<解説記事ダウンロード>PDFダウンロード

<概要>
 人類とエネルギーの関係は密接なものがある。産業革命までの人類は、再生可能なエネルギーという自然界のもつエネルギーのごく一部を利用していたにすぎないが、産業革命により石炭を利用したエネルギーの大量使用が可能となった。20世紀に至るとより使い勝手の良い石油エネルギーの利用が拡がり、近年では天然ガス、原子力等が増大するエネルギー需要を支えるために利用されるようになった。産業革命以後は石炭・石油・天然ガス等の化石燃料によるエネルギーの大量消費時代である。
 人類の活動範囲の拡大はエネルギー消費の拡大と共にあり、それにより人類に生活の便利さ・快適さ・ゆとりを与えた。それゆえ、今日では、このエネルギーが戦争の原因にもなっている。また、大量エネルギー消費による地球環境破壊の恐れなど、人類とエネルギーの関係を見直す動きも現れている。さらに、22世紀には化石燃料の資源枯渇という現象が表面化してくることからも、化石燃料に替わるエネルギーの開発が必要になる。地球という限られた空間で生きる人類が、経済、エネルギー、環境のバランスをとりながら発展することが望まれる。
<更新年月>
2005年08月   (本データは原則として更新対象外とします。)

<本文>
1.人類とエネルギーの歴史
 人類が他の生き物と異なる要因として「言葉」とともに「火」の使用が挙げられる。このことからも人類とエネルギーの関係は密接であるといえる。産業革命までの人類は、人間の営みを支えるためのエネルギーとして、家屋の暖房用に木炭、照明用に植物油といった植物のエネルギー、農作業や物資の輸送用に馬や牛等の動物の力を利用してきた。また、時代を下れば農産物の潅漑や生産加工には水車や風車などの自然エネルギーも使われてきている。これらのエネルギーは全て自然界の再生可能なエネルギーであり、人類の消費するエネルギーは自然界のもつエネルギーのごく一部を利用しているにすぎなかった。わが国においても、明治維新後に機械化等による近代化を遂げた工業分野を除き、一般国民のくらしは、わずか50年程前の第二次世界大戦までは、殆どこのようなエネルギーで賄われていた。
 人類とエネルギーの歴史にとって一つの大きな転換点になったのが産業革命(蒸気機関の発明等)である。これにより石炭を利用したエネルギーの大量使用が可能となった。図1は人類とエネルギーの関わりを示したものである。図2に示す様に1800年代中庸からのエネルギー消費の急増は主に石炭によって支えられた。産業革命以降の石炭の利用拡大により、石炭が植物エネルギーの利用量を超えたのは19世紀の末期である。次いで、1859年、アメリカのドレイク(E.L.Drake)によるペンシルバニア州西部のタイタスビル近辺のオイルクリークでの鋼式削井による石油発掘が行われ、石油産業が起こった。20世紀に至ると電気の使用、ガソリンエンジンの利用等により、より使い勝手の良い石油エネルギーの利用が拡がった。1973年と1979年に起こった石油危機は世界があまりに石油に依存していたが故に起こり得たものといえる。
 近年では、石炭・石油に加え、天然ガス、原子力等が増大するエネルギー消費を支えている(図3)。特に、20世紀後半における原子力の登場は特筆に値する。それまでのエネルギーは水力や風力を除き全て酸素との化学反応による燃焼を利用するものであったが、人類は質量をエネルギーに転換するという原子力エネルギーの利用を新たに加えることになったのである。
 この様に、人類の活動範囲の拡大はエネルギー消費の拡大と共にあり、人類に生活の便利さ・快適さ・ゆとりを与えた。産業革命以後はまさに石炭・石油・天然ガス等の化石燃料によるエネルギーの大量消費時代といえる。ただし、今日では大量エネルギー消費により、地球環境を破壊する恐れが出るまでになっており、人類とエネルギーの関係を見直す動きも現れている。
 また、石油や天然ガスは、21世紀中に枯渇に向かう可能性があり、200〜300年程度はもつと言われている石炭も、22世紀には供給量がピークとなり、22世紀には化石燃料の資源枯渇という現象が表面化してくる(図4)。末長い人類の繁栄を望むならば、化石燃料に替わるエネルギーの開発が必須である。
2.人類の活動とエネルギー
 人が生きるために行う様々な活動には、それに相応しいエネルギーが必要である。寒い地域に生きるには暖房用のエネルギーが必要であり、夜間に活動するには照明用のエネルギーが必要となる。活発に活動するには多くのエネルギーが必要になる。これが明確に現れたのが18世紀後半からイギリスで始まった産業革命である。この産業革命により、それまでの農業中心の社会から工業中心の現在社会に変革が起こり、社会の価値観が変わった。この産業革命を成すには大量のエネルギーが必要とされたが、この解決のためジェームス・ワット等により蒸気機関が開発され、その燃料として用いられたのが石炭である。大量のエネルギー供給なくして産業革命はあり得なかったといえる。
 現在においても、農業・交通・工場等あらゆるところに大量のエネルギーが使われており、万一エネルギーが不足するようなことがあれば、大変な事態が生じることは目に見えている。
3.戦争とエネルギー
 産業革命は戦争のあり方にも影響を与えた。それまでの戦いは主に人力と馬や風等の力で行っていたが、これ以後、石炭や石油で動く軍艦や石油で動く戦車や飛行機など、大量のエネルギーを費やす戦いへと変わっていった。また、このエネルギーそのものが戦争の原因ともなった。産業革命後に行われた二度の世界大戦は、エネルギー(特に石油資源)の争奪が原因の一つといわれており、わが国においても、先の大戦で戦った大きな目的の一つが南アジアの石油資源奪回といわれている。その結果、第二次世界大戦に勝利したアメリカやイギリスは、戦後アメリカ系のエクソン、モービル、イギリス系のBP(ブリティッシュ・ペトロレアム)、シェルなどメジャーズ(international major oil companies:国際石油資本)七社として中東の石油を独占していた。
 また、直接戦争に関係したものではないが、1973年に起きた第一次石油危機は第四次中東戦争に、1979年に起きた第二次石油危機はイラン革命に端を発したものである。これらの危機は、世界経済に大混乱を引き起こし、大戦後のアメリカ主導の世界エネルギー秩序を崩壊させた。
4.環境とエネルギー
 産業革命以後の化石燃料の大量消費は、人類に生活の便利さ・快適さ・ゆとりを与えるとともに、人口の急激な増加をもたらした。産業革命以前は地球上の人口は少ししか増えず、18世紀初めには約6億人であったと言われている。産業革命以後、人口は急激に増え始め、2003年現在の推計では、約63億人がこの地球上に住んでいる。つまり、人類誕生以来18世紀までに数百万年かけて6億人に増えた世界の人口が、産業革命以後のほんの300年間で50億人以上も増えたことになる。国連は2年ごとに世界人口推計を発表している。2002年の推計では2050年の人口は89億1900万人と予測されている。1992年の推計では100億2000万人と予測されていたが、その後は下方修正されてきた。下方修正されたとはいえ、人口増の主要部分が途上国人口であることには変わりない。人口増の99.1%が途上国におけるもので、特に途上国の都市部の人口は2000年から2030年の30年間に倍増すると予想されている。
 この人口増加という圧力が地球に何をもたらすのであろうか。一つは、食糧の不足であり、エネルギーの大量消費である。図3が示す様に、世界のエネルギー消費は、近年急激な増加を示していることがわかる。消費されるエネルギーのほとんどが石炭・石油・天然ガスという化石燃料であり、残りを原子力や水力等が担っている。このエネルギー(特に化石燃料)の大量消費の結果として、先進工業諸国は飛躍的な経済成長を遂げ、人々は豊かな生活を享受してきた。今後、人口が急激に増えることが予想され、生活レベルの向上のために経済成長を目指している開発途上国もGDP(Gross Domestic Product:国内総生産)が増えて行くにつれて膨大なエネルギーが必要となる(図5)。
 その結果、エネルギーの大量消費に伴う環境汚染の問題が生じている。当初、石炭の多量消費により工業地帯には煙突が林立し、すすや二酸化硫黄などの有害物質の大気汚染が従業員や住民の健康を損なった。最近では、石油タンカーの事故等による海洋汚染も問題となっている。最後に、化石燃料を燃やすことにより生じる二酸化炭素等による地球温暖化問題が生じ、各国のエネルギー政策に大きな影響を与え、国際的検討も行われているが、二酸化炭素は広範囲にわたる人間活動の結果から排出されるものであり、その抑制方法は大変難しい。このように人口爆発を背景として、経済成長・維持のために、資源・エネルギーを大量消費せざるを得ず、このエネルギーの大量消費によって環境の悪化が引き起こされるという、因果の連鎖ができ上がる。密接な関係にある経済発展と資源・エネルギーと環境の問題はトリレンマ問題(trilemma:ジレンマが二つのものの間で、あれこれと迷うこと、に対し、「三つの矛盾、三重苦」のことをいう。)とも呼ばれ、現在のところ真の対策は確立していない(図6)。
 この問題の解決手段の一つが、効率的なエネルギーの使用を目指すいわゆる省エネと、化石燃料に替わるエネルギーの開発・利用である。そもそも、化石エネルギーとは、太古の地球の大気中に豊富に存在した二酸化炭素を生物が固定化した結果として生まれたものであり、その結果、現在の大気に豊富な酸素が満ち、二酸化炭素が組成比0.3%にまで減少しているのである。したがって、化石燃料を燃やすということは、地球の極めて長い進化の過程で蓄えられた財産を、人類が数百年という一瞬の間に使い尽くし(図7)、再び大気を二酸化炭素の豊富な原始の状態に向けているということになる。大気中の二酸化炭素濃度の上昇に起因する温暖化現象によって、海面の上昇、植物生態系の変化、砂漠化の加速等の地球規模の深刻な問題が生じる。そうしないためにも、省エネと、化石燃料の代わりになるエネルギーが必要となる。ただし、化石エネルギー以外のエネルギーにおいても、例えば、水力発電には河川及びその流域の自然環境の破壊、原子力発電には放射能汚染の可能性、風力発電には騒音・景観・鳥への危害等の固有の環境問題があり、人類にとって環境とエネルギーの問題は一筋縄ではいかない困難な課題である。
 いずれにせよ、これからの人類は、地球という限られた空間で生きる限り、経済、エネルギー、環境のバランスをとりながら発展することが望まれる。
<図/表>
図1 人類とエネルギーの関わり
図1  人類とエネルギーの関わり
図2 世界のエネルギー構成の推移
図2  世界のエネルギー構成の推移
図3 世界の一次エネルギー消費の変化
図3  世界の一次エネルギー消費の変化
図4 超長期の化石燃料の需要と供給の予測
図4  超長期の化石燃料の需要と供給の予測
図5 一人当たりのGDPとエネルギー消費量
図5  一人当たりのGDPとエネルギー消費量
図6 トリレンマ問題の構造
図6  トリレンマ問題の構造
図7 一瞬としての化石エネルギー時代
図7  一瞬としての化石エネルギー時代

<関連タイトル>
エネルギーに関する国際的取り組み (01-01-01-01)
世界のエネルギー資源の埋蔵量 (01-07-01-01)
国際エネルギー情勢と今後の展望 (01-07-02-01)
世界のエネルギー需給の長期展望 (01-07-02-16)

<参考文献>
(1)電力中央研究所(編):次世代エネルギー構想−このままでは資源が枯渇する−、電力新報社(1998年10月)、p.19-53
(2)電力中央研究所(編):人類の危機トリレンマ−エネルギー濫費時代を超えて−、電力新報社(1998年7月)、p.19-39
(3)環境庁地球環境部(監修):IPCC地球温暖化第二次レポート、中央法規出版(1996年7月)
(4)OECD/NEA:2020年世界のエネルギー展望 1998年版、通商産業調査会出版部(1999年9月)、p.1-42
(5)日本石油(株):石油便覧1994、燃料油脂新聞社(1994年3月)、p.4、p.643
(6)自由国民社:現代用語の基礎知識1999(1999年1月)、p.1418
(7)福岡克也監修:地球環境データブック2004−05、(株)ワールドウォッチジャパン(2004年12月)p.228-236
(8)茅陽一監修:環境年表2004/2005、(株)オーム社(2003年11月)p.357-366
JAEA JAEAトップページへ ATOMICA ATOMICAトップページへ