<大項目> エネルギーと地球環境
<中項目> 地球環境問題
<小項目> 地球環境問題への取り組み
<タイトル>
米国のクリアスカイ法と排出取引(2003年) (01-08-04-23)

<概要>
 1990年のクリーン大気法はエネルギー部門からのSO2、NOx、水銀の排出抑制に排出取引制度を実施するなど、広域の大気汚染の低減に一定の役割を果たしてきた。2003年のクリアスカイ法は発電による二酸化硫黄(SO2)、窒素酸化物(NOx)及び水銀の排出に上限を設け、これによって排出量を劇的に減少させ、2000年の水準より70%削減しようという強制力をもつ計画である。現在のクリーン大気法よりも、もっと速やかに、一層確実に、米国消費者の負担を少なくして、健康上の利益を与えようというものである。この法案に至るまでの1990年クリーン大気法下での排出割当計画は、かなりの効果を上げており、その成果は新法に継承されると思われるが、これら計画の現状を示す。
<更新年月>
2003年12月   (本データは原則として更新対象外とします。)

<本文>
1.2003年のクリアスカイ法(文献1)
 米国ブッシュ大統領は一般教書の中で2003年のクリアスカイ法(Clear Skies Act of 2003)に言及し、「この法案を通すことは、一層綺麗な大気、より良い健康、一層輝かしい未来を保証するであろう。法律で実施される排出量取引は発電所が排出を早期に減らそうという意欲を持たせるものであろう。」と述べた。この法案は2003年2月に議会に提出された。
 クリアスカイ法は、発電による二酸化硫黄(SO2)、窒素酸化物(NOx)及び水銀の排出に上限を設け、これによって排出量を劇的に減少させ、2000年の水準より70%削減しようという強制力をもつ計画である(表1)。現在のクリーン大気法よりも、もっと速やかに、一層確実に、消費者の負担を少なくして、健康上の利益を与えようというものである。「クリアスカイ法の市場ベースの上限−取引計画」を使用する強制的な排出削減は、クリーン大気法計画に基づいて人の健康と環境の目標の達成を容易にしようというものである。
1.1 2003年のクリアスカイ法の要点
・三つの汚染物質全てに対して連邦として強制できる排出制限(または上限:caps)を設定する。クリアスカイ法のNOx及びSO2要件は、全ての25百万kW以上の化石燃料発電事業者に影響を与え、水銀への要件は石炭火力を使う部分にだけ影響を与える。
・上限と取引からなるダイナミックな規制を使用し、発電所からの排出量をコストの少ない方法で減少させる。
・州と地方政府は、周辺の大気の清澄度を規準値に合致させるために、その境界内の発生源に対して発生源毎の排出制限を課すという権限を保有している。
1.2 クリアスカイ法は公衆の健康に劇的な利益をもたらす
・クリアスカイ法は、通過すれば人間の健康と環境に利益を与える。
 EPA(米環境保護庁:Environmental Protection Agency)が定量した人への治療費は、年間コスト63億ドルよりはるかに勝り、2020年までに年間およそ1100億ドルまで増大する。
・EPAは、2020年までに、クリアスカイ法によって14,000人の早死を回避可能と予測している。別の予測でも8,400人以上の早死を防ぎ、施行のコストよりはるかに大きい、210億ドルの健康利益を予測している。
・アメリカ人は、また、2020年までにクリアスカイ法の下で、病院と救急室を訪れる人が毎年30,000人少なくなり、呼吸器官の症状の日が1250万日・人(仕事を休み、学校に欠席するのを含めて)少なくなると期待できる。
・クリアスカイ法の下で、2020年にはさらに1800万人以上の人々がオゾンと微細粒子の国家基準に合った空気を吸えるようになるだろう。
1.3 許容量取引(文献2)
 大気汚染を削減する市場ベースの機構は、税の減免、排出料金、取引可能排出上限などの多くの経済的または市場指向の誘因と阻害要因を含んでいる。多くのタイプの排出取引形態がある。EPAのクリーン大気市場計画(Clean Air Market Program)によって使われているものは「許容量取引(allowance trade)」または「上限と取引(caps and trade)」と呼ばれる。以下のような定義が使われている。
1)排出上限(An emission ”caps”):すべての規制対象源(例、発電所)から排出(放出)される汚染物質の全量の制限。上限は、排出の削減をするためこれまでの歴史的排出よりも低く設定される
2)許容量(Allowances):汚染物質の一定量を排出できるという認可量
3)測定(Measurement):すべての排出物の正確な追跡
4)柔軟性(Flexibility):発生源は、排出量を減らした他の発生源から追加の許容量を買うかどうかを含めて、排出を減らす方法を選ぶことができる。
5)許容量取引(Allowance Trading):発生源は、公開の市場で許容量を売買することができる。
6)同意(Compliance):各同意期間の終わりに、各発生源はその排出について充分多くの許可量を所有していなければならない。
 酸性雨計画(Acid Rain Program)において、二酸化硫黄排出量の上限と排出量取引を使用した方法についての具体的な情報は、Allowance Fact Sheetに示されている。窒素酸化物(NOx)取引プログラムでも同様な情報が入手できる。
2.窒素酸化物(NOx)取引プログラム(文献6)
 全ての窒素酸化物取引プログラムは、長距離に亘って地上オゾンの移動を減らすという同じ目標を持っている。しかし、各プログラムは異なったメカニズムによって、違った形で展開してきた。このため含まれる州の数、年毎の同意期間の時機、期待される削減量の違いをもたらした。表2オゾン移動委員会NOx割当計画(Ozone Transport Commission NOx Budget Program)、セクション126連邦NOx割当取引計画(Section 126 NOx Budget Trading Program)及びNOx州間履行計画会議(NOx State Implementation Plan (SIP) Call)の3つの計画の概要を示す
2.1 クリーン大気法セクション126と連邦NOx割当計画
 クリーン大気法セクション126の下に、各州はオゾンの主な先行物質の一つであるNOxの移動を緩和するようEPAに要請することができる。11の州とコロンビア特別区は、EPAに、風上の特定の大きい不動のソースがオゾンの放出制限を越えて放出され、州のオゾン濃度の維持ができない状況を把握するよう要請した。1999年5月に、EPAはセクション126の下でどんな将来の要請にも対処できる一般的なソースの管理救済策として、連邦NOx割当取引計画(Federal NOx Budget Trading Program)を確立した。
 1999年12月17日にEPAは、最初の8つの要請された州(コネチカット(CT)、マサチューセッツ(MA)、ミネソタ(ME)、ニューハンプシャー(NH)、ニューヨーク(NY)、ペンシルバニア(PA)、ロードアイランド(RI)とバーモント(VT))の実情調査と要請によって影響されるNOx割当取引計画の詳細を完成した。セクション126は、東部12の州及びコロンビア特別区にある発電プラント及び非電力ユニットのNOx排出を上限と割当計画で削減することを要求している。計画の骨子は、夏季のNOx排出の制限あるいは予定量(または割当量budget)を割り当てることにある。
2.2 オゾン移動委員会(OTC)NOx割当(Budget)計画(文献7、8)
 OTC(Ozone Transport Commission)は表2に示される州及び区を含み、1994年9月に地域のNOx削減を達成するという覚書を採択した。それには合理的に利用可能な管理技術(Reasonably Available Control Technology:RACT)を設置することが含まれていた。覚書に調印するまでに1999年に地域の排出を削減し、2003年に一層削減する規制を開発し、採用することに合意した。窒素酸化物(NOx)割当計画は、NOx排出を管理してオゾン健康基準の達成に向けて進もうとする北東部地域の努力を示している。
 OTCのNOx割当計画は1,000以上の大規模なNOx固定発生源を対象としたもので、このうち約900が火力発電ユニット、約100が蒸気ボイラーやプロセスヒーターなどの工業施設である。それぞれのオゾン・シーズン(5〜9月)における排出総量の上限は1990年の排出量をベースに設定され、この範囲内で対象発生源に排出上限が割り当てられた。排出上限の単位はallowanceと呼ばれ、1アロワンスは、対象発生源がオゾン・シーズンに1トンのNOxを排出することの認可(許可証)である。それぞれのアロワンスには、対象発生源が同許可証を最初に使用可能な年度(ヴィンテージ、Vintage)が設定されている。各発生源は、オゾン・シーズンにおける実際の排出量が、保有する許可証の定める排出量を上回らないことを証明しなければならない。使用しなかった排出許可量については、売却または次期に持ち越すこと(貯金:bank)も可能である。なお、持ち越された排出許可量が単年度に大量に使用されることを防止するため、使用抑制に対して財政的なインセンティブを付与する仕組み(Flow Controlと呼ばれる)が設けられている。
 OTCでは表3に示す3段階で、削減に取り組んでいる。第1期は取引計画ではなく、RACT要件に従った規制の結果である。第2期は計画に従った削減である。第3期は、EPAのより広範囲の計画NOx SIP Callに統合される予定である。第2期の成果は図1に示される。削減は効果を上げ、排出量は割当を下回り、1990年のレベルから60%、28万トンの削減になった。実施に当っては、オゾンの大気環境基準の達成度に応じて、内部ゾーン(ワシントンD.C.からニューハンプシャー州南部にかけての大都市地域)、北部ゾーン(メーン、バーモント州全域、ニューヨーク州北東部、ニューハンプシャー州中・北部)、外部ゾーン(その他)の3ゾーンに区分され、それぞれ異なる排出削減目標が設定された。
3.排出量取引と事業者の行動(文献8、9)
 NOx割当量取引計画においては、参加主体は自社のユニットに排出除去装置を追加する以外に、様々な方法を選択することができる。その一つは、NOx排出量の多いユニットの稼働率を下げて、排出量の少ないユニット(または取引の対象外の地域にあるユニット)の稼働率を上げることである。OTCの参加州とEPAは、取引計画の対象外の地域にNOxの排出がシフトすることになれば、同計画の有効性は大きく損なわれるとして、この問題を強く懸念している。NOx発生源はオゾン・シーズンにおける排出総量を削減するため、オフピークの電力をOTC以外の地域から調達している可能性もあるという。また、1997〜2001年のデータを見ると、大規模火力発電所(酸性雨計画の対象ユニット)の発電電力量が地域の販売電力量に占めるシェアは減少しているという(1997〜1998年の56%から2000〜2001年の53%に低下)。一方、同じ時期に、原子力発電所の発電電力量のシェアは増加しており、地域の販売電力量に占める割合は1997〜1998年の28%から2000〜2001年の35%に増加している(表4)。
 このデータからわかることは、OTC地域の原子力発電電力量の増加が、同地域の火力発電電力量の減少と販売電力量の増加分を十分に補ったということである。OTCのレポートは予備的な分析結果として、「火力発電のシェア減少が必ずしもOTC以外の地域へのNOx排出のシフトを招いたとは言えない。むしろ、原子力発電電力量が増加しているところを見ると、火力発電所の発電電力量は原子力発電所に移行したと考えるのが妥当である」としている。
 このような事業主体の行動は、米国の2003年5月の世論調査で、二酸化炭素の排出回避に対して原子力に現実的な便益を与えようという考えが多数の意にかなうものであったことと合わせて考えると、原子力の将来にとって明るい材料といえる。
4.今後の問題
 OTC地域では多くの努力をしているに拘わらず、北東都市部では冬季1月頃には、1時間大気オゾン基準(National Ambient Air Quality Standard:NAAQS)を満たしていない。2003年1月の状況を図2に示す。農村部においては、地表でのオゾン発生は少ないはずであるが、オゾンの低下傾向を示していない。これはNOx取引計画によるNOxの低減が、ある種の可動発生源からのNOx発生の増加及びOTCの上流の州からの長距離移動NOxによって相殺されているためと考えられる。可動発生源からの排出抑制とNOx取引計画をもっと広い領域で実施することが必要と考えられている(図3表2表3)。
<図/表>
表1 クリアスカイ法の目標
表2 OTCのNOx削減計画の戦略概観
表3 OTCのNOx削減戦略概観
表4 オゾンシーズンにおける地域の発電・販売電力量の変化
図1 NOx取引計画ユニットからの排出量
図2 OTC加盟州のオゾン1時間基準達成状況
図3 OTCとSIP会議取引計画の範囲

・図表を一括してダウンロードする場合は ここをクリックして下さい。


<関連タイトル>
IEAによる米国エネルギー政策のレビュー(2002年)(1)政策の概観 (01-07-06-01)
米原子力エネルギー協会(NEI)の世論調査(2003年5月) (10-05-04-03)

<参考文献>
(1)EPA:Clear Skies Act of 2003、http://www.epa.gov/air/clearskies/fact2003.html
(2)EPA:Allowance Trading Basics、http://www.epa.gov/airmakt/trading/basics/index.html
(3)EPA:Acid Rain Program SO2 Allowances Fact Sheet、http://www.epa.gov/airmarkets/arp/index.html
(4)Emissions Trading Education Initiative、排出量取引ハンドブック、http://www.etei.org/> http://www.gispri.or.jp/kankyo/unfccc/haisyutsu.html
(5)Nitrogen Oxides (NOX) Reduction under the Acid Rain Program、http://www.epa.gov/airmarkets/arp/nox/index.html
(6)NOX Trading Programs、http://www.epa.gov./airmarkt/progsregs/noxview.html、EPA’s NOX Budget Trading Program、http://www.epa.gov./airmarkt/fednox/index.html
(7)Ozone Transport Commission (OTC)、NOx Budget Program、http://www.epa.gov./airmarkt/otc/index.html
(8)OTC:NOx Budget Program 1999-2002 Progress Report、http://www.epa.gov/airmarkets/otc/otcreport.pdf
(9)IEA OF JAPAN:排出量取引と原子力発−米国北東部州の経験から、米国原子力情報サービス03-04
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