<大項目> エネルギーと地球環境
<中項目> 世界のエネルギー情勢
<小項目> 世界の原子力発電
<タイトル>
世界の原子力発電の動向・中南米(2005年) (01-07-05-06)

<概要>
 2005年12月末現在、メキシコ、アルゼンチン、ブラジルの3か国で原子力発電所6基(437万6,000kW)が運転中で、そのほかアルゼンチンに建設中のものが1基(74万5,000kW)あり、ブラジルには現在、建設中断中のものが1基(130万9,000kW)ある。
 キューバは1983年にフラグア1号機(VVER、44万kW)の建設を開始したが、1991年のソ連崩壊により、資金面の影響を受け、1992年に工事を中断した。プロジェクト全体の進捗率は75%で、機器の据え付けも20%完了していたが、米国の強い反対もあり、国際社会からの資金調達のメドが立たず、建設中止となった。メキシコでは、ラグナベルデ1号機(BWR、68万2,000kW)が1990年7月29日に、また、同2号機(同)が1995年4月10日に、それぞれ営業運転を開始している。アルゼンチンでは現在、アトーチャ1号機(PHWR、35万7,000kW)とエンバルセ原子力発電所(CANDU、64万8,000kW)の2基が運転中で、アトーチャ2号機(PHWR、74万5,000kW)は建設中である。ブラジルでは現在、アングラ1号機(PWR、65万7,000kW)と同2号機(PWR、135万kW)が運転中で、同3号機(PWR、130万9,000kW)の建設は中断している。
<更新年月>
2006年08月   (本データは原則として更新対象外とします。)

<本文>
  図1に中南米の原子力発電所立地点、表1に中南米の原子力発電開発の現状を示す。
1.キューバ
 キューバは1976年に旧ソ連との間で結ばれた協定に従い、キューバ初の原子力発電所であるフラグア1号機が1983年に、2号機が1985年に着工した。しかし、1991年のソ連崩壊の影響を受け、資金、技術援助が停止されたため、1992年9月に工事が中断された。ロシアは工事の大半を請け負っており、進捗状況はプロジェクト全体の75%で、機器の据付けも20%程度完成していた。
 しかし、フラグア発電所については、安全性に問題があると指摘されているVVER型炉(旧ソ連加圧水型軽水炉)を採用していることなどもあり、地理的に近い米国から懸念の声があがっていた。その後、ロシアの代表団はフラグア発電所の建設再開問題の具体的な調整のためにキューバを訪問し、ようやく1997年2月初め建設再開についてキューバと原則的合意に達した。それによると、ロシアが同1号機の完成までに3億5,000万ドル、キューバが2億ドルを投資することになった。
 また、キューバとロシアは1999年5月、フラグア発電所を建設するために合弁会社(ジョイント・ベンチャー)を設立することで合意した。このプロジェクトは、労働力などを供給するキューバ、技術と機器を供給するロシア、そして同発電所の建設に資金を出す第3者のパートナーから構成される。しかしながら、同発電所の完成には7億ドルが必要とされ、残りの1億5,000万ドルの資金提供が期待されていた西側の企業が不参加を決めたため同プロジェクトは失敗に終わった。
 結局、2001年12月にロシアのプーチン大統領がキューバを公式訪問した際、同発電所を完成させる意向のないことがキューバ側から示されたため、資金難から工事が中断されていたフラグア発電所の建設中止が決定的となった。カストロ国家評議会議長も、プーチン大統領の帰国後に行った演説の中で、天然ガス火力など原子力以外の発電所の建設を検討していることを明らかにした。
2.メキシコ
 メキシコでは1989年4月13日、国内初の原子力発電所となるゼネラル・エレクトリック(GE)社製のラグナベルデ1号機(LAGUNA VERDE−1、BWR、68万2,000kW)が送電を開始、1990年3月に全出力運転を、同7月29日には商業運転を開始した。2005年の設備利用率は84.1%であった。
 メキシコはかつて、20世紀末まで2000万kWの原子力発電設備を建設する計画を立て、1976年、1977年にGE社製のラグナベルデ1、2号機の建設に着手、同3、4号機の入札も1982年に行った。しかし、膨大な対外債務(1987年8月時点で1,035億ドル)と経済不振から、同年中に外貨不足を理由に3、4号機はキャンセルされた。
 ラグナベルデ2号機(LAGUNA VERDE−2、BWR、68万2,000kW)は、1994年8月25日燃料装荷を完了し、同9月6日に初臨界に達し、1995年4月10日、商業運転に入った。2005年の同機の設備利用率は89.2%であった。ラグナベルデ2号機が営業運転を開始したことにより、原子力発電設備容量は136万4,000kWとなった。2005年の原子力発電電力量は108億300万kWhで、総発電電力量に占める割合は5%である。
 メキシコ連邦電力委員会(CFE)は2006年3月14日、急速に高まる電力需要に対処するため、停滞した原子力発電開発計画を拡大する方針を示した。CFEは年率4%以上で電力需要が推移すると予測し、2020年までに40億ドルを投じ、新規原子力発電所の運転開始を計画している。CFEは現在運転中のラグナベルデ1、2号機に関しても、5,000万ドルを投じて両機の出力増強を計画している。
3.アルゼンチン
 アルゼンチンでは現在、運転中の原子力発電所は、独シーメンス社製のアトーチャ1号機(ATUCHA−1、PHWR、35万7,000kW)とエンバルセ原子力発電所(EMBALSE、CANDU、64万8,000kW)の2基で、建設中はアトーチャ2号機(PHWR、74万5,000kW)の1基。同機は、1981年に着工したが1995年に中断したままで、進捗は約80%まで進んでいる。これまでにかかった経費は約31億米ドルで、完成までにはまだ5億米ドル程度かかるとみられている。
 アルゼンチンでは、国営企業の非効率な運営によって負債が増大しているとの考えから、1950年代末から1960年代初めにかけて、一部の国営企業の民営化が実施された。こうした民営化の動きが本格化したのは1992年で、電気事業でも一部の国営企業が民営化された。原子力については、連邦政府が1994年に、それまで「規制」、「発電所の建設・運転」、「研究開発」のすべてを担当していた原子力委員会(CNEA)の分割案を公表し、成立までに3年を要して、原子力法が改正された。前原子力委員会は、研究開発を担当する現原子力委員会(CNEA)、規制を担当する原子力規制庁(ARN)、そして、アトーチャ1号機とエンバルセ発電所の運転およびアトーチャ2号機の建設を担当する国営のアルゼンチン原子力発電会社(NASA)に分割された。なお、放射性廃棄物の管理や既設の原子力発電所の廃炉措置に対する責任は従来どおり政府が担当する。また、政府はNASA社の民営化後も、継続して新規の原子力発電所の建設に関する決定権を有している。
 2005年の原子力発電電力量は63億7,440万kWh(2004年73億kWh)で、発電所別にみるとアトーチャ1号機が19億9,796万kWh、エンバルセが43億7,248万kWh、設備利用率はそれぞれ68.1%と83.2%であった。総発電電力量に占める原子力の割合は6.9%であった。
 アルゼンチン政府はエネルギー危機に直面したことから、2004年5月、長期エネルギー戦略の一環としてアトーチャ2号機の正式な建設再開を発表した。独シーメンス社と仏フラマトムANP社間で交渉が進められ、建設工事が再開すれば約52ヶ月で完成する見込みである。
 アルゼンチンは、ほぼ全ての中南米諸国および米国、カナダ、リビア、インド、スペイン、ユーゴスラビア、中国など16か国と原子力協力協定を結んでいる。特に、アルゼンチンはカナダからCANDU炉を輸入しているが、これは1994年6月にカナダと原子力協力協定を締結、アルゼンチンが1995年2月にNPTに加盟したことで可能となった。
 2006年5月、アルゼンチン原子力発電会社(NASA)とアルゼンチン原子力委員会(CNEA)は、カナダ原子力公社(AECL)との間で原子力協定拡大の覚書を交わした。CANDU炉エンバルセ発電所の緊急的改修(バックフィット)、乾式使用済燃料貯蔵施設などの支援、CANDU燃料サイクルの構想、重水供給や、新規CANDU炉建設に向けたフィジビリィティ・スタディー等の実施が盛り込まれている。
4.ブラジル
 ブラジルは現在、米ウェスチングハウス(WH)社製のアングラ1号機(ANGRA−1、PWR、65万7,000kW)と独シーメンス(KWU)社製の同2号機(ANGRA−2、PWR、135万kW)の2基が運転中で、同じサイトの3号機(ANGRA−3、PWR、130万9,000kW)は、資金不足のため、1991年に建設工事は中断した(進捗率:約70%)。2005年の原子力発電電力量は98億5,296万kWh(2004年115億kWh)で、総発電電力量に占める原子力の割合は2.5%、設備利用率はそれぞれ64.2%と50.8%であった。なお、ブラジルでは水力発電が主力(総発電電力量の約85%)である。
 アングラ1号機は、1971年にWH社がターンキー方式で建設を開始、1982年3月に初臨界を達成したものの、多くの技術的トラブルにみまわれ、運転開始は1985年1月にずれ込んだ。運転開始後も、緊急計画をめぐる裁判や財政難、さらには主要機器のトラブルなどから、運転・休止を繰り返し、1994年12月に運転を再開した。
 アング2号機は1976年に着工、当初の予定では1983年に運転を開始することになっていたが、環境団体の反対と資金調達問題のために建設作業が大幅に遅れ、1996年に建設工事が再開された。同機は2000年7月に初臨界に達し、2001年2月1日に営業運転を開始した。
 アングラ3号機については、サイト準備工事が行われ、1980年代半ばに作業が中断するまでに機器の約7割程度が輸入され、これまでに調達済みの資材(7億5,000万ドル相当)も含めて、総額約10億ドルが投じられているが、資金不足のため建設再開には至っていない。資材の維持・管理だけで年間2,000万ドルが必要とみられている。
 同国の電源開発計画では、アングラ3号機の完成のほか、総発電電力量に占める原子力発電の割合を現在の3%から2020年までに5%に引き上げる方針が盛り込まれており、今後総額130億ドルを投じて合計7基(大型炉3基、小型炉4基)の新規原子力発電開発の建設を検討している。しかし、資金の一部がブラジル国家開発銀行(BNDES)から融資される見通しがあるものの、具体的な資金調達先が明示されておらず、その上、水力が主力電源であるブラジルでは、水力発電コストが原子力発電を大幅に下回る。
 ブラジルの経済成長率は年4.5%で、現在深刻なエネルギー危機に見舞われており、エネルギー需要は2015年までに現在の150%に拡大するとされている。不足分の電源確保を新規原子力発電所の建設、アングラ3号機の完成によるという案を支持する声がある一方、天然ガスなどを燃料とした発電所の完成を促す声もある。
 ブラジル政府は1997年6月、国営電力会社であるフルナス社(Furnas)の原子力発電部門と、原子力発電所の設計・建設管理・機器調達を行う国営のアーキテクト・エンジニアリング企業であるニュークレン社(Nuclen)を統合させ、国営のエレクトロ・ニュークリア(Eletrobras Termonuclear S.A.)社を設立した。新会社であるエレクトロ・ニュークリア社は、アングラ1、2号機の運転を行うほか、現在建設が中断している同3号機のプロジェクトを引き継いでいる。
 2006年6月、エレクトロ・ニュークリア社社長Silva氏によると、アングラ3号機は2013年の運転開始を目指しており、2007年にも建設再開が決定されるとしている。
 なお、ブラジルの原子力関係機関としては、電源開発計画の調整および資金調達を行う国営電力の持株会社であるエレクトロブラス社(Electorbras)社、原子力規制機関である原子力委員会(CNEN)、商業用燃料サイクル会社(採鉱、製錬、燃料製造等)であるブラジル原子力工業会社(INB)、原子力発電所に必要なあらゆる重機器を供給するニュークレップ(Nuclep)社、および複数の民間のエンジニアリング、機械、電機会社がある。
 運転中のアングラ1、2号機の燃料自給を目指し、海外輸出も視野に入れたレゼンデ・ウラン濃縮工場(120トンSWU/年)は2006年にも操業開始の予定である。
<図/表>
表1 中南米の原子力発電開発の現状
図1 中南米の原子力発電所立地点

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<関連タイトル>
世界の原子力発電の動向(2005年) (01-07-05-01)
メキシコの原子力発電開発 (14-08-01-02)
アルゼンチンの原子力発電開発 (14-08-02-02)
ブラジルの原子力発電開発 (14-08-03-02)

<参考文献>
(1) (社)日本原子力産業協会:世界の原子力発電開発の動向、2005年次報告(2006年5月)p.5、31、p.86、p.96 −97、p.110−111
(2) (社)日本原子力産業会議:世界の原子力発電開発の動向、2004年次報告(2005年5月)p.41 −42、2001年次報告(2002年5月)p.38−39
(3) (社)日本原子力産業会議:原子力年鑑2003年版(2002年11月)p.439−451
(4) IAEA PRIS発電炉情報システムホームページ:http://www.iaea.org/dbpage/
(5) Bloomberg.com: Energy(2006年6月2日)、http://www.bloomberg.com/apps/news?pid=10001099&sid=a8.HYEBVdJ6w
(6) カナダ原子力公社:(AECL)ニュース(2006年5月25日)、http://www.aecl.ca/NewsRoom/News/Press−2006/060525.htm
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