<大項目> エネルギーと地球環境
<中項目> 日本の二次エネルギー
<小項目> 都市ガス・熱
<タイトル>
原子力による海水の淡水化 (01-04-03-03)

<概要>
 20世紀はオイルの時代、そして21世紀は水の時代と言われるように、世界的に水不足が深刻化し、さらに地球規模での急速な砂漠化も進んでいる。その両者を解決するための方策として、海水の淡水化に原子力のエネルギーを利用することが検討されている。一部では原子力発電所の水供給に利用されているとともに、水不足に悩む各国では、小規模な実証試験も計画、実施されている。
 地球の温暖化、飲料水不足、砂漠化の進行、酸性雨、熱帯林の減少、海洋の汚染、オゾン層の破壊など、化石燃料による地球環境問題への懸念が指摘されている現在、原子力は大きな役割を果たし得る潜在的な可能性を秘めている。
 ここでは、原子力エネルギーを利用した海水の淡水化(desalination)の可能性を展望するとともに、世界各国で検討されている現状についても触れる。
<更新年月>
2004年06月   (本データは原則として更新対象外とします。)

<本文>
1.背景
 全世界にある飲料に適した水の量は、必要量および消費量をかなり上回っているが、その地理的分布は均等ではない(図1)。人口増加に見合う適切な飲料水供給を確保することやこの必要性を満たすことの難しさは、地球規模での課題である。国連でも、UNESCO(国際教育科学文化機関)、WHO(世界保健機関)、WMO(世界気象機関)や世界銀行などが共同でこの問題に取り組んでいる。
 また、砂漠化(desertification)によって年間600万ha(九州と四国の面積の合計に相当)の土地が、ほとんど回復不能なまでに荒廃し、そのほとんどは年間の降雨量が少ない地域に集中している(図2)。砂漠化を防止するためには、まず緑化により表土層の安定化を図る必要がある。水が得られない地域で緑化を進めるためには、とりわけ淡水を確保することが第1の条件である。
 地球の70%は水で覆われており、その97.5%は海である。残り2.5%が真水であるが、この真水の約70%は南極大陸やグリーランドの万年雪の中の氷河であり、残りのほとんどは土壌中の水分や我々が利用できない地下水である。つまり、1%以下が地球規模での真水として存在し、かつ、地球上に存在するすべての真水の約0.007%が、我々が利用できる真水である。海水は無尽蔵の水資源であり、その脱塩淡水化は水問題への有力な解決方法の1つである。
 淡水化には、熱や電力の形態でのエネルギーが必要であり、現在ではそのエネルギー源としては、在来の化石燃料が使用されている。しかし、化石燃料は資源の制約や大量に利用すれば、地球温暖化などの環境問題も懸念されている。原子力の電気以外への熱利用、特に淡水化への利用については、先進国でも関心が高まってきている。実際飲料水が不足している地域は途上国に多く、淡水化のためのエネルギー源として原子力の導入に関わる技術移転など、先進国の今後の役割も重要となってきている。
 国際原子力機関(IAEA)では、北アフリカ諸国からの要望もあり、1990年代から本格的な検討が行なわれ、技術的にも経済的にも原子力による海水の淡水化には展望があるという結論が得られている。最近では、実証プラント構想や各地域でのモデルプラント構想、経済性評価、個々の技術評価および検証のための共同研究作業、安全性の検討など、更なる検討が継続されている。現に、中東地域では飲料水確保の手段として、以前から化石燃料による海水の淡水化を行なうとともに、サウジアラビアでは、余剰の淡水を利用して小麦の生産も行っている。
2.淡水化の方法
 海水はおよそ3.5%の塩分を含んでいるので、通常の水として使用するためにはこれを0.05%以下まで低減しなければならない。この塩分濃度低減の操作を淡水化(Desalination)と呼んでいる。海水を加熱すれば水分のみが蒸発し、冷却すれば水分のみが凍結して結晶となる現象は知られており、この原理を利用した相変化を伴う淡水化(蒸留法)が一般的であるが、特殊な膜(膜法)を用いれば相変化を伴わず、塩分濃度を低減することも出来る。前者には熱エネルギーを後者には電気または機械エネルギーが利用される。
 歴史的には、熱エネルギーを用いる蒸留法が先行し、現在の稼動施設容量では依然主流であるが、適度の残留固溶分を必要とする飲料水製造には、エネルギー効率がよく技術進歩の余地も大きいといわれる膜法が最近伸張している。原子力利用面から見ると、熱を直接利用する蒸留法が分かりやすいが、膜法(逆浸透膜法と呼ぶ)でも給水の余熱による効率改善とか、取水・放水施設の原子炉施設との共用、原子炉プラントへの燃料補給の容易さ(長期連続運転)などの利点から、逆浸透膜による原子力淡水化施設への期待が高まっている。表1に他の方法も合わせて淡水化の方法を示すとともに、各方法について次に簡単に説明する。
(1)多段フラッシュ法(Multi-Stage Flash Distillation:MSF)は、減圧度が順次大きくなる蒸発室(フラッシュ室)を多数並べて、個々に加熱昇温した海水を順次送り込んで蒸発させる方法である。現在、世界の淡水化施設の80%を占めている(図3)。
(2)膜蒸留法(Membrane Distillation:MD)では、蒸気は通すが水は通さない疎水性膜の片側に海水を流す。逆側を冷却することによって通過してきた蒸気を淡水に変える。蒸発法でありながら大気圧運転が出来るので、構造が極めて簡単になる。
(3)多重効用法(Multi-Effect Distillation:MED)は、蒸発室(効用缶)を多数並べて、最初の効用缶中の海水を加熱する。ここで蒸発した蒸気を次の効用缶の加熱蒸気として使用し、これを順次繰り返して蒸発させる方法である(図4)。
(4)蒸気圧縮法(Mechanical Vapor Compression:MVC)は、上記の多重効用法で行う最初の効用缶の加熱も、効用缶から蒸発する蒸気の一部を圧縮して行う方法である。MSFやMDに比べてエネルギー消費量が少なく、また海水の最高温度を低く出来ることから、次世代の主流の1つと見られている。
(5)冷凍法(Freezing Process:FP)は、海水を冷却して水分だけの結晶を作り、これを分離融解して淡水を得る方法である。水の凝固潜熱は蒸発潜熱に比べてはるかに小さいので、原理的に蒸発法よりもエネルギー消費量は少ない。
(6)逆浸透膜法(Reverse Osmosis:RO)は、水は通過するがイオンや分子は通過しない性質を持つ半透膜を用いて、海水の浸透圧以上の圧力をかけて水のみを透過させて淡水を得る方法である(図5-1図5-2)。高圧の海水を得るための方法としては、電力あるいは蒸気駆動がある。近年の膜技術の飛躍的な進歩によって膜のコスト低減が可能となり、MEDとともに次世代の主流の1つと見られている。最近では、回収率が40%から60%と増加出来る技術が開発され、電力使用量も削減できるなど、世界的な普及が見込まれる(図6)。
(7)電気透析法(Electrodialysis:ED)は、陽イオンだけを透過する膜と、陰イオンだけを透過する膜を交互に並べて、両端に直流電圧を加えることにより海水中のナトリウムイオンと塩素イオンを除去する方法である。
3.海水淡水化への原子力の利用
 海水淡水化プラントの総容量は1960年当時世界でわずか日産20万トン程度であったものが、1999年には日産約2600万トンにも達した。需要増加の理由は人口の増加、産業の発展、特定地域への人口集中などによるもので、クウェートでは国全体の水需要の97%を海水の淡水化に依存している。カザフスタンのアクタウでは、高速炉BN-350(定格電気出力350MWe)からの熱を利用して、カスピ海の海水から日産約10万トンの真水を製造することを目的としていた(図7)。その後、原子炉は老朽化のため1999年4月に公式に廃止措置(閉鎖)された。海水淡水化の需要は、現在増加を続けており、北アフリカ諸国の需要を中心に2000年以降には日産3000万トンをはるかに超えると予想されている。
 現在稼動している大容量の淡水化プラントはほとんど蒸発法を用いているので、海水を蒸発させるための熱エネルギーの供給源として原子力の応用が注目され、1968年にはIAEA主催のシンポジウムが開催された経緯もあり、その後もIAEAを中心に世界各国で原子力による海水の淡水化が検討されている。
 原子力の利用は当初安価で供給の安定した熱エネルギー源に代表されていたが、近年になって新たな有利性にも注目されるようになってきた。その1つは、逆浸透膜法の飛躍的進歩である。逆浸透膜法は常温操作で起動停止が迅速に出来るので、発電と組み合わせる二重目的プラントでは、発電と淡水化の比率を変えることにより原子炉の出力を一定にしたまま電力の負荷追従(送電量の調整)が可能となる。
 二重目的プラントにおける2つのプラントの結合方法は、次の3つに分類できる。
 熱的結合法:エネルギー源を熱とする蒸発法(MSF,MD,MED)はこの方法による。最も単純な方法は、発電プラントの蒸気タービンの排出蒸気をそのまま淡水化プラントの加熱蒸気とする方法である。
 軸動力結合法:蒸気タービンの軸出力で、蒸気圧縮法の圧縮機、逆浸透膜法の高圧ポンプ、冷凍法の冷凍機を駆動する方法である。
 電気的結合:発電プラントからの電力の一部を淡水化プラントに供給する方法で、蒸気圧縮法や逆浸透膜法にも電動機駆動が適用できる。発電プラントと淡水化プラントを分離でき、立地の自由度が増す。図8-1図8-2に原子炉と淡水化システムの組み合わせ例を概念的に示す。
 原子力の利用に関する利点とし、地球環境問題である。現在世界で稼動している海水淡水化プラントには、大雑把に見積もって火力発電所2000万kWの燃焼量に相当する化石燃料が消費されている。これは地球環境問題にとってかなりの影響を与える量である。しかも、上述のように今後急激な需要の増加も見込まれている。
 1990年当時、IAEAの検討の場に提案された二重目的プラントとして、米国のGA(General Atomic社)が、南カリフォルニア地域への飲料水供給の目的で、熱出力1400MWの高温ガスを利用して、正味の電気出力466MWの他、廃熱を利用した蒸発法による日産32万トンの飲料水製造プラントの構想を打ち出した(図9)。また、日本では、電気出力50MWの超小型高速炉を利用して、逆浸透膜法により日産14万トンの真水を製造し、飲料水として利用するほか、同原子炉を2基並べ、砂漠地方の緑化計画も提案した(図10)。
 最近では、逆浸透膜法による海水の淡水化が飛躍的にその効率が向上していることと、大型の原子炉ではなく小さな原子炉でも大量の飲料水製造が可能となってきており、大量消費地のみならず中程度の消費地でも、小型の原子炉による淡水化で充分その需要をまかなえるようになってきている。例えば、電気出力50MWの原子炉では、逆浸透膜法により日産20万トンの飲料水が製造出来るまでの技術レベルに達している。日本人1人あたりの平均0.5トンの生活用水を使うということを例に取れば、40万人分の生活用水を確保出来ると言う事であり、これが、中近東の砂漠国であれば、さらに多くの人々の生活用水を確保できるということである。
 さらに、電力や飲料水の需要は、1都市に集中するのではなく、中小単位で地域や地方への分散化が進むものと思われ、より安全性の高い小型原子炉の導入が適している。最近、日本、米国、韓国、ロシア、インドなどでは、電力と淡水供給に適用する小型炉の検討が進められている。小型炉では、炉心の寿命を長期化し、また、静的安全性の採用など、確固たるインフラ整備を必要としない地域にも設置が容易となりうる可能性が秘められている。近い将来、水不足に悩む途上国の実情に適合した安全でかつ信頼性が高く、核拡散抵抗性の高い、運転が容易な小型原子炉も登場する日も間近いであろう。
4.日本の現状
 日本においては、海水の淡水化プラントは、これまで主として離島用の水道資源、工業用水に利用されてきた。また、日本における原子力発電所では、周辺に大きな川などの水資源の無い半島の先端に立地されているところが多く、ボイラーの補給水や発電所内での生活用水確保のため、海水の淡水化プラントを併設している発電所がある。
 関西電力・高浜原子力発電所には日産2600トンの蒸発法(MED)が、同じく大飯原子力発電所には、日産3900トンの蒸発法(MSF)と日産2600トンの逆浸透膜法(RO)が、四国電力・伊方原子力発電所には、日産1000トンの蒸発法(MSF)と日産2000トンの逆浸透膜法が、さらに、九州電力・玄海原子力発電所には、各々日産1000トンの蒸発法(MED)と逆浸透膜法が導入されている(図11)。
 これらの淡水化プラントでは、蒸発法では材料の腐食、逆浸透膜法では前処理工程などでの交換は行なわれているが、これまで大きなトラブルも無く順調に運転が続けられ、淡水化容量は小さいが貴重な運転経験が積み重ねられている。
5.各国での検討状況
 多くの国で原子力による海水の淡水化に関する検討が進められている。韓国では、小型軽水炉による淡水化の実証のためのパイロットプランが進められている。インドでは、淡水化プロセスにMSFとROを併用して全体的な造水効率の向上を狙ったハイブリッドシステムを、現在Kalpakkamで運転中のPHWR(加圧水型重水冷却炉)に併設し、その性能評価を行っているパキスタンでも、カラチ原子力発電所に付設した逆浸透膜法による淡水化プラントの運転や、同発電所からの熱を利用する蒸発法による淡水化システムの増設が計画されている。ロシアは、元来砕氷船用に開発された小型の原子炉を利用した海上浮揚式淡水化プラントの構想を提案し、北方の国内サイトに設置する計画や、国外での設置にも意欲的である。
 最後に、原子炉技術と淡水化技術は双方とも成熟した工業技術であり、如何にこれから現在飲料水不足に悩む国が自国の実情に適合した原子炉の導入と淡水化施設との組み合わせを考えていくかが必要である。
<図/表>
表1 主な海水淡水化の方法
図1 2025年までに水不足が予想される国
図2 世界の砂漠化地図
図3 多段フラッシュ蒸発法(貫流式)の作動原理
図4 多重効用蒸発法(水平管式)の作動原理
図5-1 逆浸透膜の原理と構造(1/2)
図5-2 逆浸透膜の原理と構造(2/2)
図6 回収率40%と60%の逆浸透膜の比較
図7 高速炉BN−350を利用したアクタウ(カザフスタン)の淡水化プラント
図8-1 原子炉と淡水化システムの組み合わせ例(1/2)
図8-2 原子炉と淡水化システムの組み合わせ例(2/2)
図9 高温ガス炉(MHTGR)を利用した淡水化プラント構想
図10 超小型高速炉(4S)の適用例
図11 原子炉からの熱や電力を利用した海水の淡水化プラント

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<参考文献>
(1)服部、湊、飯田、橋詰:「高速炉による砂漠の緑化と地球再生」、日本原子力学会誌、Vol.33,No.4、p.302(1991年4月)
(2)服部、湊、飯田、橋詰:「砂漠の緑化と原子力の利用」、配管技術、p.80(1991年6月)
(3)小西、湊:「海水淡水化への原子力エネルギーの利用とIAEAの活動」、日本原子力学会誌、Vol.41,No.1,p.15(1999年1月)
(4)「海水の科学と工業」、東海大学出版会(1994年)
(5)「明日への水資源」、通商産業省環境立地局産業施設課造水対策室(1997年8月)
(6) 日本海水学会「小特集・世界の水不足と海水淡水化」、第55巻、第3号(通巻313号)(2001年6月)
(7)「原子力海水淡水化」の国際動向と日本への期待、原子力eye、Vol.50 No.2(2004年2月)
(8)IAEA:Use of Nuclear Reactors for Seawater Desalination,IAEA-TECDOC-574,Vienna(1990)
(9)IAEA:Technical and Economical Evaluation of Potable Water Production through the Desalination of Seawater by using Nuclear Energy and Other Means,IAEA-TECDOC-666,Vienna(1992)
(10)IAEA:Options Identification Programme for Demonstration of Nuclear Desalination, IAEA-TECDOC-898, Vienna(1996)
(11)IAEA:Potential for Nuclear Desalination as a Source of low Cost Potable Water in North Africa,IAEA-TECDOC-917,Vienna(1996)
(12)三菱重工株式会社:「三菱海水淡水化装置」(1989年6月)
(13)株式会社ササクラ:「レヒート型海水淡水化装置」、パンフレット
(14)東レ株式会社:「東レ逆浸透膜エレメント」、パンフレット
(15)(財)電力中央研究所広報部:「電中研ニュース」(1990年2月)
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