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<概要>
 社会全体の規制緩和、競争原理導入の進展の中で、2000年3月から特別高圧(原則2,000kW以上)の大口電力の小売自由化が施行され、さらに2005年4月からすべての高圧需要家(原則50kW以上)に自由化の範囲が拡大されている。対象は全電力市場の約30%に相当する工場、ビル、大型商業施設等の電力からスタートし、現在販売電力量の6割を超える状況である。欧米諸国では電力自由化はかなりの段階まで進んでいるが、まだ進行中の部分もある。電力市場の自由化の現状を把握し、原子力発電所の将来を展望する必要がある。
<更新年月>
2009年01月   (本データは原則として更新対象外とします。)

<本文>
1.米国の電力自由化
 米国の卸電力市場は、1992年にエネルギー政策法(EPA)により自由化された。これにより、独立系発電事業者(IPP)の参入障壁が全面的に撤廃され、発電電力を卸売りすることができるようになった。連邦エネルギー規制委員会(FERC)は1996年に卸託送に関する規則オーダー888を制定し、自社と区別することなく同様な条件でIPPに送電サービスを提供することを電力会社に義務付ける「オープンアクセス送電料金表(OATT)」を採択した。さらに、2007年2月、OATTを改正するオーダー890を制定し、888の規則内容の明確化を目的とする改正が行われた。米国の電力供給体制の例を図1に示す。約半数の州が小売自由化を実施しているが、電気料金の低廉化が達成されていないのが現状である。
2.欧州連合の電力自由化
 欧州連合加盟各国では、EU電力自由化指令に基づき電力市場の自由化が実施されている。
 フランスでは、1996年の指令に従い、2000年2月に電力自由化法を制定し、段階的に自由化を行ってきており、2007年7月からは、2003年に採択された改正EU電力自由化指令に基づき、自由化対象範囲が家庭用需要家を含めた全需要家に拡大され、全面自由化を実施している。その結果、すべての需要家が供給事業者から直接、あるいは配電会社を通して電力取引所から電力を市場価格で購入することができる。また、フランス電力公社(EDF、2004年株式会社化)の需要家のまま留まる需要家には、基本的に規制料金が適用される。2004年頃から市場価格が規制料金を上回る状況であるため、EDFを離脱した需要家は少数に留まっている。2007年9月末時点で、販売電力量ベースで産業用・商業用需要家では13%、家庭用需要家では0.02%となっている。フランスの電力供給体制を図2に示す。
 ドイツでは、1998年に新しいエネルギー事業法が施行され、家庭用も含めたすべての需要家が電力の購入先を自由に選択できる全面自由化が実施されている。卸売りと小売りの両レベルでの全面的な自由化によって、電力会社間の競争が激しくなり合併、提携により電気事業の中心的役割を担う8大電力会社は、4大電力グループ体制に収斂し、また事業の多角化も進めている。ドイツの電力供給体制を図3に示す。電力価格は、産業用で2〜3割も低下したが、近年は燃料価格の上昇、環境税の引き上げ、CO2排出権取引の開始等の影響により、料金水準は上昇に転じている。
 英国では、1990年の電力自由化により「プール制」が創設された。価格が期待されたほど低下せず、2001年3月に廃止され、相対契約を基本とする卸電力取引制度(NETA)が導入された。その後、2005年4月には、スコットランドにまで拡大され、「英国卸電力送電制度」(BETTA)としてスタートしている。英国の電力供給体制を図4に示す。全ての産業用需要家が供給事業者の変更や契約の見直しを行っており、また、家庭用需要家も、2007年現在、約半数が供給事業者を変更している。
3.日本の電力自由化
 日本では社会全体の規制緩和、競争原理導入の進展の中で、高コスト構造、内外価格差の是正が課題となり、電力自由化が進められた(図5参照)。卸発電事業や使用規模2,000kW以上の大口高圧需要家向けの小売から段階的に施行され、全体としては、発送電のアンバンドリング(分離)は行われてないが独立系発電事業者(IPP)の新規参入や既存の電力会社以外の特定規模電気事業者(PPS)の小売は認められ、自由化範囲も段階的に拡大されてきた。2000年3月の電力小売部分自由化の対象になったのは、使用規模2,000kW以上の約8,000件の工場、ビル、大型商業施設等で全電力市場の約30%に相当する。2005年4月からは、すべての高圧需要家(原則50kW以上)に拡大されて電気の安定需給確保のため発送電一貫体制を堅持しつつ、卸電力取引所の設置など公平・透明な競争を導入する「日本型自由化モデル」の仕組みが整備され、販売電力量に占める割合も6割を超える状況となってきている。電力小売に新規参入する企業(PPS)は、2008年3月現在全国で25社、2006年度の電力販売量が135億kWhとなっている。我が国の電力供給体制を図6に示す。なお、2007年4月には、家庭部門も含めた全面自由化の是非についても検討されたが、メリットがない可能性が高いとして、一定期間を置いて改めて検討されることとなっている。
4.電力自由化と原子力
 OECDの調査「競争市場の中での原子力発電」で、発電事業者が直面する問題、原子力発電への影響について述べている。
4.1 発電事業者が直面する問題
・電力需要の予測が外れた場合、リスクを需要家に配分できなくなる。
・発電事業者は、競争によって顧客を獲得する場合もあるし、失う場合もある。
・供給事業者を代えるという需要家のオプションを反映した契約条件も有効となる。
・発電設備が過剰で需要の伸びが低迷すれば設備のフル稼働ができないことがある。
・未回収の資本コストの一部が回収不能になることも考えられる。
・余剰設備の適正水準を改めて決める必要がでてくるかもしれない。
・発電設備が過剰な市場では、価格は安くなる方向に向かう。
・規制緩和のもとでは、契約市場や先物市場およびヘッジ市場(金融と現物の両方)、スポット市場などの、いろいろな市場が出現し、発電事業者としてはおそらく、ポートフォリオの採用によって複数の市場で電力を売却することになる。IT(情報工学)、FT(金融工学)を駆使した経営が必要になる。米国ではマーケッター(図1)がこのような経営をして、電力の価格形成に影響している。
・競争市場では、業績は市場によって評価される。運転効率の向上やコストの削減、効果的な価格設定、市場への即時対応性、リスク管理の改善、柔軟性と透明性の向上などによって市場諸力に対処することが求められる。
 原子力発電所は温室効果ガスを排出しないため、例えば炭素税などを通じて、環境面での外部コストが市場価格に合理的に反映されることになれば、原子力発電の競争力は大きく改善されるものとみられる。
4.2 原子力発電への影響
 電力自由化によって投資家の見る眼が以前に比して厳しくなり、各電力事業者とも、投資規模(1基3,000〜4,000億円)が大きく、投資の回収に長期間が必要であるなど、リスクの大きい大規模電源の投資には慎重にならざるを得なくなっている。また、各電力事業者の需要が想定外に他事業者に移転する可能性が増したことにより、大規模電源をもつリスクが高まっている。さらに、電力事業者間での共同開発や広域運用の調整は、以前よりも困難となりつつある。このような状況を踏まえて、政府は、原子力発電の新・増設、既設炉リプレース投資の実現が原子力政策の基本方針の一つであるとして、2007年から原子力発電に特有な投資リスクの低減・分散、初期投資・廃炉負担の軽減・平準化、広域的運営の促進、原子力発電のメリットの可視化などさまざまな施策を実施している。
(前回更新:2005年7月)
<図/表>
図1 米国の電力供給体制の例
図1  米国の電力供給体制の例
図2 フランスの電力供給体制
図2  フランスの電力供給体制
図3 ドイツの電力供給体制
図3  ドイツの電力供給体制
図4 英国の電力供給体制
図4  英国の電力供給体制
図5 我が国の電力自由化のスケジュール
図5  我が国の電力自由化のスケジュール
図6 我が国の電力供給体制
図6  我が国の電力供給体制

<関連タイトル>
アメリカの電気事業および原子力産業 (14-04-01-06)
米国カリフォルニア州の電力危機(2000-2001年) (14-04-01-29)

<参考文献>
(1)鴨志田晃:規制緩和で加速するエネルギービジネス革命、日刊工業新聞社(2001年10月30日)
(2)日本原子力産業会議:電力自由化と原子力発電、原子力資料、No.304(2001年3月)
(3)電気事業講座編集委員会(編):海外の電気事業、電気事業講座15巻、電力新報社(1996年8月)
(4)東京電力ホームページ:TEPCOレポート特別号2001年6月、
(2002年1月21日)
(5)Nuclear Energy Instituteホームページ:(2002年1月21日)
(6)冨田哲璽:欧米の電力自由化の動向(2002年1月21日)
(7)(社)海外電力調査会ホームページ:海外情報、各国の電気事業、

(8)電気事業連合会ホームページ:電力自由化
(9)エネルギー白書2008:
(10)資源エネルギー庁電力・ガス事業部:電力自由化と原子力発電(現状と課題)(平成17年12月12日)
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