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<概要>
 ワシントン条約は、野生動植物の国際取引の規制を輸出国と輸入国とが協力して実施することにより、採取・捕獲を抑制して絶滅のおそれのある野生動植物の保護をはかることを目的とする。その附属書 I〜IIIに掲げられた動植物及びその製品等の国際取引に際しては、その生物を絶滅させる危険がない等の一定の条件の下に発給される輸出許可書等を輸出国の当局から取得し、輸入国の当局に提出しなければならないことになっている。日本は、同条約規制対象種中6種(クジラ6種)につき持続的利用が可能なだけの資源量があるという客観的判断から留保している。日本では、1992年に絶滅の危機に瀕している野生生物の種の保存を総合的に推進するため、「絶滅のおそれのある種の保存に関する法律」(種の保存法)が制定され、捕獲・流通等の規制、生息地等保護区の指定、保護増殖事業、調査研究等が行われている。国内に生息する哺乳類、両生類、汽水・淡水魚類の2割強、爬虫類、維管束植物の2割弱、鳥類の1割強の種の存続が脅かされている。
 国際自然保護連合(IUCN)が2000年に改訂したレッドリストによれば、絶滅のおそれある種として動物5,435種、植物5,611種が掲載されている。
<更新年月>
2002年12月   (本データは原則として更新対象外とします。)

<本文>
1.ワシントン条約(CITES)
1.1 経緯
 1972年の国連人間環境会議において「特定の種の野生動植物の輸出、輸入及び輸送に関する条約案を作成し、採択するために、適当な政府又は政府組織の主催による会議を出来るだけ速やかに召集する」ことが勧告された。これを受けて、米国政府及び国際自然保護連合(IUCN:International Union for Conservation of Natural Resources:スイスに本部を置く非政府機関であるが、国家、政府機関及び民間団体が多数加入しており、 日本は1995年6月国家会員、環境庁(現環境省)は1978年から政府機関として加盟その他民間団体多数が加盟)が中心となって野生動植物の国際取引の規制のための条約作成作業を進めた結果、1973年3月3日にワシントンで本条約が採択された。
1.2 目的
 ワシントン条約(CITES:Convention on International Trade in Endangered Species of Wild Fauna and Flora:絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引に関する条約)は、野生動植物の国際取引の規制を輸出国と輸入国とが協力して実施することにより、採取・捕獲を抑制して絶滅のおそれのある野生動植物の保護をはかることを目的とする。その附属書 I〜IIIに掲げられた動植物及びその製品等( 表1 参照)の国際取引に際しては、その生物を絶滅させる危険がない等の一定の条件の下に発給される輸出許可書(再輸出の場合は本条約に則って輸入されたものである旨の証明書)等を輸出国の当局から取得し、輸入国の当局に提出しなければならないことになっている。
1.3 締約国数
 145か国(1999年11月1日現在)
 日本は1980年11月4日に締約国となった。2002年12月6日現在締約国数は160か国である。
1.4 条約の主要点
(1)目的・内容
 条約の目的は、自然のかけがえのない一部をなす野生動植物の一定の種が過度に国際取引利用されることのないようこれらの種を保護することにある。このため、この条約では絶滅のおそれがあり、保護が必要と考えられる野生動植物について次の3区分に分類し、それぞれの必要性に応じて国際取引の規制を行うこととしている。
a)附属書I:絶滅のおそれのある種であって取引による影響を受けており又は受けることのあるものが掲げられている。 これらの種の取引は、特に厳重に規制されることとなり、主として商業的目的のための取引は禁止されており、学術研究用を目的とした輸出入に際しては、輸入許可書及び輸入許可書の双方が必要である。
b)附属書II:現在必ずしも絶滅のおそれのある種ではないが、その存続を脅かすこととなる利用がされないようにするため、その取引を規制しなければ絶滅のおそれのあるものが掲げられている。 輸出入に際しては輸出国の輸出許可書等が必要である。輸出許可書等が発行されれば商業取引を目的とした輸出入もできることとなっている。
c)附属書III:いずれかの締約国が自国の管轄内において規制を行う必要があると認め、かつ取引の取締りのため他の締約国の協力が必要であると認める種が掲げられており、輸出入に際しては、原産地証明書等及び附属書IIIに当該種を掲げた国から行われるものについては、輸出国の輸出許可書が必要である。
(2)規制の対象
 附属書に掲げられている種が規制対象となるが、野生動植物のみならず、剥製、その部分及びそれらを用いた毛皮のコート、ワニ皮のハンドバッグ、象牙細工等の加工品も規制対象となる。
(3)取引の例外措置
 付属書Iに掲げられている動植物であって、商業目的のため人工的に飼育により繁殖させたもの及びこの条約が適用される前に取得されたものについては、それらの旨の証明書があれば商業取引も可能となる。
(4)留保
締約国は、附属書に掲げる種について留保を付すことができ、留保した種については、条約の規定に従わなくともよいこととなっている。
(5)その他
 この条約は締約国間の取引のみならず、非締約国との間の取引についても締約国側は他の締約国間と同様の規制を行う義務がある。このため、非締約国に対してもこの条約にいう輸出許可書等とその発給要件が実質的に一致している書類を求める必要がある。 また、締約国は国内に管理当局と科学当局を設けることとなっている。
(6)種別
a)絶滅危惧種:個体数が著しく減少していったり、生育地の生育条件が著しく悪化していたり、あるいは生物自身が繁殖する能力をはるかに上回るスピードで採集されたりするなどの理由で、現在、最も絶滅のおそれがある生物をいう。
b)残存種:過去にたくさんあった生物のうち、生育環境の変化によって衰退し、特定の地域に生き残っているものをいう。
c)固有種:ある特定の地域のみにしか分布していない生物をいう。島に生息する生物は、海による隔離のため固有種が多くなる傾向がある。
d)希急種:いますぐ絶滅するというわけではないが、このまま放置すれば確実に絶滅の方向に向かうと考えられる生物をいう。
e)希少種:特に絶滅の恐れがあるということではないが、もともと生育している場所や個体数が非常に少ない生物をいう。
1.5 日本との関係
 日本は、同条約規制対象種中6種(クジラ6種)(マッコウ鯨、ツチ鯨、ニタリ鯨、ミンク鯨、イワシ鯨、ナガス鯨)につき持続的利用が可能なだけの資源量があるという客観的判断から留保している。これら鯨種については従来から附属書Iに掲載されていること自体科学的根拠がないと判断しており、今後かかる状況に変化がない限り、右留保撤回の考えはない。(なお、これまで留保していたタイマイ(べっ甲の原料)については、1992年末をもって輸入禁止とし、1994年7月末に留保を撤回した)
1.6 最近の動向
 1994年11月の第9回締約国会議で採択された新たな附属書掲載基準に基づき、1997年6月の第10回締約国会議でアフリカゾウやミンク鯨等の附属書改正が検討され、ボツワナ、ナミビア及びジンバブエのアフリカゾウが附属書IIに格下げされた。日本が提案したミンク鯨の附属書IIへの格下げ提案は、約半数の支持を得たが、採択のために必要な2/3に満たなかったため、否決された。
 第11回締約国会議は、2000年4月にケニアで開催された。前回同様、日本はミンク鯨等の附属書II格下げ提案を行っている。
1.7 ワシントン条約全体を巡る問題点及び課題
(1)日本としては、野生生物の持続的利用を確保しつつその保護を図っていくべきであるとの立場である。
(2)しかしながら、同条約締約国の中には保護が何よりも優先しなければならないとして、科学的根拠に基づいて議論するのでなく、ややもすると感情論に流されて保護のみを全面的に主張するケースが見られる。
(3)条約の適切な運用を確保するため、日本にとって比較的に関心の高い魚資源等の持続的利用を確保すべく同条約事務局及び関係国の理解と協力を得られるよう努めている。
2.日本の取組
 日本では、1992年に絶滅の危機に瀕している野生生物の種の保存を総合的に推進するため、「絶滅のおそれのある種の保存に関する法律」(種の保存法)が制定され、捕獲・流通等の規制、生息地等保護区の指定、保護増殖事業、調査研究等が行われている。
 また、「ワシントン条約」及び「渡り鳥等保護条約」に基づき国際的に協力して種の保存を図るべき絶滅のおそれのある種を国際希少野生動植物種にそれぞれ指定し、個体の捕獲・譲渡等や器官・加工品の譲渡等を規制している。国内希少野生動植物種については、必要に応じ、その生息・生育地を生息地等保護区として指定し、各種の行為を規制している。また、個体の繁殖の促進や生息・生育環境の整備等を内容とする保護増殖事業を積極的に推進することとしており、その適正かつ効果的な実施のために保護増殖事業計画を策定することとしている。
 2002年3月現在、国内希少野生動植物種としては、哺乳類2種、鳥類39種、爬虫類1種、両生類1種、汽水・淡水魚類2種、昆虫類4種、植物8種の計57種を指定している。また、国際希少野生動植物種として、約650分類群を指定している。
 保護増殖事業計画については、アホウドリ、トキ等について21の計画が策定されている。
 日本の絶滅のおそれのある野生生物の個々の種の生息状況等は、1991年に、「日本の絶滅のおそれのある野生生物(通称:レッドデータブック)−脊椎動物編−、同−無脊椎動物編−」として取りまとめられた。このレッドデータブックでは、野生生物の生息状況や生息環境の変化に対応するために定期的な見直しが必要であることから、レッドリスト(レッドデータブックの基礎となる日本の絶滅のおそれのある野生生物の種のリスト)の改訂作業を2000年4月に終了している。植物についても1997年8月にレッドリストをまとめ、2001年にレッドデータブックを作成した。
 これにあわせて、従来、種の存続の危機の度合いの高い順に「絶滅危惧種」、「危急種」、「希少種」と定性的に分類していたものを、「絶滅危惧I類」、「絶滅危惧II類」、「準絶滅危惧」と定性的要件と定量的要件を組み合わせたものに改訂し、順次新たなカテゴリーに移行した( 表2 参照)。これによると、日本に生息する哺乳類、両生類、汽水・淡水魚類の2割強、爬虫類、維管束植物の2割弱、鳥類の1割強の種の存続が脅かされている。
 国際自然保護連合(IUCN)が2000年に改訂したレッドリストによれば、絶滅のおそれある種として動物5,435種、植物5,611種が掲載されている(表3参照)。
<図/表>
表1 規制内容と対称動植物種
表1  規制内容と対称動植物種
表2 わが国における絶滅のおそれのある野生生物の種類
表2  わが国における絶滅のおそれのある野生生物の種類
表3 世界で絶滅のおそれのある種の状況
表3  世界で絶滅のおそれのある種の状況

<関連タイトル>
生物の多様性に関する条約 (01-08-04-16)
オゾン層保護に関する条約 (01-08-04-17)
バーゼル条約 (01-08-04-18)
砂漠化対処条約 (01-08-04-19)
ラムサール条約 (01-08-04-21)
ロッテルダム条約 (01-08-04-22)
南極条約 (13-04-01-13)

<参考文献>
(1)外務省:ワシントン条約、http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/kankyo/jyoyaku/wasntn.html
(2)環境庁(編):平成14年版 環境白書、株式会社ぎょうせい(2002年5月27日)、pp.206−208
(3)環境法令研究会(編):最新環境キーワード 第3版、(財)経済調査会(2000年8月10日)、pp.86-87
(4)地球環境研究会(編):三訂 地球環境キーワード事典、中央法規出版(2001年2月25日)、pp.84-95
(5)大沼保昭 藤田久一(編):国際条約集2002、有斐閣(2002年3月30日)、pp.386-390
(6)環境省自然環境局生物多様性センター:絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引に関する条約
(7)H.Hiraizumi's Birding Page :ワシントン条約詳細
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