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<概要>
 石炭は世界各地に広く豊富に賦存し、エネルギーセキュリティーの点で非常に重要な資源であるが、CO2排出原単位が大きく、地球温暖化防止の観点から、環境調和型石炭利用技術(クリーンコールテクノロジー)の実現が求められている。中でも石炭ガス化燃料電池複合発電(IGFC)の発電効率は50〜55%と高効率が見込まれ、究極の石炭利用発電方式として期待され、研究が進展している。
 ここでは、各国の研究開発計画をまとめ、日本の課題について述べる。
<更新年月>
2007年09月   (本データは原則として更新対象外とします。)

<本文>
1.各国の研究開発計画
 環境調和型石炭利用技術(クリーンコールテクノロジー)の実現が求められている。中でも石炭ガス化燃料電池複合発電(IGFC)の発電効率は50〜55%と高効率が見込まれ、究極の石炭利用発電方式として期待され、各国で研究開発プログラムが進展している。
(1)米国の「FutureGen計画」および「SECA計画」
 米国ではエネルギー省(DOE)を中心に、二酸化炭素ゼロエミッション石炭ガス化発電プラントの実現を目指す、「FutureGen計画」を推進中である。2003年2月にブッシュ大統領により「『FutureGen計画』に10箇年で総予算10億USドルを投入する」と表明されている。石炭ガスを燃料とし、水素製造と二酸化炭素回収・貯留も同時に行う発電システムの実証運転を目標としている。米国は石炭ガス化技術分野においては、世界で最も開発に先行しており、オイルメジャーを中心に商用石炭ガス化複合発電(IGCC)技術がすでに確立されている。高温型燃料電池については、「FutureGen計画」の一環として「SECA(Solid State Energy Conversion Alliance)計画」において、2000年からDOE傘下の研究機関であるNational Energy Technology Laboratory(NETL)が中心となって開発されている。「SECA計画」では、2010年までに定置用、移動用、軍事用など広範な用途に共通して適用可能な3〜10kWのコアモジュールを開発予定で、大幅な低コスト化(400USドル/kW)を目標にしている。「SECA計画」には6つの企業チームが参加し、それぞれの特徴あるSOFC技術を適用した開発を独立して進めている。各企業チームは、国立研究所、大学、その他の研究機関によって支援される体制となっている。これら「SECA計画」の成果は2010年以降、「FutureGen計画」の石炭ガス化発電プラントに組み込まれる計画となっている。環境保護局とDOEにおいて、石炭ガス化発電と二酸化炭素回収・貯留に関する詳細なコスト検討の結果、回収コストを24USドル/CO2-tと試算している。
(2)オーストラリアの「COAL21計画」
 オーストラリアは世界第一位の石炭輸出国である。エネルギー安全保障と環境調和を両立するクリーンコールテクノロジー確立を目指し、連邦政府、州政府、石炭産業、電力業界が協働する形で、「COAL21計画」と呼ばれるプログラムを2004年3月に発表し、推進している。オーストラリアでは豊富な地下貯留のポテンシャルを生かし、炭素貯留リーダーシップフォーラム(CSLF)を主導している。CSLFでの成果を元に、中国、インドの両国と、二酸化炭素地中貯留評価プロジェクトを開始している。ただし高温型燃料電池の研究開発はそれほど活発ではない。
(3)中国の「GreenGen計画」
 中国の発電産業は95%が石炭火力に依存しており、クリーンコールテクノロジーに対する社会的要求が非常に大きい。90年代後半より、石炭ガス化技術の研究開発に取り組んできた結果、米国の技術をベースに噴流床二段ガス化方式の純国産技術を確立するに至っている。これを元に石炭ガス化燃料電池複合発電システムと二酸化炭素分離回収貯留システムの実証化を目指した「GreenGen計画」と呼ばれる国家プロジェクトを2004年に開始した。さらに2005年には、中国華能集団公司が米国の「FutureGen計画」に参画を表明している。一方、クリーンコールテクノロジーの独自技術開発にも目を向けて、2006年2月に発表された「国家中長期科学技術発展計画」において、優先研究課題に位置づけられている。高温型燃料電池については、ようやく基礎研究が開始された段階である。
(4)日本の開発計画
 わが国ではIGFCにも適用可能なわが国独自の石炭ガス化技術の確立を目指したEAGLE(Coal Energy Application for Gas Liquid & Electricity)プロジェクトが、NEDOと電源開発(株)の共同で1995年に開始された。2002年に石炭ガス化パイロットプラントの実証運転を開始し、これまでに当初計画通りの成果を順調に達成しており、最終の2006年度には、次の検討段階に向けて大型化技術検証および米国産、オーストラリア産、中国産、インドネシア産に炭種を拡大して試験を実施している。次年度以降、商用プラントに近い石炭処理量1000t/日級(IGCC換算15万kW相当)の実用化プラントの設計検討に入り、2007年には、石炭ガス化装置と二酸化炭素分離回収装置を組合せた実証試験を開始する計画である。高温型燃料電池を組み合わせ、IGFC化するまでの計画は明確にされていない。
 また、二酸化炭素地中貯留に関しては、(財)地球環境産業技術研究機構において実証試験が実施されているが、石炭発電プラントと組み合わせた実証試験計画は具体化していない。資源エネルギー庁が2030年以降のゼロエミッション社会の実現に向けたロードマップを策定しているものの、現在までのところ、関連する要素技術開発が別個のプロジェクトとして実施されており、全体システムとしての実証計画は具体化していない。米国、オーストラリア、中国では石炭ガス化発電プラントと二酸化炭素分離および地中貯留を一体化したクリーンコールテクノロジー全体の実証計画が具体的にスケジュール化されているのとは対照的である。
2.わが国における石炭ガス化燃料電池複合発電(IGFC)実現に向けた課題
 IGFC実現には高温型燃料電池だけでなく、石炭ガス化技術、ガス精製技術や二酸化炭素分離技術などの関連する技術分野の進展と統合化が不可欠である。わが国では、現状、石炭ガス化技術や二酸化炭素分離技術はIGCCを想定した実証化段階にあり、IGFC向けとしての高温型燃料電池の技術開発レベルに先行している。
 高温型燃料電池の実用化への技術的ハードルはまだ高いが、特に溶融炭酸塩形燃料電池(MCFC)については、ベンチスケールでの耐久性や石炭ガス中の不純物影響把握、最適な水素製造方式の確立など、IGFCに向けた基礎段階での諸課題は既にクリアしている。次のステップであるパイロットプラントスケールのIGFCを実現する上で、高温型燃料電池に関して想定される技術課題を整理して表1に示す。今後、クリーンコールテクノロジー関係者間で全体計画についての議論を深め、上記課題を克服する方策や開発ステップを明確化し、次ステップに移行する際のゲートとなる目標設定を明示したマイルストーンの構築が望まれる(図1)。
 これまで日本では、IGFCをはじめとするクリーンコールテクノロジーが二酸化炭素排出量削減手段として、社会的に認知が十分進んでこなかった。この要因の一つとして、米国と比較して、日本では二酸化炭素貯留関連の学術研究が進んでおらず(図2)、地球温暖化対策としての可能性があまり議論されてこなかった点が挙げられる。
 経済全体が低成長段階にあるわが国では、事業用発電設備市場が既に飽和しており、電力各社の新規設備投資意欲は縮小している。近年の国内電力市場自由化は、この傾向に拍車をかけている。二酸化炭素排出量削減手段としてIGFCが位置づけられない限り、顧客サイドの電力各社が積極的にIGFCを採用する意欲も高まらず、関連メーカー側でも研究開発資源が投入されにくい。
 このような悪循環を断ち切る上で、海外との連携も視野に入れながら二酸化炭素貯留関連の学術研究へ一層注力することが望まれる。
 IGFCの実現には、高温型燃料電池のみならず幅広い周辺技術開発の進展が不可欠であるが、石炭ガス化技術についてはより一層の高効率化が望まれる。現在、日本での石炭ガス化技術開発はIGCC開発の一環として、IGFCに先行して進められており、IGFCにはそれら成果の活用が期待できる。特にEAGLE計画で開発中の「二段旋回流型ガス化炉」は、米国の石炭ガス化技術と比較して、幅広い炭種対応可能である点で優れる。
 また、さらに一歩進んだ次世代型の石炭ガス化技術として、エクセルギー回収型ガス化技術が考案されており、これを組み合わせたAdvanced IGFC(A-IGFC)では、石炭を低温(700〜900℃)でガス化し、ガス化に必要な熱を高温ガスタービンや燃料電池の排熱を再利用することで発電効率が70%に達すると試算されている(図3)。2007年度から、東京大学を中心に、この分野の基礎研究が開始される予定であるが、ここでは機械工学、材料工学、計算機科学、燃焼工学等、幅広い学術分野の知見を集積した形での研究活動が不可欠である。
 今後、日本がこれまで進めてきたクリーンコールテクノロジーに関する技術蓄積を元に、中国を初めとする石炭消費大国との連携をより深め、IGFC技術開発の国際協力を進めることが望まれる。中国、インドを中心にアジア諸国では、急激な経済成長とともに石炭への依存拡大が見込まれている。エネルギー確保や環境保全の面から、IGFCを含むクリーンコールテクノロジーは非常に重要な技術に位置づけられている。他のアジアの石炭消費国へのIGFC導入は、同じアジア域内に位置するわが国にとっても、エネルギー需給や地球環境問題の観点で望ましい。これらアジア諸国では、電力需要の拡大とともに、石炭発電インフラの構築がこれから急激に進むことが予測されるため、日本で開発したクリーンコールテクノロジーの導入先という面でも、日本国内以上に大きく期待できる。
 その際、クリーンコールテクノロジーは研究開発途上の段階にあることから、円滑な協力関係の確立には協力先での知的財産権保護制度の確立が不可欠である。わが国として開発段階のどの時点でどのような協力が可能か整理した上で、将来クリーンコールテクノロジーを必要とするアジア諸国と、技術面および制度面を含む包括的な対話が望まれる。
 米国が主催し、日本、韓国、豪州、中国、インドの計6か国が参加する「クリーン開発と気候に関するアジア太平洋パートナーシップ(Asia-Pacific Partnership on Clean Development and Climate:APP CDC)」では、クリーンコールテクノロジーに関するタスクフォースを設置しており、2007年の閣僚会議までに技術開発プログラム策定を目標としている。このように活発化する国際的な活動に関しても、積極的に貢献していく必要がある。
<図/表>
表1 石炭ガス化燃料電池複合発電(IGFC)実現に向けた諸課題
表1  石炭ガス化燃料電池複合発電(IGFC)実現に向けた諸課題
図1 石炭ガス化燃料電池複合発電(IGFC)のパイロットプラント実現までのマイルストーン
図1  石炭ガス化燃料電池複合発電(IGFC)のパイロットプラント実現までのマイルストーン
図2 日米のクリーンコールテクノロジー関連技術の科学技術論分数推移
図2  日米のクリーンコールテクノロジー関連技術の科学技術論分数推移
図3 Advance-IGFC(A-IGFC)の構成と従来技術との比較
図3  Advance-IGFC(A-IGFC)の構成と従来技術との比較

<関連タイトル>
日本の石炭情勢 (01-03-01-01)
石炭利用技術の新体系 (01-04-02-04)
石炭ガス化燃料電池複合発電の研究開発状況(1)技術概要と高温型燃料電池の開発状況 (01-04-02-05)

<参考文献>
(1)渡辺隆夫、前田征児:クリーンコールテクノロジーにおける高温型燃料電池の動向と展望、科学技術動向、No.68、9-19(2006年11月)
(2)Victor Der:FutureGen−“Zero Emission”Energy from coal、2006年石炭国際会議予稿集、(財)石炭エネルギーセンター(2006年9月5日)
(3)John Karas:「Low Emission Technology for coal:The Australian Contribution」、2006年石炭国際会議予稿集、(財)石炭エネルギーセンター(2006年9月5日)
(4)Gao Shinwang:Near Zero Emission Coal Based Power Generation in China ? GreenGen Project、2006年石炭国際会議予稿集、(財)石炭エネルギーセンター(2006年9月5日)
(5)鈴木英樹:EAGLEプロジェクトの現況、2006年石炭国際会議予稿集、(財)石炭エネルギーセンター(2006年9月5日)
(6)RITE:CO2地中貯留プロジェクト、http://www.rite.or.jp/Japanese/project/tityu/tityu.html
(7)経済産業省資源エネルギー庁:クリーン・コール・サイクル(C3)研究会中間報告、2030年を見据えた新しい石炭政策のあり方(2004年6月)
(8)NEDO、JCOAL(編):日本のクリーンコールテクノロジー、http://www.jcoal.or.jp/cctinjapan/cctinjapan.html
(9)堤敦司:エクセルギー再生技術による次世代IGCC/IGFC、CCT Journal、vol.11(2004年8月)、http://www.brain-c-jcoal.info/publication-files/oldccuj/cct-journal/CCT_Journal-11.pdf
(10)Thomson社:Web of Science
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