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<概要>
 経済規模の拡大や科学技術の進歩につれて廃棄物の発生量が増大し、その内容も複雑化した。有害廃棄物もまた国境を越えて移動し、処分されるようになり、有害廃棄物の越境移動が地球的規模での国際問題として認識されるようになってきた。OECD 及び国連環境計画UNEP)でこの問題の検討が行われ、1989年3月、スイスのバーゼルにおいて、一定の廃棄物の国境を越える移動等の規制について国際的な枠組み及び手続等を規定した「有害廃棄物の国境を越える移動及びその処分の規制に関するバーゼル条約」が作成された。2002年6月現在締約国数は150か国、1国際機関(EC)である。日本は、1993年にバーセル条約への加入を果たし、これを実施するための「特定有害廃棄物等の輸出入等の規制に関する法律」及び関連法として「廃棄物の処理及び清掃に関する法律の一部を改正する法律」が同年に成立し、これらに沿った規制が実施されている。
<更新年月>
2002年09月   (本データは原則として更新対象外とします。)

<本文>
1.有害廃棄物の越境移動問題とバーゼル条約
1.1 有害廃棄物の越境移動
 人間の活動に伴って発生する廃棄物は、かつては発生した場所の近くで埋め立てなどの方法により処理されていたが、経済規模の拡大や科学技術の進歩につれて発生量が増大し、その内容も複雑化した。このためより処理しやすい場所を求めて、次第に遠方へと輸送されるようになっていった。このような状況の中で、多くの国々が国境を接し、人や物資が頻繁に移動しているヨーロッパでは、いわゆる有害廃棄物もまた国境を越えて移動し、処分されるようになってきた。例えばオランダでは国内で発生する有害廃棄物のうち、35%を輸出し、また、ドイツ(旧西ドイツ)もオランダよりも多い年間35万トンを輸出しているという。その輪出先は主としてドイツ(旧東ドイツ)、フランスなどのようである。一方米国においても少量ながらメキシコやカナダといった近隣諸国に有害廃棄物を輸出した実績がある。1980年代後半になると有害廃棄物の移動範囲がアフリカや南米の諸国に急速に広がかり始めた。例えばOECD(経済協力開発機構)諸国から開発途上国へ有害廃棄物を輸出しようとした100を超える事例のうち、半数以上が1986年以降のものであるという。
 このような地球的規模での有害廃棄物の移動については、対象となる廃棄物の有害性が極めて高い事例や受け入れ先の国において適正な処分がされない事例が発生している。具体的には、ノルウェーの会社が米国からギニアに有害廃棄物1万5000トンを持ち込んで捨てたことが、樹木などの枯死により明らかとなった事件、イタリアからナイジェリアヘ3900トンの有害廃棄物が化学品という名目で運び込まれ、捨てられていたことが現地新聞の報道で明らかとなった事件、また、米国フィラデルフィアで有害な焼却灰1万4000トンを積み込んだものの、カリブ海諸国、アフリカ、地中海沿岸などのどこでも受け入れを拒否され、2年余りも海上をさまよったうえ、インド洋で投棄したのではないかとされる事件などが生じている。有害廃棄物の越境移動が地球的規模での国際間題として認識されるようになってきた。
1.2 有害廃棄物の越境移動が生じる原因
 OECDが1989年に出したレポートによると原因としては、
(1) 有害廃棄物の発生国においてその処理費用が値上がりすること
(2) 発生国において特定の廃棄物の処分容量が減少すること
(3) 発生国において陸上処分し、将来環境汚染が生じた場合には、多額の被害補償が必要な可能性があること
(4) 発生国において有機溶剤など特定の廃棄物の処理に関する規制が強化されること
(5) 発生国において排出事業者による廃棄物の発生場所での処理に関する規制が強化されること
(6) 発生国において経済成長により廃棄物の発生量が増大すること
(7) 受け入れ国において複数の国が利用できる処理施設が存在すること
(8) 発生国においては最終処分されてしまう廃棄物から有価物を回収するため、取引される国際市場が存在すること
(9) 発生国よりも、他国の処理施設の方が近くにあること
が挙げられている。
 以上のうち、(1)から(5)までは、輸出された廃棄物が受け入れ国において適正な処理が行われず、環境汚染を引き起こす可能性の高い原因である。特に、(4)、(5)のような発生国での規制強化が原因で輸出される廃棄物は有害性の高いものが多く規制が緩やかな国での投棄を目的とすることが考えられる。
1.3 条約の成立
 この様な状況のもとOECD及び国連環境計画(UNEP)で検討が行われ、1989年3月、スイスのバーゼルにおいて、一定の廃棄物の国境を越える移動等の規制について国際的な枠組み及び手続等を規定した「有害廃棄物の国境を越える移動及びその処分の規制に関するバーゼル条約」(Basel Convention on the Control of Transboundary Movements of Hazardous Wastes and their Disposal)が作成された(1992年5月5日効力発生)。日本は、米国、東南アジア諸国等との間でリサイクル可能な廃棄物を資源として輸出入しており、条約の手続に従った貿易を行うことが地球規模の環境問題への積極的な国際貢献となるとの判断の下、1993年9月17日に同条約への加入書を寄託し、同条約は、同年12月16日に日本について効力を生じた。2002年6月19日現在締約国数は150か国、1国際機関(EC)である。
2.条約の改正
2.1 1994年3月の第2回締約国会議(ジュネーブ)において、
(i)  OECD諸国から非OECD諸国への最終処分目的での有害廃棄物の越境移動を直ちに禁止する、
(ii) OECD諸国から非OECD諸国への再生利用及び回収目的での有害廃棄物の越境移動を1997年12月31日までに段階的に削減し、同日付で禁止する、旨の締約国決定が採択された。
2.2 1995年9月の第3回締約国会議(ジュネーブ)では、先進国と途上国の間の有害廃棄物の越境移動について、概ね決定を条約化する趣旨で条約改正が行われた。改正の概要は以下のとおり(1999年12月3日現在改正条約を批准・加入している国は16か国、1国際機関(EC)。日本は未加入)。
(イ)条約附属書VII(7)に掲げるOECD又はECの構成国たるバーゼル条約締約国(附属書VII締約国)から非OECD諸国及び非EC諸国(非附属書VII国)への処分目的での有害廃棄物の越境移動を禁止する。
(ロ)附属書VII締約国は、非附属書VII国への再生利用等を目的とした有害廃棄物の越境移動を1997年12月31日までに段階的に削減し、同日付で禁止する。このような越境移動は、当該廃棄物がこの条約上有害な特性を有しないとされる場合には、禁止されない。
2.3 附属書VIIに含まれる国の範囲については、リサイクルが環境上適切に行われる国であれば非OECD及び非 EU諸国であっても附属書VIIに含めるべきか否かで様々な意見がある。現在のところ、附属書VIIに関する検討は進めていくが、条約改正の発効までは附属書VIIは改正しないこととなっている(改正条約は62か国の批准・加入により発効)。
3.バーゼル損害賠償責任議定書
3.1 バーゼル条約第12条では、「締約国は、有害廃棄物及び他の廃棄物の国境を越える移動及び処分から生ずる損害に対する責任及び賠償の分野において適当な規則及び手続を定める議定書をできる限り速やかに採択するため、協力する」旨の規定が定められている。
3.2 長年の検討の結果、1999年12月の第5回締約国会議(バーゼル)において、有害廃棄物の越境移動及びその処分に伴って生じた損害についての賠償責任と補償の枠組みを定めた「バーゼル損害賠償責任議定書」が採択された。主な内容は以下のとおり。
(イ)有害廃棄物の輸送手段への積載時(又は輸出国の領海を離れたとき)から当該廃棄物の処分完了時までに生じた、当該廃棄物の有害性から生じる人的損害、財産損害、逸失利益、回復措置費用、防止措置費用につき、当該廃棄物が処分者に渡るまでは条約上の通報者(基本的に輸出者)が、それ以後は処分者が、それぞれ厳格責任(いわゆる無過失責任)を負う。
(ロ)厳格責任については、責任限度まで保険等の財務的補償によりカバーされる。条約上の通報者は、輸入国への通報に際し、当該通報に係る越境移動が保険等によりカバーされている旨の証明を通報に添付する。
(ハ)本議定書の下でカバーされない損害費用が生じた場合に対応するため、既存のメカニズムを活用して、本議定書の下でカバーされない損害費用を適切に補填する追加的かつ補完的な措置をとることができる。
3.3 本議定書は、20番目の批准書等を寄託者が受領した後90日目の日に発効することとなっている。
4.バーゼル条約主要点の要旨
 本条約は、前文、本文29箇条、末文及び6の付属書から成っており、その主たる規定は次のとおりである。
(1) この条約に特定する廃棄物(「有害廃棄物及びその他の廃棄物」)の輸出には、輸入国(通過国を経由する場合には、原則として通過国も含む)の書面による同意を要する(第4条1並びに第6条3および4)。
(2) 締約国は、国内における廃棄物の発生を最小限に抑え、廃棄物の国内処分施設を確保する等の措置により、廃棄物の国内処分を促進する(第4条2(a)及び(b))。
(3) 廃棄物の不法取引を犯罪性のあるものと認め、この条約に違反する行為を防止し、処罰するための措置をとる(第4条3及び4)。
(4) 非締約国との廃棄物の輸出入を原則禁止とする(第4条5)。
(5) 廃棄物の南極地域への輸出を禁止する(第4条6)。
(6) 廃棄物の運搬及び処分は、許可された者のみが行うことができる(第4条7(a))。
(7) 国境を越える廃棄物の移動には、条約の定める適切な移動書類の添付を要する(第4条7(c))。
(8) 廃棄物の国境を越える移動が契約通りに完了することができない場合、輸出国は、廃棄物の引き取りを含む適当な措置をとる(第8条)。
(9) 廃棄物の国境を越える移動が発生者または輸出者による不法取引によって行われた場合、輸出国は、廃棄物の引取を含む適当な措置をとる(第9条)。
(10)締約国は、廃棄物の処理を環境上健全な方法で行うため、主として開発途上国に対して、技術上その他の国際協力を行う(第10条)。
(11)条約の趣旨に反しない限り、非締約国との間でも、廃棄物の国境を越える移動に関する二国間または多数国間の取決めを結ぶことができる(第11条)。
5.国内措置
 日本は、1993年にバーゼル条約への加入を果たし、これを実施するための「特定有害廃棄物等の輸出入等の規制に関する法律」(バーゼル国内法、バーゼル法)の制定、また、関連法として「廃棄物の処理及び清掃に関する法律」の一部改正を同年に行い、必要な法的措置を講じた。
 また、日本はOECD加盟国間のリサイクルを目的とした廃棄物の国境を越える移動の手続を規定するものとして、1992年3月に採択されたOECDの「回収作業が行われる廃棄物の国境を越える移動の規制に関する理事会決定」を受諾し、同決定の適用のある廃棄物の越境移動には必要な規制が行われている。1998年第4回締約国会議において、規制対象の範囲の明確化を図るため、同条約の規制対象及び規制対象外の廃棄物リストが新たな附属書として採択された。これを受け日本においては、同年11月に、バーゼル国内法の規制対象物となる「特定有害廃棄物等」に該当する物を定めた( 図1 )。
 このほか「廃棄物の処理及び清掃に関する法律」において廃棄物の輸出の場合の環境大臣の確認、廃棄物の輸入の場合の環境大臣の許可等廃棄物の輸出入についても必要な規制が行われている。
 バーゼル法に基づいて輸出が承認された有害廃棄物等の量は、毎年数百トンから1万数千トンとばらつきがあり、2000年の1月から12月までの1年間では7,448トンとなっている。相手国はベルギー、カナダ、ドイツ、韓国、米国等であり、品目としては、はんだくず、鉛蓄電池やレンズ付フィルム等であり、いずれも銅、鉛、錫等の回収・再生利用を目的としたものであった。一方、バーゼル法に基づき輸入が承認された量は毎年数千トンから1万トン程度であり、2000年の1月から12月までの1年間では10,231トンとなっている。相手国はオーストリア、フランス、オランダ、米国、韓国、シンガポール、フィリピン等で、品目としては、貴金属の粉、使用済み触媒、ガラスのくず等であり、いずれも銅、銀、鉛等の金属の回収等を目的とするものであった。
 また、バーゼル条約やバーゼル国内法等の周知を図り、廃棄物の不法輸出を防止するためのバーゼル国内法等説明会を全国各地で税関等の協力を得て開催するとともに、環境省・経済産業省において輸出入に関する事前相談を行った。
<図/表>
図1 有害廃棄物の種類
図1  有害廃棄物の種類

<関連タイトル>
生物の多様性に関する条約 (01-08-04-16)
オゾン層保護に関する条約 (01-08-04-17)
砂漠化対処条約 (01-08-04-19)
ワシントン条約 (01-08-04-20)
ラムサール条約 (01-08-04-21)
ロッテルダム条約 (01-08-04-22)
南極条約 (13-04-01-13)

<参考文献>
(1)外務省HP:バーゼル条約 (2002年8月)
(2)環境庁(編):平成14年版 環境白書、株式会社ぎょうせい(2002日5月27日)、pp.311-313
(3)環境法令研究会(編):最新環境キーワード 第3版、(財)経済調査会(2000年8月10日)、pp.98-99
(4)地球環境研究会(編):三訂 地球環境キーワード事典、中央法規出版(2001年2月25日)、pp.78-83
(5)大沼保昭 藤田久一(編):国際条約集2002、有斐閣(2002年3月30日)、pp.357-361
(6)環境省:平成14年度版環境白書
(7)環境省:(参考)バーゼル条約及びバーゼル法の制定について、ほか
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