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<概要>
 温暖化防止京都会議は、1997年12月11日、難産の末、法的拘束力のある排出削減目標値を盛り込んだ議定書を採択し、11日間にわたる討議を終えた。世界数干人の学者で構成されるIPCCのワトソン議長から地球温暖化防止に対して原子力の有効性が指摘されるなど、今後の原子カ開発のあり方をめぐって、その動きが加速化される兆しがある。既に原子力発電に関しては、その推進がいわれている。一方、地球環境問題の解決に原子力(放射線)の利用が役立っていることも今後の地球環境を護る上で重要な役割を占めている。
<更新年月>
2005年07月   (本データは原則として更新対象外とします。)

<本文>
 地球環境問題が大きくクローズアップされ始めたのは、1988年のことである。この年の6月にカナダのトロントで開催された先進7か国サミットは、初めて地球環境問題を公式に採り上げた。現在、化石燃料の消費に起因する環境、自然、健康への影響が、地球規模で顕在化してきている。これによる影響も広域大気汚染と地球温暖化が相互に関連しながら発生している。
1.温暖化防止京都会議(COP3)の結論と原子力開発
 「気候変動枠組み条約第3回締約国会議」(「温暖化防止京都会議:COP3」)は1997年12月11日、難産の末、法的拘束力のある排出削減目標値を盛り込んだ議定書を採択し、11日間にわたる討議を終えた。採択された京都議定書によると、最大の焦点となっていた2000年以降の先進国の二酸化炭素などの温室効果ガス排出削減率は、1990年比5.2%となった。国別の温室効果ガス排出削減目標として2008年から2012年までの5年間の平均で達成することとなった。表1に先進国および市場経済移行国の温室効果ガス削減目標を示す。先進国の主な国別の排出量削減数値目標は、日本が6%、アメリカ7%、EU(欧州連合)8%、ロシア、ウクライナ、ニュージーランドの3カ国は削減率ゼロである。排出量を増やしていいのは、ノルウェー(1%増)、オーストラリア(8%)およびアイスランド(10%)である。
 この京都議定書によって、わが国が今後取り組まなければならないのは、
 (1) 現在より一層のエネルギー効率向上と省エネルギーの徹底
 (2) 新エネルギーの開発
 (3) 原子カ発電開発の推進(図1電源別の二酸化炭素排出量、参照)
などである。なお、京都議定書は2005年2月16日に発効し、我が国は地球温暖化対策推進法に基づき、国、地方公共団体、本業者及び国民がその責務をはたし、地球温暖化対策の推進を努めている。
 電力中央研究所が原子力、火力(石油、石炭、LNG)、水力、地熱、太陽光、風力など発電方式別にそれぞれのライフサイクルで発生する二酸化炭素総排出量を最新のデータを用いて算定し、各種電源別の二酸化炭素排出量を再評価した報告がある。すなわち、発電方式別に二酸化炭素排出量を見るとき、燃料が燃焼する際に出る二酸化炭素だけを考慮しがちだが、実際には燃料の生産や運搬のプロセスでもエネルギーが必要となり、二酸化炭素の発生を伴う。火力以外の発電方式からもCO2が出ることをきちっと評価したものでなければならない(参考文献(8)参照)。最終結果では、双方に若干の数値の相違がある。
 原子力開発については、地球温暖化防止に向けた政策作りの中で、4186億kwhの発電電力量に対応する「原子力発電容量5755〜6185kWの実現、すなわち2010年までに新たに10〜13基程度の原子力発電所の増設を具体化していくことが課題となっている。現在、実用化されている原子力エネルギーシステムは原子力発電(主として軽水型原子力発電)であるが、実用化されている発電システムの内で、燃料の安定供給が可能であり格段に二酸化炭素の排出が少ない(図1)。電気事業界では、このことを考慮に入れて、原子力発電を含むベストミックスを構築しようと努力している。
2.大気汚染の現状
 わが国の大気汚染の現状として、浮遊粒子状物質(Suspended Particulate Matter,SPM)濃度の年平均値は、図2に示すように近年、ほぼ横ばいが続いている。また、二酸化硫黄(SO2)による大気汚染は、高度経済成長期の化石燃料の大量消費によって急速に悪化したため、総量規制等様々な対策が講じられた。この結果、SO2濃度の年平均値は昭和40、50年代に比べて著しく減少している(図3参照)。
 一方、隣国中国は、世界最大のSO2排出国であり、1997年におけるSO2の総排出量は2,346万トンと報告されている。これは、12億4千万の人口を抱えエネルギーの79%を石炭に依存し、特に中国南西地域の石炭中の硫黄含有量が大きく反映しているものと推定される。エネルギー消費量はわが国の約1.5倍であるが、SO2排出量は20倍以上である。浮遊粒子状物質について中国は、西部、北部奥地に大砂漠を抱えているので、自然起源によるものの占める割合が、わが国の場合に比べて遙かに大きい。しかし、黄砂は飛来途中で酸性雨の原因物質を吸着する効果があると言われていて、わが国の場合は黄砂による直接の汚染と、黄砂による酸性雨の負荷の軽減とは相殺しているとも言われている。現在は、SO2と浮遊粒子状物質が大気汚染として重要だが、今後NOx、O3、VOC(Volatile Organic Compound)などが問題となる。
3. 放射線利用による環境問題解決への寄与
 環境汚染は今や一地域にとどまらず、地球全体の問題になってきている。火力発電所などからの排煙中に含まれる硫黄酸化物や窒素酸化物が原因で生じる酸性雨による自然破壊や人々の健康への影響が深刻である。これらの環境汚染問題の解決を目指した技術開発が進められている中で、放射線を用いた方法も有力な解決方法の一つとして技術的、経済的観点からの研究開発が行われている。電子ビーム排煙処理技術は、わが国において長期にわたり精力的に研究開発が進められている。
 電子ビーム排煙脱硫技術について、わが国では長期にわたり精力的に研究開発が進められた結果、実用規模プラントによる火力発電所排煙処理の実証試験を実施するところまで、実用化研究は進展している。排煙は、そのほとんどが窒素、酸素、炭酸ガス、水から構成され、数百ppmの硫黄酸化物、窒素酸化物が含まれている。この排煙が電子ビーム照射されると、電子ビームのエネルギーの大部分は排煙の主成分分子に吸収され、分子自身はイオン化される。その後、これらのイオンは中和反応で中性分子になるが、その過程で反応性に富んだラジカルを生成する。このラジカルによって硫黄酸化物は酸化され硫酸ミストへ、また、窒素酸化物は酸化され硝酸ミストへ転換される。生成した硫酸ミスト、硝酸ミストは電子ビーム照射の手前で添加したアンモニアと反応し、粉末状の硫安、硝安に転換する。確立された電子ビーム排煙処理の基本プロセスを図4に示す。捕集生成物は窒素肥料として有効利用することができる。電子ビームによる石炭燃焼排煙処理技術に関しては、中部電力(株)新名古屋火力発電所では実用化試験を、中国の成都、ポーランド、ブルガリアではパイロット試験を日本原子力研究所(現日本原子力研究開発機構)の協力により実施している。
 放射線を用いた環境保全技術では、廃水中に含まれる有機環境汚染物質をガンマ線及び電子ビームで分解する技術、下水放流水及び下水汚泥中の病原菌を電子ビームで殺菌する技術、石灰燃焼排煙中に含まれる硫黄酸化物や窒素酸化物を電子ビームにより除去する技術、排ガス中に含まれる有害なベンゼンやトリクロロエチレンなどの揮発性物質を電子ビームでエアロゾル化し、分解して無害化する技術を日本原子力研究所(現日本原子力研究開発機構)が開発している。
<図/表>
表1 先進国および市場経済移行国の温室効果ガス削減目標
表1  先進国および市場経済移行国の温室効果ガス削減目標
図1 各種電源別のCO
図1  各種電源別のCO
図2 浮遊粒子状物質濃度の年平均値の推移
図2  浮遊粒子状物質濃度の年平均値の推移
図3 二酸化硫黄濃度の年平均値の推移
図3  二酸化硫黄濃度の年平均値の推移
図4 電子ビーム排煙処理の基本プロセス
図4  電子ビーム排煙処理の基本プロセス

<関連タイトル>
地球の温暖化問題 (01-08-05-01)
温室効果ガス (01-08-05-02)
中国における環境保全 (01-08-01-18)
電子ビームを利用した環境保全技術 (08-03-03-01)
放射線照射による下水処理技術 (08-03-03-02)

<参考文献>
(1) 岡田 俊郎:地球環境問題と原子力の役割、原子力eye、44(3)、p11-14、日刊工業出版プロダクション(1998年3月)
(2) 日刊工業出版プロダクション(編集発行):原子力eye、44 (2)、座標軸、p34-35(1998年2月)
(3) 内山 洋司:温暖化問題と原子力発電の寄与、原子力eye、44(3)、p15-19、日刊工業出版プロダクション(1998年3月)
(4) 小林 料:電気事業の地球環境問題への取り組み、原子力eye、44(3)、p20-21、日刊工業出版プロダクション(1998年3月)
(5) 環境省:環境白書 各論 平成16年版、(2005年6月)
(6) 溝口次夫:21世紀の地球環境を左右する中国の大気汚染の現状、地球環境研究センター、10(9)、(1999)
(7) 徳永興公:放射線を用いた環境保全技術開発の現状と実用化へ向けての今後の展開、原子力eye、44(8)、日刊工業出版プロダクション(1998年8月)
(8) 電力中央研究所:ライフサイクルのCO2排出量を電源別に求める、原子力eye、47(2)、日刊工業出版プロダクション(2001年2月)
(9) 総合資源エネルギー調査会総合部会/需給部会報告書:今後のエネルギー政策について(2001年7月)
(10)電気事業連合会:「原子力・エネルギー」図面集2004-2005 第2章「地球規模の環境問題」
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