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<概要>
 スウェーデンのエネルギー政策の2000年レビューチームは、2000年1月31日から2月4日までスウェーデンを訪問し、政府役人、エネルギー供給者及び消費者と議論をした。訪問の際得られた情報を、スウェーデン産業・雇用・通信省提供のデータに基づくIEAの統計分析によって補い、報告書としてまとめている。ここでは、その報告書を基に、スウェーデンの特異な原子力政策と関連する問題について、今後の展開に関係しそうな事項を要約した。
<更新年月>
2004年01月   (本データは原則として更新対象外とします。)

<本文>
1.エネルギー政策
 スウェーデンは、南バルト海から北極海に伸びるヨーロッパで4番目に大きい国である。陸地面積のほぼ90%は、森または森林地帯、沼、沼地と湖で、約8%が農地、3%が集落地である。880万の人口の大部分は南半分に、その約90%は市街地に住んでいる。
 スウェーデンは立憲君主制の国で、国会(議会)は直接選挙による比例代表で構成される一院制である。議会には三つの主要な政党の他いくつかの政党がある。政府は、いくつかの政党の連合によってつくられている。スウェーデンには24の州があり、中央政府によって任命される知がいて一般投票で選ばれた州議会を持っている。
 1997年に、政党間の合意に従って、議会は原子力発電の将来とエネルギー・システムの開発に関する重要なエネルギー政策決定を行った。政府は、全ての原子力発電所が2010年までに段階的に廃止されるならば、雇用、福祉、競争力および環境に関して問題が起こるだろうと述べている。最後の原子炉が電力供給から外される最後の年は、エネルギー・システムの転換に十分な時間を見込むため指定されなかった。Barseback原子力発電所の2基の設置は不適当と思われた。Barsebackの1基の原子炉は、1999年11月に閉鎖された。
 それ以上の閉鎖の条件は持続可能なエネルギー供給(政府の法案1996/97:84)に関する法律に盛り込まれた。すなわち、より効率の良いエネルギーの使用、電力の節約、電力からの転換、他のエネルギー源からの電力供給の増加が、原子炉閉鎖が起こった際の電力不足を補償しなければならない。条件が満たされるならば、Barseback 2は2001年7月1日までに閉鎖が計画される。現政府の任期が終わる前に、議会は残りの原子炉の将来に関して決定することを要求している。
1.1 エネルギー政策プログラム
 議会の決定に従って、91億SKr(スウェーデンクローネ、1SKr=0.121US$(1999年))の資金を持つ大規模なエネルギー政策プログラムが実施されている。
・長期(7年)の研究・開発・実証プログラムは予算56億SKrで、バイオ燃料、エタノール、風力、太陽その他に集中して、再生可能エネルギー源と新エネルギー技術を開発するものである。プログラムの主要な目標は、原子力と化石燃料に対する経済的な代替となるよう再生型エネルギーのコストを下げることである。まず、バイオ燃料の供給増加、風力発電、水力発電熱、貯蔵などの技術開発に力が入れられている。長期的には、燃料電池とバッテリー技術、人工の光合成、光起電力技術(太陽光発電)および太陽熱暖房に力が入れられている。
・短期(5年)の補助的プログラムは予算35億SKrで、エネルギー効率を改善し、バイオ燃料、風力および小規模水力発電のような再生可能エネルギー源からの電力生産を推進しようとするものである。エネルギー効率へのサポートは、電気暖房を地域暖房に転換すること、技術獲得、情報、ラベルをつけることなどからなっている。
 プログラムは、再生可能エネルギー資源からの発電および電力の使用を減少させることで、原子力発電の不足分を補償することによって、より多くの原子炉の閉鎖条件に対応することを目的としている。
 エネルギー政策の主要な責任は、産業・雇用・通信大臣にある。スウェーデンエネルギー庁(Swedish National Energy Administration:SNEA)は、1998年1月1日に設立された、それは大部分のエネルギー政策プログラムを実施し、全体としてプログラムを調整する責任を持つ。1999年には、産業・雇用・通信省は国の予算の15%、約1150億SKrの予算(エネルギーに関連した予算17億SKr)を持ち、370人の人員を擁していた。55の会社と4つの公共事業は、完全に、または部分的に国家の所有である。これらのうち、26は産業・雇用・通信省の所掌範囲にある。
 スウェーデンにおけるエネルギー政策の展開(略年表)を表1に示す。
2.エネルギーと環境
 1次エネルギー供給の約3分の2は石油と原子力によって供給される。可燃性の再生型可能エネルギーおよび廃棄物は約15%、水力は約12%を占める。残りは石炭、ガス及およびピート(泥炭)である(図1)。エネルギー供給の35%(大部分は石油)は輸入される。
 1998年の最終エネルギー消費は、石油換算35.3百万トンで、1990−97年間のGDPの年成長率2.9%および1997−98年間のそれの0.8%と比較して、1997年から0.5%減少した。
 1998年に、石油は最終消費の約40%、電気は約30%、可燃性再生型及び廃棄物エネルギーは約15%、熱が約10%を占める(図2)。1998年に、産業は約42%の最終エネルギー消費、輸送は約22%を占める。産業の需要は、1990年以来約7%上昇しているが、1973年以来約9%減少している。輸送の需要は、1990年以来約7%上昇し、1973年以来45%上昇している(図3)。
2.1 温室効果ガス
 京都議定書では、ヨーロッパ連合(EU)は、2008〜2012年までに、個別にまたは共同で6種の温室効果ガスの排出を1990年の水準より8%低減させることに合意している。EUとメンバー国は、京都議定書第4条共同達成の条項を使って、一緒にこの目標を達成する。
 1998年6月、EUの環境大臣会議で、スウェーデンは目標期間2008〜2012年間の温室効果ガス排出の増加を1990年の水準の4%以上に制限することに合意した。議会は、1990年と2000年の間に二酸化炭素排出を安定化させ、その後は排出を減少させるというより野心的な目標を設定した。
 スウェーデンは、実質的に石炭火力発電をやっていないし、原子力発電を廃止する政策をとり、既に多くの再生可能エネルギーとエネルギー効率対策を実施している。政府は、他の国と比較して、追加の二酸化炭素削減対策の限界コストはスウェーデンにとって高価に過ぎると考えている。
 電力生産は、スウェーデンでは全二酸化炭素排出量の約5%を排出している。二酸化炭素排出の最大の部分(42%)は、輸送部門に起因している。2000年までの国内の電力生産で計画される不足分を輸入電力によって補償されるならば、輸入電力からの二酸化炭素排出はスウェーデンの排出に含まれていないから、1990〜2000年までに3.6%増加すると評価される。もし国内の石油専焼発電が使われ、不足分を国内で作れば、排出は6.7%増加する。
 二酸化炭素削減の目標を達成する主要な戦略は、化石燃料の需要を制限して、エネルギーのより良い管理とより効率的利用とともに、再生可能エネルギーに置換することである。効率を改善するための手段は、家庭、産業と他の建物等の中にある電気効率の良い製品、プロセスおよびシステムの技術獲得と開発を含む。再生型エネルギーの使用を増やす手段は、主にバイオ燃料の使用を増やすことに集中している。約5%の発電だけが化石燃料に基づくので、他の国と対照的に、スウェーデンには電気部門の変化を通して温室効果ガスを減らすというオプションは殆ど意味がない。
2.2 エネルギー税制
 経済的手段は、1970年代中頃にスウェーデンの環境政策で導入された。その使用は、拡大し、次第に洗練されてきた。3つの異なる徴税が、エネルギー製品に対して行われている。(1)エネルギー税、(2)二酸化炭素税、および(3)硫黄税である。エネルギー税は化石燃料と電力に課税されて、数年間徴収されてきた。二酸化炭素税および硫黄税は、1991年に導入された。ガソリンとディーゼル油に対するエネルギー税は、環境分類(environmental class)によって差がつけられている。
 二酸化炭素税率は、現在排出される二酸化炭素の量(キログラム)につき0.37SKrである。
また、硫黄税は燃料中の硫黄の量で徴収され、キログラムにつき30SKrの税率である。さらに、窒素酸化物排出に関する環境の料金が、1992年以後徴収されてきた。
 付加価値税(VAT)は、航空機の航行用燃料を除いて、各種のエネルギー消費に関して徴収される。税率は、25%である。
 燃料に対するエネルギー税で二重課税を避けるルールが適用される。電力生産に使われる燃料には控除が認められ、電力への課税は消費者レベルで課税される。原子力発電電力は、キロワット時当り0.022SKrの率で課税される。地域暖房に対しては入力税、すなわち、税は熱発生で使われた燃料量に課税され、消費者レベルでは課税されない。
 製造工業において使用されるエネルギー製品はエネルギー税を免除され、二酸化炭素税が一般の税率の50%の割引率で徴収される。エネルギー集約型の活動には更に減税が認められる。電力生産では、エネルギーと二酸化炭素税が免除されている。
 政府委員会は、エネルギー税制をレビュー中である。表2にエネルギーと炭素税を示す。表3に製造業の消費燃料に対するエネルギー税を示す。
 典型的な環境適応エネルギーシステム(Environmentally Adapted Energy System: EAES)プロジェクトは、プラントの再生可能燃料への転換、地域暖房流通の革新、建物のエネルギー効率、ゴミ捨て場のガスの使用とこれらを結合したプロジェクトを含む。将来の活動は、新技術、例えば熱電力結合生産、産業プロセスから廃熱の利用、風力と太陽エネルギーの応用を包含することになっている。
 プログラムの地理的な地域及び範囲は広げられて、排出権取引、共同実施、クリーン開発機構を含むと期待されている。表4にバルチック海領域と東欧で採用されている環境適応エネルギーシステムへの投資の程度と排出削減の様子を示す。
2.3 原子力発電用原子炉
 スウェーデンの発電用原子炉は現在11基、8基は1972〜1985年に設置されたBWR、3基は1975〜1983年に設置されたPWRである(表5)。1996年の稼働率は84%、1997年の稼働率は80%であった。1996年の高い稼働率は、極端な渇水のため水力を原子力で補填したものである。1998年の原子力発電の発電に占めるシェアは47%である。原子力に対する政策を明確にする必要がある。
 原子力エネルギーに関する現在の政策は、国際的な市場とコスト・効率に基づく政策枠組みの開発を妨げているかもしれない。政策は、明らかにされる必要がある。競争的圧力のため、電気供給産業は次の20年間に原子力の容量を大きく減ずる事を期待している。
 政府は、既存の原子力をその原子炉の寿命に基づいて段階的に廃止させることを検討しなければならない。今でも、例えば、原子炉の閉鎖は、閉鎖が産業の競争力に害を与えないという特別の条件の下でのみ、政府が要求することができるに過ぎない。閉鎖の基準はまだ確立されない。
 ニつのコンサルタント会社が指名されて、短期のエネルギー政策プログラムの成果を評価しており、Barseback 2号原子炉を閉鎖する条件を満たすかどうかを決定する根拠として政府によって使用されるデータが入手可能である。これは計画されているエネルギープログラムの全体としての評価プログラムの一部である。政府はBarseback 2号原子炉閉鎖に関する項目の評価を2001年の予算法案の中に示すであろう。
3.電力需要と供給
 スウェーデンは、電力集約型の国である。電力消費は、1998年、約10.7TWhの送電ロスと揚水用電力を含めて、約144TWhに達した。家庭部門は31%、産業は45%、通商とサービス(輸送を含めて)21%サービス、3%サービス(農業を含む)である。1997年の一人当たり電力はほぼ16,000kWhで、OECDの中ではノルウェー、アイスランドとカナダに次いで4番目に高く、フランス、ドイツおよびイギリスのような他の工業化されたヨーロッパの国の二倍に相当する。
 1998年、全体の45%に達する産業の使用は、小数のエネルギー集約型部門(パルプと紙産業、鉄鋼産業と化学工業を含む)に集中している。
 家庭の電力使用は、色々の要因の中で、暖房用の電気の使用により外気によって変動する。
 供給については熱と水力の境界に位置し、スウェーデンの北部及びノルウェーからの比較的安い水力供給にアクセスできる。非常に高価な原子力は、国内で利用でき、熱(石炭またはガス)ベースの電力はデンマークからそして少量がドイツから輸入される。貯水量が季節的に、そして、年々変動するので、地域では水力と他の電源の間で相補性があり、スウェーデンの燃料混合に反映されている。約1.3TWhは、1998年にバイオ燃料から作り出された。石油とガスは主に予備容量として使われ、基準(ベースロード)電力は水力と原子力によって主に提供される。水力は、最も安いオプションである。そして、原子力、産業の熱電結合発電、地域暖房の熱電結合発電、石炭、石油、ガスタービンと続く。
<図/表>
表1 スウェーデンにおけるエネルギー政策の展開
表1  スウェーデンにおけるエネルギー政策の展開
表2 スウェーデンにおけるエネルギー税と炭素税(2000年1月)
表2  スウェーデンにおけるエネルギー税と炭素税(2000年1月)
表3 スウェーデンにおける製造業の燃料消費に対するエネルギー税(2000年1月)
表3  スウェーデンにおける製造業の燃料消費に対するエネルギー税(2000年1月)
表4 バルチック海領域と東欧で採用されている環境適応エネルギーシステムへの投資と排出削減
表4  バルチック海領域と東欧で採用されている環境適応エネルギーシステムへの投資と排出削減
表5 スウェーデンにおける運転中の発電用原子炉
表5  スウェーデンにおける運転中の発電用原子炉
図1 スウェーデンにおける1次エネルギー供給の推移(1973−2010)
図1  スウェーデンにおける1次エネルギー供給の推移(1973−2010)
図2 スウェーデンにおける燃料毎の最終エネルギー消費の推移(1973−2010)
図2  スウェーデンにおける燃料毎の最終エネルギー消費の推移(1973−2010)
図3 スウェーデンにおける部門別の最終エネルギー消費の推移(1973−2010)
図3  スウェーデンにおける部門別の最終エネルギー消費の推移(1973−2010)

<関連タイトル>
IEAによる米国エネルギー政策のレビュー(2002年)(1)政策の概観 (01-07-06-01)
IEAによるカナダのエネルギー政策のレビュー(2000年) (01-07-06-09)
IEAによるフランスのエネルギー政策のレビュー(2000年) (01-07-06-10)
バーセベック原子力発電所廃止をめぐる動き (14-05-04-08)

<参考文献>
(1)IEA:Energy Policies of IEA Countries− ’Sweden’− 2000 Review、OECD/IEA(2000)
(2)Energy Policy of IEA Countries, Sweden2000 Review,OECD/IEA(2000),p.6-15,p.17-27,p.31-36,p.61-63,p.87-95
(3)(財)日本エネルギー経済研究所:ジェームス・イーストコット、スウェーデン(海外エネルギー動向)
(4)Scandinavica.com:スウェーデンの地図
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