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<概要>
 独立国家共同体(CIS:Commonwealth of Independent States)は、旧ソ連邦を構成していた15共和国のうち、バルト3国を除く、12か国によってつくられている国家連合で、運転中の原子力発電所は、2011年1月現在44基・合計出力3,842万kWで、基数・出力とも世界全体の約1割を占める。
 ロシアでは、原子力発電開発が活力を取り戻しつつあり、2001年12月には、ソ連崩壊後CIS諸国内初の新規発電所となるロストフ1号機(ボルゴドンスク)が営業運転を開始した。2030年までに原子力シェアを25%まで高めることを目標に、新規発電所、40基の建設を検討している。なお、2005年には、海上浮遊型原子力発電所が計画入りしている。
 1986年にチェルノブイリ4号機が事故を起こしたウクライナでは、2000年12月にチェルノブイリ発電所を閉鎖。代替電源とした「K2R4」プロジェクトは、2005年9月にフメルニツキ2号機が、2006年1月にロブノ4号機が営業運転を開始した。
 また、ウラン資源が豊富なカザフスタンでは、国営原子力会社のカザトムプロムが世界一のウラン生産者になることを目標に、増産に力を入れている。
<更新年月>
2011年12月   (本データは原則として更新対象外とします。)

<本文>
 独立国家共同体(CIS:Commonwealth of Independent States)は旧ソ連邦(USSR)を構成していた15共和国のうち、バルト3国(エストニア・ラトビア・リトアニア)を除く、12か国(ロシア連邦・ベラルーシ・ウクライナ・モルドバ・アルメニア・アゼルバイジャン・グルジア・トルクメニスタン・ウズベキスタン・タジキスタン・キルギス・カザフスタン)によってつくられている国家連合で、1991年12月に発足した。
 CIS諸国で運転中の原子力発電所は、2011年1月現在44基・合計出力3,842万kWで、基数・出力とも世界全体の約1割を占めている。国別の内訳は、ロシアが28基、ウクライナが15基、アルメニアが1基。また、炉型別ではVVER(旧ソ連型PWR)が32基、RBMK(軽水冷却・黒鉛減速炉)が11基、高速炉が1基となっている。図1にCIS諸国の原子力発電所立地点、表1にCIS諸国の原子力発電開発の現状を示す。
1.ロシア
 ロシアでは2011年12月末現在、10サイト、28基・合計出力2,419万4,000kWの原子力発電所が運転中で、設備容量は世界第4位である。内訳はVVER(旧ソ連型PWR)が16基、RBMK(軽水冷却・黒鉛減速炉)が11基、高速炉(BN-600)が1基となっている。またこれら以外にも、電熱併給炉としてビリビノにEGP-6と呼ばれる小型の軽水冷却・黒鉛減速圧力管型炉4基、元軍事用プルトニウム生産炉3基と研究炉用のBWR及びFBRが1基ずつある。2010年の原子力発電電力量は、前年より4%増の1,701億3,710万kWh、全発電電力量に占める原子力の割合は17%、平均設備利用率は81.3%であった。ロシアの原子力発電所サイトは、極東のチュコト半島にあるビリビノ発電所を除くと、残り9か所はウラル以西に集中しており、シベリアや極東に原発は存在しない。このため、地域別に見ると、ロシア西部では電力供給に占める原子力発電の割合が比較的高く(欧州部で30%、北西部で37%)、他地域では極めて低いのが特徴である。
 ロシアでは1986年のチェルノブイリ(RBMK炉)事故以降、ソ連崩壊後の経済の悪化等もあり、新規発電所の建設は行なわれなかった。しかし、2000年5月にロシア原子力省(MINATOM)は「21世紀前半におけるロシアの原子力発電開発の戦略」と題した報告書を発表し、エネルギーの安全保障の観点から、2030年までに原子力シェアを25%まで高め、原子力発電所を40基新設する必要があることを述べ、省庁再編後、ロシア原子力公社・ロスアトム(ROSATOM)を立上げ、エンジニアリング部門を強化する意向を示した。2001年12月にはロストフ1号機(ボルゴドンスク)が営業運転を開始して以降、2011年12月時点、送電を開始したカリーニン4号機を含め、4基が運転を開始、11基が建設中である(図2参照)。
 また、原子力発電所の建設が困難な遠隔地向けには海上浮遊型原子力発電所(タグボートで曳航・繋留)で対応する予定で、1号機として原子力砕氷船用の舶用炉KLT-40S・2基・出力7万kWを搭載した海上プラントを、カムチャツカ半島のビルチンスクに設置する計画である。なお、ロスアトムは新規発電所の運転計画、出力増強計画のほか、RBMK炉の廃炉計画など、バックエンド政策も進めている。現在、ロシアは世界の原子力発電プラント市場の16%、核燃料市場の17%、ウラン濃縮サービスの40%を占め、アトムエネルゴプロム社傘下の原子力発電プラント輸出公社・アトムストロイエクスポルトを中心にベトナム、トルコ、中国、インド、ブルガリア、ベラルーシ等の海外でも原子力発電所の建設を予定している。
2.ウクライナ
 ウクライナでは、ロシア型PWR(VVER)15基が4サイトで運転中で、2010年の原子力発電電力量は前年比7.5%増の894億kWhで、総発電電力量に占める原子力の割合は47.5%、平均設備利用率は73.6%であった。
 ウクライナでは、1986年4月26日に発生したチェルノブイリ4号機(RBMK-1000)の事故を受け、2号機(RBMK-1000)が1991年10月、1号機(RBMK-800)が1998年11月に停止した。3号機(RBMK-1000)は電力供給確保のため運転を続けたが、安全性を懸念する主要先進7か国(G7)の代替電源資金援助の合意成立により、2000年12月に停止。同発電所は完全に閉鎖された。
 G7は代替電源として、フメルニツキ2号機(KHMELNITSKI-2、VVER-1000、100万kW)とロブノ4号機(ROVNO-4、VVER-1000/V-320、100万kW)を完成させるプロジェクト「K2R4」に対し、欧州復興開発銀行(EBRD)と欧州原子力共同体(EURATOM)は融資を行うこととした。フメルニツキ2号機は2005年9月に、ロブノ4号機は2006年1月に営業運転を開始している。また、フメルニツキ3、4号機(VVER-1000/V-392B)に関しても2011年2月、ロシアのアトムストロイエクスポルト社との間で建設再開が合意されている。
 ウクライナは、ベースロード電源として、リプレースを含んだ原子力の設備容量を2030年までに2,000〜2,100万kWまで開発する計画で、今後も原子力シェアを50%前後に維持したい意向である。2011年4月には2017年までの「原子炉近代化・安全性向上総合計画」が採択され、法規を含めた安全対策の実施が図られる見通しである。
 また、核燃料の調達に関しては、国内の豊富なウラン資源開発を目標に、米国ウェスチングハウス(WH)製VVER-1000用燃料とロシア核燃料会社TVEL製燃料を比較していたが、2010年10月、ウクライナ核燃料(NFU)はTVELとの間で燃料工場建設契約を開始した。第1期工事は2013年を予定している。濃縮分野ではNFUは2010年5月にロシア・カザフスタン合弁会社国際ウラン濃縮センターへ10%、資本参加している。さらに、エネルゴアトム(EA)は2001年10月下旬、ロシアとの共同作業により、VVER-1000型炉の運転期間を設計上の30年から10〜15年延長する計画を公表した。対象とされるのは1980年代に営業運転を開始したVVER-1000・12基で、ロブノ1、2号機(VVER-440/V-213)に関しては2010年12月に20年の運転延長がウクライナ国家原子力規制委員会(SNRCU)により認められている。
 なお、チェルノブイリ4号機に関しては、1997年4月にウクライナと欧州連合(EU)、G7間で、石棺の安定化と石棺内部の燃料含有物質の除去を進めることで合意。各国から拠出してチェルノブイリ石棺基金(CSF:Chernobyl Shelter Fund)を設立、欧州復興開発銀行(EBRD)が管理することになった。第1期(石棺補強)工事は2008年11月に完成し、現在第2期工事が進展している。1〜3号機に関しては、使用済燃料の乾式貯蔵施設の建設を開始している。
3.ベラルーシ
 ベラルーシは、国内的にはエネルギー資源に乏しく、また1986年のチェルノブイリ原子力発電所事故による影響が大きかった国である。ベラルーシのエネルギーの対外依存度は電力消費量の約25%を占め、隣国リトアニアのイグナリア原子力発電所やロシアのスモレンスク原子力発電所から電力の供給を受けていた。しかし、イグナリア発電所の閉鎖(2009年12月)、ロシアとの天然ガス・石油紛争など、エネルギー安定供給の面から、原子力発電所建設の可能性が指摘されている。1980年代、ミンスクで原子力発電所2基・100万kWの建設計画が浮上し、準備工事が一部開始したものの、1986年のチェルノブイリ事故により計画はキャンセルされた経緯がある。代替エネルギーの開発状況、公衆世論、資金問題等を考慮した上で、2009年5月ロシアの国営原子力会社ロスアトムとベラルーシ・エネルギー省の間で原子力協力協定が調印された。
 ベラルーシはロシアのアトムストロイエクスポルト(ASE)とターンキー契約を結び、リトアニア国境に近いフロドナ州オストロヴェツ村(Hrodno Ostrovet)にロシア型軽水炉ASE-2006、出力120万kW、2基を2018年までに建設する計画である。
4.アルメニア
 アルメニアでは現在、アルメニア2号機(VVER-440/V-270、40.8万kW)が唯一稼働中で、2010年の原子力発電電力量は23億kWh、総発電電力量に占める原子力の割合は39.4%、設備稼働率は75.9%である。アルメニア発電所(別名、メタモール)はもともと2基で構成され、1号機は1979年に、2号機は1980年に運転開始、全電力需要の3〜4割を供給した。しかし、地震地帯に立地しているため、1988年のアルメニア大地震を契機に、1989年には2基とも運転を停止した。1991年の旧ソ連の崩壊や隣国アゼルバイジャンとの領土紛争の影響による化石燃料不足から深刻な電力不足に陥り、ロシアの協力によりV-230型の耐震性を向上させ、2号機は1995年に運転を再開した。2号機は12段階のMSK震度級(旧ソ連、東欧、イスラエル、インド等で採用)で震度6以上で、自動停止するよう設計されているが、格納容器を持たず、西側諸国から安全性に問題があるとされる旧ソ連製の原子炉である。1999年9月に定期検査のため運転を停止した際、西側諸国の資金援助を受け、加圧器安全弁の交換、新しい火災警報システムや各種測定装置の導入などが行われた。EUとアルメニア政府との1999年末の合意では、2004年までに同機を閉鎖することが資金援助の条件となっていたが、その後、代替電源が確保されるまで運転が認められている。
 新規原子力発電所の建設に関しては、2010年8月にロシアと二国間協定を結び、運転寿命60年、総出力100万kW級のロシア型PWR・VVER-1000をメタモールエネルゴアトム社がアトムストロイエクスポルト(ASE)とともに建設する計画である。
5.カザフスタン
 カザフスタンは旧ソ連時代にセミパラチンスク核実験場が置かれるなど、原子力開発の重要拠点として、研究炉4基など、原子力施設が集中的に配置された。また、カスピ海沿岸アクタウにあるシェフチェンコ発電所では、高速増殖炉原型炉BN-350(出力15万kW)が1973年から運転され、発電に加えて海水脱塩にも利用されていた。同炉は設計寿命(30年)に達する2003年に閉鎖される予定になっていたが、出力が小さく経済性に劣っていたことに加えソ連の崩壊により技術的な支援を受けられなくなったことなどから、1999年4月に閉鎖された。1997年9月に政府は、バルハシ原子力発電所建設計画、化学工場・石炭処理施設向け熱電併給原子力プラント計画、地域暖房用原子力計画等、2030年までに少なくとも5か所に原子力発電所を建設する計画を発表したが、建設費や運転維持費が高いこと、公衆の理解が得られないこと等を理由に原子力発電所建設計画を見送ってきた。しかし、電力需要の増加、発送電設備の老朽化等抱える問題が大きいことから、原子力発電所建設に向けロシアやインドとの協力支援を深めている。
 カザフスタンの2010年のウラン生産量は1万7,803トン(前年比27%増)、2009年にカナダを抜いて世界第1位のウラン産出国となっている。既知埋蔵量は83万2,000トンでオーストラリア(世界全体の約31%)に次いで世界第2位、世界全体の約12%を占め、海外企業の投資も活発である。国営原子力会社のカザトムプロム(KazAtomProm)は世界一のウラン生産者になることを目標に増産に力を入れている。同社の2010年のウラン生産量は8,116トンで、カナダCameco社、フランスAreva社に次いで第3位、生産量の15%を占める。
<図/表>
表1 CIS諸国の原子力発電開発の現状
表1  CIS諸国の原子力発電開発の現状
図1 CIS諸国の原子力発電所立地点
図1  CIS諸国の原子力発電所立地点
図2 ロシアの新規原子力発電所開発計画
図2  ロシアの新規原子力発電所開発計画

<関連タイトル>
世界の原子力発電の動向(2005年) (01-07-05-01)
チェルノブイリ原子力発電所事故の概要 (02-07-04-11)
ロシアの原子力発電開発 (14-06-01-02)
ウクライナの原子力発電開発 (14-06-02-03)
ベラルーシの原子力事情 (14-06-13-01)

<参考文献>
(1)(社)日本原子力産業協会:世界の原子力発電開発の動向2011年版(2011年5月)
(2)(社)日本原子力産業協会:原子力年鑑2012年版(2011年10月)、ロシア・中東欧諸国
(3)(社)日本原子力産業協会:ウラン資源量と生産量(レッドブック「ウラニウム2009」)、http://www.jaif.or.jp/ja/joho/press-kit20100826-1.pdf
(4)IAEA発電炉情報システム:PRIS HOME PAGE、

(5)世界原子力協会(WNA):World Uranium Mining

Nuclear share figures, 2000-2010,
http://www.world-nuclear.org/info/nshare.html)、
World Nuclear Power Reactors & Uranium Requirements,
http://www.world-nuclear.org/info/reactors.html
(6)世界原子力協会(WNA):
ロシア(http://www.world-nuclear.org/info/inf45.html)、
ウクライナ(http://www.world-nuclear.org/info/inf46.html)、
アルメニア(http://www.world-nuclear.org/info/inf113.html)、
カザフスタン(http://www.world-nuclear.org/info/inf89.html
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