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<概要>
 原子力発電のコストのうち、運転・保守コスト(Operations and Maintenance Costs)と呼ばれる部分について、経済協力開発機構の原子力機関(OECD/NEA)が1995年に発表した調査研究の結果の要点を紹介する。各国の運転・保守コストの絶対値と、その全発電コスト中に占めるウエイト、運転・保守コストに含まれるものの内容、項目別分類及びそれらの全体中における構成比、国による内容・分類のとりかたの違い等を要約して示す。又、各国で比較的共通してみられる運転・保守コスト中の構成比が大きい項目の内容や、経年的なコスト上昇傾向についても記す。
<更新年月>
1998年03月   (本データは原則として更新対象外とします。)

<本文>
1.はじめに
 原子力発電のコストは、資本コスト、燃料コスト、運転・保守コストに分けて算出され、議論される。経済協力開発機構の原子力機関(OECD/NEA)は、同機関の国際エネルギー機関IEA)とも共同の上、原子力発電のコストの予測に係るー連の比較調査を行って公表している(文献1〜4)。このうち最新の1992年の調査に関して、運転・保守コストのウエイトの高まりが見られること、及びその予測値に国別にかなり大きなばらつきが出ていることが、関心を呼んだ。そこでOECD/NEAは、運転・保守コストのばらつきの原因を理解することを主目的に、運転・保守コストのみを対象に国際比較をする専門家グル−プを発足させて検討を行った。
 この専門家グル−プは、1995年に「原子力発電所の運転・保守コストの予測の方法」と題した報告書を完成し、それがOECD/NEAによって刊行された(文献5)が、日本原子力産業会議(現日本原子力産業協会)は、その全訳を作成して同年10月に出版した(文献6)。ここでは、その文献6から一般の人にも関心があると思われる部分を中心に抜粋し、分かり易いように編成し直して紹介する。
2.1992年の発電コスト調査の結果
 1992年に実施された発電コスト調査(文献1)の結果の概要は 表1 に示すとおりであるが、運転・保守コストは、絶対値にして5.3〜16.4ミル/kWh、発電コスト中の構成割合にして18〜38%という、かなりのばらつきを示している。又、表1では運転・保守コストの経年変化を相対値で示したが、概して、調査年ごとにコスト(ここでは各時点で行った予測の数字)が上昇していっていることがわかる。なお、このコストは、耐用年数30年、設備利用率75%、現在価値換算率5%/年、1991年7月1日時点の米ドルを基準にし、 表2 に示す為替レートを用いて算出されたものである。
3.運転・保守コストに含まれる項目
 運転・保守コストは、発電コストのうち、資本コストや燃料コストに含まれるもの以外のすべてのコストと定義されている。従ってあるコスト項目が、運転・保守コストに入っていなくても、他のコストに入っていれば、発電コスト全体としては影響を受けないが、運転・保守コストの絶対値や構成割合は大きな影響を受ける。したがって、運転・保守コストに含まれる内容・項目について各国共通のルールが存在することが望ましいが、表1に示した数値は、各国別のルールによっている。OECDは文献5で、わかる限り国別の違いについての調査を行い、共通化のための提言も行っている。
 運転・保守コストに含まれる項目を見るためのコストの内訳表の作成には、職務ベースによるものと、支出ベースによる分類方式の2種類のやり方がある。職務ベースによる分類は、1.運転、2.保守、3.支援サービス、4.発電所の運営/管理、5.その他全般的なコスト、6.その他の職務に大別するもので、更なる細別は、ベルギー、フィンランド、フランス、カナダ東部および韓国における各項目の運転・保守コスト全体中の構成比と共に 表3 に示した(日本はこうした細目についてはOECDに回答を出さなかった)。
 支出ベースによる分類は、a.所内人件費、b.資材・機器及び外部からの供給物の物件費、c.保守作業のための外部サービス委託費、d.その他のコストに分けるもので、上記4国及び英国、韓国についての、この分類による項目別割合を、職務ベースの大分類によったものと合して、マトリクスの型で 表4−1 、 表4−2 に示した。
4.コストの範囲・内訳分類の国による差異
 発電所内の職員の人件費を運転・保守コストの対象としていること、及びその職員コストの中味については、国別の違いはほとんど認められなかった。取扱いに違いがみられたのは、フィンランドでは他の国と異なり、使用済燃料取扱いのコストを燃料コストの方に含ませ、運転・保守コストに入れていないことであるが、その分は0.3ミル/kWhにすぎない。又、上記の分類b.(資材・機器及び外部からの供給物の物件費)については、外部からの蒸気・電力の供給や冷却水に係るコスト等に国又は敷地別の違いが出る。なお、保守作業等のために外部サービスを委託する国(ベルギー、フィンランド、カナダ、韓国等)と、原則として自社で行う国(フランス等))があり、更に、調査や研究開発のための外部サービスのコストを運転・保守コストに入れない国(韓国、スペイン等少数)と、入れる国があり、入れる国でもその対象職務は微妙に異なる。
 原子力発電所の耐用年数期間中における機器・システム等の改修コストは、多くの国では運転・保守コストに入れるが、米国、スペイン等は資本コストの方に入れている。又、運転・保守コストに入れる国でも、その中の、例外的に行われる大規模な保守作業(蒸気発生器、タービン・ロータ、復水器、プロセス・コンピュータ、交流電源その他の交換等)のコストを上記の6.(その他の職務)の中に入れる国(ベルギー等)と、2.(保守)の中に入れる国(フィンランド、カナダ東部等)があり、そうした大規模な保守作業をどこ迄予測に入れるかも国によって異なる。例えば蒸気発生器の交換は、フランスでは予測に入れず、ドイツでは予測に入れている。
 調査および研究開発のためのコストは、日本、韓国、スペインでは、運転・保守コストだけでなく、発電コストのどこにも入れないと回答しているが、米国とドイツは、かなり広範囲の業務費を運転・保守コストの中に含ませるとしている。
 これらに関し、OECD(文献5)では、例外的に行われる大規模な保守作業、運転・保守に直接関係する調査および研究開発費は、或る種の税金や課徴金ともども、予測可能な直接費ならば、運転・保守コストの計算に入れるべきこと、逆に、原子力発電全般に関する諸経費等の間接費は、運転・保守コストの計算に入れるべきでないことを提案した。 その他今回のOECDの調査で既に各国共通の原則として提案されていたものには次の事項がある。低レベル廃棄物の取扱い及び貯蔵コストは、処分施設のコスト、輸送コスト共、運転・保守コストに含める。一方、高レベル廃棄物の処分コストは燃料コストの方に入れる。付加価値税は発電コストの評価に含めない。電力会社の売り上げおよび収益に対して課せられる税金は運転・保守コストに含めないが、地方税などの原子力発電所に特有の税金・課徴金は運転・保守コストに含める。規制のための手数料や支出、原子力損害賠償保険、民事責任等のための保険料も運転・保守コストの計算に入れる。しかし、これらについて必ずしも各国一致するには至っていない。
 なお、OECDが提案したわけではないが、一般的に行われているものとして、発電所の許認可・安全解析に係る費用および発電所の運転・保守に関する調査・研究開発費は運転・保守コストの中に入れ、発電所の設計・建設に関する調査・研究開発費は資本コストの中に入れられる。また、核物質防護や放射線被ばく管理、品質保証や環境保護上の費用も運転・保守コストに入れられる。重水炉については、追加分重水の製造コストは各国とも運転・保守コストに入れるが、初装荷分重水のコストは運転・保守コストに入れる国(韓国、インド)と資本コストの方に入れる国(カナダ)に分かれる。
5.運転・保守コストの上昇要因
 表1に相対値ながら、年毎の運転・保守コスト(この場合各年次における予測値)が示されており、多くの国で経年的に上昇している傾向を示している。この表によれば米国の上昇率が特に大きい、その主な原因は、技術支援のための下請けコストの上昇、電力会社が所内・所外に抱える職員数の増加等の経済的要件に加えて、原子力安全その他の規制上の要件、プラントの高経年化等にあるとされている。また、以上に加えて米国の運転・保守コストの絶対値が高いのは、間接費の含ませ方に他の国と差異があるためとされている。 フランスでの運転・保守コストの上昇の主な原因は、原子力安全上の要求が強化されたり、プラントの経年化等のために、計画停止期間中の保守作業に係る経費が増大したためとされている。しかし、フランスでは新たな管理方式を導入した結果、1990年以降の運転・保守コストの実績値は上昇率が小さくなっているといわれる。なお、表1に示した絶対値は、フランスの場合、発電所が耐用年数を終える迄の間、年率1.5%で上昇するものと仮定して算出されたもので、その上昇を計算に入れなければ、10.0ミル/kWhは7.4ミル/kWhに下がるとされている。
 フィンランドでは経年的にコストの低下を示しているが、各種の技術的な改善と増設による規模の経済を仮定しているためとみられる。
 表4−1、表4−2で見られるように、運転・保守コストを職務ベースで分類した場合、保守のコストが占める割合が最大であり、例外的に行われる大規模な保守作業を含めれば、特にこの保守のコストが上昇すると影響が大きい。又、支出ベースで分類した場合、所内人件費と並んで、保守作業のための外部委託費の割合が大きいので、運転・保守コストの増大を抑えるには、所内職員数を増やさないことと同時に、保守作業の外部委託費を増やさないこと、そのためには、例外的に行われる大規模な保守作業が増えることのないように、設計、運転及び日常の保守に注意を増すことが必要である。
 そのほか、表4−1、表4−2のマトリクスで見た場合、職務ベースでの5.(その他全般的なコスト)と支出ベースでのd.(その他のコスト)の交点に含まれる税金、課徴金、保険料等は国による違いが大きく、コストの分類が異なる国もある。しかし、概していえば,これらが運転・保守コストの中で大きな割合を占めるとはいえない。核物質防護のためのコストについてもほぼ同様である。
6.あとがき
 以上により、国際的な比較には困難が多く、各国で運転・保守コストの絶対値及び経年的な上昇傾向にかなりのばらつきが出たことを、単一の原因に帰することは出来なかったといえよう。
 なお、今回のOECDの調査研究への参加メンバーは10か国と3国際機関からの23人で、日本からは、資源エネルギー庁、OECD日本代表部、東京電力、関西電力の計4人が参加したと記録されている。しかし、表1には日本の数値も出ているが、表3及び表4-1表4-2の項目別の詳細には日本の数値は見られない。そのため、表1に見られる日本の運転・保守コストの経年安定性(他国とやや異なる)の理由については、残念ながら紹介できないが、表1に見られる発電コストの中に占める運転・保守コスト20%という割合は、ほぼ標準的な値といえるであろう。
<図/表>
表1 OECDによる発電コスト調査結果の概要
表1  OECDによる発電コスト調査結果の概要
表2 OECDの調査で用いられた為替レート
表2  OECDの調査で用いられた為替レート
表3 運転・保守コスト全体に占める各コスト項目の割合(%)
表3  運転・保守コスト全体に占める各コスト項目の割合(%)
表4-1 運転・保守コストの内訳分類(%)
表4-1  運転・保守コストの内訳分類(%)
表4-2 運転・保守コストの内訳分類(%)
表4-2  運転・保守コストの内訳分類(%)

<参考文献>
(1)OECD/NEA:The Costs of Generating Electricity in Nuclear and Coal-Fired Power Stations,OECD(1983)
(2)OECD/NEA:Projected Costs of Generating Electricity from Nuclear and Coal− Fired Power Stations for Commissioning in 1995, OECD(1986)
(3)OECD/NEA-IEA:Projected Costs of Generating Electricity from Power Stationsfor Commissioning in the Period 1995-2000,OECD(1989)
(4)OECD/NEA-IEA:Projected Costs of Generating Electricity:1992 Update,OECD(1993)
(5)OECD/NEA:Methods of Projecting Operations and Maintenance Costs for Nuclear Power Plants,OECD(1995)
(6)日本原子力産業会議:原子力発電所の運転・保守コスト予測、原子力資料 第287号、日本原子力産業会議(1995年10月)
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