原則として更新対象外とします。)

<本文>
1.電力需要の推移
 1970年代以降、電力需要は冷房機器の普及拡大などにより、昼夜間、平日と休日及び季節間の格差は拡大傾向にあり、夏季1日の電気の使われ方を示す「日負荷曲線」(図1)は年々先鋭化してきている。一般に、ある期間中における使用電力をグラフにしたものを負荷曲線(ロード・カーブ:load curve)という。図1及び図2から、過去約30年をみると、冷房需要がピークに達する夏季の平日の昼間に最大となっている。このような電力需要の変動に対し安定的な供給が図れる供給能力を有する必要があるが、夏季のピーク需要発生時は、1年間のうち僅かな時間であり、この僅かの時間のために電気事業者は必要な供給能力を確保しなければならず、これが、電力供給コストの増加を招いている。また、電気事業では、実際に使用された電力(kW)を負荷(ロード:load)といい、負荷率(load factor)は、電力のある期間(日、月、年など)における平均(平均電力)の最大電力に対する比率をいう。負荷率が高いほど電力設備の能力を余すことなく有効に活用できたことになり、電力需要の平準化度合いを示すものとして「年負荷率」がある。
 電力需要の昼夜間、季節間の格差拡大傾向に対して、年負荷率は図3に示すとおり低下傾向で推移し、欧米主要国と比較しても極めて低い水準となっている(表1)。他方、供給面においても、ベース電源である原子力、石炭火力のウエイトが高まるにつれ、深夜には余剰の発生が予想される。
 こうした電力需要の負荷率の低下は設備利用率の低下をもたらし、ひいては料金原価の上昇につながる。他方、日本経済の高コスト構造の改善が強く求められ、あらゆる経済活動の基盤となる電力については、国際的に遜色のないコスト水準にすることが急がれる。
 したがって、電気設備利用の効率化による供給コスト低減のため、電力需要が最大となる夏季昼間の需要を他の時間帯にシフトさせる(ピークシフト)等の負荷平準化対策を推進する必要がある。
2.負荷平準化に向けた取組の強化
 電力の安定供給維持とコストの抑制を図るためには、負荷は平準化されることが望ましく、また、地球環境問題との関係においても、省エネルギー・CO2排出抑制にも資するので、近年の電力行政における重要課題の一つとなっている。
 1997年5月閣議決定の「経済構造の改革と創造のための行動計画」において、負荷率改善のためには、電気事業者のみならず、需要家・消費者、ビル等の設計・建築関係者、メーカー等広範な関係者の協力が不可欠とされており、この行動計画を受けて新たに設置された電気事業審議会(当時の通商産業大臣の諮問機関:電事審)基本政策部会の電力負荷平準化対策検討小委員会(1977年7月設置)において、約半年間にわたって検討が行われ、これら関係者の努力・協力を求める具体的な内容及び政府のとるべき対応策が、同年12月に取りまとめられ、併せて負荷率改善の数値目標が策定された。2004年度末現在、これらの対策について継続的に具体的な展開が図られている。
 また、同じく電事審需給部会の中間報告(1998年6月)においても、負荷率の改善が、省エネルギー、CO2の排出抑制、電力供給コストの低減等に大きく資するものであることから、電力負荷平準化対策の強化に努めることが必要であるとされている。
 さらに、地球温暖化対策推進本部決定の地球温暖化対策推進大綱(1998年6月)では、エネルギー供給面の二酸化炭素排出削減対策の一環として、電力負荷平準化対策を推進することが盛り込まれているほか、1998年9月の第27回総合エネルギー対策推進閣僚会議において、前回会議(1997年4月開催)と同様に、対策に取り組むことが了承された。
 負荷平準化に対する具体的な取組として、最も有効である氷蓄熱式空調システム及びガス冷房の普及促進のため、法制度の見直し、利子補給制度等の助成等、国民的理解を得るための活動、技術開発などが進められ、1998年度に補助金制度が創設された。
3.負荷平準化対策
 前述の電事審基本政策部会の電力負荷平準化対策検討小委員会の中間報告「電力負荷平準化対策の今後の在り方」の概要について、一部データを更新して以下に述べる。
(1) はじめに
 安定供給を確保しつつ、低廉な電力供給を行っていくためには、想定される電力需要に対する供給面での取組だけではなく、需要面での取組を進めることが必要である。電力負荷平準化対策は、電力負荷を需給のタイトな時期(夏季平日昼間等)から緩やかな時期(夜間、休日等)に移行させ(=「電力ピークシフト」)、あるいは、需給状況の厳しい時期における電力負荷を削減すること(=「電力ピークカット」)等により最大需電力を抑制し、負荷の平準化・負荷率の改善(いわば「電力ピーク対策」)を図るものであり、電力の安定的かつ低廉な供給を確保する上で極めて重要な対策として位置付けられるものである。また、現在国際的に抜本的な取組の強化が求められている地球環境問題との関係においても、電力負荷平準化対策を進めることは、省エネルギー・CO2の排出抑制に資するものであり、その取組を進めることが重要である。本小委員会は、2010年における負荷率改善目標を策定するとともに、これに向けて関係者及び政府が取り組むべき今後の電力負荷平準化対策の在り方について、以下のとおり中間報告を取りまとめた。
(2) 我が国における負荷率の現状
我が国における年負荷率(1年間の最大需要電力に対する平均電力の比率をいい、発電から送配電に至る電気事業用資産の稼働率を示す)は、需要構造の変化等から年々低下傾向を辿ってきており、1970年代の約70%の水準が、1994年度で約55%程度まで低下し、現在は約60%程度となっている(図3表1)。年負荷率の低下は、次の要因に起因するものと考えられる。
a)冷房空調需要の急増による夏季最大需要電力の尖鋭化
 我が国における業務用パッケージエアコンの出荷台数は、1996年度において約80万台強、また、当該年度における家庭用ルームエアコンの出荷台数は、約810万台に達している。このような冷房空調機器の急速な普及拡大に見られるとおり、夏季昼間の冷房需要が急増を続けており、この結果、夏季における最大需要電力の尖鋭化が進んでいる(図1図2)。最大需要電力発生日が初めて夏季に移行した1968年度と比較すると、最大需要電力は1976年度で約2倍、1986年度で約3倍、1996年度では約4倍の規模に達している。
b)サービス経済化に伴う業務部門のウェイトの増大
 事務所ビル、商店・百貨店等からなる業務部門(業務用)の総需要に占める割合は、1965年の約5%程度から1995年には20%強と急速に拡大している(図4)。サービス経済化に伴う需要構造の変化が我が国電気事業全体の年負荷率の低下につながっている。
c)産業部門における素材型産業から加工組立型産業への産業構造の変化
 産業部門(工場等)では、素材型産業から加工組立型産業へのシフトが進んでいる(図5)。機械に代表される加工組立型産業は、一般的に昼間操業が多くまた空調需要のウェイトも相対的に高いことから負荷率が低い。
 上記の諸要因により年々低下傾向にある我が国の年負荷率は、同様にサービス経済化が進展し、産業構造のシフトも進んでいる欧米主要国に比べても極めて低い水準にある(表1)。欧米主要国の年負荷率の推移を見ると、ドイツは夜間電力を利用する蓄熱式電気暖房の普及促進等により近年負荷率が改善傾向にあり、日本でも気候条件による相違はあるものの負荷率改善に向けた取組に努めることが重要である。
(3) 電力負荷平準化対策の意義
a)電源立地に要する期間が長期化する等供給面での制約要因が顕在化している状況下において、電力需給の安定化を確保する上で重要である。
b)供給設備(発電所等)の増大を抑制することを通じ、電力供給コストの増大傾向の抑制、低減化に資する。
c)現在、国際的に抜本的な取組の強化が求められている地球環境問題との関係においても、電力負荷平準化対策を進めることは省エネルギー・CO2の排出抑制に資するものであり、その取組を進めることが重要である。
(4) 電力負荷平準化対策
 電力負荷平準化対策を進めることは、安定的かつ低廉な電力供給を達成する上で極めて重要な課題であり、我が国経済の高コスト構造の是正、省エネルギー・地球環境問題への対応等に寄与するものであり、上記の我が国の年負荷率の現状を踏まえ、今後は業務用等民生用需要対策を中心として、次の電力負荷平準化対策を柱として、広範な関係者の努力・協力の下に強力に推進する。
a)蓄熱式空調システム等の一層の普及拡大
 夏季のピーク時における民生需要の多くを占め、負荷率低下の主要因となっている冷房需要の負荷移行を図るため、夜間電力を用いて氷や冷水を蓄熱槽に蓄え、その冷熱を利用して昼間の冷房需要を賄う蓄熱式空調システム等の一層の普及拡大が重要である。このため、電力会社における普及支援制度の充実、蓄熱事業、機器リース事業への取り組み強化などのほか、国でも税制面、補助金制度の創設等、様々な普及支援を図る。
b)電気料金制度面での対策
 料金制度面では、表2に示すような負荷平準化のための電気料金メニューの多様化、弾力化を通じ、需要家の選択の幅を広げる。
 なお、1995年12月に施行された電気事業法において、供給約款とは別に届出制で制定し、変更ができる「選択約款」が規定され、各電力会社は様々なメニューを用意し、需要家のニーズに合わせて柔軟に対応できるようになっている。
c)国民的理解を得るための活動
 国民的理解のもとに、電力負荷平準化対策を推進することが必要であり、このため、各電力会社はもとより、1995年に改組した財団法人ヒートホンプ・蓄熱センターが中心となって、蓄熱パンフレットの作成や蓄熱導入促進セミナーの実施などの啓発活動、及び国民一般に呼びかける広告等マスメディアの積極的な活用、優良事例に対する表彰制度の充実などを図りながら、効果的な理解促進活動を行う。
d)技術開発面での対策
 清涼飲料水の自動販売機について、夏の午後のピーク時間帯に冷却運転を停止する機能を持つ「エコベンダー」の普及促進を図るほか、現在蓄熱化が行われていない10馬力相当未満の業務用パッケージエアコンの研究開発を進め。製品化するなど、負荷平準化対策の技術開発を進める。
(5) 電力負荷率改善のための目標
 電力負荷平準化対策を強力に推進するに際して、2010年までの負荷平準化への取り組みの目標(潜在量)を次のとおりとする。ここで蓄熱調整契約、省電力エアコン、ガス冷房の3項目で全体の約80%を占めている。
    1996年から2010年までの負荷平準化効果の増分
    蓄熱調整契約           742万kW
    計画調整契約           176万〃
    蓄熱式自販機           100万〃
    蓄熱式冷凍冷蔵ショーケース   86万〃
    省電力エアコン          350万〃
    ガス冷房              242万〃
     合 計              1,696万〃
 この負荷平準化の目標が達成された際の2010年における年負荷率を1997年度の電力供給計画における電力需要の想定を踏まえて試算すると、電力負荷平準化への取組が行われなかった場合55.6%まで低下する年負荷率を4.2%改善させる効果がある。負荷率1%の改善は、中長期的には1,400億円程度の年経費、5,800億円程度の設備投資の削減効果を持つと試算され、また、蓄熱式空調システムの普及等により負荷率を1%改善する場合、発電所の熱効率の改善により炭素換算20万トン〜30万トン程度のの排出削減効果を持つと試算される。
 今後、電力会社は、この目標を平成10年度以降の電力供給計画に順次反映させ、電力負荷平準化対策への取組を一層強化することが重要である。また、国民一人一人に対し電力負荷平準化への取組を強く求め、その理解を得ていくことが不可欠である。
<図/表>
表1 先進各国の負荷率比較
表1  先進各国の負荷率比較
表2 負荷平準化のための主要な料金制度の概要(東京電力の場合)
表2  負荷平準化のための主要な料金制度の概要(東京電力の場合)
図1 夏季1日の電気の使われ方(年間最大出力を記録した日)(10電力計)
図1  夏季1日の電気の使われ方(年間最大出力を記録した日)(10電力計)
図2 1年間の電気の使われ方(10電力計)
図2  1年間の電気の使われ方(10電力計)
図3 年負荷率の推移(10電力)
図3  年負荷率の推移(10電力)
図4 電力の用途別構成比(10社計)
図4  電力の用途別構成比(10社計)
図5 電力の大口産業別構成変化(10社計)
図5  電力の大口産業別構成変化(10社計)

<関連タイトル>
日本の各種電源の特徴と位置付け(2002年) (01-04-01-15)
電力需要の変遷と需要構造 (01-09-05-03)
電力需要の時間的・季節的変動 (01-09-05-07)

<参考文献>
(1)資源エネルギー庁公益事業部(監修)、電力年報委員会(編):電気事業の現状(2000年/平成12年版)、(社)日本電気協会(2000年12月25日)p.52-54,219-222
(2)資源エネルギー庁のホームページ:電気事業審議会基本政策部会電力負荷平準化対策検討小委員会中間報告「電力負荷平準化対策の今後の在り方」平成9年12月16日
(3)日本電気協会(編・発行):あなたの知りたいこと−電気事業についての41の質問と答−2000年版(2000年11月30日)p.50-53
(4) 資源エネルギー庁(編):エネルギー2001、(株)電力新報社(2001年2月9日)p.65-104,p.274
(5)(株)電力新報社(編集、発行):電力構造改革・料金制度編(1999年3月21日)p.92-95,p.148,p.158
(6)経済産業省資源エネルギー庁電力・ガス事業部(編):平成12年度電力需給の概要、中和印刷株式会社出版部(2001年3月15日)p.1-112,p.376,p.387
(7)電気事業連合会(編・発行):パンフレット「電気事業の現状2000-2001」(2000年10月)、p.10-11
(8)電気事業連合会統計委員会(編):平成12年版電気事業便覧、(社)日本電気協会(2000年12月25日)p.116-120p.124-145
(9)通商産業省のホームページ「経済構造の変革と創造のための行動計画」平成9年5月16日閣議決定
(10)通商産業省資源エネルギー庁(編):強靱かつ、しなやかなエネルギー・ビジョン−総合エネルギー調査会基本政策小委員会中間報告−、(財)通商産業調査会(1994年2月)
(11)資源エネルギー庁:平成16年度エネルギーに関する年次報告(エネルギー白書)
(12)電気事業連合会ホームページ:http://www.fepc.or.jp/index.html
(13)資源エネルギー庁ホームページ:http://www.enecho.meti.go.jp
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