<大項目> エネルギーと地球環境
<中項目> 日本の新エネルギー
<小項目> 新エネルギー技術開発
<タイトル>
高温ガス炉による水素生産 (01-05-02-19)

<概要>
 高温ガス炉による水素生産に関して、1970年から1980年代には主にわが国では還元製鉄用の高温ガス炉水素生産、ドイツでは遠距離熱輸送のための高温ガス炉水素/メタン変換に関する技術開発が実施された。現在は、日本原子力研究開発機構(以下、原子力機構)において、高温ガス炉(HTTR)を用いた水素製造の研究開発を先頭に、米国DOEの原子力水素イニシアティブ(NHI)における次世代原子力プラント(NGNP)に接続する水素製造システムに関する研究開発、フランス原子力庁(CEA)では、最終的にはガス冷却高速炉を目指し、高温ガスを利用する共通技術を有する高温ガス炉に関し、その利用系である水素製造技術も含めた研究開発を進めている。このほか、第四世代原子力システム国際フォーラム(GIF)において、超高温ガス炉システムに関する水素製造プロジェクトの国際共同研究が進められようとしている。原子力機構におけるHTTRを用いた水素生産に関する計画では、原子炉と水素製造プロセスの接続技術並びに核熱を利用し水の熱化学分解法(IS)プロセスによって水素を製造する技術について研究開発を進めている。
<更新年月>
2007年12月   (本データは原則として更新対象外とします。)

<本文>
はじめに
 温室効果ガス排出による地球温暖化、化石燃料の枯渇等の諸問題を考慮すると、水素社会の構築はできるだけ早急に達成すべきであり、このためには、環境に負荷をかけることなく水素製造に必要な膨大なエネルギーを確保することが重要な課題の一つである。高温ガス炉を用いた水素製造システムは、原子炉から供給される熱を直接利用し、無尽蔵の水を分解して水素を製造することから、二酸化炭素を排出することなく高効率かつ経済的に水素を製造できる最も有望なシステムの一つである。
 以下では、まずこれまでの研究開発、研究開発の現状について述べ、次に、日本原子力研究開発機構(以下、原子力機構)において進められている高温工学試験研究炉(HTTR)(ATOMICA構成番号 <03-04-02-07>参照)を用いた水素製造に関する研究開発について述べる。
1.開発研究の経緯
 過去において、高温ガス炉を利用して還元製鉄のための還元剤としての水素やメタノール製造のための水素を、水蒸気改質法もしくは石炭ガス化法等で作ろうとする研究が、ドイツ(旧西ドイツ)、米国、ロシア(旧ソ連)、日本などで行われ、様々な高温ガス炉システムの設計例が報告されている。これらの研究開発については、IAEA(文献1)およびOECD(文献2)の報告書にまとめられている。一方、実際の技術開発を伴った高温ガス炉水素製造計画は、これまでわが国とドイツ(旧西ドイツ)で行われてきた。わが国の高温ガス炉を用いた水素生産計画は以下の通りである。
 名  称:原子力製鉄プロジェクト(文献3)
 実施機関:通産省(現経済産業省)の原子力製鉄技術研究組合;ERANS(The Engineering Research Association of Nuclear Steelmaking)
 目  的:水素と一酸化炭素を作り、還元剤とする。
 実施時期:1973〜1980年
 実施内容:高温ガス炉を用いて、メタンの水蒸気改質法により水素と一酸化炭素を製造するのに必要な高温ガス炉システムの構築と技術開発を実施した。
 ドイツでは、以下のような計画が実施された。
 名  称:原子力エネルギー長距離輸送プロジェクト(文献4)
 実施機関:ユーリッヒ原子力研究所(FZJ:旧KFA)
 目  的:メタンの水蒸気改質法が吸熱反応であることを利用して、高温ガス炉からの熱を加えてメタンを水素と一酸化炭素に転換し、水素と一酸化炭素を配管で長距離輸送し、熱を必要とする所でメタン水蒸気改質反応の逆反応を起こして熱を取り出す。これにより、高温ガス炉から得られる高温の熱を長距離輸送する。
 実施時期:1972〜1986年
 実施内容:高温ガス炉化学熱輸送システムの構築と技術開発を実施した。
 水素製造法については、1980年代に高温ガス炉の熱を用いて水を熱分解して水素を製造する熱化学分解法が研究され、多くの化学反応の組み合わせが提案されたが、取捨選択され現在はISプロセス(Iodine-Sulfur process)が世界の主流になっている。(ATOMICA構成番号 <01-05-02-03>参照)
2.開発研究の現状
 わが国では、自然エネルギーによる水素製造に関する研究開発が、水素利用国際クリーンエネルギーシステム技術(WE-NET:World Energy-NET work、1993-2002)計画、次いで、固体高分子形燃料電池/水素エネルギー利用プログラム(2002開始)、2004年からは同プログラムを統合した新エネルギー技術開発プログラム(ATOMICA構成番号 <01-05-02-24>参照)において進められている。高温ガス炉による水素生産に関する研究開発については、現在、原子力機構のHTTR計画(後述)において進められている。
 この高温ガス炉による水素製造については、近年、環境問題、資源問題の切札の一つとして世界的に注目を集めている。米国では、原子力水素イニシアティブ(NHI)において、2020年頃の実用化を目指した次世代原子力プラント(NGNP)に接続する水素製造システムとして、熱化学分解法や高温水蒸気電解法等に関する研究開発が進められている。フランス原子力庁(CEA)では、最終的にはガス冷却高速炉を目指し、高温ガスを利用する共通技術を有する高温ガス炉に関し、その利用系である水素製造技術も含めた研究開発を進めている。また、第四世代原子力システム国際フォーラム(GIF)(ATOMICA構成番号 <07-02-01-10>、<07-02-01-11>参照)において、超高温ガス炉システムに関する水素製造プロジェクトの国際共同研究が進められようとしている。これらの他、原子力に特定されてはいないが、世界における水素関連プロジェクトの主なものとして、ドイツのSolar Wasserstoff Bayern(SWB)(1986-1999)、ドイツとサウジアラビアのHYSOLAR(1986-1995)、ドイツとカナダのEuro Quebec Hydro-Hydrogen Pilot Project(EQHHPP)(1986-1999)、ドイツミュンヘン空港水素自動車プロジェクト(1995- )、米国のシカゴ市燃料電池バスプロジェクト(1995-2000)、米国DOE水素計画(1991- )、EUの燃料電池バスの実証試験New Electric Fleet(NEFLEET)(2001-2005)、アイスランド水素プロジェクト(1999- )などがある。
3.HTTRを用いた水素製造に関する研究開発
 原子力機構では、水素社会に向けてわが国初の高温ガス炉HTTRを用いた水素製造システムの研究開発を進めている。高温ガス炉水素製造システムを実用化するための大きな技術課題は、(1)安全で安価な核熱を供給できる原子炉、(2)原子炉と水素製造システムを安全に接続する技術、並びに(3)熱化学分解法(二酸化炭素を排出しない水素製造技術)の開発である。ここでは、(2)および(3)について記す。
3.1 接続技術
 接続技術について、原子力機構は、原子炉と水素製造システムを安全に接続するための主要課題、すなわち、熱応答の異なる原子炉と水素製造システムを調和させる運転制御技術、可燃性ガスの火災・爆発に対する原子炉の安全対策、原子炉からの熱を直接利用した化学反応技術等、水の熱化学分解や石炭のガス化等にも適用できる汎用性の高い技術を開発・実証することを目的として、原子炉と水素製造システムの接続を模擬した炉外実証試験を実施した。水素製造システムには、現在、工業界で最も大量に水素が製造されているメタンの水蒸気改質法を用いている。水蒸気改質法の化学反応式は、次式のように表わされ約800℃の熱を必要とする。
   CH4+H2O=3H2+CO
試験装置(2002年完成)の系統構成を図1に示す。HTTRの2次ヘリウムガス系を模擬したヘリウムガス供給系から880℃の高温ガスが水素製造システムに供給され、メタンの水蒸気改質反応の熱源として使用される(文献5)。図1の系統構成に示すように、水蒸気改質器の下流に蒸気発生器を配置して、水蒸気改質器への原料メタンの供給不足などで改質反応の熱量が激減して改質炉出口で急速かつ大きな2次ヘリウムガスの温度変動(上昇)が発生したとしても蒸気発生器で2次ヘリウムガスの熱を吸収して温度変動を緩和し、原子炉の運転に影響を及ぼさないようにしている。この運転制御特性における蒸気発生器の有効性を試験で確認し(文献6)、今後の高温ガス炉システムに採用していく予定である。
 関連して、事故時に原子炉と水素製造システムを隔離する高温弁の開発を進めており(文献7)、可燃性ガスの火災・爆発に対する安全対策については、原子炉と可燃性ガス機器の合理的な離隔距離の設定、安全基準の検討を行っている(文献8)。また、原子炉で生成するトリチウムの製品水素への移行については、中間熱交換器伝熱管や水蒸気改質器反応管の表面に形成された酸化膜等により移行量を大幅に低減できる見通しを得、トリチウムの移行量の評価手法を確立した(文献9)。
3.2 熱化学分解法(ISプロセス
 高温ガス炉から得られる1000℃以下の核熱を用いて水を分解し、水素を製造する熱化学分解法については、原子力機構において硫黄(Sulfur)とヨウ素(Iodine)を循環物質とするISプロセスの開発研究が進められている。以下にISプロセスの化学反応式を示す。
  I2+SO2+2H2O=2HI+H2SO4   ブンゼン反応    (1)
  2HI=H2+I2             ヨウ化水素分解反応 (2)
  H2SO4=H2O+SO2+1/2O2      硫酸分解反応    (3)
 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
  H2O=H2+1/2O2
 これまでに、ISプロセスの基本反応および分離操作を組み合わせた実験室規模の水素製造実験が行われ、反応に関与する硫酸やヨウ素などの循環物質をほとんど損なうことなく、1997年に毎時1リットルで48時間の連続水素製造に世界で初めて成功している。この成果に立って、大型化開発の可能性を見極めるため、閉サイクル運転技術、高効率化要素技術および耐食性装置材料に関する研究が行われてきた。
 閉サイクル運転技術の研究では、実験室規模試験装置をスケールアップし、プロセス状態計測機器を増強して毎時30リットルの水素発生が可能なガラス製試験装置が製作され、自動制御で連続運転を行うための基本技術の確立を目指した試験が行われてきた。図2に試験装置の外観を示す。この試験装置を用いて、2004年には毎時約30リットルで1週間にわたる自動連続水素製造に世界で初めて成功し(文献10)、HTTRを用いた原子力水素製造実証に向けて次段階の実用材料製の試験装置によるヘリウムガス加熱水素製造試験に移行することが可能となった。
 高効率化要素技術の研究では、ISプロセスが熱エネルギーを水素の化学エネルギーへ変換するプロセスであることから、40%〜50%の高いエネルギー変換効率を達成するために必要な技術の開発が進められている。ISプロセスでは、(1)および(2)式のように、原料の水の成分である水素をブンゼン反応と呼ばれる反応でヨウ化水素の水素に変換し、ついで、ヨウ化水素の熱分解により水素分子を発生させる。ここで、ブンゼン反応で生成するヨウ化水素は、ヨウ素を多量に溶解した水溶液として得られるため、ヨウ化水素の熱分解反応に先立ち、この水溶液からヨウ化水素を分離することが必要である。高効率化の主な課題は、この分離を如何に効率的に行うかにあり、これまでに、諸外国の研究機関から抽出蒸留や反応蒸留などが提案されているほか、原子力機構では分離膜技術の活用が検討され、その性能向上を図るための試験を進めている。
 耐食性装置材料については、将来の大型プラント建設に必要な硫酸やヨウ素などの腐食性の強い物質に耐える装置材料の選定を目的とした各種候補材料の腐食試験が行われてきた。主要なプロセス条件を模擬した環境における既存材料の腐食試験がほぼ完了し、図3に示すように良好な耐食性を示す材料が明らかにされた(文献11)。
 これらの試験研究の目標は、その成果を総合することにより、将来の実用ISプロセスを構築することにある。上述したように高温ガス炉による原子力水素製造の実証を行うための信頼性、健全性等に関する技術データを取得する前段階として、ヘリウムガス加熱で毎時30m3規模の水素製造を行う実用材料製の試験装置の設計検討を進めている。設計検討の成果を基に、硫酸蒸発と分解を同時に行う最も厳しい腐食条件で運転する硫酸分解器を、腐食試験結果から選定した炭化ケイ素(SiC)セラミックスを用いて試作することに成功した(文献12)。図4に大型SiCセラミックスブロックを用いた硫酸分解器の概観を示す。この試作の成功により、優れた高温耐食性能を有するセラミックスで反応器を製作する道が大きく開け、HTTRを用いた原子力水素製造実証に向けて前進した。
(前回更新:2003年1月)
<図/表>
図1 水素製造炉外実証試験装置の系統構成
図2 ISプロセス連続水素製造試験装置(毎時30リットル規模)
図3 ISプロセスの代表的腐食環境と耐食材料
図4 硫酸蒸発器の概念および試作したセラミックス製熱交換部

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<関連タイトル>
熱化学水素製造 (01-05-02-03)
電解式水素製造 (01-05-02-04)
水素利用国際クリーンエネルギーシステム技術 (01-05-02-05)
新エネルギー技術開発プログラム (01-05-02-24)
高温工学試験研究炉(HTTR) (03-04-02-07)
第4世代原子炉 (07-02-01-10)
第4世代原子炉の概念 (07-02-01-11)

<参考文献>
(1)International Atomic Energy Agency:IAEA-TECDOC-1236(2001)
(2)OECD/NEA/NSC:First Information Exchange Meeting,Paris,France(2000)
(3)K.Tsuruoka,et al.:Transactions ISIJ,23,p.1091(1983)
(4)International Atomic Energy Agency:IAEA-TECDOC-1085 TECDOC-1085(1999)
(5)稲垣嘉之他:HTTR水素製造システムの炉外実証試験計画、日本原子力学会誌、41、p.250(1999)
(6)H. Ohashi et al.:Nuclear Engineering and Design,236,p.1396(2006)
(7)Y.Inagaki et al.:Nuclear Technology,157,p.111(2007)
(8)村上ほか:日本原子力学会和文論文誌、5、p.316(2006)
(9)武田ほか:日本原子力学会誌、43、p.823(2001)
(10)S.Kubo et al.:Proc. International Conference on Nuclear Energy System for Future Generation and Global Sustainability(GLOBAL 2005),Tsukuba,Japan,paper 474(2005)
(11)橘幸男:第4世代超高温原子炉の材料技術開発、まてりあ、46(3)、p.146(2007)
(12)A.Terada et al.:Proc. 13th International Conference on Nuclear Engineering(ICONE-13),Beijing,China,Paper No.50183(2005)
(13)小貫薫他:熱化学水素製造法ISプロセス研究の概要、高温学会誌、32(1)、p.50(2006)
(14)小川益郎他:我が国の高温ガス炉技術開発はこんなに進んでいる−世界の技術をリードして世界標準へ、原子力eye、53(4)、p.26(2007)
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