<大項目> エネルギーと地球環境
<中項目> 地球環境問題
<小項目> 地球環境問題への取り組み
<タイトル>
生物の多様性に関する条約 (01-08-04-16)

<概要>
 生息環境の悪化、生態系の破壊により、野生生物の種の絶滅が過去にない速度で進行しつつある。野生生物種が、様々な人間の活動により生物の歴史上かつてないスピードで絶滅しつつある。野生生物種は人類と地球環境を共有し、生態系を構成する基本的な要素であるから、多様な生物が存続することは地球環境の健全性を示す指標といえる。生物資源の持続可能な利用を行うための国際的な枠組みを設ける必要性が国連等において議論されるようになり、1992年6月5日、リオ・デ・ジャネイロにおいて「生物の多様性に関する条約」が作成された。本条約は、多様な生物をその生息環境とともに保全し、生物資源を持続可能であるように利用し、及び遺伝資源の利用から生ずる利益を公正且つ衡平に配分することを目的としている。日本は、1993年この条約を締結し、同年12月29日発効した(2005年11月10日現在187か国及びECが締結)。条約に規定される生物多様性国家戦略については、1995年10月31日に地球環境保全に関する関係閣僚会議において、日本の「生物多様性国家戦略」が決定され、これに沿った施策が実施されている。
<更新年月>
2005年11月   (本データは原則として更新対象外とします。)

<本文>
1.生物の多様性の保全と生物の多様性に関する条約
1.1 生物の多様性保全の重要性
 「生物の多様性」とは地球上の生物の多様さとともにその生息環境の多様さをも示す言葉である。人間は生物を利用できる資源として、燃料、衣料品、装飾品、医薬品の材料として、自由に入手し利用してきた。しかし、人口の増加に伴い生物資源の利用がますます拡大するにつれ、生物資源が再生産できる限度を超え、生物の多様性の減少が見られるようになった。1996年、国連環境計画(UNEP)によると、野生生物種の数は確認されたもので約175万種、未知のものを含めれば700万から2000万種以上に及ぶと推定(図1参照)されているが、これらの野生生物種が、様々な人間の活動により生物の歴史上かつてないスピードで絶滅しつつある。世界で絶滅のおそれのある種の状況を表1に示す。表1はIUCN(International Union for the Conservation of Natural Resources、World Conservation Union)のSSC(Species Survival Commission)が絶滅のおそれがある種を分類別にまとめたものである。1996/98年、2000年、2004年と年次を負うに従って絶滅のおそれのある種の数は増加傾向にあり、ことに2000年から2004年にかけては、大部分の種で大幅な増加を示している。表1において、種の総数に対する絶滅のおそれのある種の数の割合が脊椎動物以外では比較的低い値であるのは、評価した種の数が少ないためである。評価した種の数に対する、絶滅のおそれのある種の数の割合は数十から100%の高い値を示している。
 生物種は一度絶滅すれば再び人間の手で作り出すことができない。種の絶滅はその種が持つ固有の価値を永久に喪失することを意味する。未知のまま絶滅していく種も、その種特有の価値を内在しており、その中には医薬品の開発や農産物の品種改良に役立つなどの人類の将来にわたる生存に不可欠な価値も含まれている。また、生物種は生物資源としての消費や生産の利用価値といった人類にとって直接的な価値のみならず、学術研究やレクリエーションなど非経済的利用価値、人々が野生生物や生態系に対して関心・共感を感じる存在価値といったものも含まれ、我々に様々な精神的なうるおいを与えてくれる。さらに、地球上のすべての種は、人類と地球環境を共有し、生態系を構成する基本的な要素となっていることから、多様な生物が生存できるということは地球環境の健全性を示す指標ともいえる。様々な生態系が構成するネットワークを維持・回復することにより効果的な野生生物保護が可能になることは言うまでもない。
 さらに、同じ種でも異なる遺伝子形質を持つ個体(個体群)が多く存在することは、人間にとって経済的な有用性の観点からだけでなく、将来の気候変動や病気の発生などに耐え、また、近親繁殖による活性の低下の危険を回避し、その種が存続していくためにも重要である。生物種の絶滅を防ぎ、多様性に富んだ生物の世界を子孫に引き継ぐことは、現代の人類が総力をあげて取り組むべき課題といえよう。
1.2 条約の作成・発効
 これまでの野生生物保護の国際的な取り決めとしてワシントン条約やラムサール条約などがあるが、これらは野生生物の国際取引の規制や湿地の保全のように特定の行為や特定の生息地のみを対象としている。生物の多様性を包括的に保全し、生物資源の持続可能な利用を行うための国際的な枠組みを設ける必要性が国連等において議論されるようになった。
 1987年の国連環境計画(UNEP)管理理事会の決定によって設立された専門家会合における検討、1990年11月以来7回にわたり開催された政府間条約交渉会議における交渉を経て、1992年6月5日、リオ・デ・ジャネイロにおいて「生物の多様性に関する条約」(Convention on Biological Diversity)が作成された。
 1992年6月、本条約は、リオ・デ・ジャネイロで開催された国連環境開発会議(UNCED)における主要な成果として「気候変動に関する国際連合枠組条約」と共に署名のために開放され、日本は同年6月13日にこの条約に署名した(署名開放期間内に、168か国が署名を行った)。
 日本は、1993年5月28日に、寄託者である国連事務総長に受諾書を寄託することにより、この条約を締結。同年12月29日発効した(2005年11月10日現在187か国及びECが締結。ただし米国は未締結)。
2.条約の意義
 本条約は、地球上の多様な生物をその生息環境とともに保全し、生物資源を持続可能であるように利用し、及び遺伝資源の利用から生ずる利益を公正且つ衡平に配分することを目的とするものであり、地球環境問題に関する国際協力を一層推進することを目的としている。
3.生物の多様性に関する条約締約国会議
(1)第1回締約国会議は1994年11月28日から12月9日まで、ナッソー(バハマ国首都)において開催された。同会合では、
(イ)1995年から97年まで締約国会議が取り組むテーマの選定(中期作業計画)、(ロ)科学上及び技術上の助言に関する補助機関の活動の開始、(ハ)事務局の運営機関の指定、
等条約の早期実施に必要な事項につき、一応の合意を見ることができた。
(2)第2回締約国会議は、1995年11月6日〜11月17日まで、ジャカルタにおいて開催され、本条約の実質的運営のため、
(イ)条約のためのクリアング・ハウス・メカニズム(CHM)の試行的作業(1996〜97年)の開始、(ロ)バイオセイフティの議定書の原案作成のためのオープン・エンディドの作業部会の設置、(ハ)条約の実施状況に関する国別報告書を1997年6月までに提出すること、(ニ)海洋生物多様性について、バランスの取れた包括的な検討を進めていくため、専門家会合の開催を含め、その中心的役割を事務局長に委ねた作業計画の採択、
等条約の実施体制に関し更なる進展が図られた。
(3)第3回締約国会議は、1996年11月4日〜11月15日まで、ブエノスアイレスにおいて開催された。同会合では、CHMを中心に着実な成果が得られたものの、地球環境基金(Global Environment Facility:GEF)に関わる財政問題についてはあまり進展はみられなかった。
(イ)CHMに関する地域ワークショップの開催、(ロ)条約第8条(j)「原住民の知識、工夫及び慣行」に関するワークショップの開催、(ハ)中期作業計画についての意見(締約国会議の活動、中期作業計画の全般的レビュー等)を、1997年3月31日まで提出すること、(ニ)第4回締約国会議の期日決定に伴い、国別報告書の提出期限が1997年6月30日から98年1月1日に延期、
等条約実施体制に関わる採択が行われた。
(4)第4回締約国会議は、1998年5月4日から15日まで、ブラチスラバ(スロバキア)において開催された。
 本会合では、
(イ)第3回科学上及び技術上の助言に関する補助機関会合(Subsidiary Body on Scientific, Technical and Technological Advice:SBSTTA)での勧告の報告、(ロ)CHMの実施状況のレビュー、(ハ)バイオセイフティー議定書の策定スケジュール、(ニ)条約8条(j)(原住民の知識)の運用(ホ)1999−2000年の条約予算
等について議論され、決議された。
 なお、条約予算について、日本は、1997−1998年予算に比べ増大しているにも拘わらず積算根拠が不明確であることから、留保を付した。
(5)第5回締約国会議は、2000年5月15日から26日まで、ナイロビ(ケニア)において開催された。
 本会合では、1999年2月にカルタヘナ(コロンビア)で開催された特別締約国会議の決議に基づき、バイオセーフティに関する議定書の標題を「生物多様性条約バイオセーフティに関するカルタヘナ議定書」とすることとされた。その他に採択された決議は
(イ)カルタヘナ議定書政府間委員会(ICCP、Intergovernmental Committee for the Cartagena Protocol on Biosafety)の作業計画、(ロ)遺伝資源へのアクセスと利益配分のガイドライン作成、(ハ)生物の多様性の構成要素をその生息地域内において保全するための措置に関する議論への原住民参加の重要性、(ニ)森林の生物多様性に関する専門家グループの設置、等である。
(6)第6回締約国会議は、2002年4月7日から19日までハーグ(オランダ)で開催された。この会議は条約発効後10年間の議論をもとに「対話から行動へ」として行動を展開していく転換点となった。本会合で採択された決議は
(イ)森林が有する生物多様性、(ロ)外来種、(ハ)遺伝資源へのアクセスと利益配分、(ニ)条約の戦略計画、等である。
(7)第7回締約国会議は、2004年2月9日から20日までクアラルンプール(マレーシア)で開催された。この会議で採択された決議は
(イ)山岳の生物多様性、(ロ)保護地域、(ハ)技術移転と技術協力、等である。18日、19日の閣僚級会合では、科学的評価の役割について意見交換され、クアラルンプール宣言が採択された。第8回締約国会議は2006年5月にブラジルにおいて開催の予定である。
4.条約の実施のための国内措置
(1)日本は、この条約の実施のために新たな立法措置を必要とせず、技術移転等に関する条約上の義務を履行するため、関係省庁から関係政府機関及び関係業界に対し、行政上又は政策上の措置を講じてきた。
(2)国家戦略の策定 条約第6条に規定されている生物多様性国家戦略については、その重要性に鑑み、生物多様性の保全と持続可能な利用の観点を含む既存の様々な基本方針、国家計画等に加えて、新たに策定することとし、1995年10月31日に地球環境保全に関する関係閣僚会議において、日本の「生物多様性国家戦略」が決定された。
5.条約運用上の主要論点
(1)基金設立問題
 第2回締約国会議においても途上国側は、この条約に定める資金供与のための制度的組織としてGEFを正式組織とすることについては、非常に抵抗し、第3回締約国会議において最終的結論を得るよう主張(新たな基金の設立を含む)。他方先進国は、資金の効率的運用、今後の増資との観点から既存のメカニズムであるGEFの活用を提唱。しかしながら、第2、3回締約国会議では、GEFを更に暫定的資金供与制度として継続することを決定した。
(2)バイオテクノロジーの安全性(バイオセイフティー)
 バイオセイフティー議定書は、遺伝子組み換え生物(Living Modified Organism:LMO)が環境に悪影響を与えることを防ぐため、対象のLMOの輸出入の国際取引等の手続きを定める。同議定書交渉は、1996年作業部会により進められてきたが、1999年2月の特別締約国会合で合意に至らず、交渉が継続しているがLMOの輸出入に関して意見の隔たりが大きい。
6.生物の多様性に関する条約要旨
 本条約は、前文、本文42箇条、末文及び2の附属書から成っており、その主たる規定は次のとおり。
(1)締約国は、生物の多様性の保全及び持続可能な利用を目的とする国家的な戦略又は計画を作成する(第6条)。
(2)締約国は、生物の多様性の保全及び持続可能な利用のために重要な生物の多様性の構成要素等を特定し、監視する(第7条)。
(3)締約国は、保護地域の設定等、生物の多様性の構成要素をその生息地域内において保全するための措置をとる(第8条)。
 また、右を補完するため、生息域外において保全するための措置をとる(第9条)。
(4)締約国は、生物の多様性への著しい悪影響を回避し又は最小にするため、事業計画案に対する環境影響評価等を行う(第14条)。
(5)締約国は、遺伝資源を研究・開発し又は商業的に利用して得た成果又は利益をその遺伝資源の提供国である締約国と公正かつ衡平に配分するため、適宜措置をとる(第15条)。
(6)締約国は、開発途上締約国に対し、生物の多様性の保全及び持続可能な利用に関連のある技術の取得の機会の提供及び移転を公正で最も有利な条件で行い又はより円滑なものにする。知的所有権によって保護される技術の取得の機会の提供及び移転については、知的所有権の十分かつ有効な保護を承認し及びそのような保護と両立する条件で行う(第16条)。
(7)締約国は、生物の多様性の保全及び持続可能な利用の分野における国際的な技術上及び科学上の協力を促進する(第18条)。
(8)先進締約国は、開発途上締約国が、この条約に基づく義務を履行するための措置の実施に要する増加費用を負担すること等を可能にするため、新規のかつ追加的な資金を供与する(第20条)。贈与又は緩和された条件により開発途上締約国に資金を供与するための制度を設ける(第21条)。国際連合開発計画、UNEP及び国際復興開発銀行の地球環境基金(GEF)は、この条約の効力発生から暫定的に、第21条に規定する制度的組織となる(第39条)。
<図/表>
表1 絶滅のおそれのある種の状況(1996年:動物、1998年:植物、以降)
図1 主要な生物分類群の確認されている種数と推定される種の総数

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<関連タイトル>
オゾン層保護に関する条約 (01-08-04-17)
バーゼル条約 (01-08-04-18)
砂漠化対処条約 (01-08-04-19)
ワシントン条約 (01-08-04-20)
ラムサール条約 (01-08-04-21)
ロッテルダム条約 (01-08-04-22)
南極条約 (13-04-01-13)

<参考文献>
(1)外務省:生物多様性条約(生物の多様性に関する条約:Convention on Biological Diversity(CBD))、http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/kankyo/jyoyaku/bio.html
(2)環境省(編):平成14年版 環境白書、株式会社ぎょうせい(2002年5月27日)、p.2-12、http://www.env.go.jp/policy/hakusyo/hakusyo.php3?kid=215
(3)環境法令研究会(編):最新環境キーワード 第3版、(財)経済調査会(2000年8月10日)、p.122-123
(4)地球環境研究会(編):三訂 地球環境キーワード事典、中央法規出版(2001年2月25日)、p.86-95
(5)大沼保昭、藤田久一(編):国際条約集2002、有斐閣(2002年3月30日)、p.370-376
(6)環境省自然環境局生物多様性センター:生物多様性関連の法律・条約、http://www.biodic.go.jp/biolaw/bio_law.html
(7)第1回生物多様性国家戦略懇談会(H13.3.5):資料4 生物多様性条約について、http://www.asahi-net.or.jp/?zb4h-kskr/biodiversity/TREATY.PDF、1/4
(8)IUCN:http://www.iucn.org/
(9)CBD(生物多様性条約事務局):http://www.biodiv.org/default.shtml
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