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<概要>
 ポーランドは、国内に豊富な石炭、褐炭等のエネルギー資源があったことから、他の中東諸国に比べ、原子力発電の導入は比較的遅い。しかし、石炭中心の発電設備は大気汚染がひどく、政府は1980年代初期に、2000年完成を目標にした原子力発電所の建設に踏み切った。1986年4月にチェルノブイリ原子力発電所事故が発生すると、住民の反対運動が活発となり、議会は旧ソ連型炉の安全性に対する懸念や資金問題から、「2010年まで原子力発電所を導入しない」ことを決定し、1990年12月には閣僚評議会が建設中ジャルノビェツ原子力発電所を解体・整地することを決議した。
 しかし、2000年に入るとエネルギー多様化と温室効果ガス排出制限の観点から方針が見直され、政府は2004年12月に採択した「2025年までのエネルギー政策」の中で、ポーランド初の原子力発電所を建設する計画を発表した。2009年8月にはロードマップが示され、発電所建設に必要な法的枠組みとなる原子力法が2011年7月に改正された。候補地としてジャルノビェツなどポーランドの北部・北東部が検討されている。2014年1月に政府が発表した改訂版原子力開発計画では、最初の100万kW分の原子炉を2024年末までに完成させるとしている。
<更新年月>
2015年10月   

<本文>
1. ポーランドの概要
 ポーランドは、北はバルト海に面し、北東はロシアの飛地カリーニングラード州とリトアニア、東はベラルーシとウクライナ、南はチェコとスロバキア、西はドイツと国境を接する面積32.2万m2(日本の約5分の4)、人口約3,806万人(2014年:IMF調べ)の国家である。歴史的に他国の侵略・統合、独立が繰り返され、第二次大戦後は東欧圏に組み込まれて共産主義化および工業の国有化が進んだが、ソ連崩壊前の1989年に民主主義国家へ移行している。1999年に北大西洋条約機構(NATO)へ、2004年に欧州連合(EU)へ加盟した。
 1990年代初め、経済は一時急激に悪化したが、民間部門の消費拡大や、企業による投資、EUからの資金流入により経済は順調に回復し、2004年〜2011年までのGDP年間成長率は3〜5%で推移し、2013年のGDPは約5,161億ドル(EU28加盟国中8位)、チェコ・ハンガリー・スロバキア3か国の合計GDPとほぼ同額となっている。
2. ポーランドのエネルギー事情
 ポーランドは第二次大戦以降、石炭、銅などの豊富な地下資源を背景に冶金、重化学を中心に工業化が進められ、周辺共産諸国に石炭資源や電力を供給していた。そのため、高品位な石炭は輸出し、低品位な石炭(褐炭等)を国内で使用する構造が確立している。2013年時点の石炭埋蔵量は54億6,500万トン、可採年数は38年で、一次エネルギー供給量の約55%を占めている(表1参照)が、一方石炭の利用は深刻な大気汚染をもたらしている。
 国内電力需要は上昇傾向にあり、2014年の総発電電力量は前年3.65%増の156,567GWhであった。発電設備38,477MWの内訳は、石炭火力が75.2%、水力が6.1%、再生エネルギーは10%程度である。褐炭火力設備は全体の24.1%で、建設から25年以上経過した発電設備は2013年時点で75%である。EUの温室効果ガス排出量削減目標(2020年までに1990年の排出量の−20%まで低減)や大気汚染防止基準を達成するためにも、老朽化石炭発電設備の使用を削減する必要に迫られている。図1に発電電力量の推移を示す。
3. ポーランドの原子力開発
3.1 原子力研究開発施設
 ポーランドの首都ワルシャワから30km東南に位置するシフィエルク(Swierk)にはポーランド国立原子力研究センター(NCBJ:National Centre for Nuclear Research、図2参照)があり、研究活動は核物理学、素粒子物理学、ニュートリノ物理学、宇宙放射線物理学、素粒子天文学、天体物理学、電子工学及び検出器、加速器科学、放射線医学物理学、材料研究、宇宙論、ブラズマ物理学に及ぶ。母体は1955年に設立した国立原子力研究所で、2011年に放射性同位元素センター(POLATOM)を傘下に持つ原子力研究所(IEA)とソルタン原子力研究所(IPJ)を統合して発足した。EWA炉(1万kWt、1958年6月に臨界)とMARIA炉(3万kWt、1974年12月臨界、名称マリア炉はマリー・キュリー夫人に由来)の2つの研究炉があったが、現在はMARIA炉のみ運転している。同炉は36%の濃縮ウラン燃料を使用するプール型研究炉で、広範囲の研究と医療用・産業用RI製造など多種多様な照射実験に用いられている。EWA炉は1995年に運転を停止し、1997〜1999年にかけて解体された。同炉の未使用高濃縮ウラン(HEU)27kgと使用済HEU61.9kgは米国・国家核安全保障局(NNSA)とポーランド国立原子力研究センターが協力して低濃縮ウラン燃料(LEU)に転換を行い、2012年9月にロシアへ返還されている。
 そのほかワルシャワには研究施設として、核化学・技術研究所(IchTJ)、プラズマ物理&レーザー微細合成研究所、放射線防護中央研究所(CLOR)が、クラクフに核物理研究所(IFJ)がある。IchTJは、材料や半導体の改質を目的とするLAE13/9直線加速器(5〜13MeV)、ポリマーの改質を目的とするILU 6レゾナント(0.5〜2MeV)、医療器具の滅菌のためのELECTRONIKA直線加速器(10MeV)、LAE 10直線加速器(10MeV)の4つの加速器を運転している。IFJは加速器やサイクロトロンのほか、陽子治療装置も運転している。
3.2 ジャルノビェツ原子力発電所の導入計画と建設中止
 原子力発電所の建設計画は1960年代からソ連による強い勧めにもかかわらず先送りにしてきたが、大気汚染等の環境問題が深刻化するにつれ、政府は脱石炭政策の一環として原子力発電所の建設計画に踏み切ることになった。
 1972年12月、政府は北部のバルト海沿岸ジャルノビェツ(Zarnowiec、グダニスク地域)に旧ソ連型PWRであるVVER−440(V−213:VVER−440の第2世代炉、出力44万kW)を4基建設することを決定し、1986年から建設工事を開始した。また、1987年にはポスナン(Poznan)の北西約50kmのクレンピチ(Klempicz)にワルタ原子力発電所(Warta、VVER−1000/320、出力95MW×4基)の建設が決定し、1988年から準備工事も始まった。
 1986年4月にチェルノブイリ発電所事故が発生すると、反原子力の世論が高まり、1990年5月、原子力発電所の建設是非を問う国民投票が行われた。反対86.1%、投票率44.3%で国民投票は不成立に終わったが、政府は世論と経済状況を考慮し、1990年9月4日、原子力発電所建設計画の中止を決定した。建設工事は1号機が60%、2号機が30%完成し、3号機と4号機も準備工事を開始していたが、解体され、機器等は売却された。
3.3 近年の原子力発電所導入計画
 ポーランド政府は、2005年1月、2025年までのエネルギー政策について検討した閣議で、2021〜2025年の運転開始を目指したポーランド初の原子力発電所の建設計画を了承した。候補地として、ポーランドの北部もしくは北東部を検討するとともに、使用済燃料の最終処理施設をロシアのカリーニングラード国境付近に建設することを示した。
 原子力計画の実施機関である経済省原子力部は、2009年に国営電力会社PGE(Polska Grupa Energetyczna SA:ポルスカ・グルパ・エネルゲティチュナ、財務省が株式の61.89%を保有し、国内電力市場の42%を賄う)を発電所建設の実施責任者と指定し、発電所建設計画(ロードマップ)は具体化した。
 一方、国営電力会社PGEは2012年2月、「2035年までの設備投資計画」を発表し、投資総額に関して、老朽化石炭発電設備の更新、再生可能エネルギー発電開発、原子力発電開発などを含め3300億ズロチ(8.58兆円)が必要であるとした。国内企業への資本参加を働きかけてはいるが、財源の確保が課題となっている。
 こうした中、ポーランド政府は2014年1月、2009年ロードマップを全体的に4、5年先送りした改訂版原子力開発計画(PPEJ)を閣議決定した。100万kW級初号機は2024年末までに完成させるとしている。改定版ロードマップは以下のとおりである。
(1)第1段階(2014年〜2016年末)
 建設サイトの最終決定、初号機の設計、供給業者の選定と契約。
(2)第2段階(2017年〜2018年末)
 初号機の詳細設計と必要な許認可の取得。
(3)第3段階(2009年〜2024年末)
 初号機の建設開始。
(4)第4段階(2025年〜2030年末)
 初号機の完成と営業運転開始、および2号機の建設開始。
 図3に原子力を含む2030年までのポーランドの電力開発計画を示す。
3.3.1 原子力発電所再導入計画の進捗状況
 国営電力会社PGEは、2009年3月より原子力発電建設プロジェクトを開始し、2009年12月には原子力事業に責任を持つ子会社としてPGE Energia Jadrowa SAを設立した。また、2010年1月には、実際に原子力発電所の建設サイト評価から建設までを行う子会社としてPGE EJ1 Sp.z o.o.(有限会社)を設立した。
 原子力発電所の建設サイト候補地として、PGEは2011年11月にバルト海沿岸のジャルノビエツ、ホチェボ、ゴンスキの3か所(図4参照)を選定したと発表、その後詳細なサイトの特性評価が行われている。
 また、原子力発電所建設に関するフィージビリティ研究について、PGEはフランスの国営電力会社EDFと2009年11月に、GE日立と2010年3月に、ウェスチングハウス(WH)と2010年4月に協力に関する覚書を締結して技術検討を行っている。
 原子炉候補としては、フランス・AREVA社のEPR(出力1750MW、既にポーランド企業25社がフィンランド・オルキルオト3号機の建設に参入)、GE日立のABWR(出力1350MW)かESBWR(出力1520MW)、WHのAP1000(出力1150MW)で、最新鋭の第三世代原子炉を予定している。
3.3.2 原子力開発における法規制と規制体制
 ポーランドにおける原子力規制当局は、ポーランド原子力庁(PAA)である。研究炉、使用済燃料および放射性廃棄物貯蔵施設のほか、放射線源使用事業者(約2,500)が実施する3,500件を越える活動(煙感知装置の設置、産業用小型放射性同位元素装置の利用から、産業用および医療用加速器の運転と遠隔ガンマ線照射療法の大型線源のほか、密封線源の利用まで多岐にわたる)を監督下に置いている。PAAによる原子力規制の範囲は、核物質の保障措置を含む原子力、放射線、輸送(大型の線源や核燃料)、放射性廃棄物の安全管理、セキュリティ等あらゆる側面を対象とする。
 なお、1984年にジャルノビェツ原子力発電所建設の許認可手続きを実施する必要から法整備が開始され、放射線源使用事業者の認可や検査を行っていた放射線防護研究所(CLOR)内に原子力規制タスクフォースが設置されたが、1992年には、原子力安全放射線防護検査局(PIBJOR)として独立した。さらにPIBJORは1996年に原子力庁に組み込まれ、活動および施設の許認可と検査を行う2つの部局が発足した。2004年、施設の許認可と検査を行う部局を母体に放射線緊急時対応センター(CEZAR)が設立している。図5に原子力庁の組織構成を示す。
 ポーランドでは、原子力導入にあたり、2000年11月にIAEAの安全基準に準拠した新原子力法(2002年1月施行、2008年改正)および政府規則を制定している。さらに2011年5月には、原子力発電所の導入に対応した原子炉安全基準(サイト選定から廃止措置まで)、放射線防護、核物質防護、保障措置、パブリックアクセプタンス、損害賠償責任等に関する項目を原子力法に追加修正する法案が議会で可決された。また、2011年6月29日には、原子力発電施設に関連する投資に係る法律が議会で可決された。これらの法規制は2011年7月1日より施行されている。
3.3.3 放射性廃棄物
 ポーランドの放射性廃棄物の貯蔵管理および最終処分に関する検討は、政府の責任であり、2002年1月に設立された国営の公共機関RWMP(Radioactive Waste Management Plant)が一貫して実施している。現在、放射性廃棄物は全て、研究炉が設置されているシフィエルク(Swierk)敷地内の放射性廃棄物管理施設、使用済燃料貯蔵施設、および旧EWA研究炉を管理する放射性廃棄物管理施設(ZUOP)、およびワルシャワから北北東90kmにあるルジャン処分場(Rozan、1961年操業)で管理・処分されている。表2に放射性廃棄物の発生量の推移を示す。
 ルジャン処分場では短半減期のβ・γ放射性廃棄物を受け入れ、コンクリートピットで浅地中処分されている。また、処分できない少量のα放射性廃棄物と核燃料物質はルジャン処分場の貯蔵庫に一時保管されている。2020年に満杯になることが予想されていることから新たな処分場建設が必要であり、その準備として地質学的検討の結果19サイトが候補として選ばれたが、処分場の立地に理解を示す自治体はまだ現れていない。なお、研究炉から発生するアルミニウム合金製被覆管の使用済燃料に関しては、長期湿式貯蔵の腐食問題が発生したことから、1999〜2000年にかけて調査・試験プログラムが実施され、乾式貯蔵する方針が決定された。最終処分されるまで、最長50年間の乾式中間貯蔵が実施される。
(前回更新:2005年12月)
<図/表>
表1 ポーランドにおける一次エネルギー需給バランス
表1  ポーランドにおける一次エネルギー需給バランス
表2 ポーランドにおける放射性廃棄物の概要
表2  ポーランドにおける放射性廃棄物の概要
図1 ポーランドにおける発電電力量の推移
図1  ポーランドにおける発電電力量の推移
図2 シフィエルク(Swierk)原子力研究サイト
図2  シフィエルク(Swierk)原子力研究サイト
図3 ポーランドの電力開発計画
図3  ポーランドの電力開発計画
図4 ポーランドの原子力発電所建設候補地
図4  ポーランドの原子力発電所建設候補地
図5 ポーランド原子力庁組織図
図5  ポーランド原子力庁組織図

<参考文献>
(1)(社)日本原子力産業協会:原子力年鑑2015年版(2014年10月)、ポーランド
(2)(社)日本原子力産業協会:世界の原子力発電開発の動向2015年次報告−
2014年12月31日現在−(2015)、ポーランド
(3)(社)海外電力調査会:海外諸国の電気事業第2篇2000年(2000年3月)、p.104
(4)BP統計:
(5)国際エネルギー機関(IEA):Poland:Balances for 1990〜2012、

(6)国際エネルギー機関(IEA):Poland:Electricity and Heat for 1990〜2012、
http://www.iea.org/stats/WebGraphs/POLAND2.pdf
(7)文部科学省:1.エネルギー・原子力事情−
(8)ポーランド経済省原子力庁:Polish nuclear power program Current status and
prospects
および
(9)ポーランド経済省:Polish Nuclear Power Programme、2014年1月、
http://www.paa.gov.pl/sites/default/files/PPEJ%20eng.2014.pdf
(10)(社)日本原子力産業協会:ポーランドの原子力発電をめぐる動向、
http://www.jaif.or.jp/ja/news/2010/poland-report100702.pdf
(11)Polskie Sieci Elektroenergetyczne SA:Annual Report 2014、
http://www.pse.pl/uploads/kontener/Annual_Report_2014.pdf
(12)ポーランド国立原子力研究センター(NCBJ):EWA and MARIA confirm
competences of Polish scientists、http://www.ncbj.gov.pl/en/aktualnosci/ewa-and-maria-confirm-competences-polish-scientists
(13)ポーランド経済省:STRATEGIC ENVIRONMENTAL ASSESSMENT REPORT
FOR THE POLISH NUCLEAR PROGRAMME、http://www.ym.fi/download/noname/%7BD332A82F-B450-42B8-96EA-7F0D30460C42%7D/30836
http://www.mlul.brandenburg.de/media_fast/4055/ub_kurz_en.pdf#search='STRATEGIC+ENVIRONMENTAL+ASSESSMENT+REPORT+FOR+THE+POLISH+NUCLEAR+PROGRAMME'
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