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<概要>
 1960年代に原子力による海水淡水化を検討したが、必要とする地域などの水需要と原子力による淡水化量などが一致しなかった理由などにより、その検討は一時中断されていたが、その後、人口増加や経済性の発展などにより、水の需要は大幅に増加し、世界における1960年代の全淡水化施設容量は日産2-300トンであったのが、最近では日産4,000万トンとなり、各国では大型の海水淡水化プラントが稼動している。さらに、人口増加とともにこれからも淡水化の需要は増加し、淡水化の需要予測では平均約12%の増加が予想されている。
 1960年代とは異なり、21世紀には大容量の海水淡水化が必要な時代となってきており、原子力の利用の可能性が充分見えてきたことと、石油資源の有無に関わらず、石油の有効利用や地球温暖化対策などから、早期に原子力による海水の淡水化を世界的に進めていく状況になってきている。
<更新年月>
2007年08月   (本データは原則として更新対象外とします。)

<本文>
1.背景
 原子力による海水の淡水化に関する検討は、1960年代に国際原子力機関(IAEA)で開始され、わが国も当時の通産省(現経済産業省)の指導の下、蒸発法による大容量の淡水化プラントの検討を実施した。しかし、当時の水需要と大型原子炉を利用した淡水化量(供給量)が一致しなかったなどの理由により、IAEAの検討は中断した。その後、1980年代後半には、水不足に悩む地中海沿岸の北アフリカ諸国から再検討の提案が出され、現在まで、原子力や淡水化に高度な技術を有する日本や米国、さらには北アフリカ諸国のほか、同様に水不足に悩む中東地域、インド、中国なども参加し、原子力利用の可能性を検討している。
 日本では、近郊から補給水などが得られない原子力発電所において、発電所内に原子炉からの熱あるいは電力を利用した小さな海水淡水化施設(日産1,000〜4,000トン)が設置され、米国では、カリフォルニア州のDiablo Canyon Nuclear Power Plantに海水淡水化施設が設置されている。また、カザフスタンでは、高速炉(BN-350、1999年まで稼動)からの熱エネルギーを利用した海水の淡水化施設が運転されていた。これらの淡水化施設のこれまでの長期間運転や修理対応などから、原子力による海水の淡水化に関しては、技術的には充分可能性を有するものと思われる。
 1960年代に比べ、最近では水の需要は大幅に増加し、中東などでは数10万トンから100万トンクラスの淡水化施設が建設され、運転されるようになってきている。そのため、日本や米国の原子力発電所において運転されている数10倍、数100倍の容量を有する大容量の淡水化プラントの実証が必要となってきた。インドやパキスタンなどは、自国の実験炉や原子力発電所に容量の小さな淡水化施設を併設し、小規模な実験を行っているが、他の途上国からは、双方に高度な習熟した技術を有する原子力先進国に対して、原子力による大容量の海水淡水化プラントの実証を求められている。
2.各国の原子力および淡水化技術の現状
 世界的に見て原子力による海水の淡水化技術に関しては、表1に示されるように、3つに分類される国(IAEA加盟国)が存在する。また、原子力と淡水化という2種類の技術に基づき、原子力による海水の淡水化の実証という観点からは、表2に示すように、2つに分類される。
 このような世界的な現状を踏まえ、原子力および淡水化産業界との技術情報交換も含め、日本や米国のように原子力および淡水化技術を保有している先進国は、原子炉は保有しないが、既存の淡水化施設を有し、かつ原子力の利用も含めてさらなる淡水化が必要な国を対象として、適切な原子炉と淡水化技術を提供する取り組みに着手する段階に来ている。
3.原子力による海水の淡水化に対する各国の対応状況
 1980年の後半から再度検討が開始された海水淡水化への原子力利用に関してIAEAにおける会議では、北アフリカのエジプト、チュニジア、モロッコ、リビア、アルジェリアに加え、アルゼンチン、中国、フランス、インド、イスラエル、日本、韓国、パキスタン、ロシア、サウジアラビア、米国が、各国の淡水化計画、サイト問題、インフラ整備、試験あるいは実証計画などを議論している。最近では、アラブ首長国連邦やイエメンなども、関心を示している。ここで取り上げた国の中で、水不足に陥る可能性のある国を対象に、2050年までの使用可能な生活用水の推測を図1に示す。
 原子力のエネルギーを利用した海水淡水化の実証試験、具体的なサイトを選定して原子力発電プラントに淡水化施設の設置を計画している主な国の現状を下記に示す。
(1)インド
 インドでは、まず、原子炉からの廃熱を利用した海水淡水化の実験を、実験炉で実施している。淡水化容量は日産30トンであり、2年以上の運転経験が得られている。逆浸透膜法に関しては、Kalpakkamにおいて4年以上の運転が実施され、製造された真水は近隣に供給された。同サイトでは、MSF(多段フラッシュ法、蒸発法)の試験施設の計画もある(図2)。将来は、現在運転中の原子炉に海水淡水化施設を設置する計画を有している。
(2)パキスタン
 パキスタンでは、カラチ原子力発電会社(KNPC)による原子力による海水の淡水化計画が順調に進められており、蒸発法による淡水化の詳細設計は完了し、中間ループの材料の手配が進められている。また、その中間ループに関連した機器やプラントの製作が開始されている。安全性解析や環境影響評価の報告書が作成され、原子力規制委員会(PNRA)によりレビューされようとしている。機器の配置計画は完了し、土木工事はまもなく開始される予定である。また、カラチ原子力発電所(KANUPP)には、低温の多重効用缶の施設(日産1,600トン)の装置を併設し、技術的かつ経済的なデータを取得する予定である(図3)。
(3)エジプト
 エジプトでは、原子力による海水の淡水化施設を設置する場所にEl-Dabaa(カイロの西約200km、地中海沿岸)を選択している。同地域においは、海水淡水化に逆浸透膜法を用いる場合、海水の温度を上昇させれば効率があがるということから、その実験を実施し、海水をそのまま使う場合との効率などの比較を実施した(図4)。
 原子力の導入に関しては、チェルノブイリの事故後にその計画が中断していたが、最近、その計画が復活し、将来、海水の淡水化も含めて、大型あるいは中型の原子力発電所の導入が検討されている。
(4)中国
 中国では、海岸地域や山東半島における安定な水供給の需要は増加し、海水淡水化の必要性は高まっている。過去には、熱供給実験炉からの熱を利用した小さな淡水化施設による実験や熱供給炉による海水淡水化の調査研究を実施した経験もある(図5)。
 既存の原子力発電所への海水淡水化施設を設置する計画はないが、今後新規に建設が予定されている原子力発電所には、地元の了解を得るなど、必要であれば淡水化施設の設置を検討する。
 尚、現在建設予定の原子力発電所に海水淡水化を設置する計画があり、その入札が実施されたということである。
(5)チュニジア
 チュニジアの中部のサイトを対象として、軽水炉あるいは化石燃料プラントのどちらが経済的な海水淡水化が得られるかをという検討を、フランスと共同で実施した結果、石油価格に依存するが、原子力にも経済性があるということであった。
 この検討で選択されたサイト(La Skhira)は、工業用に電力が、周辺地域には水が必要ということで、将来の原子力発電所建設の候補地である(図6)。
(6)インドネシア
 ジャワ島に隣接するMadura島を対象として、韓国との共同研究により、小型原子炉とそのエネルギーを利用した海水の淡水化を検討した。この島は、ジャワ島から電力の供給を受けているが、将来の工業の発展、観光資源の利用などから、更なる需要が見込まれ、独立したエネルギー源として原子力を選択し、経済性などを検討した(図7)。
(7)リビア
 リビアは図1に示されているように、国全体の水不足は深刻化しているが、原子力発電所の導入に関する具体的な情報はなかったが、Gadafi大統領が、核保有の姿勢を放棄して以来、西側との間で原子力の平和利用に関する議論が継続されていた。
 最近フランスとの間で、同国から原子力発電炉を導入し、あわせて海水の淡水化施設も建設するということが両国間で合意された。
(8)日本
 近年、原子力発電所の補給水の確保のためなどから、高浜原子力発電所(関西電力)と新設の泊原子力発電所3号機には、それぞれ小規模な海水淡水化施設が設置あるいは設置予定である。
4.将来展開
 各国それぞれ原子力による海水淡水化への道を探っているが、技術保有国である日本、米国、フランスなどが自国におけるそのような需要が存在しないことなどのため、大容量の海水淡水化施設を実証する機会が生まれてこないのが現状である。
 しかし、最近、米国が提唱している構想(GNEP:国際原子力エネルギー・パートナーシップ)の1つに、途上国への原子力供給を世界的な枠組みの中で実施し、燃料供給や使用済み燃料の引取りも一括管理するということが実現されれば、原子炉と同時に海水淡水化施設の設置も可能となる。
<図/表>
表1 原子力と海水淡水化技術の現状
表1  原子力と海水淡水化技術の現状
表2 原子力による海水淡水化技術の運転経験と実証試験
表2  原子力による海水淡水化技術の運転経験と実証試験
図1 年間1人当たりの使用可能な生活用水の推測(2025、2050年)
図1  年間1人当たりの使用可能な生活用水の推測(2025、2050年)
図2 インドのKalpakkam原子炉に併設されているハイブリッドプラント(逆浸透膜法と蒸発法)
図2  インドのKalpakkam原子炉に併設されているハイブリッドプラント(逆浸透膜法と蒸発法)
図3 カラチ原子力発電所(KANUPP)
図3  カラチ原子力発電所(KANUPP)
図4 淡水化試験施設の主要機器(El-Dabaa、エジプト)
図4  淡水化試験施設の主要機器(El-Dabaa、エジプト)
図5 中国・山東半島における海水淡水化計画
図5  中国・山東半島における海水淡水化計画
図6 チュニジアにおける候補地(La Skhira)
図6  チュニジアにおける候補地(La Skhira)
図7 インドネシアの小型原子炉建設候補地(Madura島)
図7  インドネシアの小型原子炉建設候補地(Madura島)

<関連タイトル>
原子力による海水の淡水化 (01-04-03-03)

<参考文献>
(1)通商産業省環境立地局産業施設課造水対策室:明日への水資源(1997年8月)
(2)IAEA:INDAG Newsletter,No.4(September 2004)
(3)IAEA:INDAG Newsletter,No.5(September 2005)
(4)IAEA:INDAG Newsletter,No.6(September 2006)
(5)福井県 原子力安全対策課:記者発表分、高浜発電所の原子炉設置変更許可申請について(平成12年2月)
(6)北海道庁、総務部、危機対策局 原子力安全対策課:泊発電所の概要、http://www.pref.hokkaido.lg.jp/sm/gat/
(7)“Seawater Desalination”,F.Cesar Lopez,Jr.,http://calwater.ca.gov/
(8)日刊工業新聞社:「原子力海水淡水化」の国際動向と日本への期待、原子力eye、Vol.50、No.2、p.8-22(2004年2月)
(9)湊章男、平井光芳:世界の海水淡水化の現状と原子力利用の可能性、月刊エネルギー、Vol.39、p.42-47(2006年10月号)
(10)日刊工業新聞社:原子力と日本の海水淡水化技術−世界の水需要増対応での貢献を探る−、原子力eye、Vol.53、No.2(2007年2月号)
(11)(社)日本原子力産業協会 海水の淡水化に関する検討会:調査研究報告書、海水淡水化の現状と原子力利用の課題−世界的水不足の解消をめざして−(2006年7月)
(12)U.S.Department of Energy:
(13)”Sustaining Water,Easing Scarcity,A Second Update”,Population Action International(1997)
(14)technical and economical feasibility study of potable water production by nuclear seawater desalination for the site of Skhira,7th INDAG meeting,7-9 July IAEA,Vienna
(15)Nuclear Power Program in Indonesia,Technical Meeting on ”To develop guidance on the minimum infrastructure necessary to enable member states to adopt nuclear power”,22-26(November 2004),IAEA Vienna
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