<解説記事ダウンロード>PDFダウンロード

<概要>
 米国およびカナダで、建設中・計画中の原子力発電所はないが、両国を合わせ、運転中のものは121基、発電設備容量は1億1,616万8,000kWで、世界全体の約30%を占める。
 電力市場の自由化が進む両国では、原子力発電所を所有、運転している電力会社を取り巻く環境が大きく変り、それぞれ異なる対応が採られている。米国では、原子力発電所の運転期間の延長や集中所有が進んでいる一方、カナダでは、州営の電力会社の独占状態にあったオンタリオ州で、州営電力会社の分割と原子力を含む電源の経営分離や、休止発電所の運転再開が進められている。
 米国ではここ数年、原子炉の新規建設を目指す動きが顕著になり、カナダでも原子炉の建設計画が具体化しつつある。どちらが先に建設に着手するにせよ、北米ではカナダのダーリントン4号機(1985年に着工)以来となる。両国における原子力発電再評価の背景には、増大する電力需要への対処を迫られた州や連邦政府が積極的に原子炉建設をバックアップしていることや、公衆の原子力発電に対する見方が好転していることなどがある。
<更新年月>
2006年08月   (本データは原則として更新対象外とします。)

<本文>
 図1−1に米国の原子力発電所立地点、図1−2図1−3図1−4図1−5図1−6にその詳細、図2にカナダの原子力発電所立地点を示す。
1.米国
 米国で運転中の原子力発電所は2005年12月末現在、103基・合計出力1億274万5,000kWである。これは世界第1位の規模であるが、建設中、計画中の発電所はない(表1参照)。米国の原子力発電所の運転実績は近年、着実に向上してきており、2005年の原子力発電電力量は過去最高を記録した2004年の7,886億kWh(推計)からやや低下したものの、7,805億kWh、総発電電力量中で原子力発電が占める割合は19.3%であった。2005年の設備利用率も過去最高2004年の91.2%につぐ、90.3%で、燃料交換による運転停止期間の短縮や、蒸気発生器交換などの大型工事期間の短縮が高稼働率に貢献している。安全関連指標である運転時間7000時間あたりのスクラム回数は、2004年同様ゼロであり、2003年8月の米中西部・東部大停電の影響で2003年には0.8回/基であったものの、高い運転水準を維持している。
1.1 運転認可の延長
 米国では、化石燃料価格の高騰や一部地域での発電設備の予備力低下によって、燃料費の安定している原子力発電の資産価値が高く評価されている。2001年1月に就任したブッシュ大統領は一貫して原子力発電の拡大を1つの柱としており、既存の原子力発電所の設備利用率向上と定格出力上昇等による設備容量の増加、運転認可の60年までの延長支援などを打ち出した。
 当初、米国の原子力発電所の運転認可期間は原子力法で40年と定められていたが、1995年6月の原子力規制委員会(NRC)による規則の改定で、安全性(10 CFR Part 54)と環境基準(10 CFR Part 51)をクリアしたものに限りさらに20年までの延長が可能となった。これまでに、NRCから運転認可の更新を認められた原子力発電所は、2000年3月のカルバート・クリフス1、2号機を皮切りに合計で23サイト・44基。審査中の原子力発電所は8基あり、さらに20基以上が今後NRCに申請する予定であると公式に発表されている。表2−1表2−2に米国の運転許認可の更新状況を示す。
1.2  熱出力増強による出力増強
 米国は、103基の発電所が稼働する世界最大の原子力発電国であるが、1974年以降、新規の原子力発電所の発注は実質的に1基も行われていない。しかし、NRCは1970年代から出力増強の申請を審査してきており、1977年のカルバートクリフス1号機を初めに、2006年7月までに合計で112基・1,453万5,000kWt(484万5,000kWe)の出力増強を承認した。NRCは発電電力量を増加させるため、出力増強と運転期間の延長が必要不可欠と認識していることから、審査日程も可能な限り短くするとの方針を打ち出している。なお、NRCは熱出力増強のタイプをMU(Measurement Uncertainty Recapture:出力測定精度向上型(〜1.5%まで)、測定誤差の修正)、S(Stretch:ストレッチ型(〜7%まで)、計装設定値の変更)、およびE(Extended:拡張型(〜20%まで)、高圧タービン、復水ポンプ、モーター、発電機、変圧器等のBOP大規模改修)の3タイプに分けている。2006年8月現在、ブラウンズフェリー1、2、3号機(E)、カルバート・クリフス1、2号機(MU)、フォートカルホーン1号機(MU)の3サイト、6基、174万3,000kWt(58万1,000kWe)が申請中である。
1.3 新規原子力発電所の建設
 米国では、1974年以降、42基が発注されているが、すべてが途中でキャンセルされた。そうした背景には、(1)二度にわたる石油危機をきっかけとした景気後退による電力需要の減少、(2)記録的なインフレによる資金調達コストの増大、(3)1979年のスリーマイルアイランド原子力発電所での事故による規制の強化——などがあった。
 しかし、米国では2001年5月、ブッシュ政権が「国家エネルギー戦略」を発表し、向こう20年の電力需要を満たすためには約3億9,300万kW分の新規発電設備が必要になると指摘し、原子力発電利用の拡大を支持する方針を打ち出した。この国家戦略に基づき、2002年には近い将来の原子炉新設を目指す「原子力発電2010」イニシアチブが開始された。
 2005年には、新型原子炉を利用して発電を行う事業者に対する税額控除などを盛り込んだ「エネルギー政策法」が成立している。これをうけ、州や自治体においても、原子炉誘致を支持する動きが出てきているほか、ビスコンティ・リサーチ社が過去20年以上にわたって実施している世論調査によると、米国民の間で原子炉新設に対する抵抗感が薄まってきていることがうかがえる。
 このような情勢の中、原子力発電所の新規建設が具体化しつつある。2005年12月に米エネルギー省(DOE)が公表した「2006年版長期エネルギー見通し」(〜2030年)では、2014年〜2020年にかけて合計600万kWの原子力発電所が新たに着工し、既存原子炉の出力増強(約300万kW)とあわせて2030年の設備容量は900万kW増加するとしている。
 また、米国では「1992年エネルギー政策法」の改正により、標準型炉の設計認証規則がNRCにより採用されている。これは、NRCから「設計認証」(Advanced Design Certification)された原子力発電所については、設計や安全問題がすべて解決されているという前提で発注することができるもので、ゼネラル・エレクトリック(GE)社の「改良型沸騰水型炉(ABWR)」、ABBコンバッション・エンジニアリング社(現在はウェスチングハウス社に統合)の「システム80+」、ウエスチングハウス(WH)社の「AP600」、「AP1000」が承認を受け、GEの高経済性単純化沸騰水型炉「ESBWR」が現在申請中である。また、原子力発電所の建設候補地として事前にサイトだけ許可する「事前サイト許可(ESP:Early Site Permit)」があり、取得後20年間にわたって有効で、さらに20年間の延長もできるため、電力会社としては直ちに建設に着手する必要がなくなる。新制度では、環境影響評価や緊急時計画などサイト関連問題をクリアしてEPSを取得したサイトに標準型炉を建設する場合は、建設許可と運転許可が同時に発給されるCOL(Combined License、建設・運転一体認可)や、完成後、ITAACプロセスと呼ばれる安全基準(Acceptance Criteria)の適合に関するNRCによる検査(Inspection)、試験(test)、分析(Analysis)を受ける、一種の供用前検査だけで運転が開始できる。表3に新規原子力プロジェクトの状況を示す。
1.4 原子力発電事業の統合状況
 米国では電力市場自由化・規制緩和に伴う競争激化により、ワンサイト・シングルユニット といった経済性に劣る原子力発電所が早期に閉鎖されたり、他社に売却された。この結果、原子力発電事業の統合が一気に進み、優れた運転管理ノウハウを有する電力会社5社により米国の原子力発電所のおよそ半分が所有・運転されている。表4に状況を示す。
1.5 核燃料サイクルの活性化
 原子力の役割を強調するブッシュ米大統領の一般教書演説を受け、DOEは2006年2月、米国での使用済燃料のリサイクルや、途上国への核燃料サイクルサービスの提供を含む「グローバル 原子力パートナーシップ(GNEP)」を発表。先進再処理技術(UREX+法など)の開発を進め、2011年頃実証試験、その後、年2,000トン規模の商用再処理工場の運転する意向である。
2.カナダ
 2005年12月末現在、カナダにある22基の原子力発電所は全てがカナダ型重水炉(CANDU炉)で、そのうち運転中のものは18基、合計出力1,342万3,000kWである。このほかの4基(269万4,000kW)は休止中である。2005年の原子力発電電力量は868億万kWhで、前年の853億万kWh(推計)より15億万kWh増加。総発電電力量に占める原子力の割合は前年比0.4ポイント減少して14.6%であった。カナダ中央部のオンタリオ州は、運転中の全18基の原子炉の大半の16基が集中しており、原子力発電は総発電電力量の4割を占める。
 オンタリオ州電力庁(OPA)は2005年12月、将来の電源構成に関する報告書を州政府に提出し、電源開発の一環として原子炉建設計画を提示した。OPAは報告書の中で、同州では2025年の時点で約2,400万kWの発電設備容量が不足するが、再生可能エネルギーの拡大と原子炉のリプレース(建て替え)や寿命延長により1,500万kW分を確保することができると主張している。
 SESリサーチ・カナダ社がオンタリオ州民を対象に実施した2005年9月の世論調査では、回答者の41%が原子力発電の利用拡大を支持し、27%が継続を支持したのに対して、原子力発電を縮減すべきと回答した人は23%にとどまった。
2.1 電力市場自由化とオンタリオ・ハイドロ社の分割
 オンタリオ州政府は、1998年6月、州内の電気事業を完全自由化することを目指した「エネルギー競争法案」を議会に提出、翌年4月に発効した。これにより、北米最大の州営電力会社オンタリオ・ハイドロ(OH)社は、(1)同社の発電部門を引き継いだオンタリオ・パワー・ジェネレーション(OPG)社、(2)送配電部門を引き継いだオンタリオ・ハイドロ・サービス社、(3)旧OH社の負債の清算事業体であるオンタリオ・ハイドロ・ファイナンシャル社、(4)オンタリオ州の電力取引の調整を行う第三者機関である独立市場機関(IMO)に分割された。また、州内電気事業の自由化が進められ、2002年5月1日に同州の電力市場(卸市場、小売市場)の自由化を開始している。なお、OPG社は、エネルギー競争法で2010年までに市場占有率を州内全需要量の35%以下に減らすことを求められ、2001年5月からブルース発電所8基を、ブルース・パワー(BP)社に対して2018年まで(オプションで更に25年間延長可能)リースする契約を締結している。
2.2 休止中の原子力発電所の運転再開
  オンタリオ州では、1994年以降相次ぐ改修工事や、原子力管理委員会(AECB)による出力制限から運転実績が低下し、特に1970年代に運転を開始したピッカリングA(PICKERING−A1〜4、CANDU、54万2,000kW)およびブルースA(BRUCE−A1〜4、CANDU、80万5,000kW)は顕著であった。OH社は1997年8月、5年計画の「原子力発電施設効率化計画」に着手。稼働率低下が著しい8基の運転を休止する一方で、実績が比較的良好な原子力発電所については1998年から3年計画で、運転・保守コストの改善問題に取り組んだ。その結果、原子力発電所の平均設備利用率は、1996年の66%から、2000年には80%まで回復した。
 OH社から発電部門を引き継いだOPG社は、2000年5月、運転休止中のピッカリング(A)4基の運転再開を決め、AECBに運転再開認可の発給を要請した。AECB、および業務を引き継いだカナダ原子力安全委員会(CNSC)は運転再開に関する環境アセスメントを開始した。一方、BP社でも2001年7月、ブルースA3、A4号機の運転再開に向けたプロジェクトを開始したが、長期休止中の発電所の運転再開が進まなかったことから需給が逼迫し、2002年には夏季ピーク需要が州内の供給力を上回る事態となった。また、2002年5月に開始された電力自由化は、7〜8月に州の電力市場の激しい価格変動を与えた。
 OPGとBPは、将来の原子炉新設を見据え、生産性を高め、競争力のある電源として、休止中の原子炉運転再開に取り組み、2003年は2基(ブルースA4、ピッカリングA4)、2004年は1基(ブルースA3)、2005年は1基の運転を再開させた。休止中のブルースA1、A2はCNSCによる環境アセスメントを終え、2009年の運転再開を目指している。両機は2043年までの運転期間延長がオンタリオ州電力庁によって承認されている。
 なお、CNSCによる運転認可延長は、ピッカリングB5(PICKERING−B5、CANDU、54万kW、2005年承認)、ポイントルプロー(POINT LEPREAU−1、CANDU、68万kW、2006年承認)にも承認されている。州政府は、石炭火力発電所を2007年に閉鎖する予定で、原子力発電はCO2を排出しないクリーンなエネルギー源として、税制上の優遇措置が適用されている。
2.3 次世代CANDU炉が公表
 カナダ原子力公社(AECL)は2002年6月24日、既存のCANDU炉より一層の低コスト化や高信頼性を実現した次世代CANDU炉(ACR:Advanced CANDU Reactor)を発表した。ACRには、蒸気発生器やタービン発電機などの多くのシステムで、次世代加圧水型軽水炉(APWR)と類似したものが採用され、運転中の燃料交換、単純な燃料設計、柔軟な燃料サイクルの選択など、CANDU炉の長所を合わせ持つ。
 一方、ACR-700は米国ドミニオン・リソーシーズにより受注を決定していたが、NRCの設計認証発給に時間を要するみられることから、ドミニオンは2005年1月に、炉型をACR−700からGE製ESBWR(単純化BWR、140万kW)に変更した。AECLは、100万kW級のACR−1000、120万kW級のACR−1200の設計作業も進める一方、NRCから設計認証を取得するための手続きを開始している。今後、カナダ国内、米国、中国、英国の市場開拓が課題となっている。
<図/表>
表1 北米の原子力発電開発の現状
表1  北米の原子力発電開発の現状
表2−1 米国の運転許可の更新状況(1/2)
表2−1  米国の運転許可の更新状況(1/2)
表2−2 米国の運転許可の更新状況(2/2)
表2−2  米国の運転許可の更新状況(2/2)
表3 米国の新規原子力発電所プロジェクトの状況
表3  米国の新規原子力発電所プロジェクトの状況
表4 米国の原子力発電所を所有・運転する主な電力会社 (上位5社)
表4  米国の原子力発電所を所有・運転する主な電力会社 (上位5社)
図1−1 米国の原子力発電所立地点
図1−1  米国の原子力発電所立地点
図1−2 米国北東部の原子力発電所立地点
図1−2  米国北東部の原子力発電所立地点
図1−3 北米南東部の原子力発電所立地点
図1−3  北米南東部の原子力発電所立地点
図1−4 米国中部北地域の原子力発電所立地点
図1−4  米国中部北地域の原子力発電所立地点
図1−5 米国中部南地域の原子力発電所立地点
図1−5  米国中部南地域の原子力発電所立地点
図1−6 米国西部の原子力発電所立地点
図1−6  米国西部の原子力発電所立地点
図2 カナダの原子力発電所立地点
図2  カナダの原子力発電所立地点

<関連タイトル>
世界の原子力発電の動向(2005年) (01-07-05-01)
原子力発電が総発電電力量に占める割合 (01-07-05-08)
アメリカの原子力発電開発 (14-04-01-02)
カナダの原子力発電開発 (14-04-02-02)

<参考文献>
(1)(社)日本原子力産業協会:世界の原子力発電開発の動向 2005年次報告(2006年5月)
(2)(社)日本原子力産業会議:世界の原子力発電開発の動向 2004年次報告(2005年5月)、2001年次報告(2002年5月)
(3)(社)日本原子力産業会議:原子力年鑑2003年版(2002年11月)
(4)米国原子力規制委員会(NRC)ホームページ(http://www.nrc.gov/reactors.html
(5)米国エネルギー協会(NEI)ホームページ
(6)カナダ原子力公社(AECL) ホームページ
JAEA JAEAトップページへ ATOMICA ATOMICAトップページへ