<大項目> エネルギーと地球環境
<中項目> 世界のエネルギー情勢
<小項目> 世界の原子力発電
<タイトル>
世界の原子力発電の動向・中東(2005年) (01-07-05-03)

<概要>
 中東地域では現在稼働中の原子力発電所はないが、電力需要の伸びが大きいことから、トルコ、イランおよびイスラエルで原子力発電計画が進められている。イランでは、核兵器開発を懸念する米国の強い反対はあるが、ロシアとの協力でブシェール原子力発電所1号機の建設を進められ、2006年中の営業運転開始を目指している。トルコおよびシリア・アラブ共和国では、かつて経済的な理由により計画は凍結されたが、トルコでは原子力発電所建設計画が浮上している。イスラエルでは、原子力発電所導入が検討されているものの、政治的情勢から足ぶみ状態にある。
<更新年月>
2006年07月   (本データは原則として更新対象外とします。)

<本文>
 図1にトルコ、イスラエルおよびイランの建設中または計画中の原子力発電所立地点を、表1に中東の原子力発電開発の現状を、表2に中東の原子力発電所の一覧を示す。なお、中東地域で現在稼動中の商業用原子力発電所はない。
1.トルコ
 トルコでは、経済活動の活発化により電力需要は急伸しており(1990年〜1998年:年率8.6%の増加)、1980年には512万kWあった発電設備容量は、1997年には4倍以上の2,189万kWに拡大した。1999年の大地震、2001年の金融危機と、その後の伸び率は若干鈍化したものの、2003年には3,230万kWに達した。電源別の内訳はガス火力40%、水力28%、石炭24%、石油7%である。2003年の発電電力量は1,336億kWh、電力消費量は1,249億kWh。工業化の急速な進展や人口増、人口一人あたりのエネルギー消費量の増加などから、エネルギー需要の伸びは今後も続くと見られ、トルコ電力公社は、2020年までに5,400万kWの設備容量が必要になると予測している。
 石油資源に乏しいトルコは、イランとロシアからの天然ガスパイプラインへの依存を強めているが、イランの核疑惑、ロシアのウクライナ向け供給の一時停止などの危機感から、エネルギー源の多様化が求められている。
 2006年4月、政府は黒海沿岸のシノップに原子力発電所第1号機を建設することを発表。2007年着工、2012年中の稼働を目指し、2014年までに3〜5基の原子力発電所を建設、設備容量は合計500万kWを計画している。
 トルコの原子力発電所開発計画は1968年から開始された。国営電力のトルコ発送電公社(TEAS)は、地中海沿岸のアックユと、黒海沿岸のシノップに発電所を建設することを計画したが、立地サイトや財政上の問題で計画を凍結した。
 アックユ原子力発電所に関しては、1994年12月にTEASは、韓国原子力研究所と建設プロジェクトのコンサルティング契約を締結。1996年12月には入札手続を公開した。条件として、PWR、BWR、PHWRのいずれかの炉型で、80万kW以上1基、または60万kW以上2基、送電端出力280万kW以下の2基以上の構成であり、ターンキー契約、メーカー側の全額融資が求められた。
 1997年10月には、(1)カナダ原子力公社(AECL)、日立製作所、クベルナー社(ノルウェー)からなるカナダ・グループ、(2)ウェスチングハウス(WH)社と三菱重工の日米コンソーシアム、(3)ニュークリア・パワー・インターナショナル(NPI)社(ドイツのシーメンス社とフランスのフラマトム社の合弁企業)の3者が応札した。しかし、入札評価作業の遅れを理由に何度となく決定が先送りされ、政府は2000年7月25日、経済状況を理由にアックユ原子力発電所建設計画を凍結すると発表した。
 なお、アックユ発電所は1971年にフィジビリティ・スタディが実施され、1976年にはサイト認可が発給されている。2000年の計画延期以前にも2度にわたり建設計画が立ちあがり、100%融資付の条件での交渉が行われたが、いずれも失敗に終わった。1回目はスウェーデンのアセア・アトム社が最終的に100%融資を拒否したことと、1980年のトルコ国内での軍部による文民政権転覆による中止である。2回目の商談は1983年に復活して、シーメンス社KWU事業部、GE、AECLが応札したが、1986年4月26日チェルノブイリ事故が発生。BOT融資条項と損害賠償責任条項で折り合いがつかず、結局、1986年に挫折した。
 もう一つの立地候補地点である黒海沿岸のシノップについては、TEASによるサイト調査が実施され、米国のゼネラル・エレクトリック(GE)社との間で具体的な交渉も行われたが、サイト調査が不完全であったことから、事業は中断された。
2.イラン
 イランでは政府のエネルギー省(MOE)が傘下の国営企業により電気事業を独占し、わずかに存在している自家発電は売電を行っていない。2005年の発電電力量は1,423億kWhである。電源別の内訳は、豊富な石油資源を背景として火力が94%(75%以上がガス火力)で最も多く、水力は7%となっている。2002年の発電設備容量は約3,540万kW。
 イランの電力需要は急速に伸びており、毎年7〜8%の増加が今後見込まれており、次の5年間では新たに1,800万kWの発電設備容量の確保が必要とされている。当面必要な電力は水力とコンバインド・サイクルの開発で賄われる見通しであるが、イラン原子力庁(AEOI)は今後20年間で2,000万kWの原子力発電所を運転開始する方針で、ロシアとの協力により、イスラム革命で建設が中断されたペルシャ湾北岸のブシェール発電所の完成を急いでいる。
 ブシェール発電所はパーレビ国王体制下でイラン初の原子力発電所として、建設が計画された。当時の西ドイツのKWU社(後にシーメンス社KWU事業部)が受注し、1976年に129万3,000kWのPWR2基が着工した。1979年のイスラム革命により、西ドイツが建設中止命令を出して撤退。工事進捗率は当時、1号機が80%、2号機が60%であった。さらにイラン・イラク戦争 (1980年9月〜1988年8月)でブシェールは爆撃にあい、ひどく破損した。1995年1月、イラン政府はロシア政府との間で、ブシェール原子力発電所建設協力契約を締結。1996年1月にロシア原子力省(MINATOM)傘下のザルベツアトムエネルゴストロイ(ZAES)社により先ず1号機の工事が再開した。
 1号機にはロシア製のPWRであるVVER−1000(100万kW)が採用され、2004年10月に工事はほぼ完了、2006年内に運転を開始する予定である。一方、AEOIとロシア連邦原子力庁(ROSATOM)は2005年2月、同1号機の使用済燃料のロシアへの返還に関する議定書に調印し、ロシアからイランへの燃料供給も正式に確定している。イラン・ロシア両国はブシェール2〜4号機建設の追加契約に原則合意している。
 イランは核不拡散条約に調印しており、2003年12月、国際原子力機関IAEAの査察を認める追加議定書に調印している。また、イランはナタンズに遠心分離法を用いたウラン濃縮施設の建設を進めていたが、2004年11月、英国・フランス・ドイツの3か国の技術支援と交換にウラン濃縮活動の停止に合意した。
3.イラク
 イラクは1991年の湾岸戦争により、総発電電源設備930万kWの7割が破壊され、利用可能設備容量は232万kWへと減少、送電設備に対するダメージも非常に大きかった。
 2003年のイラク戦争では、電力設備への影響は少なかったものの、発電設備の利用可能量は、戦争直後の2003年4月には128万kWまで落ち込んだ。しかし、その後の復興活動により、2004年6月には450万kWまで復旧したが、設備の老朽化、資材不足など、設備投資は遅れぎみである。今後、効率的かつ安定的な電力供給を可能にする大型発電所建設による電力事情の改善が期待されている。
 イラクは1960年代に原子力開発に着手した。しかし、イランとの8年戦争(1980年9月)後、化学兵器、地対地ミサイルの開発に着手したため、イスラエルは1981年6月、オシラク研究炉(タンムズ−2号)を爆撃。以来、原子力開発のプログラムは休止状態にあった。また、湾岸戦争での空爆により所有する3基(実質2基)の研究炉などの原子力関連施設は、ほとんどが崩壊した。
4.イスラエル
 イスラエルでは国有のイスラエル電力公社(IEC)が長年にわたって全土で独占的に事業用の電力を供給してきたが、1996年の新電気事業法制定に伴い発電に関する独占権が消滅し、小売供給を目的とした独立系発電事業者の参入が可能となった。
 1999年時点、総発電電力量は367億kWhで、ほぼ100%が火力発電によるものであったが、2003年には総発電電力量は442億kWh、消費電力量は396億kWh、1995年〜2004年における最大電力の年平均増加率は5.3%と電力需要は増加傾向にある。総発電設備容量も2004年末は1,008万3,000kWで、石炭火力が79.1%、石油火力が16.8%、ガス火力が4%を占めている。2010年までに更に1,500万kWの発電設備が必要であるとしている。電源の多様化や環境面での配慮、コスト削減から、増設は約40%をガス火力で賄うことを目標に、石油、ディーゼル油火力からの転換を図っている。
 イスラエルには現在、政府所有の原子炉(ディモーナ地域)および小規模研究炉(テルアビブ南部)を除いて、原子力発電所は存在しないが、2002年2月、インフラ省はネゲブ砂漠のシブタ地域において原子力発電所(出力1,200MW)を建設するための現地調査を実施する計画を発表した。IECは1995年以降、60万kW級の発電所の導入可能性について調査を行っているが、イスラエルは核不拡散条約に加盟していないこと、パレスチナとの軍事衝突など、現状では原子力機器や核物質を購入できる状況にはない。IECでは当面、中東和平の進展など政治情勢を見守るとかたちで、2020年の運転開始を目指した原子力発電所建設計画が進められる。
5.シリア・アラブ共和国
 1998年にシリア原子力委員会(SAEC)はロシアと「原子力の平和利用に関する協定」を結び、ロシアの支援で原子力センター(AERC)を設定するとともに、研究炉(2万5,000kW)を供与することに合意した。また、1999年にはロシアと原子力発電所(軽水炉2基)の建設に関する協定を締結。2001年にはロシアの専門家による建設地点調査や、原子力を利用した海水淡水化装置の開発に関する調査が実施された。しかし、2003年にシリア側は資金不足を理由に同プロジェクトを放棄、原子力発電開発は中断している。
 2003年シリアの総発電電力量は272億kWh、消費電力量は253億kWh、発電設備容量は610万kW。電力需要は成長を続けているが、老朽化した石油火力のガス火力への転換、コンバインドサイクルの新設で対応していく予定である。
<図/表>
表1 中東の原子力発電開発の現状
表2 中東の原子力発電所一覧表
図1 トルコ、イスラエルおよびイランの原子力発電所立地点

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<関連タイトル>
世界の原子力発電の動向(2005年) (01-07-05-01)
イランの原子力開発と原子力施設 (14-07-01-01)
イラクの原子力開発と原子力施設 (14-07-02-01)
イスラエルの原子力開発と原子力施設 (14-07-03-01)
トルコの原子力開発 (14-07-04-01)

<参考文献>
(1)日本原子力産業会議:世界の原子力発電開発の動向2004年次報告(2005年5月)
(2)日本原子力産業協会:世界の原子力発電開発の動向2005年次報告(2006年5月)
(3)海外電力調査会:海外諸国の電気事業 第2編(2005年3月)、トルコ、イラン、イラク、イスラエル、シリア・アラブ共和国
(4)日本原子力産業会議:原子力産業新聞(2006年4月20日)および(2006年4月20日)
(5)米国エネルギー情報局・中東諸国ホームページ:トルコ(http://www.eia.doe.gov/emeu/cabs/turkey.html)、イランhttp://www.eia.doe.gov/emeu/cabs/Iran/)、イラク (http://www.eia.doe.gov/emeu/cabs/Iraq/)、イスラエルとシリア(http://www.eia.doe.gov/emeu/cabs/eastmed.html)
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