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<概要>
 ガスタービンは基本的に多種燃料への適合、低公害等優れた特徴を持ち、石油代替エネルギーを用いる熱機関として期待されている。発電用として中大規模発電プラントへの導入は進みつつあるが、出力1,000kW未満では熱効率が急激に減少するため、普及は限られている。しかし、ガスタービンは技術革新の余地が大きく、ガス温度の高温化、要素の性能向上等により飛躍的な熱効率の向上をもたらすことができる。近年、著しく高度化したセラミックスを高温部に用いたセラミックガスタービンを開発すれば、熱効率の一層の向上を図ることができる。セラミックガスタービンの開発、実用化により中小型エンジンの高効率化および燃料多様化を促進し、大きな省エネルギー効果を実現でき、小型エンジンのNOx排出等環境汚染の低減化を図れる。さらに、ポンプ、送風機等の産業用および乗用車、バス、トラック、建設機械等の移動用への利用が期待される。300kW級のコージェネレーション用再生式CGT(セラミックガスタービン)開発の成果とニューサンシャイン計画以降のプロジェクト産業用コージェネレーション実用技術開発について述べる。
<更新年月>
2006年02月   (本データは原則として更新対象外とします。)

<本文>
1.高温ガスタービンの特徴と課題
 近年高温ガスタービンは、その優れた特長の故に、コージェネレーションシステム(熱と電気の併給システム)用の発電機や可搬式発電機など中小規模の発電機として普及が進みつつある。高温ガスタービンのもつ優れた特長とは、(1)連続燃焼であるため、ディーゼルエンジン等のピストン機関に比べて非常に多くの種類の気体燃料、液体燃料、固体燃料が使用できる、(2)小型軽量で騒音、振動が少ない、(3)空気過剰の連続燃焼であるため未燃の炭化水素、一酸化炭素、ばいじん等を排出しない、(4)保守が容易、(5)冷却水が不要(又は少量でよい)、(6)排熱温度が高いため排熱の利用価値が高い、などである。
 しかし、高温ガスタービンは出力規模が1,000kW程度より小さくなると熱効率が急激に減少する。例えば、300kWの金属製ガスタービンでは、現在のところ、熱効率は15〜20%に過ぎず、熱効率が30%を超えるディーゼルエンジン等に比べて普及が遅れている。このことは、小型ガスタービンの普及が遅れている原因ともなっている。ガスタービンの熱効率の向上には、各構成要素の効率の向上とタービン入口温度の高温化が有効であるが、金属材料を使用する限りタービン入口温度の大幅な上昇は見込めない。この課題を解決する最も有効な方法は、セラミックスの採用である。
2.セラミックガスタービン
 セラミックスは、高温構造材料として優れた性能を有し、冷却をしないでタービン入口温度の高温化が可能である。セラミック材料の特性の向上を図れば、現在の小型ガスタービンに比べてはるかに高い1,350℃程度のタービン入口温度を達成することができると考えられる。無冷却方式での高温化は、セラミックスの使用により初めて可能となるものであり、この結果42%以上の高い熱効率を実現できると考えられる。図1にセラミックガスタービンの概要を示す。
 セラミックガスタービンの開発は、通産省工業技術院(現独立行政法人産業技術総合研究所)のニューサンシャイン計画を中心としつつ、民間企業においても独自の研究開発が進められている。表1にニューサンシャイン計画におけるセラミックガスタービンの開発目標を示す。本計画では、軸出力300kWの熱効率42%以上、タービン入口温度1,350℃、低公害排気、燃料多様化を目指したセラミックガスタービンを開発することを目標に、耐熱セラミック部材、要素技術等の以下の研究開発が進められた。
2.1 セラミツク部材の研究開発
 タービン入口温度1,350℃のセラミックガスタービンにおいては、燃焼器、タービン翼、ガス通路、熱交換器等のセラミック化が必要とされる。これに応えるためセラミック部材の研究開発については、従来のモノリシック材料に関し、高温強度、靭性、疲労、クリープ、熱衝撃、耐食性等の材料特性の向上と、より信頼性が高く耐久性の優れた材料の研究開発を行う。また、セラミック部材の高強度化、高靭性化等による性能向上を目的とした複合材料の研究開発を行い、現存材料の破壊靭性値(約7MPa・√m)の大幅な向上とともにその高温強度特性および耐食性の改善を図る。
 セラミック部材の部品化技術については、各部品のセラミック化に不可欠な、高精密、複雑形状部品の成形・焼結技術の研究開発を行うとともに、焼成部品の高温強度特性および信頼性の向上を可能とする最適な焼成プロセスを見出す。また、セラミックス間の、またはセラミックと金属の接合技術や焼結技術、さらに、コーティング技術および表面改質処理技術を開発し、各部品の環境に応じた素材選択による設計を可能にする。
 また、これらのセラミック部品の加工・接合の過程では加工傷生成の問題があり、セラミックガスタービンの信頼性に影響を及ぼすおそれがある。このため、タービンローターと軸の接合、セラミックブレードのディスクヘのはめ込み、さらにシール部品や摺動部品等について精密加工技術の確立を図る。
2.2 要素技術の研究開発
(1)圧縮機の開発では、圧縮機を試作、試験し、設計手法の高度化を図る。試作研究では、高圧力比、高効率、高周速の圧縮機供試体を設計、試作し、性能確認試験を行い、小型セラミックガスタービンに最適な圧縮機の開発を行う。
(2)燃焼器の開発では、理想的な高負荷小型燃焼器の設計手法の研究、低カロリー燃料を含む多種燃料での燃焼器技術の確立および低公害化技術の研究開発を行う。試作研究では、セラミックスを効果的に用いた燃焼器を設計、試作する。さらに、改善を進め、小型、高負荷、低NOxに対応した燃焼器を開発する。
(3)タービンの開発では、セラミック製のタービンノズル、ロータ、燃焼ガス通路等を開発する。ブレード、ノズル、ロータ等の各供試体の部品性能の確認試験を進めながら信頼性の高い部品開発を行う。
(4)高温熱交換器の開発では、セラミック製熱交換器の熱交換機構を理論的に解明するとともに熱交換器伝熱要素による性能試験を行う。また、熱交換器の設計、試作を行い、伝熱特性試験、流量配分特性試験、シール構造試験、構成部材の接合部特性試験、強度・耐久性試験等を実施する。
(5)軸受けの開発では、セラミック軸受の適用技術を確立し、試作研究では、構造方式の異なるいくつかの軸受供試体を試作し、種々の負荷条件で耐久試験を行う。これにより軸受の構造を選定する。
(6)計測制御技術については、各要素機器の概念設計に基づきシステムの検討を行うとともに、高温ガスの温度測定、動翼等回転部と静止部の間隙測定等、高い性能と制御性を得るために必要な計測制御技術について基礎的な研究開発を行う。
(7)エンジン高効率化では、セラミックガスタービンについてサイクル計算および各要素機器の性能に基づくシミュレーションを行い、エンジンの高効率化を図るための基礎研究を行う。
2.3 設計試作運転研究
 設計試作運転研究においては、コージェネレーション等に用いる300kW級セラミックガスタービンのエンジンシステム開発を行う。コージェネレーション用は、発電と熱供給に適用することを目的としたセラミックガスタービンである。定置用としての使用形態であるため、重量や容積がやや大きくなるが損失の少ない伝熱式(隔壁式)熱交換器を再生器に採用して高効率化を図る。
 他の用途としての可搬式発電用が考えられる。可搬式発電用は、建設工事現場等での発電、災害地等での非常用発電に適用することを目的としたガスタービンである。ガスタービン形式には、用途、運転条件等を考慮して目的に適した形式を選定して開発を進める。タービン入口温度1,350℃において、42%程度の熱効率(低位発熱量基準)の達成を目標とし、また優れた環境適合性を併せもつものとする。これらの目標を達成するために、以下の研究により、エンジンシステムの設計、試作を行い、その運転研究を行う。
(1)基本設計
(2)第1次設計試作運転研究
 タービン入口温度900℃の金属製ガスタービンを設計、試作し、性能試験等により工ンジンシステムとしての妥当性を明らかにする。
(3)第2次設計試作運転研究
 タービン入口温度1,200℃で、セラミック部品を組み込んだエンジンシステムを設計、試作し、運転研究によってセラミック部材の基本的な問題点を抽出する。
(4)第3次設計試作運転研究
 セラミック部材の研究開発によって得られたセラミック部品を組み込んだエンジンの設計、試作およぴ運転研究を行い、目標に定められた性能を有するエンジンシステムの実証試験を行う。図2に、基本型セラミックガスタービンカットモデル(一例)を示す。
 このほか、排気、騒音、振動等の環境保全性、各種の用途への適用性、経済性、運転管理等において優れた社会適合性をもつことが要求される。このため低公害化技術、騒音の低減化、セラミックガスタービンの効果的な利用システム等について、研究開発を進める。特性評価、非破壊検査技術の開発も進める。
2.4 開発の成果
 300kW級のコージェネレーション用再生式CGT(セラミックガスタービン)では、1軸CGT(CGT301)と2軸のCGT302の開発の結果、1998年度の運転研究により熱効率42.1%が達成された。セラミック材料は燃焼ガス流路の高温部品(タービン、ブレード、ノズル、スクロール、燃焼器など)と部品の固定リング等に適用された。図3にCGT302の部品の一例を示す。達成された熱効率は世界的にも類のない高さであり、また、NOx排出特性もCGT302エンジン実機試験において、31.7ppm(目標70ppm)が達成された。これらの成果は、産業用コージェネレーション実用技術開発等、ニューサンシャイン計画以降のプロジェクトに反映された。
3.産業用コージェネレーション実用技術開発(HGTプロジェクト)
 ガスタービンによる産業用コージェネレーション市場は、省エネルギーの観点からも増加の傾向にある。また、ディーゼルエンジン等の競合機種が少ない、高効率低公害の中型8000kW級ガスタービンが望まれている。このプロジェクトは1999年以降に取り組まれているもので、高温部に金属部品およびセラミック部品両方を用いる8000kW級ハイブリッドガスタービンを開発する。ハイブリッドガスタービンでは早期実用化に主眼が置かれている。図4にHGTプロジェクト開発体制、図5にHGT導入効果の調査における比較対象システムフロー概要、図6にハイブリッドガスタービンとその試作セラミック部品を示す。
<図/表>
表1 ニューサンシャイン計画におけるセラミックガスタービンの開発目標
表1  ニューサンシャイン計画におけるセラミックガスタービンの開発目標
図1 セラミックガスタービンの概念図
図1  セラミックガスタービンの概念図
図2 セラミックガスタービンカットモデル
図2  セラミックガスタービンカットモデル
図3 CGT302セラミック材料適用部品の一例
図3  CGT302セラミック材料適用部品の一例
図4 HGTプロジェクト開発体制
図4  HGTプロジェクト開発体制
図5 HGT導入効果の調査:比較対象システムフロー概要
図5  HGT導入効果の調査:比較対象システムフロー概要
図6 ハイブリッドガスタービンとその試作セラミック部品
図6  ハイブリッドガスタービンとその試作セラミック部品

<関連タイトル>
ムーンライト計画 (01-05-02-06)
高効率ガスタ−ビン (01-05-02-07)
省エネルギ−技術の開発推進 (01-06-03-01)

<参考文献>
(1)資源エネルギー庁(監):1999/2000資源エネルギー年鑑、通産資料調査会(1999年1月)、p.686-690
(2)科学技術庁科学技術政策局(監):日本のエネルギー開発、日本科学技術振興協会(1997年10月)、p.126-127
(3)資源エネルギー年鑑編集委員会(編):2003/2004資源エネルギー年鑑、通産資料出版会(2003年1月)、p.216-223
(4)(独)新エネルギー・産業技術総合開発機構:NEDO20年史「叡智の飛翔」(2000年9月)、p.98-100
(5)(独)新エネルギー・産業技術総合開発機構:「産業用コージェネレーション実用技術開発」(事後評価)分科会 資料
(6)福留武郎、鶴薗佐蔵:コージェネレーション用セラミックガスタービン部品の開発、FC Report 20、No.9、216-217(2002)、(社)日本ファインセラミックス協会ホームページ
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