<大項目> エネルギーと地球環境
<中項目> 日本の新エネルギー
<小項目> 新エネルギー技術開発
<タイトル>
水素生産技術 (01-05-02-18)

<概要>
 水素エネルギー利用のうち、主に水素の製造法、水素製造の価格、水素の生産・供給システムについて述べる。単体では天然にほとんど存在しない水素を作るために必要なエネルギー源と原料の組み合わせには、既に工業化されたメタンの水蒸気改質法、水の電気分解法などがあり、研究開発段階の方法として水と熱だけから水素を作る熱化学分解法がある。この中には、地球温暖化の元凶と見なされている二酸化炭素を排出しない水素製造もある。
 これらの方法で製造した水素の価格について、現状の水素製造価格と概略の比較を行ったが、いずれも十分経済的に競合できる範囲にある。生産量の大小、集中型・分散型といった生産方式、消費地近接の程度などから生ずるエネルギー源の特長を考えることにより、需要密度および需要量が異なるそれぞれの地域に最適な水素生産・供給システムを構築することができる。
<更新年月>
2007年09月   

<本文>
 はじめに
 21世紀の新エネルギーとして、クリーンな水素エネルギーへの期待が世界的に拡がっている。従来からあるアンモニア等の化学製品の原料として、石油精製用の脱硫材として、還元製鉄の還元剤としてのほか、近年その進展が著しい自動車用・家庭用の燃料電池の燃料として、水素のニーズは潜在的なニーズも含めて極めて大きい。
 わが国のエネルギー需給を図1に示す。この図からわかるように、わが国は1次エネルギーの約80%を化石資源に依存しており、結果として毎年約12億トンにのぼる二酸化炭素を排出している。このような1次エネルギーは、約54%が熱の形で、残り約38%が電力の形で消費されている。発電のみならずすべての熱源として化石燃料に代わって水素を利用することができれば、二酸化炭素を排出することのない社会を築くことが可能となる。特に、二酸化炭素排出総量の約21%を占める運輸部門においては、エネルギーのほとんどが自動車の燃料として消費されているが、1台1台の自動車が排出する二酸化炭素の回収を実用化することは経済的な理由から非常に考え難い。このため排出されるものは水だけである水素燃料電池自動車がガソリン自動車に替わり市場に導入されることが大きく期待されている。しかしながら、水素は天然に存在しないため、何らかの1次エネルギー資源を用いて水素を生産しなければならない。
 以下では、まず水素の製造方法を概観し、次に水素生産価格の検討結果を紹介し、最後に、水素がどのように社会に入っていくかについて述べる。
1.水素製造法
 水素は、天然には存在しないため、水素を含む原料にエネルギーを加えて水素を人工的に作らなければならない。原料としては、メタン(CH4)等の炭化水素(CnHm)および水(H2O)といった水素の化合物が用いられる。作り出すエネルギーとしては、電気、熱、放射線、光などが用いられる。水を電気で分解する方法は電気分解法(ATOMICA構成番号<01−05−02−04>参照)と呼ばれ、メタンなどの炭化水素を原料とする方法は、原料にエネルギーを加えて別の物質に変えることから、改質法と呼ばれている。水の分解およびメタン改質に必要なエネルギーを以下に示す。
   水電気分解法: H2O −−> H2+1/2O2     −286kJ/mol
   水蒸気改質法: CH4+H2O −−> 3H2+CO −206kJ/mol
 現在、メタンと水蒸気に熱を加えて水素を作る水蒸気改質法が商業化された最も一般的な水素生産法であり、国内のほとんどの水素がこの方法で作られている。水の電気分解法は、わが国では産業化されていないが、エジプト、カナダなど水力発電による電気の安い国では商業プラントが稼動している。商業化されている他の方法としては、メタンの部分酸化法、CB&H法(文献1)などがある。CB&H法は、近年工業化されたメタンの熱分解法の一つであり、1300〜1500℃の高温を必要とするため、エネルギーをプラズマの形で用い、メタンを熱分解して、水素と、炭素の一種であるカーボンブラックを得る水素製造法である。カーボンブラックは、タイヤ等の原料として用いられる。
 これとは別に、水素を大量に含むガスから水素を精製する方法も工業化されている。例えば、製鉄所でコークスを製造する過程で発生するコークス炉ガスには50〜60%の水素を含んでおり、このコークス炉ガスから水素を精製する方法が既に実用化されている。
 一方、研究開発中の水素製造方法には、
 ・HyPr−RING法(文献2):石炭ガス化、二酸化炭素化学吸着法
 ・メタン脱水素芳香族化反応(文献3):ゼオライト・モリブデン炭素化合物触媒によるブタンの熱分解による水素/ベンゼン(C6H6)併産
 ・燃料電池型改質法(文献4):メタン部分酸化と燃料電池の組み合わせによる水素/電力併産
 ・バイオマスガス化法:木質系バイオマスに酸素と水蒸気を混合し、高温下(800℃〜1100℃)で熱分解して合成ガス(水素と一酸化炭素の混合ガス)を製造
 ・熱化学分解法:水の熱分解反応を幾つかの化学反応に分けて行わせる方法(ATOMICA構成番号<01−05−02−03>参照)
など様々な方法がある。表1に水素製造法をまとめて示す。
 以上のような水素製造に関して、化石資源をエネルギー源として、または、原料に化石資源を用いて水素を製造するという方法は、二酸化炭素等を排出しない環境に優しいエネルギー利用にあるという水素エネルギーの導入理念とは矛盾する。したがって、この導入理念に従うという点では、エネルギー源としては自然エネルギーもしくは原子力、原料としては水だけが可能な選択肢である。現在、種々の水素製造システムについて検討がなされており、量的に十分な供給が可能なシステムとして、原子力エネルギーを利用した水素製造が世界的に注目を集めている。その中でも1000℃近い高温の熱を取り出せる高温ガス炉による水素製造が、最も有望な製造法として、わが国を筆頭に米国、フランスでも研究開発が進められている。
2.水素生産価格
 これまでに報告されている水素製造法に関するデータ(文献5、6)を参考に、
(a)化石燃料燃焼水蒸気改質法
 エネルギー源;ナフサ、原料;ナフサ
(b)軽水炉発電を利用した水の電気分解法
 エネルギー源;ウラン、原料;水
(c)自然エネルギーによる発電を利用した電気分解法
 エネルギー源;太陽、風力等、原料;水
(d)高温ガス炉を利用した熱化学分解法(ISプロセス
 エネルギー源;ウラン、原料;水
(e)コークス炉ガスからの水素精製
の5つの水素製造システムに関し、水素製造価格を比較した結果を図2に示す。このときの水素製造価格の算出条件を表2に示す。ナフサの水蒸気改質法については、改質ガスのみならず、エネルギー源としてナフサを燃焼させるため、二酸化炭素が大量に生成されるので、表2に示すように二酸化炭素の処理・処分に要する費用を考慮している。同様に、コークス炉ガスからの水素精製においても、二酸化炭素の処理・処分費用を考慮している。二酸化炭素を全く排出しない(b)、(c)、(d)のシステムの水素製造価格は、(b)の軽水炉発電と電気分解法を組み合わせたシステムが34円/Nm3、(c)の風力発電を利用したシステムが52/Nm3、(d)の高温ガス炉を用いた熱化学分解法ISプロセスが22円/Nm3である。このように高温ガス炉による水素製造は、ナフサの水蒸気改質法やコークス炉ガスからの水素精製に対して十分に競合可能であり、将来の有力な方法であるといえる。これら(b)、(c)、(d)のシステムについては、革新的な電気分解技術も含め、目標とする水素製造価格を達成するための研究開発が行われている。
3.水素の社会への導入
 水素が社会に今後導入されていくとき、時間的および空間的に社会・経済に最も負担の少ない方法で導入されるべきである。以下では、水素を燃料電池に利用する、特に燃料電池自動車で利用する場合について述べる。
 既に工業化された水素製造方法により、消費地、すなわち水素供給ステーションで水素を作り(オンサイト製造)、貯蔵し、燃料電池自動車に供給するというシステムが、最も早期に整備されそうである。現在、横浜、大阪、高松等で水素供給ステーションが建設され試験を始めている。このように水素供給の社会基盤(インフラ)が整備されると、次に、より安価な水素生産に移行していくものと考えられる。安価に生産する方法は、水素製造設備を大型化することであり、この場合には、消費地近く(100km程度以内)の水素生産基地から水素供給ステーションまで水素を輸送しなければならない。わが国において国内約600か所のガソリン貯蔵所から約55,000か所のガソリンスタンドにタンクローリで運んでいるガソリンの生産・輸送方式と同様の方式が、水素の生産・輸送においても考えられる。さらに、大量需要が見込まれれば、さらなる大量・遠隔地生産および水素パイプラインによる輸送が考えられる。
 一方、エネルギー源として、大量生産に適した原子力と分散型の自然エネルギーは、需要の空間的な密度分布によって役割分担していくことになると思われる。水素供給ステーション一か所分の水素約300m3/hを供給するには、稼働率の点などで一概に比較できないが約1000kWの風力発電設備1基(プロペラの直径約60−70m)、もしくは1000m2(例えば20m×50m)の太陽電池が必要であり、これら自然エネルギーに恵まれた地域に導入することが前提条件となる。一方、高温ガス炉の熱出力は、従来の軽水炉発電プラントのそれが3000MW(100万kWの発電)であるのに比べれば、最大で600MWと小型であり、もし、わが国すべての自動車に水素を供給するとなれば平均的に各県に2基程度必要となる。この場合、高温ガス炉水素製造システムは、自然エネルギーを組み合わせた一種の分散型システムとして各都道府県に分散設置することも可能である。しかし、大量の需要が集中すればするほど大量生産方式がより経済的となる。高温ガス炉水素製造システムは分散設置のみならず遠隔地で集中大量生産方式を取ることも可能であり、地域の需要に応じて細やかに対応することができる。
(前回更新:2003年1月)
<図/表>
表1 水素製造方法
表2 水素製造価格の算出条件
図1 わが国のエネルギー需要および二酸化炭素排出量
図2 各水素製造法における製造単価の比較

・図表を一括してダウンロードする場合は ここをクリックして下さい。


<関連タイトル>
熱化学水素製造 (01-05-02-03)
電解式水素製造 (01-05-02-04)

<参考文献>
(1)B.Gaudernack and S.Lynum:”Hydrogen from Natural Gas without Release of CO2 to The Atmosphere”,Hydrogen Eng. Prog.,11,p.511(1996)
(2)江原、原田:石炭利用CO2回収型水素製造技術の開発、日本エネルギー学会誌、79(1)、p.84(2000)
(3)M.Ichikawa,et al.:”Catalytic Dehydrocondensation of Methane with CO and CO2 towards Benzene and Naphthalene on Mo/HZSM−5 and Fe−Co modified Mo/HZSM−5”,J.Catal.,182,p.92(1999)
(4)吉田(編):エクセルギー工学、共立出版社(1999)、p.183
(5)日本原子力産業協会、高温ガス炉将来展開検討会:高温ガス炉の導入シナリオ及び研究開発ロードマップの検討、−高温ガス炉将来展開検討会WG2報告書−(2007)
(6)宮本ほか:水素エネルギー研究の現状と高温ガス炉水素製造システムの将来展望、JAERI−Review 2001−006(2000)
(7)小川 益郎:環境面でも実用化を待望、Energy Review(2002年8月)
(8)NEDO:水素安全利用等基盤技術開発、水素に関する共通基盤技術開発、水素シナリオの研究(2005年3月)
(9)T.Nishihara,et al.:”Potential of the HTGR hydrogen cogeneration system in Japan”,Proc. 15th International Conference on Nuclear Engineering(ICONE−15),Nagoya,Japan,Paper No.10157(2007)
(10)資源エネルギー庁:平成17年度(2005年度)エネルギー需給実績(確報)(2007年5月)
(11)独立行政法人国立環境研究所地球環境研究センター 温室効果ガスインベントリオフィス(GIO):日本の温室効果ガス排出量データ(2007年5月)
(12)NEDO燃料電池・水素技術開発部:2006 燃料電池・水素技術開発ロードマップ(2006年4月)
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