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<概要>
 風力エネルギーの利用は風力発電が主体と考えられている。日本では、サンシャイン計画およびニューサンシャイン計画で、技術的課題として、大型風車製造技術の向上、ナセル装置の小型軽量化、タワー部の強度・耐震性、全体システムの簡素化などの研究開発を進めてきた。日本における風力発電のコストは海外に比べると高いのが現状である。この違いは風況、設置規模の違いによる。さらに、経済性・信頼性の向上、立地上利用形態等の検討が必要である。経済産業省では1995年度から風力開発フィールドテスト事業を創設し、風況調査、風力発電設備の設置・運転の調査研究事業を行っている。海外では、環境対策としての風力発電が見直され、政府の政策と援助で急速に発展・増加するとともに、技術の進歩・改良が進み、風車の大型化・大規模ウィンドファーム・洋上風力発電など本格的な風力エネルギー利用の時代に向かっている。
<更新年月>
2004年02月   

<本文>
1.風力発電(Wind Turbine,Wind Power Generator)のしくみと日本における普及状況
1.1風力発電の特徴
 風力エネルギーは、太陽エネルギーの変形で、潜在的に資源量は豊富であり広範囲に存在しクリーンで再生可能なエネルギーであるが、エネルギー密度は小さく経済的に変動が大きく地形や気候などの制約がある。古くは、ヨーロッパで、農業用、揚水用として使われていたが、近年、主に発電への利用を中心とした研究開発が進められてきた。
1.2 風力発電のしくみ
 発電のためのしくみを図1に、500kW大型発電システムを例に風力発電のシステム概要を図2に示す。風力発電は、タービン翼、増速機、発電機を組み合わせて「風の力」でブレード(翼)をまわし、その回転運動を発電機に伝えて「電気」を起こす粘性流体機器で、非常にシンプルな構造を持つ。ただし、水と比較して800分の1という低い粘性の風からエネルギーを採るため、水力発電の約30倍程度の直径を持つ大きなタービン(風力発電の主流:直径70m、水力発電の場合:直径2〜3m)が必要になる。最近の風力発電機では、風まかせの風車ではなく、風にあわせた運転と、発電装置が組込まれ、より安定した、より高品質の発電が行われるようになっている。
 風車は図3に示すように、さまざまな形状があるが、回転軸の方向により、水平軸型と垂直軸型に大別できる。風力エネルギーは、風の通過する面積に比例し、風速の三乗に比例する(図1参照)。風力エネルギーから風車を使って実際に取り出せるエネルギーの割合を風車の効率といい、理想的な風車で約60%である。プロペラ型、ダリウス型は効率がよく、回転力が小さく、高回転数であるので発電用に適し、オランダ型、サボニウス型は、効率は低いが、回転力が大きいので、農業用に適している。サボニウス型、ダリウス型は、回転軸が縦についているので風向きを選ばずに発電できる。
1.3 日本における風力発電の開発プロセス
 日本においては、1975年(昭和50年)以降、数kWの風力発電についての研究開発が大学、地方自治体、一部企業で進められた。比較的出力規模の大きな風力発電の研究開発は、国家プロジェクトとして進められた。通商産業省(現、経済産業省)は、1976年以降サンシャイン計画(1993年度からはニューサンシャイン計画)において風力発電システムの技術開発を進めている。計画では、a)1981−1990年 100kW級パイロットプラントの開発(1981〜1986年度まで三宅島で100kW級風力発電プラントの研究)、b)1990−1998年大型(500kW型)風力発電システムの開発(青森県竜飛地区、1991〜1996年度、500kW1基)および集合型(ウィンドファーム)風力発電システムの開発(沖縄県宮古島、1990〜1997年度、250kW2基、400/100kW3基)、c)1999−2003年離島用風力発電システム等開発(・離島における風力発電システムの開発、・局所的風況予測モデルシステムの開発)の技術開発が行われ、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)を中心に様々な研究機関が連携して開発を進めている。
 また、風力発電の導入促進支援策としては、1990年〜1992年にかけてNEDOによる風況調査の実施および精査風況マップ(年平均風速値)の作成(図4参照)、1992年全電力会社による余剰電力買取り制度の実施(自家発電用風力発電による余剰量の同価格買い戻し制度)、1995年風力発電開発支援策としてNEDOによる「風力開発フィールドテスト事業(現、風力発電フィールドテスト事業)」の開始、1997年新エネルギー導入支援策通産省・NEDO「事業補助金制度」の発足、1998年商用電力買取り制度各電力会社「商用買電単価メニュー」の発表(15〜17年の自主的長期買取制度)、2000年グリーン電力基金の拠出などがある。2003年4月からはRPS 制度(Renewable Portfolio Standard;電力会社に自然エネルギーによる電力供給量の義務量を割り当て、各事業者の達成度に応じて「グリーン証書」を介して義務量を売買する制度)が導入され、開発は一層促進されることが予想される。
1.4 日本における風力発電導入の現状
 日本でも、海外同様、風力発電の急速な成長があり、2002年3月末現在で443基、出力約312,220kWとなっている。風力発電システム導入量の推移を表1に、都道府県の導入の現状を表2に、発電電力量の推移を表3に、同発電実績の原油換算量を表4に示す。また、日本国内の主な風力発電施設所在地を図5に示す。
 開発当初、そのほとんどは電力会社、地方公共団体、国等が試験研究用あるいはデモンストレーションとして設置したものであったが、最近では、特に売電事業用の大規模風力発電施設等において技術革新や大規模化による設置コストの低減が見られ、1992年の電力会社による余剰電力購入制度および1993年の系統連系技術要件ガイドラインの整備を背景に、売電事業を目的として設置されたものが増加している。現在では、風況の良い北海道、東北地方を中心に民間企業や地方公共団体による導入が進み、1998年以降の導入設備容量は前年度比の2倍強に達している(表1参照)。
 総合エネルギー調査会(現総合資源エネルギー調査会)・新エネルギー部会報告書(2001年6月)では、昨今の風力発電の導入実績を鑑み、2010年度に約300万kW程度の導入を目指している。
1.4.1 大規模ウィンドファームの開発
 風力発電システムの設置には、単体設置と風車を複数其設置する集合設置がある。単体設置は、既存の購入電力と併用して自家消費用の補助電源として利用されることが多く、地域やレジャー施設などのクリーンエネルギー利用のシンボルとして活用されるが、集合設置は、風のエネルギー密度の低さ、不安定性を複数の風車で補い、安定した電力を得るための方法で、ウィンドファームまたはウィンドパークと呼ばれる。
 日本では、1991年から青森県津軽半島竜飛岬に、275kW風車5基の集合風力発電基地「竜飛ウィンドパーク」が建設され、実用型風力発電の本格的な実験・研究が開始した。1998年からはNEDOが開発した出力500kWの風車を建設し、合計11基の集合型風力発電の実証試験を行っている(図6参照)。
 また、北海道苫前町では、苫前グリーンヒルウィンドパークで出力1000kW風車20基、苫前ウィンビラ発電所で出力1650kW風車14基と出力1500kW風車5基が建設され、2000年末から集合型大規模発電システムの基地として総出力52,800kWを稼動している。電力は全て北海道電力に売電している。
 風車は大型化するほど発電コストが下がるのが一般的で、設置費用は設置場所の状況で大きく変わるが、一般的には約24〜37万円/kW程度、1000kW級の風車の設置には約2.4〜3.7億円の初期投資が必要である(図7参照)。欧米では風車の量産化、運搬コスト・設置費用の負担の軽減などの違いにより、日本より安い費用での導入が可能である。発電コストの試算例を表5表6に示す。
1.4.2 離島における風力発電システムの開発
 日本は欧米に比べて一般に離島や地形が急峻な山岳地が多いため、風の乱れが大きくかつ台風等の強風が吹くなど、独特の自然条件を有している。特に、中小規模の離島は、風力エネルギーが潜在的に恵まれながらも道路や建設インフラが脆弱なため、風力発電の導入は十分とはいえない。
 NEDOでは、1999年度より4年計画で「離島における風力発電システムの開発」を実施し、2002年3月から、沖縄県伊是名島で100kWシステムの試験運転を開始した。建設のインフラ、80m/sec以上の耐強風性、20年以上の耐用年数、電力品質の維持などを目標としたディーゼル発電機とのハイブリッドシステムである。なお、発電コストは20円/kW以下(重油ディーゼル発電機では発電コストが40円/kWh程度以上の地域)を目指している。
1.5 今後の課題
 風力発電導入における最大の課題は、普及が進んでいる欧米諸国に比べ大気の乱れが大きく、設備利用率等に起因する高い発電コストである。ちなみに、資源エネルギー庁の試算によれば1kWh当たりの発電コストは、水力13.6円、LNG 火力6.4円、石油火力10.2円、石炭火力6.5円、原子力5.9円、太陽光発電46〜66円、風力発電10〜24円となっている。また、出力の不安定な風力発電の大規模導入に伴い、電力系統に影響を及ぼすことが懸念さている。現在、周波数変動抑制等による系統出力安定化や既存系統の増強等など、電力系統への影響に関する対策などの手段が検討され、ロータの回転数変化に対応した可変速運転技術では騒音源となる歯車を持たないギアレス風車も開発されている。
 大型プロジェクトを導入の際には、風車建設の条件として、(1)年間を通じて適度な風が吹いていること(地上30m高で年平均風速5〜6m/s以上)、(2)建設できる広範な土地があること(居住地域からの隔離)、(3)送電線が近くにあること、(4)輸送可能な道路があることのほか、航空規制、騒音、電波障害、鳥類や景観等の環境、自然公園や農地法等の規制、灯台航路など、様々な問題をクリアすることが必要である。
 更に既に商用化されてきている中・小型機に関しても、信頼性、耐久性、保守性等に係る要素技術の開発とともに、コスト低減のための努力と、タワーの軽量化等の技術開発を行うことが重要である。
2.海外における普及状況
 世界の風力発電の設備容量は2001年末では約2492.7万kWで、前年度より35%以上も急増した(図8参照)。これは大型火力発電や原子力発電のおよそ24基分に相当する。現在普及が進んでいる1000kWの風力発電設備は、日本の一般家庭およそ200件分、600人分の電力需要を賄うことができると計算されている。
 風力発電の導入実績を国別に見ると、2001年末の時点で、世界第1位はドイツで約873万kW、第2位のアメリカは425万kW、第3位は近年急速に伸ばしたスペインがデンマークの246万kWを抜き355万kWと躍進した.
 風力発電は、1980年代に石油高騰に対抗するエネルギーとして、米国で大規模風力発電施設が建設された。カリフォルニア州ではPURPA法(Public Utility Regulatory Policies Act.公益事業規制政策法)により3大ウィンドファーム(Tehachapi、Altamont、San Gorgino)が建設された。州全体では約16,600台の風力発電機が設置され、総設備容量は182万kW、発電電力量は27.7億kWh(1998年)が運転されている。図9にワイオミング州アーリントン(Arlington)近くの米国内でも風力発電好適地の1つであるFoote Creek Rimの発電風景(600kW×69台)を示す。
 一方、1980年後半の石油価格低下により一時低迷したが、1990年以降、欧州の一部の国(オランダ・デンマーク・ドイツ・スペインなど)で環境対策としての風力発電が見直され、政府の政策と援助で急速に発展・増加するとともに、技術の進歩・改良が進み、風車の大型化・大規模ウィンドファーム・洋上風力発電など本格的な風力エネルギー利用の時代に向かっている。
 風力先進国であるドイツ北部や米国カリフォルニア州で風力発電の寄与率は高い。これらの国では、風力による電力の買い取り義務や、環境税等の優遇措置や補助制度を行うことにより、価格的にも既存電力との競争力を獲得しつつある。例えば米国では、1kWh当たりのコストがこの10年間で70%以上ダウンし、2001年の時点で4c/kWhである.EC 諸国では2010年までに風力による電力供給を6〜7%を、米国では2020年までに5%とする政府目標が掲げられている。
 最近の傾向は、技術の発達によりロータ直径およびナセルの高さ60m以上の1000kWを超える大型の風車が普及している。大型化のメリットは、風の受風面積が増え、またナセル高さが高くなることで上空の高い風速の風のエネルギーを得ることにある。
 また、ヨーロッパでは陸上での設置場所が限られていることや、景観あるいは騒音などの問題から、風車を沿岸部の沖合に設置する洋上風力発電が始まっている。図9はデンマークのコペンハーゲン沖に設置されたMiddelgrundenの洋上風車である。洋上では、陸上と比べて、風の乱れや高さ方向の風速変化が小さいのが特徴である。風車にとっては騒音の問題が陸上程には問題とならないため、陸上では羽根先端の速度を60m/sec程度に抑えていたものを、100m/secを越える高速化および大型化が可能となる。洋上風力発電には基礎および設置工事の技術的・経済的課題や、塩害対策、保守点検、漁業補償などの解決すべき課題があるが、風力エネルギー賦存量の試算は膨大であるため、その導入が急速に進んでいる。
<図/表>
表1 日本における風力発電システム導入量の推移
表1  日本における風力発電システム導入量の推移
表2 日本における風力発電システムの導入量の現状
表2  日本における風力発電システムの導入量の現状
表3 風力発電システム導入量の推移(発電電力量/発生熱量の算出)
表3  風力発電システム導入量の推移(発電電力量/発生熱量の算出)
表4 風力発電設備導入量の推移(原油換算の算定)
表4  風力発電設備導入量の推移(原油換算の算定)
表5 発電コスト試算例
表5  発電コスト試算例
表6 600kW級風力発電システム建設費の内外価格比較
表6  600kW級風力発電システム建設費の内外価格比較
図1 風力発電のしくみ
図1  風力発電のしくみ
図2 500kW大型風力発電システムの概要
図2  500kW大型風力発電システムの概要
図3 風車の分類
図3  風車の分類
図4 日本全国風況マップ(地上高30m)
図4  日本全国風況マップ(地上高30m)
図5 日本国内の主な風力発電施設配置図と風力発電設備容量の推移
図5  日本国内の主な風力発電施設配置図と風力発電設備容量の推移
図6 竜飛ウィンドパークにおける集合型風力発電の実証試験
図6  竜飛ウィンドパークにおける集合型風力発電の実証試験
図7 風車サイズと経済性
図7  風車サイズと経済性
図8 世界の風力発電設備容量の推移
図8  世界の風力発電設備容量の推移
図9 世界における風力発電システムの導入事例
図9  世界における風力発電システムの導入事例

<関連タイトル>
新エネルギーの導入と動向 (01-05-01-09)
省エネルギ−技術の開発推進 (01-06-03-01)

<参考文献>
(1)資源エネルギー庁(監修):1999/2000資源エネルギー年鑑、通産資料調査会(1999年1月)、p.674−677
(2)資源エネルギー庁(編):エネルギー2001、電力新報社(2001年2月),p.147−153
(3)資源エネルギー庁(編):新エネルギー便覧 平成10年度版、通産資料調査会(1999年3月),p.63−70
(4)東海大学総合科学技術研究所:風力発電の現状と課題、http://www.meti.go.jp/report/downloadfiles/g01006gj.pdf
(5)新エネルギー・産業技術総合開発機構:風力発電導入ガイドブック(2000)、http://www.nedo.go.jp/
(6)東北電力 電源技術:竜飛ウィンドパークにおける集合型風力発電の実証試験
(7)風力発電ネットワーク(TRONC):
(8)Middelgrunden Wind Turbine Co.:http://www.middelgrunden.dk
(9)総合資源エネルギー調査会・新エネルギー部会報告書
(10)American Wind Energy Association:
(11)資源エネルギー年鑑編集委員会(編):2003/2004資源エネルギー年鑑、通産資料出版会(2003年1月)、p.202−206
(12)新エネルギー・産業技術総合開発機構:データベース>新エネデータ>fy14>風力発電>1年間の動向
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