<大項目> エネルギーと地球環境
<中項目> 日本の二次エネルギー
<小項目> 電力
<タイトル>
バックエンドコストと原子力発電の経済性評価 (01-04-01-18)

<概要>
 総合資源エネルギー調査会電気事業分科会に設置されたコスト等検討小委員会は、電気事業者からバックエンド事業の費用見積もりと、電源別の発電コスト試算に関する情報提供を受け、バックエンド事業の費用構造、並びに原子力発電全体の収益性の分析・評価を実施して、その結果を2004年1月に電気事業分科会に報告した。報告の概要は以下のとおりである。今後のバックエンド事業の総費用は18.8兆円、その構成は再処理事業が約11兆円、高レベル放射性廃棄物処分事業が約2.6兆円、他の事業の費用は1兆円前後、またはそれ以下と算定される。なお、コスト見積もりに際しての技術的想定の置き方による費用の変動は小さなものであり、この費用見積もりをバックエンド事業のコスト構造を理解する上での基本ケースと考えることに問題はない。また、発電原価に関しては運転年数で均等化した場合と、法定耐用年数で均等化した場合とを検討するとともに、さらに運転年数、設備利用率、為替レート、燃料価格の上昇率、割引率が変化した場合の発電コストへの影響を評価した結果として、原子力発電全体の収益性が他の電源との比較において遜色がないという従来の評価が再確認されたと結論をまとめている。
<更新年月>
2007年02月   (本データは原則として更新対象外とします。)

<本文>
1.はじめに
 電力市場の段階的自由化が進む中で、原子力発電に関しては、燃料サイクルバックエンド事業の円滑な推進とともに、投資環境の整備を図る観点から、適切な制度・措置の検討・整備が必要であるとの認識が高まり、平成15年(2003年)2月の総合資源エネルギー調査会電気事業分科会報告「今後の望ましい電気事業制度の骨格について」において、バックエンド事業全般にわたるコスト構造、原子力発電全体の収益性等を分析・評価すべきことが確認された。この報告を受け、バックエンド事業の費用見積もりとコスト構造の分析、並びに原子力発電と他の電源の発電コストに関する試算と原子力発電全体の収益性の評価を行うために、電気事業分科会の下にコスト等検討小委員会が設置された。コスト等検討小委員会(以下、小委員会)では、電気事業者によるバックエンド事業が今後とも現在の計画どおり実施されることを想定し、また、電気事業者が提供した事業スケジュールや費用見積もりなどの情報に基づいて分析評価を行い、その結果を平成16年(2004年)1月に電気事業分科会に報告した(参考文献1)。以下に、報告内容の概要をまとめる。
2.バックエンド事業全般のコスト構造の分析・評価
2.1 電気事業者による費用見積もりの概要
 電気事業者は、事業スケジュール、および費用見積もりの範囲と方法を以下のように想定した。事業スケジュールに関しては、図1に示すように、六ヶ所再処理工場が2046年度末まで40年間にわたり操業し、その間の使用済燃料再処理量を約3.2万トンと想定した。この想定の下で、再処理事業、回収されるプルトニウムを用いたMOX燃料加工事業、これら施設の廃止措置、発生する放射性廃棄物の処分事業、使用済燃料中間貯蔵事業(六ヶ所工場の再処理容量を超えて発生した使用済燃料を対象)などのスケジュールを想定した。
 このスケジュールに沿って、2005年4月以降に要する費用を事業ごとに見積もった。ここで、既に実施されている事業についてはその実績に基づき、また、まもなく事業を開始するもの(再処理など)については操業体制の具体的見通しに基づいて、費用を見積もった。一方、こうした方法による費用の算定が困難な事業については、先行事例や現在の知見に基づく技術的想定を行って費用を見積もった。また、高レベル放射性廃棄物に関しては関係法令に定められた拠出金の額を前提に見積もりを行った。
2.2 費用見積もりの分析・評価
 小委員会は以上の事業スケジュール、および費用見積もりの範囲と方法を分析し、想定スケジュールや費用の範囲については、原子力長期計画等に定める基本方針と整合しており、また、費用見積もりの方法については、数十年先に実施される事業の費用見積もりでの技術的想定(廃棄物の処分方法、操業・解体廃棄物量、設備・建家の解体工数)に関しても、個々の想定が現時点での技術的な知見や考え方に照らして妥当であり、全体として合理性があると評価した。ただし、研究開発段階での実績に基づいて商業段階の施設の廃棄物量や解体工数を想定する際には、規模、技術開発の習熟度などに関する違いがある点に留意すべきと指摘している。
 バックエンド事業の費用見積もりとその評価結果は以下のとおりである。対象期間全体の総事業費は表1に示すように18.8兆円となるが、事業別には再処理事業の費用が約11兆円と最も大きく、次いで高レベル放射性廃棄物処分事業の費用が約2.6兆円、他の事業の費用は1兆円前後、またはそれ以下である。
 費用構造を見ると、図2に示すように、再処理事業費用約11兆円のうち約9.5兆円が操業費用で、その内訳は運転保守費が約38%、建設等投資額(減価償却費)が約36%、その他諸経費が約22%、廃棄物の輸送・処分費が約4%である。なお、その他諸経費約2兆円のうち約1.6兆円が再処理施設の廃止措置費用で、図3に示すように、このうち約1兆円(63%)が解体工事費である。既述のとおり、高レベル放射性廃棄物処分事業の費用約2.6兆円は関係法令(特定放射性廃棄物の最終処分に関する法律)に基づき、電気事業者が拠出するとの想定で算定されたものである。
 その他の事業のうち、MOX燃料加工事業の費用は約1.2兆円で、図4に示すように、この約67%が運転保守費、15%が建設等投資額(減価償却費)であり、再処理施設に比べると運転保守費の比率が大きいのが特徴である。なお、図5に示すように、運転保守費のうち、約半分を燃料部材費と燃料輸送費が占めている。また、使用済燃料中間貯蔵事業の費用は約1兆円であるが、図6に示すように、その半分以上(約56%)が貯蔵用キャスクの費用である。この他、使用済燃料輸送の費用は約0.9兆円、TRU廃棄物地層処分の費用は約0.8兆円である。後者は、再処理工場、MOX燃料加工工場等で発生するTRU廃棄物(地層処分相当)の処分費用を独立して計上したものである。
 以上の費用見積もりに関して、(1)安全規制・基準の動向による変動、(2)技術開発の進展による費用の低減、(3)事業内容の合理化、事業実施の不確定性等に着目し、具体的にどのような要因でどの程度費用が変動するかを分析しているが、各事業が長期にわたって計画外となるような場合を除いて、技術的想定の置き方による費用の変動は小さなものであり、この費用見積もりをバックエンド事業のコスト構造を理解する上での基本ケースと考えることに問題はないと評価している。
3.原子力発電全体の収益性等の分析・評価
 上記の費用見積もり結果の年度展開、並びに以下にまとめる前提条件を用いて各種電源の発電コストを試算し、原子力発電全体の収益性を分析・評価した(参考文献2)。
3.1 発電コストの試算方法
 各種電源に関して同時期に運転を開始するモデルプラントを想定してその発電コストを算出することとし、モデルプラントは表2の条件に合うものを選択し、それらのモデルプラントの平均値を使用した。ただし、条件に合う発電所が少ない場合には総合エネルギー調査会(現総合資源エネルギー調査会電気事業分科会)原子力部会(1999年)で対象とした発電所のうち、運転開始年度の新しいものも選択した。
 試算に用いたモデルプラントの諸元、経済指標、プラント利用条件を表2のように想定した。運転年数については、40年の場合と法定耐用年数の場合の2ケースを採用したが、前者は長期的な経済性の評価に有効であるとともに、上記原子力部会(1999年)で採用していること、後者は現実の民間企業会計では設備投資に対する減価償却が法定耐用年数に基づいて行われることを、それぞれ勘案したものである。なお、将来の収入、支出を現在(基準年)の価値に換算するために割引率の設定が必要となるが、この試算では対象期間が長く、経済情勢の変動の可能性が大きいことを考慮して0〜4%と幅広い設定値を用いた。
 核燃料サイクルに関しては、上記原子力部会(1999年)のモデルに準拠し、以下の方法でコストを計算した(表3参照)。まず、各事業に関する上記の費用見積もり結果を用いて、各燃料1トン当たりの単価を算定した。次に、各事業が行われた時点と燃料装荷時点の時間間隔を考慮して、核燃料1トン当たりの単価とそれによる発電電力量の双方を現在価値に換算した上で、単位発電電力量当たりの燃料サイクルコストを求めた。ここで、発生する使用済燃料のうち、64%は原子炉装荷から8年後に再処理され、また、36%は中間貯蔵を経て50年後に再処理されると想定した。また、使用済燃料の再処理によって元の燃料の15%相当の燃料が回収され、これがリサイクルされることを想定した。なお、再処理とMOX燃料加工の各事業に関しては、全操業期間(40年)で均等化した場合の単価の他に、法定耐用年数均等化単価(操業初期16年間の費用に廃止措置費用を加えたものと操業初期16年間の処理量から計算)を求めた。
3.2 発電コストの試算結果と分析・評価
 上記の方法で計算した燃料サイクルコスト(原子力発電の燃料費)を表4に、また、他の電源を含めた発電コストの試算結果を表5に示した。
 核燃料サイクルに関しては、今回初めて再処理工場の廃止措置費用を含めてコストの試算を行ったが、原子力部会(1999年)における試算値(割引率3%)との比較では、40年均等化単価で約0.2円(kWh当たり、以下同じ)低下、法定耐用年均等化単価ではほぼ同程度となった。割引率を変化させた場合の影響を見ると、全体の事業期間がきわめて長く、数十年先の将来に発生するコストも大きいために、合計コストは割引率が小さいほど大きくなる。この傾向は、法定耐用年で均等化した場合により顕著である。
 発電コストを電源別に見ると、運転年数40年で均等化した場合に、原子力部会(1999年)試算値(割引率3%、設備利用率80%)では原子力が5.9円と最も安く、次いでLNG火力が6.4円、石炭火力が6.5円であったが、今回の試算では原子力5.3円、LNG火力6.2円、石炭火力5.7円であり、いずれも原子力部会試算値より小さいものの、石炭火力がLNG火力よりも安くなった(表6参照)。これは、原子力部会(1999年)試算時に比べて、初年度のLNG価格が大幅に上昇したのに対して、石炭価格は逆にやや低下したことの影響と考えられる。
 一方、法定耐用年数で均等化した場合には、原子力部会(1999年)試算値(設備利用率80%)ではどの割引率でもLNG火力が最も安かった。次いで安いのは原子力であった(割引率0%の場合を除く)。この試算でも設備利用率80%ではLNG火力が最も安いが、他の電源との差はかなり縮まっている。原子力は割引率が3%以上の場合に石炭火力と同等またはそれ以下の発電コストとなった。
 また、前提条件のうち、運転年数、設備利用率、為替レート、燃料価格の上昇率、割引率が変化した場合の発電コストへの影響を評価し、以下のような結果を得た。(1)運転年数が長期化した場合には資本費の割合が高い原子力、石炭火力の発電コストがより小さくなる。(2)設備利用率が上昇した場合にも、燃料費の安い原子力、石炭火力の発電コストがより小さくなる。(3)為替レートが円安にシフトした場合には輸入燃料費が増大するため、燃料費の比率が大きい石油、LNG火力の発電コストがより高くなる。(4)燃料価格の上昇率が大きい場合には、(3)と同様に燃料費の比率が大きい石油、LNG火力の発電コストがより高くなる。(5)割引率が大きい場合には、発電設備に係るコストは建設費の大きい原子力、石炭火力の発電コストがより大きくなる。しかし、原子力の燃料コストは上記のように割引率とともに低下するので、燃料コストを含めるとこの傾向が緩和される。特に、耐用年で均等化した場合の原子力発電コストはむしろ割引率が1〜2%程度の時にやや小さくなる。
 以上のように様々なケースに関する試算結果を総合的に分析・評価した結果として、小委員会報告書では、原子力発電全体の収益性が他の電源との比較において遜色がないという従来の評価が再確認されたと結論づけている。
 なお、ここで紹介した電気事業分科会コスト等検討小委員会報告書の概要をまとめるとともに、電力自由化の影響、バックエンド事業のあり方について検討した特集記事が「バックエンドコストと今後のバックエンド事業」と題して日本原子力学会誌(参考文献3)に掲載されている。
<図/表>
表1 原子燃料サイクルバックエンドの総事業費
表2 電源別発電コストの試算における前提条件
表3 原子燃料サイクルコスト計算の諸元
表4 原子力発電の燃料費(燃料サイクルコスト)の試算結果
表5 発電コストの試算結果
表6 原子力部会(1999年)試算値との比較(割引率3%)
図1 原子燃料サイクルバックエンド事業の想定スケジュール
図2 再処理操業費用の内訳
図3 再処理施設廃止措置費用の内訳(総額、解体工事費)
図4 MOX燃料加工事業費用の内訳
図5 MOX燃料加工事業運転保守費の内訳
図6 使用済燃料中間貯蔵費用の内訳

・図表を一括してダウンロードする場合は ここをクリックして下さい。


<関連タイトル>
原子力発電および他の電源の発電原価試算(1999年・資源エネルギー庁) (01-04-01-11)

<参考文献>
(1)総合資源エネルギー調査会電気事業分科会コスト等検討小委員会:バックエンド事業全般にわたるコスト構造、原子力発電全体の収益性等の分析・評価(コスト等検討小委員会から電気事業分科会への報告)(2004年1月23日)
(2)電気事業連合会:モデル試算による各電源の発電コスト比較、総合エネルギー調査会電気事業分科会コスト等検討小委員会、第9回、資料4(2004年1月16日)
(3)田中知 他:特集―バックエンドコストと今後のバックエンド事業、日本原子力学会誌、Vol.46、No.8、524-546(2004)
(4)総合エネルギー調査会原子力部会:原子力発電の経済性について、第70回、資料3(1999年12月16日)
(5)総合資源エネルギー調査会電気事業分科会:コスト等検討小委員会の検討状況、第16回、資料4(2003年11月14日)
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