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<概要>
 今日の環境問題の多くは、私たち一人一人の普段の社会経済活動に起因する。環境悪化の影響は地球全体や将来の世代にまで及ぶ。化石燃料消費に伴う二酸化炭素排出量の増大やそれに起因する地球温暖化、生活排水等に起因する水質汚濁、生活様式の変化による廃棄物の増大等はこうした現代の環境問題の典型である。
 地球規模の環境問題である地球温暖化は、温度の上昇、気候変動、海面上昇、生態系等人類の生存基盤に多大な影響を及ぼす。また、オゾン層の破壊、酸性雨、光化学オキシダント等の問題も健康や環境に影響を与えており、大気環境問題だけでなく、水環境や土壌・地盤の環境問題も無視できない状況にある。
 これらの環境問題の一つは、現在の経済社会活動が[大量生産−大量消費−大量廃棄型]であることから生じる廃棄物問題であるが、この廃棄物自体にも先進国から開発途上国への有害廃棄物の移動という地球規模の問題が生じている。
 環境問題は森林等の貴重な自然環境を破壊し、われわれ人類にとっても有用な野性生物種の多様性を蝕んでいる。そのため、環境問題に対する多くの国際的取り組みがなされている。
 なお、その1 <01-01-02-02> では大気環境問題について述べ、その2 <01-01-02-03> では水環境問題等について述べる。
<更新年月>
2005年10月   (本データは原則として更新対象外とします。)

<本文>
 はじめに:「地球環境問題が人類に及ぼす影響」については、その1 <01-01-02-02> とその2 <01-01-02-03> に分けて説明する。全体の構成は次のとおりで、その1では、大気環境問題について、その2では、水環境問題等について、それぞれ説明する。
1.大気環境問題
1.1 地球温暖化
(1) 温室効果ガスの温度の上昇、(2) 気候変動や海面上昇等、(3) 異常気象、(4) 健康への影響、(5) 生態系への影響、(6) 食糧生産への影響
1.2 オゾン層の破壊
1.3 酸性雨
1.4 光化学オキシダント  以上は「その1」で説明
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2.水環境問題       以下は「その2」で説明
3.土壌・地盤環境問題
4.廃棄物問題
5.自然環境問題
6.野生生物種の多様性問題
 今日の環境問題の多くは、私たち一人一人の普段の社会経済活動に起因し、その結果としての環境悪化の影響は地球全体や将来の世代にまで及ぶ。化石燃料消費に伴う二酸化炭素排出量の増大とそれに起因する地球温暖化、生活排水等に起因する水質汚濁、生活様式の変化による廃棄物の増大等はこうした現代の環境問題の典型である。

1.大気環境問題
1.1 地球温暖化
 現在、地球規模の環境問題として最も切迫しているのは、地球温暖化であろう。地球は、太陽の放射するエネルギーを受けて暖められ、宇宙空間へのエネルギー放出により冷える。したがって、このエネルギーの収支が均衡していれば地球の温度は平均して安定している。しかし、宇宙空間へのエネルギー放出を妨ぐ気体(温室効果ガス)の大気中の濃度が上昇すると、この収支バランスがくずれ地表の温度が上昇し、この温度上昇が気候変動や海面上昇を引き起こし、この気候変動や海面上昇が生態系等をはじめとする人類の生存基盤に多大な影響を及ぼす。これが地球温暖化の問題である。IPCC(Intergovernmental Panel on Climate Change、気候変動に関する政府間パネル/地球温暖化問題に関する政府レベルの検討の場として、世界気象機関(WMO:World Meteorological Organization)と国連環境計画(UNEP:United Nations Environmental Programme)が共同して1988年11月に設立した国連の組織)の報告によれば、一定量あたりの温室効果がCO2に比べてはるかに高いメタン等のガスが他にあるものの、CO2の排出量は膨大であるため、温暖化への寄与度は全温室効果ガス中の約64%を占めている。さらに、その約8割が化石燃料の消費に起因しているといわれているため、CO2の排出量の削減が重要な課題となっている。既に地球温暖化の徴候は、温室効果ガスの濃度上昇(図1)、地球の平均気温の上昇(図2)、海面水位の上昇という形で現れている。IPCCは1995年にとりまとめた第二次評価報告書の中で、産業革命以後の温室効果ガスの発生量の増大等の人為的影響により地球温暖化が既に起こりつつあることを確認している。以下、IPCC第二次評価報告書、同第三次評価報告書、環境白書等により温暖化の影響を概観する。
(1) 温室効果ガスの濃度の上昇
 温室効果ガスの大気中濃度は1700年代中庸以降の産業革命以前は、比較的一定の水準であったが、産業革命以後に増加し、特に最近は著しく増加している(図1)。IPCCによると、CO2については産業革命以前と1994年の対比で、280ppmvから358ppmv(ppmvは100万分の1、容積比)に増加している。IPCC第三次報告書は、1750年以降、CO2の増加量が31%であり、過去42万年間で現在の濃度を超えたことがなく、過去2000万年間でも超えなかった可能性が高いと述べている。この原因は大部分人間活動に起因するものであり、過去20年間の人為起源のCO2の大気への排出のうち、約4分の3は化石燃料の燃焼、残りの大部分は土地利用の変化、特に森林減少による。現在、人為起源のCO2排出量の約半分が海洋と陸域で吸収されている。1750年以降、大気中のメタン濃度は1060ppb(151%)、一酸化二窒素濃度は46ppb(17%)増加し、さらに増加し続けている。オゾン層を破壊するとともに温室効果も持つハロカーボンの大気中濃度は、1995年以降、モントリオール議定書とその改正による規制により増加速度の低減あるいは濃度減少となっている。しかし、代替物質も温室効果ガスであり、温室効果を持つ他の化学物質(パーフルオロカーボンや六フッ化硫黄等)とともにその大気中濃度が増加している。図2に二酸化炭素、メタン、一酸化二窒素の大気中濃度の年次変化を示す。
(2) 気候変動や海面上昇等
 温室効果ガス濃度の上昇は地球の平均気温の上昇をもたらし、気温の上昇は、海水の膨張、極地および高山地の氷の融解を通して海面の上昇を招く。今世紀に入ってからは、氷河の衰退が観測データによって示されており、この他にも極端な高温現象、洪水や干ばつの増加といった深刻な問題となりうる変化が現われている。
 IPCCによると、第三次報告書によれば、平均地上気温は1861年以降上昇しており、20世紀中の気温上昇は0.6±0.2℃であった。この値は1994年までを対象とした第二次報告書の見積り値よりも約0.15℃高い。これは1995年から2000年までの高温傾向の影響と解析手法の改良による。図3に地上気温の年次変化を示す。
 潮位計データによると平均海面水位は過去100年間に10〜20cm上昇している。第三次報告書では、IPCC排出シナリオに関する特別報告書(SRES)の排出シナリオに基づき、様々なケースの評価を行い、SRESシナリオに基づく全ての評価が平均気温と海面水位の上昇が予測されている:1990年から2100年までに平均地上気温については、1.4〜5.8℃、海面については0.09〜0.88mの上昇。図4は評価結果の一例である。
 海面の上昇と気象の極端化は、沿岸地域における洪水、高潮の被害を増加させるおそれがある。仮に海面が50cm上昇した場合、対応策がとられなければ、高潮被害を受けやすい世界の人口は、現在の約4,600万人から約9,200万人に増加すると予測されている。
(3) 異常気象
 地球の平均気温の上昇により、雨の降る場所が変わり、降雨や乾燥が極端に現れると予測されており、台風が増加する可能性も指摘されている。最近、異常高温、洪水、干ばつ等のいわゆる異常気象が世界各地で頻発し、これら自然災害の増加と地球温暖化との因果関係が関心を集めている。しかし、現在の気候モデルは極端な現象を確実に予測するには空間解像度が不足しており、雷雨、竜巻、ひょう、落雷など局地的な現象を再現できない。
(4) 健康への影響
 地球の平均気温の上昇により、マラリア、黄熱病など媒介性感染症の患者数が増加する。IPCCによれば、特にマラリアは、3.5℃の温度上昇により、日本などが属する温帯を含めて、年間5,000〜8,000万人程度、患者数が増加するおそれがあると予想されている。
(5) 生態系への影響
 IPCCによると、世界全体の平均気温が2℃上昇した場合、地球の全森林の3分の1で、現存する植物種の構成が変化するなどの大きな影響を受け、これに伴い、生態系全体が各地で変化するものと考えられている。植物種の構成が変化する過程では、温暖化のスピードに森林の変化が追いつかず、一時的に森林生態系が破壊され、大量のCO2放出が起こる可能性も指摘されている。
(6) 食料生産への影響
 IPCCによると、異常気象や害虫の増加を考慮しなければ、世界全体としての食料需給はバランスするとされているが、増産地域と減産地域が生じ、格差が拡大する。熱帯、亜熱帯では、人口が増加する一方で、食料生産量が低下し、乾燥、半乾燥地域も含め、貧困地域の飢饉、難民の危険が増大すると言われている。
1.2 オゾン層の破壊
 人工的な化学物質であるフロン等が大気中に放出された後、成層圏(地上約10〜50km上空にわたる大気圏)に達し、それらが原因となって成層圏のオゾン層を破壊することが、近年問題になっている。オゾン層は太陽光線に含まれる人体に有害な紫外線の大部分を吸収しているため、オゾン層が破壊されると紫外線の地上への到達量が増加し、人の健康や生態系に悪影響を及ぼす。地上への紫外線到達量の増大は、皮膚がん・白内障・免疫抑制等の人の健康に対する悪影響や陸上植物や水界生態系等への悪影響を招くおそれがある。
 近年、南極上空では成層圏のオゾン量が著しく少なくなる「オゾンホール」と呼ばれる現象が現れるようになり、2003年には過去最大規模のオゾンホールが観測された。ただし、オゾン層の長期的傾向として、熱帯域を除き、全球的にほぼオゾン量が減少傾向にある。これは、モントリオール議定書に基づき、わが国を合む先進国において既にフロン等の生産が全廃されたことによるものと考えられる。南極上空のオゾンホールの規模の年次推移と日本上空のオゾン全量の推移を図5に示す。
1.3 酸性雨
 酸性雨とは、主として化石燃料の燃焼に伴い、硫黄酸化物(SOx)や窒素酸化物(NOx)などの酸性雨原因物質が大気中に放出され、これらから生成した硫酸や硝酸が溶解した酸性の強い(pHの低い)雨や霧や雪等である。酸性雨により、湖沼や河川等陸水が酸性化し、水資源の開発・利用等へ影響を与えること、魚類等へ影響を与えること、土壌が酸性化し森林等へ影響を与えること、また、直接樹木や文化財に沈着し、それらの衰退や崩壊を助長することなどの広範な影響が懸念されている。酸性雨は原因物質の発生源から500〜1,000キロも離れた地域にも沈着する性質があり、国境を越えた広域的な現象であることに一つの特徴がある。
 酸性雨が早くから問題となっている欧米においては、酸性雨によると考えられる湖沼の酸性化や森林の衰退、魚介類の死滅等が報告されており、わが国においてもその報告がなされている。酸性雨は、従来、先進国の問題であると認識されてきたが、近年、開発途上国においても工業化の進展により、大きな問題となりつつある(図6および図7)。
1.4 光化学オキシダント
 光化学オキシダントは、工場・事業所や自動車から排出される窒素酸化物(NOx)や炭化水素類(HC)を主体とする一次汚染物質が、太陽光線の照射を受けて光化学反応により二次的に生成されるオゾンなどの物質の総称であり、いわゆる光化学スモッグの原因となる。光化学オキシダントは強い酸化力をもち、高濃度では眼やのどへの刺激や呼吸器へ影響を及ぼし、農作物等へも影響する。

(注)「地球環境問題が人類に及ぼす影響・その2(水環境問題等)」<01-01-02-03>に続く。
<図/表>
図1 温室効果ガスの濃度の推移
図1  温室効果ガスの濃度の推移
図2 3種数のよく混合されている温室効果ガスの大気中濃度
図2  3種数のよく混合されている温室効果ガスの大気中濃度
図3 地上気温の年次変化
図3  地上気温の年次変化
図4 SRESシナリオに基づく評価結果(IPCC第三次評価報告書)
図4  SRESシナリオに基づく評価結果(IPCC第三次評価報告書)
図5 南極上空のオゾンホールと日本上空のオゾン全量
図5  南極上空のオゾンホールと日本上空のオゾン全量
図6 欧州における森林の衰退状況(1995年)
図6  欧州における森林の衰退状況(1995年)
図7 世界の森林面積の年当たりの増減(1990〜2000年)
図7  世界の森林面積の年当たりの増減(1990〜2000年)

<関連タイトル>
エネルギーに関する国際的取り組み (01-01-01-01)
人類とエネルギーとのかかわり (01-01-02-01)
地球環境問題が人類に及ぼす影響・その2(水環境問題等) (01-01-02-03)
地球環境問題(序論) (01-08-01-01)
地球の温暖化問題 (01-08-05-01)
IPCC第三次評価報告書(2001年) (01-08-05-08)

<参考文献>
(1)環境庁企画調整局調査企画室(編):平成11年版 環境白書(総説)、大蔵省印刷局(1999年6月)、p.387-480
(2)環境庁地球環境部(監修):IPCC地球温暖化第二次レポート、中央法規出版(1996年7月)
(3)気象庁(編):地球温暖化の実態と見通し(IPCC第2次報告書)、大蔵省印刷局(1996年10月)
(4)環境庁地球環境部(編):地球環境キーワード事典(三訂)、中央法規出版株式会社(1998年2月)
(5)自由国民社(編集発行):現代用語の基礎知識1999(1999年1月)、p.141-204
(6)環境省ホームページ:平成17年版図で見る環境白書
(7)気象庁ホームページ:
(8)環境省(編):環境白書(平成17年版)、(株)ぎょうせい、2005年5月
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