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<概要>
 平成5年(1993年)に制定された「環境基本法」は、環境の保全についての基本理念を定め、環境の保全に関する基本的な施策の方向性を示すものである。環境基本法制定以前の環境政策は、昭和42年(1967年))制定の「公害対策基本法」および昭和47年(1972年)制定の「自然環境保全法」の二つの基本的な法律の枠組みに従って行われてきたところであるが、環境基本法の制定により、公害と自然の二つの枠組みを包括した、総合的な環境政策の枠組みが与えられた。
<更新年月>
2002年10月   (本データは原則として更新対象外とします。)

<本文>
1.はじめに
1.1 制定の背景
 日本の環境行政は、昭和42年(1967年)に制定された公害対策基本法、昭和47年(1972年)に制定された自然環境保全法を基本として推進され、公害防止、自然環境保全のため一定の役割を果たしてきた。
 しかしながら、今日の環境政策の対象領域の広がりに対処し、特に大都市における窒素酸化物による大気汚染、および生活排水による閉鎖性水域等における水質汚濁などの都市・生活型公害問題、増え続ける廃棄物問題、地球温暖化およびオゾン層の破壊などの地球環境問題等に対し適切な対策を講じていく必要がある。そのためには、規制的手法を中心とする公害対策基本法、自然環境保全法の枠組みでは不十分であり、国、地方公共団体はもとより、事業者、国民の自主的取組などすべての組織が主体性を持って対応すること、多様な手法を適切に活用することによって、経済社会システムの在り方や行動様式を見直していくことが必要とされた。
1.2 国会における審議経緯
 政府は上記のような背景から、平成4年(1992年)10月20日の中央公害対策審議会および自然環境審議会の答申「環境基本法制のあり方について」を踏まえ、地球環境時代に対応した新たな環境政策を総合的に展開していく上で大きな礎となる「環境基本法案」および「環境基本法の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律案」を、平成5年(1993年)3月12日に閣議決定し、第126回国会に提出した。
 第126回国会においては、衆議院で約34時間にわたる審議の後、政府案が「環境の日」を定める1条項を追加し、5月20日の本会議において、全会一致で可決された。これを受け、参議院では約24時間の審議の後、衆議院で修正された案に、「国及び地方公共団体の協力」について定める1条項を追加し、同法案は環境特別委員会において全会一致で可決された。しかし、6月18日、衆議院の解散に伴い、成立の寸前で廃案となった。
 環境にやさしい経済社会を作るという法案の重要性にかんがみ、政府は、第126回国会における審議を尊重し、その過程で追加された条項を取り込んだ形で、再び同法案を閣議決定、第128回国会に提出した(9月28日)。
 第128回国会では、衆・参両議院で合計約11時間にわたる審議が続けられ、11月12日、政府案が参議院本会議において、全会一致で可決され成立した。これにより、「環境基本法」および「環境基本法の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律」が11月19日、公布、施行された(平成5年11月19日法律第91号)。
1.3 環境基本法の概要
 環境基本法は第一に、環境の保全の基本理念として、(1)環境の恵沢の享受と継承、(2)環境への負荷の少ない持続的発展が可能な社会の構築、および(3)国際的協調による地球環境保全の積極的推進という三つの理念を定めている。また、それにともない国、地方公共団体、事業者および国民の環境の保全に係る責務を明らかにしている。
 第二に、環境の保全に関する施策に関し、まず施策の策定および実施に係る指針を明示し、環境基本計画を定めて施策の大綱を国民の前に示すものとしている。また、環境基準、公害防止計画、国等の施策における環境配慮、環境影響評価の推進、環境の保全上の支障を防止するための規制の措置、環境の保全上の支障を防止するための経済的な助成又は負担の措置、環境の保全に関する施設の整備その他の事業の推進、環境への負荷の低減に資する製品等の利用の促進、環境教育、民間の自発的な活動の促進、科学技術の振興、地球環境保全等に関する国際協力、費用負担及び財政措置など基本的な施策について規定している。
 第三に、国および地方公共団体による環境審議会の設置について規定している。
2.環境基本法の構成
 環境基本法の目次とその概要を 表1 に示す。本法律は3つの章および附則から成り立つ全体46条からなり、附則は施行期日・経過措置等を定めている。第一章が総則、第二章が環境の保全に関する基本的施策、第三章が環境の保全に関する審議会その他の合議制の機関等となっている。
2.1 各条項の要点
 以下、その主たる規定を示す。
(1)目的(第1条)
 環境の保全についての施策を総合的かつ計画的に推進し、現在及び将来の国民の健康で文化的な生活の確保に寄与すると共に人類の福祉に貢献することを目的とする。
(2)定義(第2条)
 「地球環境保全」とは「人の活動による地球全体の温暖化又はオゾン層の破壊の進行、海洋の汚染、野生生物の種の減少、その他の地球の全体又はその広範な部分の環境に影響を及ぼす事態にかかる環境の保全であって人類の福祉に貢献すると共に国民の健康で文化的な生活の確保に寄与するもの。」
(3)基本理念(3-5条)。
 (イ)環境の保全は、人類存続の基盤たる環境が将来にわたって維持されるように行われるべきこと。
 (ロ)環境の保全は、環境への負荷の少ない持続的発展が可能な社会の構築等を旨として行われるべきこと。
 (ハ)地球環境保全は国際的強調の下で積極的に推進されるべきこと。
(4)環境基本計画(第15条)
 環境保全施策の総合的・計画的な推進を図るため、環境基本計画の策定及びその手続き等について定めること。
(5)国の施策(第19-31条)
 (イ)国の施策の策定・実施に当たっての環境配慮
 (ロ)環境影響評価の推進
 (ハ)環境の保全上の支障の防止のための経済的措置
(6)地球環境保全等に関する国際協力等(第32-35条)
 (イ)国は、地球環境保全に関する国際協力を推進するために必要な措置を講ずるように努めるほか、開発途上地域等の環境の保全に関する国際協力を推進するために必要措置を講ずるように努める。
 (ロ)国は、地球環境保全等に関する環境の状況の監視、観測等の効果的な推進を図るための国際的連携を確保するように努める。
 (ハ)国は、地方公共団体又は民間団体等による地球環境保全等に関する国際協力のための活動の促進を図るために必要な措置を講ずるように努める。
 (ニ)国は、国際協力の実施に当たって地球環境保全等に配慮するように努めなければならない。国は、本邦事業者に対し、海外の事業活動において地球環境保全等に適正に配慮するために必要な措置を講ずるように努める。
(7)審議会等(第41-46条)
 中央環境審議会、都道府県環境審議会及び市町村環境審議会についての規定。
 なお、平成6年12月16日(1994年)には環境基本法第15条第1項の規定に基づき、政府全体の環境の保全に関する基本的な計画として環境基本計画が策定され、閣議決定された。この環境基本計画では、「環境影響評価等」において「国等の施策や事業の策定・実施に当たって、あらかじめ環境保全上の配慮を行うことは、総合的な環境保全を図るために極めて重要である。」とされ、環境保全上の配慮を一層徹底するため、(1)国の施策の策定等に当たっての環境保全上の配慮、(2)公共事業の計画段階等における環境保全上の配慮、(3)環境影響評価の実施といった施策を推進することとした。
 また、平成12年12月22日(2000年)には21世紀初頭における環境政策の基本的な方向と具体的な取組を示した新環境基本計画が策定され、「循環」、「共生」、「参加」、「国際的取組」の4つを長期的目標に掲げ、環境、経済、社会の3側面から総合的に捉える総合的アプローチや、規制的手法、経済的手法等の各種政策手段を用いて11の重点分野(地球温暖化・循環型社会・交通・水循環・化学物質・生物多様性・環境教育・環境配慮・環境投資・地域づくり・国際的寄与)に関する戦略的プログラムを提示した( 図1 参照)。
<図/表>
表1 「環境基本法」の目次と概要
表1  「環境基本法」の目次と概要
図1 新環境基本計画の構成
図1  新環境基本計画の構成

<関連タイトル>
環境影響評価法 (01-08-01-03)
地球サミット(UNCED) (01-08-04-08)

<参考文献>
(1)総務省 行政管理局:法令データ提供システム
(2)外務省:分野別外交政策
(3)環境省:環境白書情報、http://www.env.go.jp/policy/hakusyo/index.html
(4)環境省:新環境基本計画、http://www.env.go.jp/policy/kihon_keikaku/plan/kakugi121222.html
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